127. クルツ
「なんと言う事をしたのですか!」
クルツさんがそう怒鳴りました。普段のクルツさんからは想像もつかないほどの怒気が表情に出ています。
「そのスキルにどれだけの力があるのか、あなたは知っているはずです! それなのになぜ捨ててしまったのですか!」
「神級だろうと所詮はスキルです。わたしは自分のスキルよりもフルーさんの方が大事です。例えこの思いが失恋で終わろうともそれだけは変わりません」
「神級スキルの役割をあなたは理解しているはずだ! あなたにはこの世界を守る義務がある! 異世界の神からの攻撃が今この時にでも始まったらどうするのですか!」
「世界の事は皆で考えれば良いではありませんか。個人の力量に頼り切るなんてリスクが高すぎです」
「そうせざるを得ないから言っているのです! この世界の住民で不正スキルに対抗できるものは少ない! 事実、この前の戦いでは魔王ですら全滅したではありませんか!」
「私もこの世界の住人です。私はただのギルド嬢ですよ」
「違います! 神級スキルの所持者は特別なのです! あなたは神の別人格と言っても過言ではない! あなたが望めば神にだってなれる!」
随分なことを言ってくれるものです。神になって何をしろというのでしょう。寝てろとでも言うのですか。
「だから私に死者蘇生をさせようとしたのですか。それが神級スキルがレベル10になる条件だから」
「!?」
クルツさんの表情が固まりました。カマをかけたのですが、どうやらビンゴのようです。
疑問だったんですよね。神を呼び起こすほどの事をしたのに私のスキルはレベル9止まりでした。まるでその上に行くにはまだ条件があるかのように。
「今回の件はあなたが仕組んだ……いえ、違いますね。あなたはオーブン枢機卿を利用したんです」
「何を根拠に……」
「ここに来る時言いましたよね。オーブン枢機卿は憲兵に通報されるリスクがあるのにどうして自分の居場所を明らかにしたのだろうかと。どうしてオーブン枢機卿の手の者が私達を拘束しに来ないのか不思議だと」
そう。それらの疑問の答えがクルツさんでした。
「簡単な話でした。クルツさんがオーブン枢機卿の手の者だったんです」
私はクルツさんを信頼していました。だからクルツさんの案内について行き、憲兵への通報もクルツさんに任せるつもりでした。オーブン枢機卿が私兵を寄こす必要はなかったんです。
「あなたの目的は、私を神にする事。その手段が死者蘇生による神級スキルのカンスト。オーブン枢機卿の目的を叶えればクルツさんの目的も叶う予定だったんです」
「……その通りです。マリーンさんを意識ある神にする事で、この世界の守りをより強固にしたかった」
世界のためというやつですか。悪意や私利私欲によってでないのはクルツさんらしいですね。
「オーブン枢機卿の目的が叶わなかった以上、あなたは他の手段で自身の目的を叶える必要が出来ました。だから魔法陣を起動してフルーさんを危機に陥れた。そして私に生き返らせるよう助言した」
実際危なかったです。最後の瞬間に冷静になれていなければ、私はフルーさんを生き返らせていたかもしれません。そして人では無くなっていた。
フルーさんの言葉が私を引き止めてくれました。おかげで私は人としての一線を越えずに済みました。フルーさんには助けられてばかりですね。
「クルツさん、あなたの企みは失敗です。私に神級スキルがない以上、もう対立する意味もありません。そうですよね」
クルツさんはうなだれていました。それもそうでしょう。私にどうこう言った所で、もう私は神にはなれないのです。
「……そうですね。私の負けです」
クルツさんはうつむき、そして力無く地に膝をついたのでした。
私は手をクルツさんに伸ばしました。そして手のひらを上に向けます。
「……?」
「どうせフルーさんの枷の鍵も持っていますよね。渡してください」
「いえ、持ってませんけど……」
あれ? てっきりクルツさんが持ってると思ったのですが、騎士の誰かが持っているのでしょうか?
「鍵はここにはない!」
突如声が聞こえ、私とクルツさんは横方向に飛ばされました。壁に向かって落ちている感覚。おそらく重力魔法です。
「ぐへ!」
壁にたたきつけられた私の口から変な声が捻りだされました。重力が消えず、壁に張り付けにされます。身動きが取れません。
「マリーンさん! 大丈夫ですか!?」
フルーさんの叫び声が聞こえてきました。
「オーブン枢機卿!」
続いて一緒に磔になっているクルツさんが声を上げました。クルツさんの視線の先にはオーブン枢機卿。目が覚めてしまったようです。
「マリーン! よりによって移植の身代わりになるとは! なんという事をしてくれたのだ!」
オーブン枢機卿が石板に触れました。再びフルーさんの上に魔法陣が浮かび上がります。
「こうなってはやむを得ん! フルーのスキルを移植して娘を復活させる!」




