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128. フルー

 私は死を受け入れていました。悲しい事ではありません。私のスキル【フルー】を失い普通の死体に戻るのです。本来あるべき姿に。


 マリーンさんは私を生き返らせるかどうか迷っていました。私を助けたいという思いと死者を生き返らせる事への忌避感に葛藤していたのです。マリーンさんの精神はとても不安定になっていました。


 私はそんなマリーンさんに最期に声をかけました。大丈夫です。マリーンさんはとても理性的な人です。人としての間違いを犯す選択はしません。私はマリーンさんが正し選択をするのを少し後押しするだけで十分です。



 魔法陣が発動します。私の人生はここで幕を閉じるはずでした。





 マリーンさんが私に覆いかぶさりました。



「マリーンさん!?」


 私は驚きました。そんな事をすればマリーンさんは神級スキルを失ってしまいます。


 魔法陣が光を放ちました。私たちは閃光に包まれます。




 光が収まりました。私は、まだ意識がありました。どうやら助かってしまったようです。



「どうして、私を助けたのですか?」


 私はそう問いかけました。体勢が体勢なので顔が近いです。マリーンさんの綺麗な顔が良く見えます。マリーンさんの髪には私の髪留めが付けられていました。


「それはあなたがす……」


 マリーンさんは言葉を途中で止めました。なんだか顔が赤くなっています。あわあわしていたマリーンさんはしばし深呼吸した後、私を見つめてきました。



「フルーさん。あなたが好きです」



 マリーンさんがそう言いました。私はキョトンとしてしまいました。





 ……ええ?




 すき? 隙? 透き? ……好き?




 あなたが好きです!?



「わっ、私は死者です! 死んでるんですよ!?」



 私は思わず反論してしまいました。いや、反論してしまったとか何を言っているのですか私は。反論するのが当然なのです。死者である私に、心が無い私に恋愛感情など……不適切です!


「知ってます」

「他にもっといい人が……!」

「居ません。あなたがいいんです」


 私の言葉にマリーンさんは迷いなくそう答えました。一体どう諦めさせれば……。


 それにしても顔が熱い……!


「フルーさん、あなたはあなたです。スキルがどうとか命がどうとか考えすぎです。もっとあなたの感情に従ってもいいのですよ?」




 私の感情……。


「ですが……」

「あーもう、じれったい! 返事は後で聞きます! そこで悩んでてください!」


 マリーンさんが立ち上がりました。そして別の方を見ます。マリーンさんの視線の先にはクルツさんが憤怒の形相で立っていました。


 クルツさんがマリーンさんを責めます。神級スキルを捨てたことを糾弾しました。


「神級だろうと所詮はスキルです。わたしは自分のスキルよりもフルーさんの方が大事です。例えこの思いが失恋で終わろうともそれだけは変わりません」


 私は、こんなに真っすぐな思いを向けられたのは初めてでした。



 私は男爵家の四男として生を受け、爵位の継承権は皆無に等しいため家族に冷遇されて育ちました。


 そして成人し、家を出ました。


 不思議な事に、家族との縁を切ると同時にステータスの名前から家名が消えました。私はただのフルーとなりました。


 最低限の教育は受けていたためある商店で雇ってもらう事になり、私はコツコツとお金を溜めました。


 お金が溜まったら自分の店を持ちました。生活雑貨を取り扱う店です。お客さんがゆったりと商品を見て回れるように工夫しました。趣味の手芸を活かして作った小物のコーナーも設けました。


 ある日、一人のお客さんが店に来ました。マリーンさんです。マリーンさんは私と同じく手芸が趣味でした。そして私の作ったアクセサリを気に入ってくれました。


 私たちは手芸談議に花を咲かせました。そしてマリーンさんは髪留めを一つ買ってくださいました。今付けている髪留めです。こっそり値引きしておいたのは秘密です。


 私の記憶の中で、最も楽しかった時間でした。


 その直後、アンデッド騒ぎが起こり私は亡命しました。私は、マリーンさんに初めて会った時にはもう死んでいたのです。



 そうでした。マリーンさんが知っているのは生前の私ではなく死後の私。マリーンさんが好きだといった相手は、生きていたころの私ではないのです。


 マリーンさんは今の私を認めてくれていたのです。




 もっとあなたの感情に従ってもいいのですよ?




 私の、感情は……




「鍵はここにはない!」


 突然オーブン枢機卿の声が響き渡りました。マリーンさん達が壁に激突します。


「マリーンさん! 大丈夫ですか!?」


 私はそう声をあげました。寝かされ繋がれているためマリーンさんの方をうまく見る事ができません。


 私の頭上に、再び魔法陣が浮かび上がりました。


「こうなってはやむを得ん! フルーのスキルを移植して娘を復活させる!」


 オーブン枢機卿がそう言いました。私のスキルを死んだ娘に移植して復活させようとしているのです。


 私は鎖に繋がれ逃げることができません。



 このままではマリーンさんが神級スキルを犠牲にして助けてくれたのが無駄になってしまいます。



 ……いえ、そうじゃありません。これは義務感。私の感情はもっと別にありました。




 もっと話したかった。


 その声を聴きたかった。


 その笑顔を見たかった。


 一緒に裁縫を楽しみたかった。


 街で一緒に買い物をしたり、おいしいものを食べたかった。


 手をつなぎたかった。


 もっと、一緒に居たかった。






 私は……



 私は……!





 魔法陣の発光が強まりました。今にも発動しそうです。



 この気持ちを、伝えたい。


 もう会えなくなる前に。


 私は息を吸いこみました。


 これで最期、お別れです。


 悔いの、無いように。


 この感情の名は……



「マリーンさん! 私もあなたが好きです! 愛してます!!」


 私は、声の限り叫んだのでした。








≪条件が満たされました。スキル【フルー LV9】は【フルー LV10】に更新されます≫


≪さらに条件が満たされました。スキル【フルー LV10】の魂化を検討中……可能と判定。【フルー LV10】を魂へとアップグレードします≫


≪さらに条件が満たされました。奇跡を発動。個体名:フルーを蘇生します≫


≪さらに条件が満たされました。個体名:フルーの神化を検討中……不可能と判定≫


≪全タスク終了。奇跡を終了します≫


≪ま、たまにはこんな奇跡起こしてもいいですよね。世界を救ったご褒美です≫


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