20. 不治の病
蝕腫病編、始まります。
全9話です。
皆さんこんにちは。マリーンです。今日も私はギルドでお仕事。依頼管理課にいると、時折無茶な依頼が持ち込まれることがあります。今私はその依頼主の文句を聞いています。
「どうして受けてくれないんだ! 冒険者ギルドはどんな依頼も受けるんじゃなかったのか!?」
依頼主はカウンターから身を乗り出さん勢いで唾を飛ばしてきます。
「ですから、その依頼はそもそも達成できないんですよ、冒険者ギルドでは」
私は唾をガードしながら依頼主をなだめます。鎮まり給え。どうどう。
「じゃあどこに頼めばいいんだ!!」
「治癒院に頼んでください」
持ち込まれた依頼の内容は、不治の病にかかった妻を治してほしい、というものでした。そもそも治療法が確立されていない以上、私達ではどうにもなりません。
「もしかしたら治せるやつがいるかもしれないだろ!? ダメもとでいいんだ!」
依頼主はとうとう泣き出し懇願してきました。うーん、さすがにかわいそうになってきました。
それに周りの人たちが、受けてやれよ!と私を睨んできます。逆らえない同調圧力の空気。私の風評が風前の灯火です。
「仕方ないですね。分かりました。受ける方向で話を進めましょう」
私は折れて依頼を受けることにしました。話し合いの結果、こちらは依頼を掲示するものの、受注されなくても依頼主は文句を言わないということで合意しました。
その日の夜、私はポーションを買って家に帰りました。昼の依頼主の懇願が頭を離れなかったので、試しに治療薬を作ってみることにしたのです。
スキルを発動させて、治癒効果を高められそうなスキルを多重に付与していきます。ポーションは魔改造されていきました。
そして、鑑定メガネをかけてポーションを鑑定。
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致死性の万能薬
ポーションの一種。
どんな怪我や欠損、病気、状態異常も治す代わりに生命力を搾り取り死なせる効果がある。
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『なんという無駄な存在だ』
メガネがあきれた声をあげました。私も同感です。
『無駄じゃないもん! すごいもん!』
万能薬()が反論してきます。いいえ、あなたは役立たずです。封印決定。
『ガーン!』
治療薬作りは失敗しました。ですがその後いろいろ試し、症状を抑える特製ポーションを作ることができました。これが私の限界のようでした。
その後、薬師ギルドでの検査と登録を経て、特製ポーションに利用許可が下りました。私が依頼主にポーションを渡すとすごく感謝されました。治せるわけでもないのにこんなに感謝されるとは。報酬の上乗せを提案されましたが、さすがに断りました。
私のスキルは便利ではあっても万能ではない。自分の無力感を噛み締めながら、私はギルドの業務に戻ったのでした。




