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108. ルーク

異世界人および不正スキルまとめ

・レイジ [再構築介入](自爆により、存在したという事実ごと消滅)

・??? (アキハに殺され死亡)

・トール [限界超越]

・アキハ [補助人格][スキル結界]

・テツジ [万物吸収]

・ルーク [????]


 どうも、マリーンです。いきなりですが死にそうです。私とクルツさんは開拓基地に向かって全力疾走していました。


 なぜかと言うと、私たちの後ろには大量の魔物。それが怒涛の勢いで迫って来ていました。


「GAAAAAAA!」

「ぎゃあああああ!」


 振り返れば魔物・魔物・魔物。以前軍隊アリに追いかけられた時の比ではありませんでした。追い付かれれば死ぬ!


 そうして死のレースをしていた私たちはやがて森を抜けました。開拓によって切り開かれた範囲に入ったのです。


 そこには4人の人影が見えました。ルークさんとトールさんです。後の2人は分かりません。


 ですが、ルークさん達の無事な姿に安心していられる状況ではありませんでした。魔物の事もそうですが、4人は殺し合いをしていたのです。


「トール、アキハから離れるんだ! 結界に入っちゃうよ!」

「逃げんじゃないわよ!」

「おらぁ! 待ちやがれ!」


 逃げるトールさんとそれを追う見知らぬ2人。ルークさんはトールさんをかばって戦っています。


 鑑定メガネに、知らない2人のステータスが表示されました。名前はアキハにテツジ、両名とも不正スキルを持っています。私はスキル鑑定でその効果を見ました。


 クルツさんが危惧していた異世界人同士の殺し合いが、現実に行われていました。


「ルークさん! 大丈夫ですか!?」


 私は4人の元へ走りながらルークさんに声をかけました。ルークさんの胸には穴が開いていました。


 心配したのも束の間、魔物たちが私を追い抜いて4人に殺到しました。まるで異世界人にしか興味がないかのようです。


「あ?」

「何なの!?」


 テツジとアキハが魔物の群れに呑まれました。壮絶な音が群れから聞こえてきます。ルークさんはとっさにトールさんを抱えて跳ぶことで群れから逃れました。


「どうしてここに?」


 着地したルークさんたちに駆け寄るとルークさんが聞いてきました。顔色が悪いです。胸の傷は深そうでした。


「なっ! 何すんだ!?」


 トールさんが叫びました。見ると、クルツさんがトールさんを押し倒していました。クルツさんの手にはナイフ。トールさんはクルツさんの手を押さえて刺されないように抵抗していました。


「マリーンさん! 殺してください!」


 クルツさんが叫びました。


「彼らは異世界人です! 消耗している今の内に! 私たちの手で殺すのです!」

「待ってください! ルークさん達は悪人ではありません! 殺さなくても!」

「それでも殺してください!」


「させない!」


 火魔法が飛んできてクルツさんを吹っ飛ばしました。アキハが放ったようです。スキル結界を使わない事からここはスキル結界の範囲外のようです。



「オラァ! 主役を置いて盛り上がんじゃねえ!」


 テツジが魔物の群れを物理的に貫通して突っ込んできました。魔物に人の形の穴が開いています。


 ルークさんとテツジが、クルツさんとアキハがそれぞれ戦い始めました。


「私が時間を稼ぎます! マリーンさんは今のうちにトールを殺してください!」


 クルツさんが再度叫びます。私はトールさんを見ました。


「っ!!」


 トールさんと目が合います。膝をついていました。杖は折れ、ローブはボロボロ。それにどうやら魔力切れに陥っているようです。




 今のトールさんなら、私でも殺せます。





『殺る? 殺っちゃう?』


 鉈がそう聞いてきました。



「マリーンさん駄目だ! トールは殺し合いを望んでいた訳じゃないんだ! 話せば分かり合える!」


 ルークさんがそう言いました。



「もう持ちません! 殺してください!」


 クルツさんはそう言いました。



「私は……」


 私は躊躇しました。戸惑い、そして悩みます。鉈を握る手からは汗が吹き出し、呼吸は荒くなります。



「あなたの手で世界を救うのです! ぐあっ!」


 クルツさんが魔法を食らい地に伏しました。もう迷っている時間はありません。私は鉈を振り上げました。そして世界を救うために、トールさんに鉈を振り下ろし……。



 ……。



 …………。



 いやもうなんか、違います。そうじゃない。



 異世界だの世界滅亡だの、話が大きすぎです。付いていけません。



 私は一介のギルド嬢です。



 普通に仕事をし、普通に生活し、普通に恋をして、普通に生きていく、



 そんなありきたりな人生を望んでいるだけの、一人の人間です。



 私は正義の使者でも何でもありません。



 私は、ただの冒険者ギルドヨハン支部の職員です。



 だから……





 私はアキハにエアーキャノンを放ちました。同時に魔力ポーションを取り出します。


「トールさん! これで回復してください! あなたの力が必要です!」

「……! ああっ! 任せろ!」



 私はギルド職員。


 同じ冒険者ギルドの一員である、ルークさんとトールさんの仲間です。








 この世界に来た頃の僕は、日本人同士で殺し合うなんて事にはならないだろうと思っていた。思っていたけど、念のため髪を蒼く染めてルークと名乗ることにした。


 本当に警戒するなら誰とも関わらず地味にひっそりと暮らすべきだったんだろうけど、僕はそうはしなかった。


 人は一人では生きてはいけない。だから積極的に他人と関わるし、助け合いもする。


 行方不明となった冒険者を捜索して救助したり。

 街に襲い掛かってきた魔物の群れを壊滅させたり。

 娘の病気を治すために希少な薬草が必要だという依頼を受けて秘境まで出向いたり。


 僕は誰もやりたがらない依頼をあえて受けることにしていた。依頼があるという事は、誰か困っている人が居てその人には解決できないという事だから。


 僕は[魔力学習]というチートを持っていた。この力を誰かのために使えるなら、これが僕の努力によって得た力で無かろうと、遠慮なく使っても構わないはずだ。


 むしろ、持っているからこそ皆のために使うべきだ。僕はそう思っている。


 そうしている内に、僕はSランク冒険者になっていた。



 僕の人生は順調に行っている。そう思っていた。



 でも、今僕は他の日本人と戦っている。僕が最も恐れた事態だった。


 トールに杖を向けられて悲しかった。テツジとアキハが積極的に僕たちを殺そうとしているのを見て、もっと悲しくなった。


 僕は彼らを助けたい。殺し合わずに済む方法を見つけたい。


 この世界でたった4人しか居ない、同じ日本人なんだから。




 トールはまだ話し合いの余地がある。でもテツジとアキハは僕の言葉を聞いてはくれない。今も僕の命を狙って攻撃をしてきている。


 マリーンさんはどうやら僕とトールの味方をしてくれるらしい。一緒に居た神父の人と決別して、今はアキハと戦いながらトールを守ってくれている。


 そうだ。優先順位を間違えちゃいけない。僕に味方してくれる人がいる。ならその人を一番に考えるべきだ。僕一人で助けられる人の数なんてたかが知れている。


 そのためにもまずは、マリーンさんを守らないといけない。マリーンさんが守っているトールを守らないといけない。そして、マリーンさんに守られている僕自身も守らないといけない。




 だから僕は、テツジとアキハを殺す決意をした。





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 [魔力学習]


 不正スキルの一つ。

 魔力を消費して任意のスキルをレベルアップさせる事ができる。

 また他の不正スキル所持者を殺害することで不正スキルを奪えるようになる。


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