37. 下水ダンジョン
ここから第二部です。またしばらくは緩いミステリーが続きます。
というわけで、下水ダンジョン編、全3話です。
皆さんこんにちは。マリーンです。私は今、冒険者を引き連れて下水道への入り口に来ています。開かれた鉄の扉からは汚水の臭いが漂ってきます。私たちは今からこの中に入らないといけません。以前も入ったとはいえ、やはり臭いものは臭いです。何度来ても慣れません。
なぜ私がこんな所にいるかと言うと、魔物が下水道に発生したからです。以前魔人たちが下水道に潜伏していた時、下水道はダンジョンと化しました。魔人事件が収束した後、大規模な下水ダンジョン攻略が実施され魔物が掃討されたのが半月前です。これにより魔物は全滅したと考えられていました。しかし昨日、下水道の点検をしていた奴隷の一人が魔物と遭遇して負傷しました。そこで調査を行ったところ、下水には多くの魔物が潜んでいることが判明しました。下水ダンジョンの再発です。
よって今日、再び下水ダンジョン攻略作戦が発令されたのです。街のあちこちの入り口から一斉に突入して魔物を駆逐します。一匹残らず皆殺しです。
「おっしゃ! やってやるぜ!」
同じ隊となった剣士のダルドさんが意気込みました。他にもメリーさん、アンさん、ヨシムさん、マントンさんも同じ隊です。他の冒険者たちもやる気に満ちていました。なぜかと言うと、一番多く魔物を討伐した隊には特別報酬が出るからです。その額100万イエーン。冒険者たちがやる気を出すには十分な額です。
「では行きましょうか。報酬に目がくらんで勝手な行動はしないでくださいね」
私たちは下水へと入っていきました。
下水に入ってすぐに、私たちは最初の魔物を発見しました。ネズミ型の魔物です。もちろんすぐに冒険者によって狩られました。その後もトカゲやヘビ、スライムなどの小型の魔物が多く発見され、サーチアンドデストロイとなりました。
「あなたたちを襲った魔物はもっと大きかったのですよね」
私は隊の同行者に話を聞きました。日ごろ下水の維持点検をしている奴隷の一人です。彼は道案内として私たちと行動を共にしていました。
ちなみに人が奴隷となる経緯は借金や犯罪など様々ですが、きつい、汚い、危険な仕事は奴隷がすることが多いです。そのかわり無闇に死なせたり怪我をするような扱いは禁止されており、給料も支払われます。自分を買い戻せれば奴隷脱却となるので、奴隷も希望を持って働くことができます。
「はい、おそらく爬虫類系の何かだと思います」
「襲われたのはどこですか」
「ここからは遠いです。他の隊のほうが近いですよ」
「そうですか」
私たちは掃討を続けました。
それからしばらくして、私たちは魔物の死体が散らばっている光景に出くわしました。死体はどれも小型の魔物ですが、なぜここで死んでいるのでしょうか。
「これはトラップで死んだんですよ」
奴隷さんが説明をしてくれました。
下水道にはトラップが仕掛けられています。これは魔物が侵入したときにダンジョン化しないよう駆除するために設置してあります。魔物たちはこれによって死んでいたのでした。ちなみにトラップの正体は、踏むと電撃を放つ魔法陣です。
「今は動力を切っているのでトラップは作動しません。安心して歩いてください」
奴隷さんがそう言うと、説明を聞いてトラップに警戒していた冒険者たちの緊張が解けました。
「この死体も討伐数に入れていいんじゃね?」
「うっへっへ。100万にまた一歩近づいたぜ」
「宝の山じゃあ!」
冒険者たちが魔物の死体を集めて興奮していました。セコい考えが漏れ出ています。この私が監督している前でよくそんな不正が見逃されると思いますね。
「死体袋も重くなってきましたし、一旦外に運びましょうか」
私はうっかり不正を見逃し、冒険者たちと入口へと戻りました。100万への道は始まったばかりです。
「それにしても、結構魔物の数が多いですね」
私たちは討伐した魔物を外に運んだあと、引き続き下水道へと戻っていました。魔物が次から次へと現れます。中には人間サイズの魔物も交じっていました。
「毎日下水道で仕事をしているのですよね」
私は奴隷さんに尋ねました。
「はい。そうですが何か?」
奴隷さんが、それがどうしたのだといった顔で返事をしました。
「昨日あなたたちが魔物に襲われるまで魔物はいなかったというのに、どうしてそれから数日でここまで増えたのでしょう」
「さあ、私に聞かれてもわかりません」
奴隷さんがいやそうな顔をしました。魔物に襲われた記憶が掘り起こされたのでしょうか。
「そりゃあ、ここは臭くて不潔だけどよ、魔物からしたら食べ物で溢れてるってことじゃねえの?」
ダルドさんがそう言いました。
「ですが、普通は増えるのにそれなりに時間がかかるはずだと思います」
こんな速度で増殖されては魔物が世界に溢れ返ってしまいます。こんなに急激に数を増やしたのには、なにか特別な原因があるはずです。
「今の情報だけではわかりません。討伐を続けましょう」
私たちは討伐を続けました。




