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120. ニーモとマリーン

 『隠密 LV10』、それがニーモの持つスキルである。発動すれば姿や音、体温、臭い、そして魔力までも隠蔽し隠れ潜むことができる強力なスキルだ。ニーモが暗殺者となった由来である。


 教国に行くというマリーンの言葉を聞いたニーモはスキルを発動した。姿を消しナイフで急所を突くのがニーモの必勝パターン。マリーンもニーモが敵を殺す所は見たことがあるため顔をこわばらせている。


「私が、怖いですか?」


 姿を消したままニーモは問う。自分を友人と言ったマリーンとの対立である。ニーモは冷めた目でマリーンを見ていた。


「ええ、怖いですよ」


 マリーンの返事にニーモはやはりそうかとしか思わなかった。いくら友人を名乗ろうと所詮は他人。立場次第ですぐに敵となる相手の一人でしかない。友情などただの幻想でしかないとニーモは断じていた。


 先ほどは殺すと言ったが、ようはマリーンが教国に行かなければいい。いくらか痛めつけて心を折れば考えを改めるだろうとニーモは考えマリーンに忍び寄る。


「ですが本当に殺しにかかってくる訳ではないとも分かっています」


 ドキリとした。まるで見透かされたかのように考えを言い当てられた事にニーモは不愉快になる。


「そのような甘い考えで私と戦う事にしたのですか? 本当に私が手加減するとでも?」

「今もしてるじゃないですか。話を続けている時点でまだ私を引き留めようとしていると分かります。ニーモさんは優しいですからね」

「あなたに何が分かるのですか」


 ニーモの声につい力が入る。心の中に土足で踏み込まれたような気分になりマリーンを拒絶した。


「分かりますよ。友人ですから」

「……まだそんな戯言を言うのですか。こうして対立しているというのに」


 ニーモは足を速めた。これ以上話を聞いても心を揺さぶられるだけだと判断しマリーンに接近する。


「私はニーモさんの立場を見て友人になりたいと思ったわけではありませんよ。ニーモさんの性格を見て仲良くしたいと言ったんです」


 マリーンが水魔石を放った。地面に落ちた魔石から水があふれ出る。たちまち周囲に水たまりが広がって行くのを見てニーモは跳び退かざるをえなくなった。水たまりを踏めば居場所がばれてしまうからだ。ニーモは内心で舌打ちをする。


「殺すべき相手には容赦ないですが、そうでない相手には殺しをためらってしまう。ニーモさんは暗殺者でありながら殺しに対する忌避感を忘れていません。だから優しいと言ったんですよ」


 ニーモはナイフを投擲した。狙うは足。黒塗りのナイフがニーモの手を離れて隠密の効果から外れる。


 エアーボムでナイフを撃ち落とされた。さらにニーモの居場所にもエアーボムが撃ち込まれる。投擲位置を逆算されたのだ。ニーモはかろうじてそれを避ける。


「ニーモさんには友人が必要です。かつての私以上に」

「何を……」

「ギルマスから聞きました。ニーモさんの過去を。ギルマスはニーモさんを頼むと言っていましたよ」

「余計な事を……!」


 ニーモの脳裏に幼少の記憶がよぎる。スキル狩り、犯罪組織での訓練、そして暗殺。ニーモの起源であり忘れ去りたい思い出だった。


「私はニーモさんが暗殺者でも気にしませんよ?」


 マリーンが上に向けて水魔石を放つ。水魔石から撒き散らされた雨が周囲に降り注ぎニーモの居場所が明らかとなる。


 ニーモはマリーンに迫った。雨で居場所がバレる以上、距離を取っていても射撃の的になるだけである。それなら近接戦に持ち込んだ方が勝ち目があると判断した。


 だがニーモのナイフはマリーンの鉈によりあっさり受け止められる。


「怖いですか? 心の中に踏み込まれるのが。傷つくのも傷付けるのも嫌だから一人を選んでしまうんですね」

「うるさい!」


 ニーモはナイフを振るう。だがマリーンの剣術を破れない。受け止められ、反撃され、次第に不利な体勢に追い込まれていく。


「一人で出来る事なんてたかが知れています。いつか一人ではどうしようもない事態に直面します。一人では抱えきれない悩みに苛まれます。そんな時に助けてくれるのが友人です。私はこの街に来てそれを知りました。あなたにもいつか知ってほしいと思っています」


 ニーモのナイフが弾き飛ばされた。衝撃で手が痺れる。さらにマリーンの蹴りが直撃。華奢なニーモはそれだけで戦闘不能に陥った。勝負ありである。


「話の続きはまた今度にしましょう。ニーモさんは私を止めようとして返り討ちにあった、その方が立場的にもいいですよね? すいませんが今は気絶していてください」


 峰打ちがニーモの首に命中した。ニーモは意識が遠のき倒れこむ。だがギリギリで意識をつなぎとめていた。


「どう……して、ここまで危険を……冒すのですか。フルーとは、あなたのなんなのです」


 ニーモには分からなかった。任務でもないのに他人のためにここまで危険を冒す理由が。なぜなら人は自分を大事にする生き物だから。そんな人間しかニーモの周囲にはいなかったから。


「それは……」


 マリーンが言い淀む。マリーン自身もその理由を、その感情をうまく説明できないでいた。しばらく考えていたマリーンはやがてその答えを得たのか、一人頷いた。


 その答えはとても単純な物であった。


「私の大切な人ですよ」


 マリーンの答えを最後に、ニーモは意識を失ったのであった。




「クルツさん、お待たせしました」


 ニーモさんを倒した私はすぐに教会に戻りました。アイテムもフル装備にしてきました。準備は万端です。


「それで、答えはお聞かせいただけますか?」


 クルツさんが答えを促します。私はそれに返します。


「教国に行きます。フルーさんを救出するために。なので力を貸してください」

「分かりました。案内は任せてください」


 こうして私は教国へ行く事になったのでした。


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