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125. 私のわがまま

「すいませんフルーさん、倒すのに手間取ってしまいました」


 オーブン枢機卿と部下の騎士たちを倒し、私はフルーさんに駆け寄りました。私とフルーさんは見つめ合います。


「マリーンさん、怪我はないのですか?」

「大丈夫です。これでも強いので」


 私は力こぶを作ってみせました。そして剣を受けた袖の部分が破け血が滲んでいるのに気づきます。オウ、マジカ……。


「そうだ! 枷を外さないと!」


 私は話を変えました。フルーさんは台の上に寝かされ鎖で繋がれています。枷を外さないといけませんが、鍵はオーブン枢機卿が持っているのでしょうか。


 そうして私が気絶したオーブン枢機卿の元に向かおうとした時、急に神殿内が赤みがかりました。


 夕焼けの光でも入ってきたのでしょうか、私はそう思って上を見上げ、そして目を見開きました。


 祭壇上の空中、そこに浮いていたスキル移植の魔法陣が赤みを帯びていたのです。そして大量の魔力が魔法陣を巡っていました。魔法陣から漏れ出るほどに。


「大変です!」


 クルツさんが声を上げました。いつの間にか魔法陣を制御する石板の前に移動しています。


「魔法陣が暴走しています! このままではスキルの移植が始まってしまいます!」

「なんですって!?」

「後30秒で発動します!」

「嘘でしょう!?」


 私は駆け出しました。倒れたオーブン枢機卿の持ち物を調べ鍵を探します。ですが見つかりません。時間は残酷に進んでいきます。


「ない! ない! ここにも!」


 私の焦りが加速的に強まります。しかしどこにも鍵はありませんでした。となると騎士の誰かが持っている!?


「後20秒です!」


 フルーさんが告げました。


 私は一番近くの騎士に駆け寄りました。持ち物を調べますがやはり鍵がありません!


「後10秒です!」


 騎士は8人いました。全員を調べるだけの時間はありません。もうほとんど絶望的な状況でした。



「スキルを! スキルを使ってください!」


 クルツさんがそう言いました。


「今すぐフルーさんを生き返らせるのです! そうすればスキルを失ってもフルーさんは助かります!」

「なっ!?」


 私はうろたえました。ここに来てまたしても生き返り問題。今度は悩む時間も残されていません。


「後5秒!」


 思考が洪水のように溢れ、乱れ、私はもはや頭が真っ白になってしまっていました。




「マリーンさん、いけませんよ」


 フルーさんが声をかけてきました。その声はとても穏やかでした。


 フルーさんが見つめてきます。そしてそれ以上は何も言いません。その視線には私への信頼が込められているように感じました。


 不思議と、私は冷静さを取り戻していました。思考が加速します。今度は稲妻のように素早く、しかし淀みなく整然と。



 私はフルーさんの言葉を思い出しました。


 そう、フルーさんは死者を蘇らせる事を良しとしません。


 それが自己の否定であるとしても。


 そこにどれだけの葛藤や自問自答があったのかは想像に難くありません。


 それでもフルーさんは死者の蘇生を認めなかったのです。


 その倫理観はもはや信念と言えるでしょう。


 フルーさんは、このまま死ぬことを受け入れたのです。



 フルーさんは言いました。


 私は神ではなく人間だと。


 神級スキルを狙う貴族にうんざりしていた私にとって、それは救いの言葉でした。


 スキルではなく、私を見てくれているのですから。



 私は思い返しました。ヨハンからここまでの一連の騒動を。


 ここに来るまでに感じた違和感。


 皆の行動。


 そして思い。


 それらは複雑に絡まっているようで、実際はシンプルです。


 オーブン枢機卿、フルーさん、そして私。


 それぞれが自分の目的のために行動していました。


 ですが、実はあと一人居たのです。


 それに思い至った私は、その人の目的に気づきました。


 そして、私を取り巻く不都合を全て解決する方法を見出しました。フルーさんを助け、オーブン枢機卿の目的を挫き、そして私への暗殺問題をも解決する、そんな方法を。


 その方法の推一の欠点は、私の事情しか解決しないという事。私のわがままだけを叶えるという点です。


 かまいません。こうなれば最後までわがままを貫き通しましょう。




「フルーさん、ごめんなさい」

「マリーンさん!?」


 私はフルーさんに覆いかぶさりました。フルーさんが目を見開きます。


 直後、魔法陣から光が放たれ私に降り注いだのでした。

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