107. 異世界人、集結
ルーク達の元に突如として現れたのは異世界人の一人、テツジだった。トールの因縁の相手である。
テツジは黒目黒髪という異世界人の特徴を持つと同時に半裸だった。正確には腰に布を巻いただけの恰好である。
テツジがルークに向けて腕を振るった。武器は無し。ルークはその手を掴みとろうとする。
そのルークの目に、自分の腕が消滅する未来が映った。ルークは咄嗟に受けるのをやめて避ける。
「そいつに触れるな! 消滅するぞ!」
トールが叫んだ。テツジはそんなトールを見据える。
「じゃあまずはお前からだ!」
テツジがトールに手を伸ばした。疲弊したトールは動きが鈍り逃げるのが遅れる。
ルークがエアーキャノンを放った。狙ったのはテツジではなくトール。吹き飛ばされたトールはテツジから距離を取ることができた。
「ルーク!? なんで!」
トールはルークにそう聞いた。攻撃されたことを責めている訳ではない。ルークに助けられた事にトールは気付いていた。
「君との諍いは後だ。まずはこの状況を何とかしよう」
「……しゃあねえ!」
ルークとトールが再び手を組んだ。テツジは馬鹿にした顔で二人を見る。
「アホらしっ。こっちの世界に来てまで仲良しごっこかよ」
テツジは油断していた。隙だらけだが、そうできるだけの理由がテツジにはあった。
「ルーク。テツジのチートは[万物吸収]だ! どんな物も触れられたら一瞬で吸収されるぞ!」
「うん、見えてるよ」
ルークは鑑定結果を見ながらそう答えた。そこにはトールの不正スキルもしっかり映っている。そしてスキル鑑定を行ったルークは不正スキルの効果を知る。
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[万物吸収]
不正スキルの一つ。
触れたものを分解し自分の魔力として吸収できる。レベルが上がるほど魔力への変換効率が高まる。
また他の不正スキル所持者を殺害することで不正スキルを奪えるようになる。
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「なるほど、面倒なスキルだね」
ルークはそう言いつつも構えた。応戦する気である。
「面倒? 最強の間違いだろ。お前らに勝ち目があるとでも言いたいのか?」
「ルーク! テツジの言う通りだ!」
戦意を見せるルークにトールが慌てた。
「こいつが吸収できるのは物質だけじゃねえ! 魔法もだ! 全部吸っちまって攻撃が効かないんだ! 逃げるしかない!」
「逃がすと思ってんのか?」
テツジが手を広げわずかに腰を落とした。そのまま突進すればそれだけで攻防一体の必殺技となる。
「逃げないよ」
「なっ!?」
「へー、面白いじゃねえか」
三者三様。テツジは笑みを見せ、トールは顔を歪め、ルークは無表情。ただ一つ揃っていたのは、全員が既に身構えていた事だ。
来る!!!
三人は互いに相手の動く機を捉えた。そして同時に動き出す。
だが戦いは三人の予想外のスタートを切ることとなる。
「!!?」
ルークが突如横手の森を凝視した。そしてトールを突き飛ばす。
そのルークを、光の槍が貫いた。
時間は少し巻き戻り、アルプが倒された直後。
森に身をひそめ、トールがルークを攻撃しているのを観察している者が居た。
「うわー、やっぱさっきのキノコ雲は限界超越での攻撃? 放射能とか大丈夫?」
『キノコ雲イコール核という訳ではない。大丈夫だ』
その正体は異世界人のアキハだった。アキハはレプリカの返答にほっと息を吐く。
「トールに襲われてるのは異世界人?」
『ああ、不正スキルの反応を検知した。[魔力学習]を所持しているな』
「そう。ラッキーね」
思いがけず見つかった不正スキルにアキハは喜んだ。あの二人の不正スキルを手に入れれば、残りは一つだけだ。
「限界超越は私と相性が悪いし、出来ればこのまま削りあってほしいけど」
アキハはトールに目をやる。ルークを障壁で囲い止めを刺すのが見えた。
「終わったね。というかトールに魔力学習が渡って大丈夫?」
『問題ない。魔力学習は魔力が無ければ何の意味も成さん。トールはもう魔力切れ寸前だ。限界超越の火力もほとんど発揮できないだろう』
「今なら漁夫の利を取れるって事ね」
アキハは姿勢を正し魔法を放つ体勢を取った。
『待て。まだ終わってないようだ』
レプリカの言葉に、アキハは怪訝そうにトールを見る。そこには死んだと思われたルークも居た。
「え? 生きてる!?」
『そのようだ。不思議な事に全快している。これは完全に逆転したな』
ルークは逆転したにもかかわらず、未だトールに止めを刺していなかった。アキハはレプリカに尋ねる。
「トールじゃ無い方、私で勝てる?」
『……勝率は今の所7割だな。限界超越を取られたら3割だ。逆に限界超越を取れれば9割以上で勝てる』
レプリカの予測にアキハはうなずいた。そしてトールに奇襲をかけることを決心する。
『む!?』
「なに? どうかしたの?」
レプリカが驚いた声を出した。アキハはどうしたのかと質問する。
『[万物吸収]の反応がある! アキハ、トールたちを見ろ!』
レプリカに言われてアキハはトールたちに目をやる。そこには異世界人の最後の一人、テツジがいた。
『万物吸収と限界超越の組み合わせは厄介だぞ』
「レプリカ、光魔法を準備して! トールを一撃で殺すわ!」
『心得た。制御はこちらに任せろ』
放つのは光の槍。光速のこの攻撃は不意打ちにはピッタリである。敵が気付いた時にはもう当たっているのだ。
トールはスキル結界の範囲外。狙撃の制御は全てレプリカがやる。さながらコンピューターのように正確で高速な演算ができるのがレプリカの強みであった。
レプリカはアキハの魔力を掌握し瞬時に魔法を展開した。そして間髪おかず発射。
トールに当たるはずのその攻撃はルークに当たっていた。
「えっ!?」
アキハはその結果に目を疑った。
「外したの!?」
『違う。撃つ直前に察知された。おそらく予知系のスキルだ。それよりもあれでは万物吸収に有利すぎるぞ』
アキハの目にルークへと襲い掛かるテツジが映った。このままではテツジが二人を殺してしまうのは時間の問題だった。
「しょうがない! 私も突っ込むわ! このまま乱戦に持ち込むわよ!」
アキハは戦場へと走り出した。
こうして、今いる異世界人全員が同じ戦場に集まったのだった。




