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115. 神級スキル


 “悲しみはすれど、恐れることはない”




 “死者の体は土へと還り世界を巡る。死者の魂は魔力へと還り世界を巡る”




 “そして神により新たな命として再び大地に産み落とされるのだ”




 “神は世界の生まれと共に大いなる眠りに就いたが、今でもこの世界のことを見守っておられる”




 “だから我々は祈るのだ。世界を巡って行った者たちが、再び命となり帰ってくることを願って”




 “私達は生きる。神が目覚めるその時まで”




 “神を讃えよ”

                      ~ウォッチ教聖書より抜粋~






『最適化完了。全不正スキルの取得を確認。これより神化プログラムを起動する』


「今のは……」

「マリーンさんも聞こえましたか?」


 マリーンです。突然脳内に謎の声が流れてきました。驚いた私にクルツさんが声をかけてきます。どうやらクルツさんにも聞こえたようです。



『世界内部に領域確保。全不正スキルの結界への移送完了。神化プログラムの単独制御を確立』


 遠くのアキハを見ると、何かを話していました。話し相手は見えません。ですが、どうやらこの謎の声と話しているようです。


「補助人格の声でしょうか」


 クルツさんが声の正体を推測しました。恐らく正解でしょう。


 なぜ私たちにまで聞こえるのかは分かりませんが、アキハが口を開くのは謎の声が聞こえない時だけです。



『私はこれからこの世界の神を乗っ取る。そのための神化プログラムだ。不正スキルはそのためのモジュールに過ぎない』


『そうだ。この世界の神の防壁を欺き侵入するには、どうしても神化プログラムを分割する必要があった。分割した物が不正スキルであり、お前たちはその運び手という訳だ。そして侵入後に再び集結した事で神化プログラムを組み立てたのだ』


 謎の声の説明が続きます。にわかには理解しがたい内容でしたが、どうやら神化プログラムによって神を乗っ取るつもりのようです。



『私はレプリカ。お前たちをこの世界に送り込んだ異世界の神の、コピー人格だ』


 この世界の神に続き異世界の神ですか。話が壮大すぎて実感が湧きませんでした。


 それにしても、不正スキルが揃うと世界が滅亡するのではなかったのでしょうか。それなのに、神になる?


 分からない事だらけです。



『今までご苦労だった』


 謎の声がそう言うと同時にアキハを黒い球体が包み込みました。スキル結界の内側が真っ暗になったのです。そして同時に私たちを強風が襲いました。


「うわっ!?」

「マリーンさん! こっちへ!」


 風に飛ばされないよう木にしがみついたクルツさんが手を伸ばして来ます。私はその手を掴みました。


 風は結界に向かっていました。それも全方向から。


 結界が空気を吸い込んでいるのです。空気だけではないでしょう。光も吸収しているから黒く見えるのです。そしておそらく他の物もすべて。


 そして結界は徐々に広がっていました。



「どうして結界の範囲が……」


 そんな疑問が浮かび、私はすぐにその原因に思い至りました。


 魔力学習です。吸収によって得た魔力を使ってスキル結界のレベルを上げているのです。結界の範囲はレベルアップによって広がるからです。




 あれ?


 ……!?


 っ!!?!?



 そうです! 魔力学習です! 魔力学習が組み合わさったのです!


 私はとんだ考えなしでした! 不正スキルの組み合わせを考えれば予期できたはずなのです!


 クルツさんが言った世界滅亡! それがどんな形で引き起こされるのかを、なぜ私は疑問に思わなかったのでしょう!


 [万物吸収]、[スキル結界]、[補助人格]、[限界超越]、そして[魔力学習]!


 それらが揃うとどんな効果を発揮するのか! その答えは今あそこに示されています! あの黒い球に!




 万物吸収が魔力をもたらし!


 魔力学習がスキル結界をレベルアップさせ!


 さらに広い範囲を吸収する!


 そして限界超越により!


 スキルレベルに上限は無くなります!


 結界はどこまでも広がるのです!


 吸収出来る物が無くなるまで!


 世界をすべて飲み込むまで!



「これが、世界滅亡……」


 私の口から洩れたその一言は、風の音にかき消されました。


 もう世界は終わりです。どこに逃げようと飲み込まれるのです。私もクルツさんも、エルーシャもフルーさんもそれ以外の全ても!


