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2. 毒草の恨み

 ギミーさんを拘束した次の日、私は衝撃の知らせを受けました。またも毒草が混入していたというのです。


 知らせを受けた直後に商業ギルドに呼び出された私は、怒る先方に平謝りする羽目になりました。相手の説教に相槌を打つ大変な作業が続きます。なんとか信用を取り戻さなければ業務提携を切られる可能性もありますので下手な対応はできません。


「謝罪する暇があったらとっとと原因を探せ! このボケー!」


 私は追い出されるように商業ギルドを出ました。理不尽です。



 冒険者ギルドに戻った私はギルマスに呼び出されました。現状を報告しろとのお達しです。私は昨日のいきさつを説明しました。


「では、昨日納品した薬草は確かに毒草を取り除いたというのかね」


 私にそう聞く初老の男性こそ、冒険者ギルドヨハン支部のギルドマスター、ジェームズさんです。


「はい。臨時で雇った鑑定士の方に取り除いてもらいました。私も立ち会いました」

「ギミーは否定しているのだろう?」


 そうなのです。ギミーさんはいまだに犯行を否定し続けています。こうなってくると、犯人は別の人物の可能性が高くなってきました。


「状況は分かった。この件はギルドの信用問題にかかわる重要案件だし、他の業務は同僚に任せて解決に専念しなさい。監査部も自由に動員してよろしい」


 まさか薬草ごときでここまで話が大きくなるとは思いませんでした。気が重いです。


「早急に解決出来たらボーナスをやってもいい」


 なんとしてでも解決しないと!


「できなければ減給だ」


 なんとしてでも解決しないと!



 私は監査部の方たちに事件を手あたり次第調べるよう指示を出した後、ロビーの定食屋でお茶を飲んでいました。今日はエルーシャは一緒ではありません。彼女は私の分の業務を抱えて絶叫していました。


 あー忙しい。実に忙しい。


 いえ、私も早く解決したいとは思ってるんですが、手掛かりがないのでどうしようもないのですよ。なので監査部の人たちに頑張ってもらっているわけです。私は指示するだけ。




「薬草の買取ができないってどういうことだ!」


 ロビーに冒険者の怒声が響きました。商業ギルドが原因が特定されるまで納品を拒否したためこちらでも買取を停止したのですが、知らずに持ってきたようです。


「こっちは薬草の採取だけで生活してるんだ! 俺に路頭に迷えって言いたいのか!」


 どうやら彼は昨日帳簿で見た、薬草採取ばかりしている方のようです。名前は確かライアンさん。


「せ、責任者を呼んでまいりますので!」


 困り顔でライアンさんにそう答える受付嬢さん。大変そうですね。……責任者?


「マリーンさん! 見てないで何とかしてください!」


 私でしたね。責任者。


 こうして私は憤慨するライアンさんの相手をする羽目になりました。この調子では他の冒険者にも都度対応することになりそうです。


 薬草事件の影響が冒険者にも広がり始めていました。




 手掛かりを求めて私は倉庫にやってきました。


 実は薬草の生態についてはあまりわかってない事が多いです。モンスターが生息する場所にしか生えず、研究が進んでいないのです。栽培が成功したこともありません。


 分かっている事としては、群生しない事、同じ場所に3日も生えない事くらい。


 そのため安定して採取できる人はほとんどおらず、狩猟の最中に見かけたら小遣い稼ぎに採取する人がほとんどです。



 行き当たりばったりで、サンプルとして取ってあった毒草に話を聞いてみます。


『どうやってここに来たのかって? 気づいたらここにいたんだよ』


 うーん、使えないですね。魂を与えられても所詮草ですか。他の毒草も同じような事ばかり。わからないだとか、覚えてないとかばかりです。私は次いで薬草も手に取りスキルを発動させました。


 その効果は凄まじいものでした。手の中で薬草が紫色に変わり、根が大量に伸びたかと思うとその根を足のように使いジャンプしたのです。


「ぎゃあああああ!」


 乙女らしからぬ悲鳴を上げてしまったのも仕方ないと思います。それくらいのびっくり仰天の光景でした。誰もいなくてよかったです。見られれば私のクールな印象が台無しです。


「人間が憎い! 憎いぞ!  引き抜かれた恨み! 復讐だ!」


 薬草であったそれは、私の足元で葉を広げ、根を広げ、ゆらゆらとこちらを威嚇しています。


「えい」


 踏みつけました。何の遠慮もなく、何の罪悪感もなく。


「ぐあああああああああ!」


 こうして元薬草の魔物は致命傷を負い死んだのでした。



 以前、私のスキルで似たような事が起こったことがあります。死んだ魔物の骨にスキルを使ったところスケルトンが生まれて大騒動となりました。原因は瘴気でした。私のスキルは普通の物体に使えば友好的な人格を得ますが、瘴気を持つ物体に使うと魔物となります。


「薬草が瘴気を含んでいる……。一体どうして……」


 これは常識的にはありえないことです。植物には瘴気に対する耐性があると考えられています。そうでなければ森の植物は皆魔物となっているはずだからです。瘴気が非常に濃い場所であればトレントなどの植物モンスターが生まれることもありますが、普通の森ではまずそのようなことは起こりません。


