104. スキルの限界とその先
「ランスファランクス!」
ルークが魔法の槍を放った。その数12本。ファイアーランスにウォーターランス、ウインドランス、ストーンランス、様々な属性魔法の同時発動である。アルプはそれを難なく避け距離を詰めてくる。
「む、追尾型か」
アルプが後ろに振り向いた。外れたはずのランスが軌道を変え背後から飛来していた。さらに正面からはルークが再びランスファランクスを放つ。
「ランスファランクス!」
「おっと、囲まれてしまったのう」
アルプはそのまま前方に進んだ。前からの槍を2本叩き落し逃げ道を作ると包囲を脱出する。
「ソニックブレード!」
間髪おかずルークが斬りかかった。音速の剣がアルプの首に迫る。アルプはそれをしゃがんで避けた。ルークはそこに蹴りを放とうとして、とっさに飛び退いた。
「ほう、見えぬはずのわしの反撃を察知したか。いや、予知かのう?」
アルプが追撃しながらそう言った。
「……」
「当たりか。お主、未来が見えとるな?」
アルプの指摘にルークはつばを飲み込む。スキル【未来視】を持っていることを言い当てられた事に動揺を見せてしまった。
その瞬間、ルークの脳内にアラートが鳴り響く。同時に手刀で首を飛ばされる未来が見えた。ルークはそれを避けようとして、触れられていないにも関わらず地面に叩き付けられた。
「ほっほっほ。【未来視 LV10】じゃの。それに『危険察知 LV10』と『回避 LV10』も持っとるな」
アルプが倒れたルークの首を狙う。ルークは倒れたままアルプに蹴りを放った。だがその足に打撃を受け骨が折れる。ルークは激痛を無視して飛びのき距離を取った。
「その足では大した速度は出せんぞい」
アルプはいつの間にかルークの背後に回り込んでいた。それに気づいたルークは振り返りざまに剣を振るう。だがその剣はアルプに届く前に止まってしまった。
「これがお主らの弱点じゃ。技能スキルの補助に頼っておるせいで、そのスキルの不具合の影響をもろに受ける」
剣を止めたのはルークの持つ回避スキルだった。剣を振ろうとする剣豪スキルとアルプの攻撃を避けようとする回避スキルが対立し、ルークの体の支配権を奪い合っていた。
通常ならこのようなバグは起こらない。だがアルプはスキルの仕組みの熟知と熟練の技術により、狙ってスキルにバグを引き起こす事ができた。先ほどルークを地面に叩き付けたのも、回避スキルの誤作動を利用したものである。
「それにスキルはレベル10で打ち止めじゃ。それ以上の技量を得ることはできん。それがスキルに頼る者の限界じゃ」
アルプが抜き手を放った。ルークはスキル『頑丈 LV10』で耐久値を上げそれに対抗する。
ルークの鳩尾に抜き手が突き刺さった。ルークの耐久値を無視し内臓を蹂躙する。
「がふっ!」
ルークは剣を落とした。
「耐久力をあげても無駄じゃ。ステータス値は常に発揮されるわけではなく必要な時のみ発揮される。ならば攻撃を攻撃ではないとステータスに誤認させれば良い」
アルプがルークの肝臓を握りつぶした。ルークの口から血が溢れ出す。
「こやつはもう終わりじゃ。トールといったかの、次はお主じゃ」
アルプがトールに目を向けた。そしてトールが溜めている魔力が尋常ではない事に気づく。
「くそっ、気づかれた!」
「ほう、その魔力で攻撃されればわしでも危ないかのう」
アルプはそう言いつつも動きを見せなかった。トールが魔力を溜め始めて40秒、魔力を充分に溜め終わるのには後20秒ほど必要だとアルプは見抜いた。それはトール一人を殺すのに十分な時間である。
不完全だがこのまま撃つか、そんな考えがトールによぎる。だがトールはそれが出来なかった。アルプに気付かれた今、足止めをするルークが居なければ、撃つまでの一瞬の隙に避けられるか阻止されるだろう。
