30. 襲撃の先は
「魔人が出たぞー!」
冒険者がギルドに駆け込んできました。駆け込んできた冒険者はさらに驚きの知らせを口にしました。
「東の塔と南の塔が魔人に破壊された! 結界に穴が開いたぞ!」
この街には魔物除けの結界が張られています。その結界は街の四方の塔により維持されており、塔の一つが機能を停止しても他の3つで結界が維持できる設計です。その塔が2つ、破壊されました。
魔人たちの破壊活動が始まったのです。ギルド内は一斉に慌しくなりました。
「落ち着いてください。結界が破壊されても魔物がすぐに襲ってくるとは限りません。もし偶然魔物が来ても城壁が魔物を防いでくれます。まずは魔人を何とかしましょう」
私は冒険者たちを落ち着かせました。知らせを運んできた冒険者に詳しく聞くと、魔人は2つの塔に1体ずつ現れたそうです。そこでその場の冒険者を二手に分け魔人に対応することにしました。
一方は私が、もう一方はエルーシャが指揮を執ります。私達は現場へ急行しました。
街ではすでに騒ぎが広がりはじめていました。人々が私達とは逆方向に避難していきます。向かう先で塔の上半分が崩落しているのが見えました。そして崩れた塔の上に立つ人影が見えました。
魔人です。藍色の肌に黄色い髪が目立ちます。私が初めて見る魔人です。現場についた私たちは塔を包囲しました。
「待ってたよ。冒険者たち」
魔人が私たちを見下ろしながら口を開きました。
「おとなしく投降してください。じきに衛兵も来ます。多勢に無勢ですよ」
そう言いながら私は魔人を鑑定しました。
「本当にそうかな? 君たちが来るまでに僕は増援を呼んでしまったよ」
そう返す魔人のステータスは次の通りでした。
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魔人 トムリクス 男 21歳
レベル:16
状態:普通
HP:562/562
MP:1261/1281
筋力:315
耐久:269
俊敏:430
知力:538
スキル:『流水魔法 LV3』『魔物誘引 LV1』「土魔法 LV7」
「魔力上昇 LV6」「魔力知覚 LV6」「思考力上昇 LV5」
「高速 LV3」「熱変動耐性 LV1」
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魔法に特化したステータスとスキルです。特に『流水魔法』は「水魔法」の発展スキル。並みの魔法使いでは歯が立たないでしょう。
ですが、それ以上に危険なスキルを魔人は持っていました。『魔物誘引』、文字通り魔物を引き付けるスキルです。これはまずい。非常にまずいです。
そのとき街の城壁の外から魔物の鳴き声が聞こえてきました。そして城壁を越えて、鳥系の魔物が大量に街へと侵入してきました。
「さあ、パーティーの始まりだ」
侵入してきた鳥の魔物たちによって、街は大混乱に陥っていました。『魔物誘引』によってさらに魔物が侵入してきます。
そこに衛兵隊が駆け付けました。隊長さんが声をかけてきます。
「おい、冒険者ギルドは魔物の駆除にかかれ! お前たちのほうが慣れているだろ。魔人はこちらが引き受ける!」
「分かりました」
衛兵は基本的に人の相手を想定した訓練をしています。冒険者が魔物の相手をするのは妥当な判断でした。
総動員された冒険者たちは街に散らばりました。一か所に固まっていては街全体を守れません。各々で魔物の相手をしたり住民の救助を行います。街のあちこちで魔法による対空射撃が始まりました。
私もスリングショットで魔物を撃ち落としていきます。弾は道端の小石ですが、鳥の魔物は耐久力が低いので当たりさえすれば倒せます。スリングショットに付与してあるスキル「命中」によって次々と魔物が撃ち抜かれました。私、有能。
『有能なのは俺だろ!』
スリングショットが何か言ってますが、聞こえません。
また冒険者と衛兵だけでなく領主軍も出動してきました。それによって魔物が次々に撃ち落とされますが、魔物は絶え間なく侵入してきます。結界を復旧しないと終わりが来ません。
また、他にも懸念があります。逃走中の魔人は3体ですが、1体がまだ現れていません。ツモアもまだ現れていません。彼らはどこで何をしているのでしょうか。
「まさか、これは陽動なのでは」
私はなんだか嫌な予感がしました。もしこれが陽動なら、敵の目的は別にあるということになります。現在、街の戦力は魔人と魔物の対応で分散しています。仮に普段戦力が集まっている場所を手薄にするためと考えると、彼らの目的は……。
「領主、でしょうか」
軍が出動したことで領主館の守りは手薄になっているでしょう。とはいえそれでも普段と比べての話。それでも領主館の守りは堅いはずです。冒険者ギルドからもSランク冒険者が護衛に派遣されています。残り1体の魔人がどうにかできるものではありません。
「おーい、マリーン! ここにいたか!」
ギルドの鑑定士、ギミーさんが走ってきました。
「マリーン! 大変なことになったぞ!」
「ええ、早く結界を直さないと魔物の侵攻を阻止できません」
「そうじゃない! 魔人が冒険者ギルドを襲撃した! 冒険者が出払っている隙を突かれた!」
事態は私の予想外の展開を見せていました。




