29. 新兵器アクセサリ
ツモア編、全8話、始まります。
ツモアと配下の魔人たちが逃走して数日、捜索は続けられているものの、その行方は依然として不明でした。あの事件で多くの者にツモアの存在が知れ渡ったことで機密だったツモアの情報は公開され、秘密捜査は公開捜査へ移行しました。
また捕まった魔人たちの内黙秘をしていた2体でしたが、度重なる尋問によってついに証言を聞き出すことに成功していました。今は刑務所に入れられています。
ツモアたちが逃げ込んだ下水道の捜索も進められています。あれ以来街の中で瘴気は検出されていないため、彼らはいまだ地下に潜んでいると考えられました。
「臭い……」
私は顔をしかめました。ここは下水道の入口。私は冒険者を率いてツモアたちの捜索に来ていました。着こんだ胴長が少し窮屈です。
「臭いな」
「臭いわね」
一緒に来ていたダルドさんとメリーさんも同様の反応です。しかし私たちは今からこの中に入っていかないといけません。作戦により、他の入り口からも捜索隊が出発しているはずです。仕事なので、我慢です。
「それでは行きましょうか」
私は先頭に立って地下へと降りていきました。冒険者たちも後に続きます。松明を焚きましたが中は暗く、そして複雑に入り組んでいました。地図がなければ確実に迷う広さと複雑さです。
私たちは水路沿いの歩道を進んでいきました。
そして捜索を始めて十数分、冒険者の一人が魔物の気配を感知しました。魔人でしょうか。私たちは魔物の居る場所に急行しました。
そこに居たのは巨大スライムでした。もっとも原始的な魔物と言われ、森で死体などを食べてくれる掃除屋としても知られる魔物です。
「うおっ!? でけえ!」
ダルドさんが思わず声をあげました。
「邪魔です」
私はスライムに手を向けました。手首のブレスレットが灯に照らされ光を反射します。ブレスレットから放たれた多数の空気の砲弾がスライムに命中し、スライムの体を削り飛ばしていきました。そして急所の核が破壊されスライムは死にました。
今私がつけているブレスレットは風の魔石を数珠つなぎにしたものです。一つ一つの魔石に私のスキルで「風魔法 LV3」を与えており、一斉に攻撃すれば面攻撃となります。曲がり角が多く暗い場所では遭遇戦がメインとなるので用意した新兵器です。
「すごいわね」
「俺たち来た意味あるのか?」
ダルドさんたちが驚きます。
「さすがに魔人3体相手にはできませんよ。その時には皆さんの力も貸してもらいます。捜索を続けましょう」
私たちは捜索を続けました。しかし、魔人たちは見つかりません。代わりに魔物ばかり見つかります。
通常であれば下水道内に魔物は発生しないようにしてあります。魔物が下水内に入り込むとすれば川から水を引き入れるトンネルからですが、大型の魔物は柵によって侵入できないようにしてあります。また、ねずみなどの小さな魔物は設置された魔法陣によるトラップで駆除される仕組みです。それにより下水道に瘴気が発生することはなく、ダンジョン化せずに保たれます。
しかし現在は、魔人たちによって生まれた瘴気だまりが原因で魔物が生まれていました。そのため探知系スキルや瘴気探知機も空振りばかり。ついぞ魔人は見つかりませんでした。
捜索を終え、私達は近くの出口から地上に戻りました。暗闇に慣れた目に夕日がしみこみます。眩しいのでとっとと沈んでください太陽。
「おや」
私は街の中央に建つ時計塔を見て声をあげました。街のどこからでも見える時計塔は、それを見れば自分が街のどこにいるのかわかる目印となります。
私達が出てきた場所は入った場所からそれほど離れていませんでした。地下を通ってかなり移動したつもりでしたが、直線ではあまり移動していなかったようです。
他の捜索班も魔人を見つけることはできなかったようでした。私は汚れた体をきれいに洗い着替えてからギルドに帰りました。
次の日、私はエルーシャにお茶に誘われました。通常業務に加えて魔人の捜査も行っているため、そろそろ休みたいと思っていたところです。私はきりのいいところで机を離れるとギルド設置の定食屋に行きました。
「魔人たち、なかなか見つからないね」
エルーシャがコーヒー片手にそう言いました。
「人間が魔人を受け入れる世界を作る、だっけ?犯人の目的」
「ええ、そうです。一体何をするつもりなのでしょうね」
「マリーンがツモアだったらどうする?」
「そうですね……、領主やそれ以外のヨハンの重要人物を襲って、蝕腫病の薬を飲ませて魔人にします。権力者が魔人なら法改正できるかもしれません」
「なるほどねー。マリーンって犯罪者の素質あるんじゃない?」
「人聞きが悪いですね。それに実際には難しいですよ。今高ランクの冒険者達がお偉いさんたちの護衛に駆り出されていますから、それを何とかしないといけません」
「他の病人を魔人にして仲間にするとかどう?」
「患者たちにも護衛がついています」
「もう手当たり次第に薬ばらまけば? 皆魔人になったらいいじゃん?的な?」
「そんな大量の薬どうやって用意するんですか。この街だけで何万人も人が暮らしてるんですよ」
「それもそっか」
「だいたい無理やり魔人にしても、ただでさえ悪い魔人の印象がさらに悪くなりますよ。それでは人々に受け入れられません」
「じゃあ無理じゃん。妥協してただの破壊活動とかし始めるんじゃない?」
「いつまでも隠れられて、私たちが捜索し続けることになるよりはましかもしれませんね。見つかりさえすれば数で勝てますし」
「確かに魔人の捜索きついもんね。臭いとか、時間取られる事とか。とっとと魔人出ないかなぁ……」
その時、ギルドに冒険者が駆け込んできてこう言いました。
「魔人が出たぞー!」
エルーシャが不吉なことを言うといつもすぐに事件が起きてる気がします。こいつもう疫病神か何かでは。