 結界の広がる速度が加速していました。結界の半径はすでに目測で100mを越えようとしていました。ここもすぐに飲み込まれるでしょう。



 もう無理だと、どうしようもないと、諦めかけたその時でした。



「諦めてはいけません!」


 クルツさんが私にそう言いました。クルツさんは、まだ諦めていませんでした。


「そんなこと言っても、どうにもなりませんよ」


 その私の言葉に、クルツさんは首を横に振ります。


「やはりあなたを連れてきてよかった。マリーンさん、今こそあなたの力が必要です!」

「何を……」

「気付いてください! この世界の真実に! そしてあなたが何者なのかを!」


 以前も、自分が何者なのか知りなさいとクルツさんは私に言いました。それは私のスキルについて調べろという意味でした。


 その日私は初めて自分のスキルを鑑定しました。そして分かったのは自分のスキルが神級スキルだという事。



「世界を救えるのはあなただけです!」


 戸惑う私に向かってクルツさんは話し続けます。


「疑問に思ったことはありませんか? なぜこの世界はここまで曖昧で、そして都合がいいのかと!」


「なぜって、この世界は人間原理で……」


「人間原理は人の目線での解釈です! その上の理論を私はあなたに説明したはずです!」


「鑑定原理、ですか」


「そうです! この世界の唯一にして絶対的な観測者、それが神です! この世界は神によって形作られている!」



 そうしている内にもスキル結界はみるみる大きくなっていました。光をも吸収する黒い壁がすぐそこまで迫っています。


 そして強風。吸収される事で真空が発生したも同然なため、踏ん張りの効かない物は風に乗って吸い込まれていきます。木にしがみ付いていなければ私たちも吸引力に逆らえず飛ばされるでしょう。


 もう木から離れられません。逃げられません。絶体絶命です。



「この世界が滅亡する事がなぜ神が乗っ取られる事に繋がるのか考えてみてください!」

「それは……」


 確かにそうです。どうして……。


 結界がこの世界を飲み込む事に何の意味があるのでしょう。後には何も残りません。


 ……本当に?


 いや、残る物もあります。スキル結界そのものです。そして結界に組み込まれている他の不正スキルも。


 そうでした。神を乗っ取るのは補助人格。ならば補助人格は神に対して何らかの影響を与えられるようになる必要があります。


 でもどうやって?


 乗っ取る……乗っ取る? 神の座を奪うではなく神を乗っ取る?


 体を乗っ取る? 意志を乗っ取る? どちらにしろ精神を乗っ取るという事です。


 この世界が消滅したら神の精神に影響を与えられるようになる?


 それとも、





 この世界が消滅する事自体が神の精神に影響を与える?





 その時、私の脳裏にある途方もない仮説が浮かびました。この世界の在り方そのものに対するある仮定が。この世界の認識を根底から覆すような仮説が。


 あり得ないと、初めに私は思いました。


 ですがその次に、その世界観を私は既に体験していた事を思い出しました。


 ほら、以前依頼を受けてその世界に行ったじゃありませんか。その世界を大規模に創造出来ないとどうして言えるでしょうか。


 だってそれを行うのは神なのですから。




 そうか……そういう事だったのですか。



 私は得心しました。


 鑑定原理を真に理解しました。


 この世界の正体に気づきました。


 そして自分が何者であるのかも。




「マリーンさん!」


 クルツさんが叫びます。


 すぐ目の前まで結界が迫っていました。この世界を蝕みながら増殖しています。まるで蝕腫病のよう。



 ですが、まだ半径はたった300mほど。この世界からすればちっぽけな存在です。



 私は自分のスキルを発動させました。命無き物に命を与えるのが私のスキルの能力。それは対象に意識を与えるという事でもあります。



 私のスキルによって“それ”の意識が覚醒します。普段は無意識な“それ”は、この世界をやっと意識しました。



 “それ”は全能の力を手にしていました。この世界を思い通りにすることができます。そして世界を蝕む病原菌に気付きました。



 世界が歪みました。何重にも重なって見え、ぼやけ、そして書き直されていきます。



『なっ、なんだこれは!? 私が消えていく!!』



 補助人格の声が聞こえました。膨張していた結界が時間を巻き戻すように縮んでいきます。



『やめろ! やめてくれ!』



 補助人格……レプリカというのでしたっけ。レプリカの悲痛な叫びが響きました。ですが泣いても叫んでも無駄です。この世界の絶対的な観測者である“それ”に敵として認識されたのですから。



 レプリカは結界と共に存在を失っていき、そしてこの世界から消滅したのでした。





 普段は無意識な“それ”の代わりにこの世界を意識を持って監視する。それが神級スキルを持つ者の役割。




 聖書にも書いてあります。“それ”は大いなる眠りに就いたと。そしてこの世界を見ていると。




 この世界は、神が見る夢です。


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