16. アクセサリ
尾行を始めて数分、フルーさんは商店街で買い物をしていました。その振る舞いはどう見ても普通の人です。とても死んでいるようには見えませんでした。
フルーさんはやがて、ある店に入っていきました。入るときに鍵を開けるのが見えました。彼が営んでいる店でしょうか。
私は窓から店の中を覗きました。棚や机に小道具やアクセサリが並んでいます。そして中のフルーさんと目が合ってしまいました。失態です。どうしましょう。
こうなったら、行くしかありませんか。
「こんにちはー」
私は客のふりをして店に入りました。
「いらっしゃいませ」
フルーさんが応えます。やはり彼の店のようです。
「ご自由に見て回ってください。大したものはありませんが」
「ええ、そうさせていただきます」
私はなるべく自然に、店の中を見て回ることにしました。食器や料理道具の棚、生活用品の棚、そしてアクセサリーの棚。
店内は掃除が行き届いており、調度品は落ち着いていて、小さい店ですがゆったりした空間となっています。客がリラックスして見て回れるよう配慮されているのがわかります。
私は商品を見るふりをしながらフルーさんを観察していました。
そんな中、私はある商品に目が留まりました。
「この髪留め、いいですね」
華美でなく落ち着いたデザインで、しかし主張するところは主張しておりいいアクセントとなっています。
「気にいていただけましたか?」
気が付くとフルーさんがすぐ後ろに来ていました。しまった、背後をとられた!
「実はこの棚のアクセサリは私が作ったんですよ」
どうやら襲われることはないようです。ちょっと安心。
「そうなんですか。デザインがとてもいいですね。私もよく趣味でこういったものを作るんですが、私では足元にも及びませんね」
「おや、奇遇ですね。どんなものをお造りになられるのですか?」
私とフルーさんは手芸談義で盛り上がりました。自分と同じ趣味を持つ人と語り合えるのは久しぶりです。私は先ほど気に入った髪留めを購入することにしました。
「お釣りを出すので少し待っていてください」
フルーさんが店の奥に引っ込んだところで、私はメガネに声を掛けました。
『メガネさん、あの人をどう思いますか』
『あれはただの抜け殻だな。体は生命活動をしていて心臓も動いているが、魂は既に死んでいる。人ではなく物と言っていい』
『魂が、無いのですか』
あんなに人間なのに。死んでいると言われてもにわかに信じられません。
『うむ、魂を持たないくせに生きた肉体を持つとはうらやましい』
『あなたとは逆ですね。肉体ほしいですか』
『体が生きていなければ魂は維持できん。ほしいのは当然だろう?』
『私が維持しなければあなたたち3日ほどで死にますものね。それはそうと、フルーさんはなぜあの状態になっているのでしょう。何かの間違いでは』
『あれのスキル覧をよく見てみろ』
私はフルーさんの後姿を鑑定し、スキルを確認しました。そして少し困惑し、次にそれを理解し絶句しました。