「このまま溜めろトール!」
「ぬ!?」
ルークが叫んだ。腹を貫くアルプの右手を腹筋の締め付けで封じ、右手でアルプの左手を掴む。そして空いている左手で拳打を放った。
「インパクトナックル!」
ルークの拳がアルプに迫る。だがその拳が届くよりも、アルプの蹴りがルークのあごを撃ち抜く方が先だった。ルークが宙を舞う。
「う、おおおおおお!!」
ルークはそれでもまだ食らいついた。10人に分身しアルプを取り囲む。
「幻覚魔法か。さてどれが本物かのう」
アルプはそう言い20体に分身した。残像である。
「な!!?」
「そこじゃ」
アルプがルークの分身の一体を攻撃した。他の分身が消え、攻撃を受けたルークは地面を転がる。
残り10秒。
「フレア・ストーム!」
アルプを炎の竜巻が覆った。
「致命傷のはずじゃが頑張るのう」
アルプが竜巻を突き破った。そこにルークは魔法を連射する。
「ファイアーキャノン! ウインドエッジ! サンダーボルト! アースニードル! グラビティバレット!」
「無駄じゃ。わしには当たらん」
アルプは全ての魔法を最小限の動きですり抜けていく。まるで魔法の方が避けていると錯覚するほど無駄がない動きでルークに迫った。
残り5秒。
「さすがにもう時間がないのう。これで終わりじゃ」
アルプがルークを仕留めに掛かった。抜き手を放つ。狙うは心臓。
「楽しかったぞい」
抜き手がルークの胸に届いた、その瞬間。
「む! 幻覚じゃと!?」
アルプは驚き声をあげた。気配も魔力も確かに感じる。実際に魔法すら放ってきた。だが触れた瞬間、アルプは目の前のルークが幻覚だと気付いた。
残り2秒。
どこじゃ、アルプはそう思い周囲の気配を探った。この日初めてアルプは本気で警戒した。
だが見当たらない。先にトールを殺しておくかとアルプは判断する。
その瞬間、アルプは目の前の幻覚から体当たりを受けた。本気で警戒をしていたアルプが唯一意識を向けていなかった対象が、実体がないはずの幻覚が体当たりをし、そのまましがみ付いた。本物のルークである。
残り1秒。
アルプがついに焦りを見せる。トールの魔法はもう放たれる寸前。今すぐ阻止しなければさすがに間に合わない。
アルプがルークを見失った理由を挙げるとすれば、幻覚に気づいた時の対応が早過ぎた事だろう。もし抜き手を放ち切っていれば、幻覚の1cm後ろにいたルークは心臓を貫かれていたはずだ。
だがアルプは幻覚に触れた瞬間に攻撃を止め周囲を警戒した。攻撃が当たった後に威力を調節できるほどのアルプの技量がそれを可能とした。
もしルークが幻覚と違う場所に居れば即座に補足され止めを刺されていただろう。ルークはアルプの強さを逆手に取り出し抜いたたのだった。
そして、残り0秒。トールが魔法を発動する。
「行くぞルーク! そのまま抑えてろ!」
「な! 仲間ごと葬る気か!?」
アルプがルークを引きはがしトールに向かった。魔法の発動から発射までの一瞬の隙、その間にトールを倒すしかアルプに勝機は残されていなかった。
「もう遅い! 喰らえ! 超越破壊魔法、トールハンマー!」
トールの杖から魔法が放たれた。光の奔流。混ざり気の無い破壊の力がすべてを蹂躙し討ち滅ぼしていく。
それは呑み込まれたアルプも例外ではなかった。消滅していく体を自覚し、しかしその心は満足感に満ちていた。
「見事じゃ。楽しかったぞい」
アルプの声は魔法にかき消され、後には何も残らなかった。
=====================================
[限界超越]
不正スキルの一つ。
レベル上限、ステータス上限、威力上限などの全ての数値限界を取り払う。
また他の不正スキル所持者を殺害することで不正スキルを奪えるようになる。
=====================================




