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辺境のマリーン 〜ギルド嬢の事件簿〜  作者: 源平氏
補章:王都から来た少女編
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王都過去2:お父さん?

 気が付くとあたしは知らない場所に寝かされていた。白っぽい無機質な部屋。回りを見回したあたしは呉服屋のおばさんに気づく。


「やっと起きたのかい。具合はどうだい?」


 あたしが起きたことに気づいたおばさんがおばさんがそう聞いて来る。


「ここは……」

「治癒院さ。あんた仕事中にぶっ倒れたんだよ?」

「治癒院!?」


 治癒院ってあの体調を調べるだけでお金をとる悪徳業者!? あたしはガバッと立ち上がった。


「どうしよう、お金持ってない……」

「あんたぬいぐるみの材料で金使い切ってたのかい?」


 おばさんが呆れ顔であたしを見た。そして笑い出す。


「何よ」

「いやさね、あんたもガキらしい所あるんだって思うとね。安心したんだよ」


 あたしはむっとした。確かに衝動買いだったから言い返せないけど。


「鑑定してもらったらただの寝不足だってさ。診察代は私が払ったから気にしなくていいよ」


 ……どうしよう。借金しちゃった。きっとこれから借金奴隷としてこき使われるんだ。


「なに人生終わったみたいな顔してるんだい。金なら別に返さなくていいよ」

「……あたしに恩を着せて、どうするつもりなの」

「どうもしないよ!」


 おばさんは即座にそう返してきたのだった。



 おばさんと治癒院を出る時、治癒士が衛兵に何かを言っているのが見えた。なんで衛兵が来てるんだろう。治癒士と衛兵がこっちに目を向けた。あたしはなんとなくおばさんに隠れるように治癒院を後にした。



 あたしが倒れていたのは二時間位だったらしい。あたしを治癒院に連れてきたせいで呉服屋は臨時休業。呉服屋に戻ってそれを知ったあたしは罪悪感を感じていた。


「気にしなくていいよ。あんたのおかげで儲かってるからね」


 おばさんがそう言った。昔は冷酷だったのに最近は態度がぬるい。特に今日は度を越してる。気味が悪い。あたしはおばさんが怖くなってきた。


「ほら、あんたのぬいぐるみだよ。それと午前働いた分の給料。今日はもう帰んな」


 おばさんがぬいぐるみとお金を渡してきた。あたしはぬいぐるみを抱きしめる。渡されたお金は明らかに賃金二日分以上あった。どう考えても数え間違ってるけど黙ってポケットに入れた。数え間違えたおばさんが悪いのよ。


「さようなら」


 あたしは足早に呉服屋を出ていった。





 次の日、あたしの心は酷く落ち込んでいた。呉服屋に行きたくない。


 やっぱり治癒院のお金を返せとか言われたらどうしよう。それに昨日貰った賃金が多かったのに気付いてるかもしれない。黙って受け取った事を怒られるかも。おばさんに会いたくない。


 そう思いつつもあたしは玄関に向かっっていた。これ以上の辛さは何年も前から知ってる。それでもあたしは働き続けたのよ。これくらい平気、大丈夫。


 ぬいぐるみを抱きしめたら気が楽になった。あたしはぬいぐるみにありがとうと言うと玄関を開けた。



 家の前に騎士がたくさんいた。その物々しさにあたしはぎょっとする。


「ああ、ちょうど出てまいりました。すぐに連れてきます。……おい! こっちに来な!」


 久しぶりに声を聞いた祖母があたしの腕をつかんで引っ張った。そしてある男の人の前に連れていかれる。騎士に守られたその人は、呉服屋で売ってるどの服よりも高級な服を着ていた。


