表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/138

35. アームット、マナ、ツモア

注意:ハートフルボッコ回です。人が死にます。

 俺はアームットという。5年前、俺は王都のはずれで細々と薬屋を営む薬剤師だった。生活は豊かではないが、娘と二人、幸せに暮らしていた。


 娘の名前はマナという。8歳だ。妻はマナを生んでしばらくして流行り病で亡くなってしまった。俺は男手一つでマナを育ててきた。


 ある日、マナの様子がおかしかった。聞くと、体調が悪いという。私はマナを鑑定してみた。


 鑑定の結果、マナはあるスキルを修得していた。人はこれくらいの歳になるとスキルが発現し始める。身体と精神の成長によりスキルを得る器が出来るからだ。


 しかし、スキルは必ずしもいい物ばかりではない。中には持っているだけで悪影響を及ぼすスキルも存在する。


 マナが得たスキルは、「瘴気生成 LV1」だった。そして、状態欄に蝕腫病の文字があった。



 俺はすぐにマナを治癒院に連れて行った。初期の蝕腫病なら腫瘍を摘出すれば治療ができるからだ。数日後、手術は成功しマナの状態欄から蝕腫病の文字がなくなった。



 一月後、再びマナは蝕腫病となった。その時も発見が早かったため治療することができた。


 それからしばらくして、マナの「瘴気生成」のレベルが2に上がった。



 俺はマナを学術ギルドに連れて行った。マナの病気と「瘴気生成」に関係がある気がしたからだ。スキル調査の専門家によると、マナのスキルはこれまでに報告事例が無いものらしい。詳しく調べてもらった結果、生成される瘴気量は魔人化するほどの量ではなかった。病気との関連もないだろうというのが専門家の結論だった。



 さらに数か月後、日課となっていたマナへの鑑定によって、蝕腫病の再発が発覚した。俺はすぐにマナを治癒院に連れて行った。手術は翌日に決まった。


 しかし次の日、手術直前の再検査の結果、医者はとんでもないことを言った。


「娘さんの蝕腫病は末期に突入しています」

「どういうことだ! マナが蝕腫病になったのは昨日だぞ!」

「私も信じられません。ですが、昨日は小さかった腫瘍が、今は全身に広がっています。手の施しようがありません」


 目の前が真っ暗になった。俺は立っていられなくなり地面に座り込んだ。


「お父さん、大丈夫?」


 寝かされていたマナが俺を心配する。俺よりも自分の方が大変なのに。


 「瘴気生成」のレベルは3に上がっていた。



 治療不能となったマナは自宅で療養することになった。療養といっても、いずれ来る死を待つだけだ。蝕腫病に有効な薬は発見されていない。私は薬剤師であるにもかかわらず、妻の病気も娘の病気も治すこともできなかった。俺は無力だった。



 数日後、マナが急に苦しみだした。慌てて鑑定すると、状態が蝕腫病ではなくなっていた。代わりにある文字が状態欄に載っていた。


=========

 状態:魔人化中

=========


 そして、「瘴気生成」のレベルが5にまで上がっていた。


「マナ! しっかりしろ!大丈夫か!?」


 俺がそう呼び掛けても、マナは苦しみ続けるばかりだった。


「待ってろ! 医者を呼んでもらってくる!」


 俺は隣の家の人に医者を呼んでもらい、マナの手を握ってずっと励まし続けた。


「Ahhhhhhhhhhh!!!!!」


 マナが叫び出した。体が黒くなり、腕には鱗が生えた。マナは魔人化してしまった。


 マナは狂ったように暴れると、俺の制止を聞かず家を飛び出してしまった。周囲に魔法を放つ。マナを見た人々がパニックを引き起こした。


 衛兵が駆け付けマナを攻撃した。俺が止めるように言っても聞いてくれなかった。マナは衛兵から逃げて行方をくらませてしまった。



 俺はマナを探し回った。魔人が出たという話はすぐに街に広まった。衛兵たちもマナを捜索していた。奴らはマナを殺すつもりだ、なんとしても奴らより先に見つけなければ。俺は日が暮れるまで街を探しまわったが、マナは見つからなかった。


 その日の夜、俺は家に誰かが入って来る音で目を覚ました。入口を見るとマナがいた。



「お父さん……」

「マナ! よかった! 無事だったんだな!」


 俺はマナに抱き着いた。姿が変わってもマナはマナだ。俺の愛しい娘だ。


「正気を取り戻したんだな」

「うん……。ただいま」


 俺たちは抱きしめ合い、そして泣いた。


 その時、戸を蹴破って衛兵隊が突入してきた。


「いたぞ! 暴れる前に殺せ!」


 衛兵の一人がそう言った。


「やめろ! この子はもう自我を取り戻した! 暴れたりしない!」


 俺はマナをかばって前に出た。しかし衛兵たちは俺を取り押さえ、マナへと剣を向けた。


「お父さん!」


 マナが俺に駆け寄ろうとした。そして衛兵たちの剣で体を貫かれた。


「マナ! マナアアアア!!!」


 俺はマナの名を叫んだ。だがいくら呼んでも、マナは二度と言葉を発することはなかった。




 マナの墓は墓地に建てさせてもらえなかった。魔人に墓などやらないと墓守に断られたからだ。俺は郊外の木の根元に墓を作り、マナを埋葬した。


 なぜマナは殺されなければいけなかったのか。マナは自我を取り戻していた。虫一匹殺さないような優しい娘だった。それなのに、魔人だからというだけで殺された。そのことが俺は許せなかった。


 そして俺は決意した。人々が魔人を受け入れる世界にすると。復讐のためならどんなことでもすると。


 俺はまず瘴気と魔物について調べることにした。だが王都周辺には魔物も瘴気も存在しない。俺は研究のために、新しく建設されているという辺境の街ヨハンへと向かった。



 研究の末、俺は瘴気と蝕腫病の関係にたどり着いた。俺の勘の通り、この2つには関係があったのだ。そして蝕腫病の特効薬を作ることに成功した。不完全な魔人化によって蝕腫病が引き起こされるなら、完全に魔人化させればいい。材料は瘴石と鎮静剤だ。これで魔人化直後の狂暴化も抑えることができる。



 そして俺は当初の目的を達成するための計画を立てた。王都の人々を魔人にする計画だ。しかし、仲間になった魔人の一人が暴走したため俺たちの存在がばれてしまった。衛兵の目をかいくぐってヨハンから脱出するのは困難だった。


 俺は計画を変更し、ヨハンの住民を魔人化することにした。慌てる必要はない。王都で計画を成した後は、別の街でも人々を魔人にして回るつもりだったのだ。順番が変わるだけだ。


 そうしてあと一歩というところで、計画は阻止された。


 俺は最後の手段にと、瘴石で魔人化した。


 それから先はよく覚えていない。相手を叩きのめしたような気もするし、叩きのめされたような気もする。分かるのは、気が付いた時には負けていた、ということだ。


 俺の復讐劇はこうして幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