19. 旅立ち
皆さんこんにちは。マリーンです。私は今独房にいます。さすがに衛兵との交戦はまずかったです。逮捕されてしまいました。
フルーさん、大丈夫でしょうか。教会は他国扱いであるため衛兵は手が出せないはずですが、ここでは情報が手に入らないので心配です。
「出ろ。釈放だ」
看守が来て言いました。どうやら私は無罪放免らしいです。でもなぜでしょう。結構な問題行動だったと自覚していたのですが。
「マリーン、お勤めご苦労様」
手続きを終え署を出ると、エルーシャが居ました。
「ギルマスに感謝しなよ。わざわざ手を回して無罪を勝ち取ってくれたんだから」
「なぜそんなことを」
「うちが請け負った案件によそが介入するのを一度見逃したら、今後も介入されるからだって。衛兵への抗議らしいよ」
「そうだったのですか。フルーさんはどうなりましたか」
「亡命は受け入れられたって。今から教国に護送される。それにしても、マリーンが他人にここまで肩入れするなんてね。そんなに素敵な人だったの? 恋?」
「違いますふざけないでくださいありえません」
確かに悪い人ではありませんし、性格もいいですし、親切で丁寧で気づかいもできて、同じ趣味で話も合いますけども、生きているときに会っていればとも思いますけども、
「仕事だったので仕方なく、ですよ」
私はエルーシャから目をそらしそう言うと、フルーさんを見送りに行きました。
教会につくとちょうど護送の馬車に乗るところのようで、フルーさんが護衛や教会関係者と一緒に教会から出てきました。
「フルーさん!」
私が駆け寄ろうとすると、護衛が私を阻みました。
「話をさせてください。私の恩人です」
フルーさんがそう言うと、護衛が道を開けてくれました。私はフルーさんに駆け寄ります。
「これから教国に行くのですね」
「ええ、私の亡命を受け入れていただけました。これもすべてあなたのおかげです」
「いえ、私ではこの国にあなたの居場所を作る力がありませんでした。私の力不足です」
「でも、できる限りのことをしてくれました。あなたは大丈夫でしたか? 私を逃がすために捕まったと聞いて心配していたのですが」
「安心してください。無罪放免です。冒険者ギルドが守ってくれました」
「フルー殿、そろそろ……」
教会の方がフルーさんに言いました。
「分かりました。マリーンさん。残念ですがもう出発です」
「そう、ですね……」
「本当にありがとうございました。教国についたら手紙を出しますね」
「お気を付けて。手紙、待ってます」
こうしてフルーさんは旅立っていきました。
次の日、私はギルドの業務に復帰しました。収監中に溜まった仕事の書類で机があふれています。今夜は帰れないかもしれません。
「あれ? マリーン髪留め新しくしたの? 似合ってるじゃん」
「そうですか、ありがとうございます。エルーシャ」
私は気合を入れ、仕事をはじめたのでした。
これで動く死体編は終了です。
次回予告:蝕腫病編
不治の病である蝕腫病の患者が次々と行方不明に。捜索の依頼を受けたマリーンに襲い掛かる絶体絶命の危機。親子の絆とはなんなのか。乞うご期待。