27. 父親
魔人の居場所を特定した後、探知系スキル持ちの衛兵たちが偵察に駆り出されました。そして、ある家に魔物が複数いることがわかりました。魔人たちでしょう。魔人たちを捕らえるため部隊が編成されました。
相手は強力な魔人たち、衛兵だけでなく冒険者ギルドからも戦闘要員が派遣されました。ギルマスがあらかじめ冒険者を集めていたそうです。さすがギルマス。
「お疲れマリーン。またずいぶんな大事件に巻き込まれてるね」
冒険者たちを率いてエルーシャがやってきました。
「別に好きで渦中にいるわけではないのですがね」
編成が終わると、作戦が伝えられました。家に突入するのは、風の人を含む選抜された衛兵20名とBランク冒険者8名、Aランク冒険者3名、Sランク冒険者1名の精鋭です。
そしてほかの人員は家を包囲し魔人の逃げ道をふさぎます。また、不測の事態に備えて追加の突入部隊と遊撃隊も用意されました。
そして深夜、家の中に一斉にデバフ系の魔法やスキルが撃ち込まれ、直後に部隊が突入しました。そして家の周囲は一斉に照らされ視界が確保されました。家の中に戦闘音が響きます。
私は東側の包囲を指揮しながらそれを聞いていました。すると、魔人の一体が家を飛び出しました。魔法を乱射しながらこちらに飛んできます。その魔人はキャッシュさんでした。
「撃ち落としてください」
私の指示で一斉に放たれる魔法やスキル。集中砲火で動きが鈍ったところで、重力魔法によりキャッシュさんは地面にたたき落されました。
「邪魔すんな! 全員死ね!」
キャッシュさんは高重力に抗い立ち上がりました。魔法への耐性が高いのでしょうか。それを見て魔法職たちが集中砲火を再開します。一つ一つのダメージは低くとも、積み重なればいつかは限界が来るはず。このまま遠距離から削り倒すのが安全でしょう。
その時でした。
「通してっ、通してください!」
包囲の輪を抜けてキャッシュさんへ駆け寄る一人の男性がいました。
「な!? 撃つな! 撃つなー!」
「誰だあいつ!?」
魔法職たちに走る混乱。誤射を恐れて収まる攻撃。先ほどまでの攻撃音が止み、どよめきと足音だけが浮き彫りになります。
駆け寄る男性は、私が知っている方でした。キャッシュさんのお世話係だったロックさんです。
「近接組は突撃! あの一般人を保護しつつ直ちに魔人を無力化してください!」
私は声を張り上げました。ロックさんがいるので魔法は撃てません。遠距離から安全に削り倒す作戦は崩壊しました。態勢を立て直される前に押し切るしかありません。
私の号令を聞いて突撃する近接組。包囲していたので四方八方から距離を詰めます。ロックさんの乱入からまだ数秒。状況は一変していました。
後から思えば、キャッシュさんは状況を正しく理解できていなかったのでしょう。急に魔法攻撃が止んだと思ったら相手が武器を手に斬りかかって来たのです。とどめを刺しに来たと思ったのかもしれません。
キャッシュさんは、横から近づく一番近くの足音の主に向かって腕を振るいました。
「ぼっ……ちゃま……」
「――っ!?」
魔人の鋭い爪により、ロックさんの胸から左肩にかけてが切り裂かれていました。自身の行いに目を見開くキャッシュさん。
勢いよくあふれ出る血を無視して、ロックさんは私たちの方を向き、そして両手を大きく広げました。
「どうか! この子を殺すのだけは、どうか――!」
そこまで言って、ロックさんは倒れてしまいました。
「なんで……」
キャッシュさんはロックさんを見下ろしていました。隙だらけ。迫りくる近接組すら目に入らないといった様子で呆然としていました。
「あーもうっ、確保で! 確保してください!」
もう無茶苦茶です。作成も何もない行き当たりばったりになってしまいました。たちまち取り押さえられるキャッシュさん。既に戦意はなく、抵抗することはありませんでした。




