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118. 暗殺者たち

 夜、路地裏にて。


「隊長、目標が友人と別れ一人になりました。現在帰宅中です」


 暗がりの中、黒い衣装に身を包んだ男が小さな声で仲間と話していた。彼らはとある貴族に派遣された暗殺部隊、隊員12名はそれぞれが特殊な訓練を受けた精鋭である。彼らの目的はマリーンの暗殺であった。


「よし、副隊長は部隊の半分を率いて目標の友人を確保。こちらは目標が人目がない場所に差し掛かったら作戦開始だ」


 暗殺にしては十分すぎる戦力でありながら、彼らはマリーンの友人を人質に取る作戦を立てていた。それは先んじて送り込んだ仲間がマリーンに返り討ちにあったからである。1対1だったとはいえ訓練を受けた暗殺者が不意打ちを仕掛けて破れるなど、相当の実力があるはずだという判断である。


 部隊を二つに分けた後、隊長は半数を指揮し油断せずにマリーンを包囲した。そして一般人の目が無くなる瞬間を、ひっそりと待つ。


 そして、マリーンが人気のない道に差し掛かった時、彼らは一斉に攻撃を仕掛けた……はずだった。


「なっ!?」


 マリーンに襲い掛かろうと飛び出した隊長が見たのは、マリーンの周辺で倒れている隊員たち。隊長以外の全員が首から血を流してピクリとも動かない。


 マリーンと、目が合った。


「……お前がやったのか?」


 どうやったかは不明だが勝ち目がない、そう判断した隊長はマリーンに声をかける。


「いい加減うんざりなんですよね。命を狙われる身にもなってほしいものです」


 質問の答えは得られなかった。だが問題ない。話をする余地があれば人質を使って交渉できる。


「俺の仲間がお前の友人の確保に向かっている。友人の命が惜しければ我々の言うことを聞いてもらおう」

「友人とは、具体的には誰ですか」

「ニーモという女だ。ついさっきまで一緒に食事していただろう?」

「そうですか。それは良かったです」

「よかった?」


 友人が人質になるというのにマリーンは一切動揺を見せなかった。その事を隊長は不審に思う。


 いや、ただの強がりだ。そう判断した隊長は仲間が人質を連れてくるのを待つ事にした。そのためにマリーンと話を続ける


「何がよかったんだ? 内心では嫌っていたとでも言うのか?」

「いえ、本心から友人だと思っていますよ。あなた達のおかげで友人になる機会を得たというべきですか。本当の一面も知ることができましたし」

「何を言ってるんだ?」

「あなた達の任務は失敗という事です」


 マリーンがそう言うと同時に、隊長の全身を衝撃が襲った。マリーンがエアーキャノンを放ったのである。ただでさえ暗い中に目視しにくい風魔法の攻撃。隊長はもろに直撃を受け、あっさりと意識を失ったのだった。




「生かしておいた方が良いですよね? 話を聞くためにも」


 マリーンが虚空にそう呼び掛けると、ニーモが近くに姿を現した。隊長以外を殺したのはニーモの仕業である。


「助かります。私は手加減が苦手なので」

「お互い様ですよ。私はニーモさんに守ってもらってますし」

「……」

「なんですか?」


 じっと見つめてくるニーモに、マリーンがそう聞いた。


「さっき言ってた友人というのは?」

「もちろん本心ですよ。あなたとは仲良くしたいと思っています」


 面とそう言われたニーモはつい目を逸らしてしまった。ニーモの中にいろいろな感情が入り混じる。


 ニーモが5人の暗殺者を殺した瞬間をマリーンは目の当たりにしたはずである。にもかかわらず、なぜマリーンがそんな事を言うのかニーモには理解できなかった。


「私が怖くないのですか?」

「そんな事無いですよ。敵対しているのではありませんし」

「理解できませんね」

「ニーモさんには感謝してるんですよ。ニーモさんが守ってくれるおかげで私は枕を高くして寝ることができます」


 マリーンはそういうと気絶した隊長を見下ろした。


「ニーモさんを人質にとか言ってましたし、敵の残りがいそうですね。家大丈夫でしょうか?」


 ニーモは自分の家の前でマリーンと別れた。そして自分は帰宅したと装いマリーンを護衛していたのである。つまり敵はニーモの自宅を襲撃している可能性が高い。


「そっちは大丈夫でしょう。仲間の暗殺者が対処しているはずです」


 ニーモはそう言って仲間の暗殺者を、領主が派遣したその人物の事を思い浮かべた。





 スキルの研究は各国で行われている。その効果、習得条件、他のスキルとの相性などなど。特に習得条件は、どんな訓練をどれだけ行えばスキルを修得できるかの知識は強力な兵士を育成するうえで重要となってくる。故に国はその知識を軍事機密として秘匿することになる。


 そうなると一握りの部隊だけが有益なスキルを得るための訓練を施されるようになる。一般の兵士に訓練方法を教えてしまえばたちまち他国に漏れてしまうからだ。


 それは国単位だけでなく貴族単位でも当てはまる。○○家の秘伝の訓練法、と言ったものは長く続く貴族なら大体は持っている。


 今回送り込まれた暗殺部隊もまた、ある貴族に仕え強力なスキルを修得した精鋭部隊であった。


 そして副隊長率いるその部隊はニーモの家の中で今、混乱状態に陥っていた。


「ぐはぁ!」


 隊員の一人がまたしても攻撃を受けて戦闘不能に陥った。下手人の姿は全く見えない。


「くそっ! いったいどこにいる!」


 副隊長はやみくもにナイフを振り回した。家の中には明かりが付いているため視界は良好だ。しかし敵の姿は全く見えない。一人、また一人と攻撃を受け倒れていく。


「なぜだ! なぜ反応がない!? 俺の『気配探知』のスキルレベルは10だぞ!?」

「無駄ですよ。たかが上級スキルでは私を捕捉することは不可能です」


 副隊長の叫びに声が返ってきた。しかし声は四方八方から聞こえてくるため居場所を特定できない。まるで声の主に囲まれているかのような聞こえ方だ。


「どうやら対人戦闘に特化した部隊のようですが、それでは私に勝つのは不可能です」


 副隊長はその声を聞くと同時に急所を斬り裂かれて命を落とした。部隊は全滅である。


 その家はニーモの本当の自宅ではなかった。ダミーである。彼らははニーモがその家に入るのを見て誘い込まれてしまったのであった。そして待ち構えていたニーモの仲間に一方的に殺されたのである。


 その仲間は敵の全滅を確認して姿を現した。長身ですらっとした体形の、茶髪の男である。そして首には隷属の首枷がはめられていた。


「私に勝ちたいのであれば神級スキルを修得してから出直してください」


 男の名前はクラーク。かつて犯罪ギルドの黒幕として捕らえられ、今では領主直属の暗殺者となっている人物であった。



※クラークはゲスト出演です。もう出ません。

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