「もしかして他の薬草にも瘴気が含まれているのでしょうか」


 結論から言うと、ありました。そこそこの数で。それも高品質の薬草にばかり。


「もしかして……、いやでも……」


 私の中で、ある一つの仮説が生まれていました。



 私は解体場である実験をしていました。一緒にいるのは臨時の鑑定士さんと、証拠不十分で解放されたギミーさんです。私たちの目の前には薬草が並んでいます。


「あっ!? 毒草に変わりました!」

「毒草だ! 毒草になったぞ!」


 鑑定持ちの二人が同時に声を上げます。私はスキルを発動させました。すると毒草は魔物に変化しました。ギミーさんが無事殺して実験は終了です。


「やはり、瘴気を含んだ薬草が鑑定された後に時間差で毒草に変化していたんですね」


 思えば毒草たちの証言も、ここで毒草として生まれたと考えれば納得できる内容です。気が付いたらここにいた、つまりここで生まれたのです。そして時間が経ち瘴気が抜けた。


「まさか、毒草と薬草が同種だったとはな」


 事件の原因が自分でないと分かったギミーさんは力の抜けた声でそう言いました。そう、これは新発見です。薬草と毒草で鑑定の結果が異なるため別種とされていましたが、元が同じならそりゃそっくりなわけですね。




 翌日、私はある冒険者が借りている物件の前にやってきました。


「彼は中にいるのですね」

「はい、中に入るのを確認しました」


 私の質問に、衛兵の方が答えます。私たちは今、今回の事件の犯人の確保のために包囲を形成していました。


「それでは、全班、突撃!」


 私の号令によって、衛兵の方が一斉に家に突入します。家の中は蜂の巣をつついたかのような騒乱となっていました。


「なんでマリーンが仕切ってるのさ」


 エルーシャが文句を言います。そう、実はこの検挙作戦はエルーシャの案件でした。


「すいません、こういう号令、一度かけてみたかったもので」

「対象を確保いたしました!」


 そうこうしているうちに伝令が届きました。さて、犯人の顔を見に行きましょうか。



 家の中は家と呼べる状態ではありませんでした。なんと、床に鉢植えが所狭しと並べてあります。そこには大量の薬草が育っていました。そして、取り押さえられた中年男性がひとり。


「あなたがブラッドラットの発生の犯人ですね」

「な、何の話だ!? 俺は関係ない!」

「そうですね。あなたがしていたのは薬草の栽培だけですものね。いやー、すごいですよ。薬草の栽培に成功したのはおそらくあなたが初めてです。画期的ですよ。これなら安定して高品質な薬草を栽培できます。瘴気のせいで薬草が毒草となり、魔物が発生することを除けばですが」



 そう、犯人は薬草採取だけで金を稼いでいた冒険者、ライアンさんでした。


 彼の行動は不自然でした。安定して取れないはずの薬草を毎日のように採取し、しかし魔物を狩ることはない。まるで魔物の生息地で採取していないかのように。しかも高品質の薬草ばかり売っていたのです。


 毒草の混入の原因が瘴気と知った私は薬草の買取を再開させました。そして買い取った薬草を採取者ごとに分けておき、毒草を売った人物を特定しました。結果、彼の薬草のみが全て毒草に変化したのです。


 そして彼の行動を調査した結果、この家から薬草を売りに来ていることがわかりました。さらに調査した結果、家の中が瘴気だまりとなっていることが判明。家がブラッドラットの発生地区の中心であったことから、二つの案件がつながりました。


 薬草の栽培だけでは、法にもギルドの規定にも記述されていないため衛兵を動かすことはできません。しかし街に魔物を引き入れる行為は厳しく禁じられている大罪ですので、こうして衛兵を動かすことができました。彼はこれから罰を受けるのでしょう。


 現場調査の結果、瘴気は鉢植えの土から漏れ出ていたことがわかりました。おそらく薬草が育つには瘴気が必要なのでしょう。今まで栽培ができないと思われていたわけです。犯人の彼は、土に瘴気を含ませることで薬草の栽培に成功したようです。


 しかし土から直接瘴気を取り込んだことによって耐性以上の瘴気にさらされたため毒草に変化した、というのが事件の真相でした。




「そういえばさ、どうやって瘴気だまりを作ったんだろうね」


 エルーシャと私は事件解決を祝して食事に来ていました。私はパスタ、彼女はハンバーグを食べています。


「私の想像では、まず瘴気の残っている魔物の肉をひき肉にして土にまぜ……」

「まって! それ以上は聞きたくない。これが食べられなくなる。」


 実際はどうやったのかわかりませんが、これから衛兵の方がじっくり聞いてくれるでしょう。ギルマスへの報告や商業ギルドへの説明も終わり、薬草の納品も無事再開されました。これにて一件落着となったのでした。




 開拓都市ヨハンは今日も活気に満ちています。開拓計画により好景気ですが、まだまだ人が足りない状態です。移住、出稼ぎ大歓迎!


 もしよければあなたもヨハンに来てみませんか?

お読みいただきありがとうございます。<(_ _)>

次回予告:浮気調査編


 浮気調査をしていた冒険者が行方不明に。そして街に出回る偽の金塊。それらの事件を追う先でマリーンが見た物とは。乞うご期待

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