表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/138

11. 灰になれ

「待たせたな」


 増援に来たのは奇妙なデザインのフルプレートアーマーの人物でした。鎧のあちこちに逆立ったうろこのような鉄板が生えています。顔はヘルムに隠れていてわかりませんが、声から男性と分かります。


「その鎧! あんた『放火魔ジーン』か!?」


 近くに居たヨシムさんが声を上げました。ジーンという名前なら書類で見た覚えがあります。採取依頼では採取対象の燃えカスを持ち帰り、護衛依頼では護衛対象ごと敵を燃やし、討伐依頼では魔物の丸焼きを持ち帰るギルドの問題児です。


「後は任せてくれ」


 ジーンさんはそう言うとトレントに向かって走っていきました。トレントの葉っぱ攻撃がジーンさんに集中しますが、プレートアーマーのおかげで平気そうです。


 ただ、気になる点が一つあります。ジーンさんは鎧は装備していますが、武器を装備していないのです。そしてツタに拘束されるジーンさん。


 するとジーンさんの鎧が火を噴きました。ツタが燃えてジーンさんが解放されます。


「奴は全身に炎をまとうことができるんだ。火属性の俺よりも火力がある」


 頼んでもいないのにヨシムさんが解説を始めました。その間にもジーンさんとトレントの戦いはヒートアップしていきます。やがてトレントが根っこを動かして歩きだし、ジーンさんは火を噴きながら飛び回りはじめました。シュールです。


「体から出した炎を鎧の穴から噴射することで移動と攻撃をしてるんだ。やべえよな」


 トレントが燃えていきます。ジーンさんの攻撃がトレントの再生を上回っているようです。離れて見ている私たちの場所まで熱気が伝わってきます。私達はトレントの躍り焼きショーの観客と化していました。


「俺もいつかあんな高火力の魔法使いになるんだ」


 そうですか、頑張ってください。



 そうこうしているうちにトレントが倒れました。それでもジーンさんは火炎放射をやめず、完全に灰にしてしまいました。戦闘力だけなら確実にAランク以上の実力です。こんな人材がいたとは。


 戻ってきたジーンさんの鎧は赤熱していました。鎧が陽炎でゆらめいて見えます。鎧から生えている鉄板は冷却用だったんですね。しかし、熱くないのでしょうか。



 こうしてトレントは討伐されましたが、発生原因がわかりません。元が植物であったことから、この場所で瘴気によって魔物化したはずです。しかし、トレントが発生するほど濃い瘴気はありませんでした。


「クロークロウの発生原因もわかっていないのに」


 このままでは徹夜サビ残も夢ではありません。何か手掛かりはないでしょうか。


「ん、あれは……」


 私はトレントの灰に混じって黒い物体があるのを見つけ、拾ってみました。


「トレントの魔石……でしょうか」


 しかしその魔石は魔力が抜けてしまって色がありませんでした。通常なら魔物からとれた魔石には魔力が含まれているはずです。


「生まれたばかりだったからでしょうか」


 その後、結局何もわからず日も暮れたため、私は現場を後にしたのでした。



 ギルドに帰ると冒険者たちが飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしていました。トレント討伐の報酬で宴を始めたようです。


「遅かったじゃん。先に始めてるよ」


 声の先を見るとエルーシャが酒を片手にテーブルに座っていました。すでに酔っているようです。


「エルーシャ、溜まっていた仕事はどうしたんですか」

「仕事が終わるまで食事抜きにしろっての? 餓死するね!」

「お酒なんか飲んだら仕事できないでしょうに」

「皆飲んでるのに私だけ我慢できないじゃん。明日からがんばるための英気を養ってるのよ。座りなって。マリーンの分も注文しておいたから」

「では食事だけ」

「だめだめ! ちゃんとお酒飲まないと! 仕事ばっかしてたらストレスが溜まっちゃうよ!」

「この後も仕事があるので」

「私の酒が飲めないっての!?」

「仕事が……」

「大将! 酒追加で!」

「仕……」



 気が付くと、私はテーブルで寝ていたようです。右手には酒の入った杯、向かいには突っ伏しているエルーシャ。周囲は冒険者が死屍累々。頭がガンガンします。朝日が眩しいです。


「やってしまった」


 私は酔いつぶれていたようでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