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116. 戦いのその後

 神の力は普段は全知に限定されているのでしょう。この世界は神の夢。眠っているため意識は無く、この世界をただ見るのみです。


 私のスキルはこの世界を明晰夢にしたのです。夢だと意識してみる夢、その中ではなんでも思い通りの事ができます。それにより神は全知だけでなく全能の力を発揮したのでした。


 神の力により、不正スキルは消滅しました。



 この世界は神の精神そのものと言えます。それを食いつぶして乗っ取るのが神化プログラム。もし結界が世界を飲み込んだら、神の精神はレプリカにすげ変わっていたでしょう。


 まったく、とんでもない事をされたものです。しかも不正スキルは大昔から繰り返し送り込まれているそう。異世界の神が今回の失敗で諦めることは期待できないでしょう。


 私のスキルが沈静化します。私は神の意識が再び眠りに就いた事を直感しました。明晰夢の時間は終わりです。



 私の目の前には戦いの跡だけが残されてました。球状に抉れた地面に焼け野原、残った木々の多くはなぎ倒され、遠くの山脈はなぜか輪切りになっています。


 生き残ったのは私とクルツさんだけでした。



「終わりましたね……」


 クルツさんがそんな事をつぶやきます。


「ええ……今回は、ですが」

「マリーンさん、あなたのおかげで世界は救われました。ありがとうございます」


 クルツさんが深く頭を下げました。


「やめてください。私は神に頼っただけです」

「それでも、ありがとうございます」


 クルツさんはそう言って再び頭を下げました。




 私がヨハンに帰ろうと思った時です。


「あれは……?」


 近くの地面に光るものが見えました。私はその正体を確かめるために近づきます。


 それはルークさんの剣でした。隣にはトールさんの杖もあります。戦場から離れた所に、まるで拾えと言わんばかりに置いてあります。偶然か、はたまた神の仕業か。



 私はそれを抱えました。二人の遺品です。大切に持ち帰らないと。



「帰りましょう。ヨハンに」


 長かった戦いはこうして幕を閉じたのでした。





 数日後。


 ルークさんとトールさんは魔人アルプとの戦いで相打ちとなり殉職した事になりました。人質を助けるために身を挺して戦ったとして、二人は英雄として祀り上げられました。


 不正スキルについて私が行った報告は記録こそされたものの、一般に公表はされませんでした。世界滅亡の危険性があるなどといった情報で市民に混乱を巻き起こさないようにするため、というのと同時に、英雄となった二人に泥をかぶせる事になってしまうからだそうです。


 私としてもルークさん達が悪く言われるのは快く思わないので不満はありません。



 後は、私の〈生命付与〉のレベルが5から9に上がっていました。どう考えても神を覚醒させたためでしょう。


 こんな強力な力を振るう必要が二度とない事を祈るのみです。




 私はルークさんとトールさんのお墓にやってきました。遺体が無いので二人の武器だけが収められている墓石ですが、どうか安らかに眠ってほしいと思います。


 私が花を添えている間、エルーシャは黙って祈りをささげていました。この戦いでルークさん達が守り切ってくれた、私の親友です。


「あら、あなた達も来てたのね」


 そこにやってきたのはルーミンさんでした。王都から派遣された監査員であり、トールさんのパートナーでもあった人です。そして戦いの真実を知らされている一人でもありました。


「ルーミンさん……」


 私は申し訳ない気持ちで一杯でした。ルーミンさんの反対を振り切って戦いに赴いたのは私です。絶対に死ぬなというルーミンさんの言いつけを守れませんでした。


「謝らなくていいわ。トールが選んだ事だもの。トールは人質を助けることに成功した、それでいいじゃない」


 ルーミンさんは力なくそう笑いました。そしてルークさんのお墓には花を、トールさんのお墓にはワインを供えました。


「トールはワインが好きだったの。私はもう王都に帰らないといけないから、もしよかったらたまに飲ませてあげて」

「分かりました」


 私たちはその足で街の門へと向かいました。そして馬車で王都へ向かうルーミンさんを見送ったのでした。




「ところでさ、不正スキルって6つ目があったよね?」


 その日の夜、一緒にご飯を食べていたエルーシャがそんな事を言い出しました。


「レイジの[再構築介入]ですね?」

「そうそれ。あれがあったら何か変わってたのかな?」


 私はエルーシャに事の顛末を全部話していました。エルーシャは不正スキルの組み合わせの事を言っているのでしょう。


「再構築介入が残っていたらこの世界は滅亡していたかもしれませんね」

「え? まじで!?」


「恐らくですが、神化プログラムでの再構築介入の役割は、神によって消滅させられなくする事だったのでしょう」

「それって、マリーンがやった神頼みが通じなくなってたって事?」

「そうです」


 私は水を一口飲みのどを潤しました。


「再構築介入の能力は文字通り世界の再構築に介入することです。つまり神の観測を捻じ曲げる力です」

「あー……」


「今回不正スキルは神によって消滅させられましたが、その神の力に介入されれば消滅を逃れられていたかもしれません」

「まじか……」


「まあ、今となってはただの想像ですがね。試したいとも思いませんし、試せません」

「そりゃそうだ」



 いずれ新たな不正スキルが送り込まれるのでしょう。もしくは別の方法でこの世界を攻撃されるのかもしれません。


 ですがそれまでは、こうして親友との食事を楽しんでも良いですよね。私はただのギルド嬢なのですから。


 クルツさんの話では不正スキルが送り込まれる間隔は数十年から数百年。立ち向かうのは私ではないのかもしれません。



 こうしてエルーシャと話せているのはルークさんとトールさんのおかげです。私はその事への感謝を一生忘れないでしょう。


 どうか安らかに眠ってください。


 私の祈りに答えるかのように、夜空では星々が瞬いていたのでした。


これで不正スキル編は終わりです。

全21話でした。しかもずっとバトル。さすがに長かったですね。

バトルメインの話はこれで最後になります。


あと2章で残りの伏線を回収して完結です。

そこまでお楽しみいただければ幸いです。 <(_ _)>


次回予告:

 マリーン、ウォッチ教国でフルーさんと再会。本編最終章!

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