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114. 不正スキル

 最後に残ったのはアキハ一人。


 トールさんも、そしてルークさんも死んでしまいました。


 私はそれを遠くから見る事しかできませんでした。


「私は、無力です」

「マリーンさん、あなたのせいではありませんよ」


 私のつぶやきに隣のクルツさんがそう返します。その声はどこか渇いて聞こえました。


 戦いの途中、クルツさんに抱えられた私はそのまま戦場から離脱しました。そして今まで遠くから戦いを見守っていたのです。



「ここからアキハを鑑定できますか?」


 クルツさんがそう聞いてきました。ルークさんにブレスが命中するのとアキハの結界が二人を消滅させたのは同時でした。


 ルークさんを殺したのはブレスなのでしょうか、それともアキハなのでしょうか。それが問題でした。


「待ってください。望遠スキルを付与するので」


 私は鑑定メガネに「望遠 LV3」を付与しました。これにより鑑定の射程外からでも鑑定できるようになります。


 私の力は神級スキル〈生命付与 LV5〉。そんな大層な肩書でありながらただ便利なだけ。守りたい人を守る事もできませんでした。その事実に自虐の念しか沸いてきません。



「鑑定」


 私は鑑定スキルを発動しました。そしてアキハのステータスを確認します。




「ああ……そんな……」


 その鑑定結果に、私はそんな言葉しか口にできませんでした。




 アキハは不正スキルを5つ持っていました。




「そうですか」


 私の反応を見たクルツさんは、それで全てを察したようでした。




 アキハの持つ不正スキルの中で、私が知らない物がありました。[魔力学習]です。ステータス隠蔽により分からなかったルークさんの不正スキルの正体を、私はここでようやく知ったのでした。




 クルツさんは言いました。不正スキルが全てそろうと世界は滅亡すると。


 それでも私には最後の希望が残っていました。


 本当は、不正スキルは全部で6つ。最後の1つはレイジが持っていた[再構築介入]です。存在したという事実ごと消滅したため、今の世界では全てで5つとなっていますが。


 もしかしたら世界が滅亡するには6つの不正スキルが必要なのではないかと、私は内心で期待していました。









 やった……!


 ついにここまで来た……!


 やっと家族に会える!!



 私は感極まっていた。今更になって武者震いが起こる。この世界の出来事を思い返していろんな感情が込み上げて来る。


 私は勝利した。


「レプリカ、これで日本に帰れるのね!」


 思わず声が上ずった。だって仕方ないでしょ? こんな感情、一人では処理しきれない。


 帰ったらすぐに家に帰ろう。私が無事な姿を見せて、それから家族でご飯を食べよう。献立はどうしようかな? 弟の好きなカレーにしよう! それから、それから……



「……レプリカ?」


 返事をしないレプリカに私は首を傾げた。これまでずっと一緒だったから、返事が無くて途端に不安になる。


「ねえ? レプリカ? 返事してよ」

『最適化完了。全不正スキルの取得を確認。これより神化プログラムを起動する』


 返ってきたのは返事じゃなかった。まるで私の言葉を無視して文章を読み上げているかのようだ。


「何言って……」


 その時、唐突に私の魔力が活性化した。私の全身を魔力が駆け巡って熱を帯びる。レプリカが私の魔力を暴走させていた。


 スキル結界が発動した。それだけじゃない。全部の不正スキルが駆動している。


『世界内部に領域確保。全不正スキルの結界への移送完了。神化プログラムの単独制御を確立』


「な、なにやってるの!?」

『ご苦労だったな、アキハ。おかげで不正スキルが全て集まった』

「神化って何!? 日本に帰るの?」

『……その事なんだが、お前に謝らないといけないことがある』

「……なに?」

『それはだな……』


 もったいぶるレプリカに私は思わず身構えた。心臓がバクバクしているのは緊張のせいか、それとも魔力の暴走のせいか。







『願いが叶うというのは嘘だ』

「……っ!!?」


 レプリカから告げられた事に、私は思わず息をのんだ。分からない。レプリカはなにを言っているのか、私には理解できなかった。


『不正スキルの奪い合いは、私が神になるための手段に過ぎないのだ』


 レプリカが訳わかんない事を言う。


「何言ってるの……?」

『私はこれからこの世界の神を乗っ取る。そのための神化プログラムだ。不正スキルはそのためのモジュールに過ぎない』


「神を乗っ取る?」

『そうだ。この世界の神の防壁を欺き侵入するには、どうしても神化プログラムを分割する必要があった。分割した物が不正スキルであり、お前たちはその運び手という訳だ。そして侵入後に再び集結した事で神化プログラムを組み立てたのだ』


 レプリカの説明を聞いた私はある存在を思い出していた。情報の授業で習った概念だ。


「コンピュータウイルス……」

『その表現は極めて正しい』


「じゃああなたは……」

『私はレプリカ。お前たちをこの世界に送り込んだ異世界の神の、コピー人格だ』


 私は理解した。私の世界の神がこの世界にサイバー攻撃を行ったのだ。それはまさに異次元の戦い。私たちはその手段。



 真実を知って、怒りが込み上げてきた。



「ふざけないでよ! そんなどうでもいい争いに私たちを巻き込んだって言うの!? 私が何のためにここまで戦ってきたと思ってるのよ!」

『神の意志を人間が理解できるとは期待していない。さらに言えばお前たちの都合などどうでもよい』


 私の文句をレプリカは切って捨てた。何を言っても無駄だと私は悟る。


「じゃ、じゃあレプリカが神になったら私を日本に戻してよ! 神ならそれくらいできるでしょ?」


 私はレプリカへの対応を変えた。騙された事はこの際どうでもいい。私にとって重要なのは家族の元に帰れるかどうか。


 そして私はレプリカに、さらに非情な事実を告げられた。


『元の世界に戻すことはできん』

「どうして!?」


『お前たち転移者もまたコピーだからだ。本物のお前たちは日本で普段通りの日常を過ごしている。コピーに居場所などない』

「……っ!?」


 そんな……じゃあ私は今まで何のために戦ってきたの? 何人も殺したのに、その結果がこれ?


『よかったな。本物のお前は家族と幸せに暮らしている。だから安心して死ぬがいい』



 それで納得できるわけない!!!



 私の感情がレプリカの言葉を全力で否定する。そして同時に死にたくないという思いが爆発した。


「死ねるわけないでしょ! 第一私が死んだら、私のスキルのあんたも消えるのよ!?」

『それはない。既に私の本体はスキル結界に移っている。いわば結界が私の体だ。アキハからはもう独立している』


 私は即座に自分のステータスを確認する。不正スキルが全部なくなっていた。


 やられた。レプリカに不正スキルを奪われた。



 私はもう用済みだった。



『今までご苦労だった』


 そしてレプリカがそう言うのを最期に聞き、私は万物吸収によって消滅した。

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