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105. トール

 マリーンです。私とエルーシャはヨハンに向かって走っていました。現在はヨハンと開拓基地の中間辺りです。ここまで来るともう戦闘音は聞こえなくなり、ルークさん達がどうなっているのかは伺い知ることができません。二人とも無事だといいのですが。


 そんなことを考えていると、道端に倒れている人が居るのが見えました。私たちは不審に思い近づきます。


 倒れていたのはクルツさんとドーウさん、パルムさんでした。まさかの知り合いに私は動揺します。


「ちょ、マリーン!? この人たち生きてるの?」


 エルーシャにせかされた私は三人の脈を確認しました。


「……大丈夫。脈はあります」


 私は回復ポーションを取り出すと三人に飲ませました。しかし、一体ここで何があったのでしょう。


「誰か……いるのですか?」


 クルツさんが目を覚ましました。私はクルツさんを抱え起こします。


「クルツさん、一体こんな所でどうしたのですか」

「マリーンさん!? あなたこそなぜここに?」

「魔人から人質を救出してきた所です」


 私がそう言うとクルツさんが目を見開きました。


「魔人はどうなったのですか?」

「分かりません。ルークさんとトールさんが、Sランク冒険者の二人が今戦っているはずです」

「……ここに来るまでに女の人に会いませんでしたか?」

「いえ。なぜですか」

「私たち三人はその人物を追っていて、敗北しました」


 クルツさんが僅かにうなだれます。


「とにかく一緒にヨハンに行きましょう。ここは危険です」


 私はそう提案しました。魔人が追ってくるかもしれませんし、そうでなくても街の外は魔物が出ます。


「いえ、そればできません」


 しかしクルツさんは首を横に振りました。


「私たちが追っていた人物をトールの元に行かせるわけには……、!?」


 クルツさんが不意に言葉を止め考え込みました。


「マリーンさん! 魔人と戦っているのは二人だと言いましたよね! 魔人に呼び出されたのはトールだけではないのですか!?」

「ええ、ルークさんも一緒に呼び出されましたけど」


 その時、基地の方向から轟音が聞こえてきました。そして地面が大きくゆれます。


 私は基地の方向を見ました。遠くにキノコのような形の雲が見えました。空高く立ち昇っていきます。


 もしかして決着が付いたのでしょうか。私がそう思っていると、クルツさんがとんでもない事を言い出しました。


「マリーンさん! 私と一緒に開拓基地に来てください!」


 クルツさんの表情は真剣でした。


「あなたの力が必要になるかもしれません!」








 俺の名前は須野山徹。この世界の言い方で言えばトール・スノヤマという。二年前、俺は気が付くと日本からこの世界に転移していた。


 めっちゃ混乱したぜ? 文明は中世レベルだし、モンスターがいるし、ステータスにスキルとまるでゲームの中にでも迷い込んじまったのかと自分の正気を疑った位だ。


 幸い俺は似たような世界観の小説を読んだことがあってすぐにこの世界に溶け込むことができた。なにより、いわゆる異世界チートを持っていたおかげで冒険者として食うに困らない位に成り上がることができた。


 俺のチートは[限界超越]。スキルレベルは今で8だ。


 このスキルは強力だ。ただのウォーターボールでもちょっとしたプール位の水量が出せる。相応にMPは消費するけどな。


 どうやら俺は魔法使いとしての適性が高いらしい。この世界に来てからモンスターを狩り続けた俺は、取得した魔法スキルの多くを上限の10レベル以上に育てていた。一番高いレベルなのは『流水魔法 LV26』だな。


 俺は浮かれていたと思う。他人よりもレベルが高い事に安心し、チートを持っている事が自分が特別であることの証明だと思っていた。



 俺はSランク冒険者に認定された。そして有名になった。



 だが上には上がいる。ある日俺はそれを思い知った。思い知ってなかったら、今日俺はアルプに勝てなかったと思う。


 俺は自分が引き起こした天変地異の結果を見た。アルプを倒すために放った全力の魔法は俺の目の前にあった森を焼け野原に変えていた。見晴らしがよくなって地平線が見えるぜ。アハハ……。


 ……。



 そう言えばルークはどうなった? 転移スキルで脱出する手はずだったんだが。


 周囲を見回したら、ルークが後ろに転がっているのに気付いた。脱出、間に合ったのか。


「おい、生きてるか?」


 俺はルークに駆け寄った。たしか腹を貫かれていたはずだ。このままじゃアルプにくらった傷で死んじまう。それは困る。


「なんとか……生きてるよ」


 返事が返ってきた。弱々しい。だが生きていてよかった。





 俺はルークに杖を向けた。





 そして、





 とどめを差すためにウォーターボールを放った。





「な!?」


 ルークはそれをギリギリで飛びのいて躱した。まだそんなに動けたのか。


「何の、つもりだい?」


 ルークが息絶え絶えに詰問してきた。そうとう辛そうだ。だが俺も容赦しない事情がある。


「俺が何者かはとっくに気付いているはずだ。お前は俺に用はないみたいだが、俺にはあるんだよ。その青髪は染めたのか? それとも幻覚でそう見せてるのか?」


 俺の言葉にルークが口を結んだ。いや、ルークってのも偽名か。まあそれはいい。


「なあルーク、魔法剣士ってなんだ? この世界にそんな概念ないぞ? お前日本人だろ」


 ルークはいい奴だ。出会ってまだ僅かだが確信を持ってそう言える。日本人丸出しの俺を前にして殺意を見せなかったし必要以上に関わろうともしてこなかった。それは俺と殺し合いにならないようにするためだ。


 残念だ。心からそう思う。それでも俺はルークに杖を向けた。


「どうして不正スキルを集めるんだい?」


 ルークがそう聞いて来た。確定だ。やっぱり俺の勘違いじゃなかった。


 だから俺は、ルークに俺の都合を押し付ける一言を口にする。


「俺が、死なない為にだよ」




 俺がこの世界で平穏に暮らすために、どうしても他の不正スキルを集める必要があった。不正スキルは全部で5つ。だから、単純計算で過半数の3つ以上を集めないといけない。



 そうじゃないと、奴に負けないだけの強さが無いと、殺されて奪われる。



 仕方ないだろう? 俺だって最初は他の転移者を殺すつもりは無かった。不正スキル一つで十分生きていけるからだ。



 だが、他の転移者が襲ってくるとなれば話は別だ。



 俺は襲われた。Sランク冒険者として有名になった後の事だ。俺は逃げた。



 手も足も出なかった。同じ不正スキルでもここまで差があるのかと、バランス調整のいい加減さを恨んだ。



 俺は死にたくない。誰だってそうだろ?



 だから、不正スキルに対抗するために不正スキルを集めないといけない。



 結局のところ、誰か一人でも他の転移者を襲う奴が居れば殺し合いになっちまうんだ。



 なんで俺たちはこの世界に転移してきたんだろうな。



 一つだけ、分かっている事もある。不正スキルをすべて集めればどんな願いも叶うという事だ。



 この世界に来た時に、その知識だけが頭に流れ込んできた。



 この世界には神様がいるらしい。なあ神様。あんたが俺たちを呼んだのか?



 そう思っても、俺の疑問に答える者はいなかった。



 ああ、全く。



 俺は最低だ。

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