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101. 三人が行く

 ウォッチ教、それはこの世界で最も信仰される宗教である。各国各街に建てられた教会はすべて総本山のウォッチ教国に属し、敬虔な信者の中には国の要人も多々存在する。そのため各国に情報網を持つ教国はしかし、それによって得た有利を行使せず千年に渡り非戦と中立を貫いてきた。


 そしてヨハンに建てられたウォッチ教会、その応接室に居る男は、教会の情報網により得た資料を片手に冒険者たちと話していた。男の名前はクルツ、その教会の司教である。


 資料の内容は異世界人についてである。教会が発見したある異世界人の情報がそこには記されていた。


「つまり危険なスキルを持つ異世界人をこのままには出来ないのです」


 クルツはそう言いながら資料を相手に渡した。冒険者の一人がそれを受け取り内容を確認する。


「それが現在異世界人だと判明している人物です」


 クルツは別の資料を取り出し机に置いた。そこには異世界人の人相書きが書かれている。


「名前はアキハ・ミヤゾノ。黒目黒髪、女、17歳。魔法を高水準で使えることが確認されています」


 クルツは一息つくと目の前の冒険者たちを見た。中年の男とフードの少女である。異世界人の暗殺のために冒険者ギルドから派遣された裏Aランクの冒険者。名前をドーウとパルムと言う。


「この異世界人がヨハンに来ているというのは確かなのか?」


 ドーウがクルツにそう確認した。


「はい。部下が目視で確認しました。現在はこちらの尾行を撒き姿をくらませています」

「探す所から始めないといけないのか。面倒だな。それに下手に戦いになれば街に被害が出んとも限らんぞ」

「無論、市民の安全は最大限考慮していただきます。またこちらの犠牲を減らすためにも戦いの際はここにいる3人の少数精鋭で仕掛けます」


 クルツの返答にドーウは顔をしかめた。


「お前、戦えるのか?」

「守りに関しては自信があります。壁役は任せてください」


 ドーウの質問にクルツはそう答える。


「パルムはそれでいいのか?」

「……問題ない」

「そうか。なら俺もそれでいい。暗殺に手を貸すのは不本意だが」


 ドーウはそう言うと資料を机の上に投げた。それと同時にクルツの部下が応接室に入ってくる。


「クルツ司教、至急お耳に入れたいことが」

「なんでしょう」

「元魔王のアルプがこの街に現れ冒険者を襲撃、人質を取って去りました」

「……はあ!?」


 その知らせの内容にクルツは思わず立ち上がったのだった。









 夢を、見ていました。エルーシャを人質に取った魔人アルプとの戦いの中で私は秘めたる力に覚醒。見事アルプを打ち倒し私はエルーシャを救う事に成功します。そうして物語はハッピーエンドを迎えるのです。


 新人作家も真っ青のご都合的なストーリーに私は自嘲しました。現実はそんな簡単には行きません。思い通りにならない世界の中で、それでも自分の思いを胸に生きていく。そこには様々な葛藤や苦しみがあるかもしれません。それでも人は前に進みます。いろんな人と関わりながら。


 このまま都合のいい夢を見ていたい、この夢が現実だったらいいのに。そんな欲望が頭をよぎります。夢であることを自覚して見ているこの夢の中で、私は思い通りの事ができました。


 ですが、夢とはいつか覚める物。これが夢だと気づいた以上、現実と向き合わなければなりません。エルーシャを助けるという強い意志が私を後押ししました。


 私の意識は浮上していきました。夢は無意識の中に消え去り、現実の光が差し込んできます。私はゆっくりと目を開けました。



 私はベッドに横たわっていました。起き上がろうと体を動かし、違和感を感じます。


「良かったわ。目を覚ましたのね」


 声がした方を見ると、ルーミンさんがベッド脇の椅子に座っていました。どうやら看病してくれていたようです。


「ここは……」

「治癒院よ。あなた、街の道路にめり込んで気絶してたのよ? 道路にくっきりと大の字で跡が残ってたわ」


 ええー……、それじゃ私の体形が人々の目に曝されたという事ではありませんか。恥ずかしすぎる。


「全く、一人であの魔人を追いかけるなんて無茶にも程があるわ」

「すみません。それよりも私はどれくらい眠っていましたか」

「三時間ほどよ」


 良かった。まだそこまで時間が経っていません。三日とか言われたらどうしようかと思いました。


「状況はどうなっていますか」

「冒険者たちは無事よ。トールもルークも、他の人もね。それと魔人の居場所だけど、さっき知らせが入ったわ。街から数時間離れた森の、開拓基地に居るらしいわ。そこの人たちが基地を追い出されて避難してきたの」


 開拓基地……以前の大開拓で作られた場所です。そんなところに。


「ちょっと! まだ寝てなさい!」


 私がベッドから出ようとするとルーミンさんが止めてきました。そこで私は初めて違和感の正体に気づきます。私の頭に包帯が巻かれていました。


「見える傷は治癒士が塞いだけど、しばらくは安静にしたほうがいいわ。頭を打ったのだもの。危ないわよ」


 ルーミンさんは私を気遣ってくれていました。しかし、私はそれでも立ち上がります。


「すいません。ですが親友が人質になっているのです。寝ていられません」

「そんなこと言ったって、あなたに何ができるのよ」

「助け出します。」

「無理よ。あれには敵わないわ。見たでしょう? Sランクの二人が為すすべが無かったのよ?」


 ルーミンさんが立ちはだかりました。私たちは向かい合います。


「それでもやります。どれほど無謀でも、どんな手段を使ってでもやってみせます」

「冒険者を勝ち目の無い相手と戦わせられないわ」

「なら私一人ででもやります!」


 私はルーミンさんを押し退け治癒院を出ました。ルーミンさんが追ってきます。


「そんなの余計無理よ! 一人でなんて!」

「一人じゃないぜ!」


 それに現れたのは、トールさんでした。


「あの魔人は俺が倒す!」

「トール!?」


 ルーミンさんが驚きます。


「僕もいるよ」

「ルークさん!」

「今度は勝ってみせるよ。エルーシャさんも心配だしね」


 ルークさんとトールさん、Sランクの二人が協力を進み出てくれました。これほど心強い仲間は居ません。


「駄目よ! 死にに行くようなものだわ!」


 しかしルーミンさんはそれでも反対します。


「勝ち目はある」


 トールさんがそう断言しました。


「あの魔人は俺が魔法を撃つのを邪魔してきた。俺の火力なら通じるという事だ。それに街の外なら遠慮なくぶっ放せる。避け場もない位のを撃ち込んでやるさ」

「でも、また撃つ前に攻撃されるわよ」

「僕が時間を稼ぐよ。二人での連携なら対抗できる」

「それは、そうかもしれないけど……」


 ルーミンさんが言い淀みます。


「そもそも、あの魔人は俺らを狙ってきたんだ。俺らが行かなかったらまた襲ってくるだろ。それならこっちから行った方が周りを気にしないで済む」

「……分かったわ。そこまで言ったからには絶対に勝ちなさい! ギルドからの命令よ!」


 ルーミンさんはとうとう私たちの主張を認めてくれました。これでエルーシャを助けに行けます。


「絶対に! 死ぬんじゃないわよ!!」



 こうして、私たちはルーミンさんに見送られ、エルーシャ救出のために動き出したのです。


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