 男の人と目が合う。どう見ても貴族だった。


 ……この人怖い。そう感じたあたしはぬいぐるみを体の前に抱く。


「……ふむ、確かにオルトローグの性を持っている。それにスキルも。衛兵の報告通りだな」


 見定めをするように見下ろされた。今、鑑定されたのかな。ますます怖くなってぬいぐるみを抱く力が自然と強くなった。


「良かろう。……おい、この老婆に報酬を渡しておけ」


 貴族の人が騎士に指示を出した。祖母がにやにやと笑いながら騎士の人からお金を受け取るのが見えた。貴族の人は次に、信じられない事を言った。


「これは我がオルトローグ家が引き取る」


 あたしは騎士に抱えられ馬車に乗せられた。





 あたしが連れて行かれたのは大きな屋敷だった。馬車を降りたあたしはそびえ立つ屋敷を見上げ呆然とする。


「さっさと歩け。愚図が!」


 前を歩いていた貴族の人が振り向きながらそう怒鳴った。あたしは慌てて後をついていく。これ以上怒られるのは怖かった。


「お帰りなさいませ」


 屋敷に入ったら召し使いっぽい人たちに出迎えられた。あたしはどうしたらいいのか分かんなくてたじろいだ。


「侍女長はいるか」

「はい。ここにおります」


 貴族の人が呼ぶと一人の女の人が進み出てきた。髪を後ろでまとめててつり目が特徴的だった。あの人が侍女長とらやらしい。


「これの躾を任せる。成人までに外に出せるようにしろ」

「承りました」


 貴族の人はそれだけ言うと歩き出した。あたしも慌てて後について行こうとしたら侍女長に腕を掴まれた。


「あなたはこっちです。お嬢様」


 掴まれた腕が痛い。あたしは引っ張られるようにして侍女長についていった。




 あたしが最初にさせられた事は湯浴みだった。おばさんから買った服は取り上げられて代わりに高そうな服を着せられた。鏡に映ったあたしはまるで貴族の子供みたいになっていた。


 ぬいぐるみも取り上げられそうになったけど、それだけは死守した。自分でも信じられない位の握力を発揮したと思う。


「……まあいいでしょう。これはよく見たら高級品みたいですので」


 侍女長はそう言ってぬいぐるみを手放した。あたしはほっと息を吐いく。でも引っ張り合ったせいで形が歪んじゃった。


 ごめんね、後で治してあげるからね。あたしは心の中でそう謝った。




「お嬢様には今からご家族に挨拶に周っていただきます。今から最低限の礼儀作法を教えるので覚えてください」


 浴室を出て別の部屋につれられたあたしは侍女長にそう言われた。


「お嬢様って……」

「あなたの事です」

「ご家族っていうのは……」


 侍女長が舌打ちをした。


「先にあなたの立場を教えておきましょう。あなたはこの国の公爵家が一つ、オルトローグ家の三女です。そしてあなたの父親はオルトローグ家現当主、ゴルド様。先ほどお嬢様をお連れになった方です」


 ……え?


「あの人があたしのお父さん!?」

「その通りです」

「もう死んでるんだと思ってた……」


 だって会った事無かったし、どこの誰かも知らなかったし。


「……間違ってもそんな失礼な事を他の方には言わないように。私がお叱りを受けますので」


 侍女長の声色が冷たくなった。睨まれたあたしはつい身震いをする。


「でも、あたし平民じゃ……貴族なんて……」

「お嬢様は当主様と侍女の間に出来た子です。外聞が悪いので手切れ金だけ渡して屋敷を追い出されたのです」


 そうか、祖母があたしを嫌ってたのはそんな事があったからなのね。あたしはそんなどうでもいい事を考えた。そして新しい疑問が思い浮かぶ。


「じゃあどうして今更あたしを連れ戻したの」

「あなたに希少なスキルが宿ったからです。昨日街の治癒院で診察を受けましたね?」

「うん……」

「あなたを鑑定した治癒士から通報があったのです。貴族の少女が平民に連れまわされていると。同時にあなたが持つスキルについてもです。当主様はあなたの持つスキルの有用性から、あなたを引き取る事をお決めになられました」


 あたしがスキルを持ってた? どんなスキル? 侍女長から説明を受けるほどにあたしの中に新しい疑問が生まれていく。


「あたしをどうするつもりなの」

「後々知ることになるので今教えておきましょう。あなたは政略結婚の道具です」


 侍女長はきっぱりとそう言った。


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