【 真実を暴いて、解いて 】
すこしずーつ見えてくる全貌。
ホント少しずつです。パンチラするかしないかぐらい。
壁掛け時計を見ると点呼まで一時間ほどになっていた。
消灯後に集まるという事で一先ず解散しようと私たちは腰を浮かせる。
葵先生と須川さんが部屋を出て行ったんだけど、ここで全員帰ると禪と二人きりになることに気づいてハッと我に返った。
脳裏をよぎるのは、綺麗な紫色の瞳と整った顔と香水の匂い。
(うん、二人っきりは流石に無理かな! 絶対怒られるからね、既に冷たい空気醸し出してる気がするし)
疲れた様子で部屋を出ようとするので、咄嗟に部屋でシャワーを浴びていったら?と声をかけた。
二人は驚いていたけれど、足を止めて時計を見る。
「ほら、もうシャワーの時間終わってるから共用のシャワー室は使えないよね?」
「言われてみればそうだな。禪、ちょっと借りんぞ」
「……事態が事態だから、今回は特別に許可するが毎回押し掛けるようなことはするな」
「当たり前だっつーの。靖十郎、さっさと着替え取ってこようぜ」
「お、おう」
戸惑ったように部屋を出て言った二人の背中を追いかけようかと足を一歩踏み出した所で肩をガシリと掴まれた。
恐る恐る振り向くと無表情の禪が私を見下ろしている。
光の加減で眼鏡が光って迫力も満点だった。
私が言葉を発する前に低い声が静かに室内に響く。
「優。僕の忠告は覚えていたのか」
「ハイそれは勿論ばっちり覚えてます御免なさい!」
「肯定と謝罪を同時にするな」
「うぐ。すいません」
「謝るだけなら馬鹿でも阿呆でもできる」
「ぬぐぐ。なんか、今日の禪の突っ込み棘だらけじゃない?」
「優の記憶力と危機管理能力は穴だらけだがな」
呆れたような溜息と共に肩から手がどけられて、禪は息を吐きながら勉強机の引き出しを開け始める。
それを眺めながら、自分のベッドの端っこに腰を下ろす。
座った途端疲れが全身にめぐり始めて瞼が重くなっていく。
「いったい何の為に封魔がいたと思っている。力で敵わない事など充分に理解していた筈だろう。無茶というよりも無謀、無鉄砲で非常識すぎる」
(これ、相槌と謝罪以外をしたらネチネチやられるやつ!)
目が据わりつつある禪に戦慄しながら思わずベッドの上で正座する。
眠気は一時退却したのは助かった。
経験上、お説教中に眠ると扱いが手ひどくなるからね!
現に、背を向けているけれど禪の背中からは言いようのない圧の様なものがにじみ出ている。
年下だの未成年だのと言っても彼は正論をビシバシ打ってくる系だから、完全に勝てない。
元を正せば私が悪いっていうのは、身にしみてわかってるから大人しく聞く体制に入った。
「――――……第一、通話をしたままだという事も忘れていた訳でもあるまい。実際、アイツ自身に呼ばなかった理由は伝えたようだが、そういった無用な気遣いが後々自分の命を脅かすことになる事くらい考えずともわかる筈だ」
聞く体制に入って軽く3分は話し続けている禪の背中を見ながら『喉乾かないのかなー』とか『よくそんなに言葉が出てくるな』とか感心しつつ、小さく欠伸を噛み殺す。
真剣に聞いてるよ?!
聞いてるんだけど、一定のリズムとスピードでお説教されてると嫌でも欠伸って出るよね。
生理現象みたいなものだから仕方ないんだろうけど。
「いやー、頑張ればいけるかなぁって思っちゃって」
滔々と紡がれる言葉にうっかり本音がポロッとそのまま零れ落ちた。
空気が見えているなら今、完全に凍っているだろう。
すぅっと室内の温度が冷えていくのが分かった。
発生源は、言わずもがな霊力を垂れ流して恐ろしくも強力な圧を纏う最終兵器的な生徒会長様の姿。
後ろ向いてるのに怖いってどういうことなの。
「封魔がいなければ無事に逝ってただろうな、喜べ」
「ごごごごごめんなさいほんとちょっとうっか……じゃなくって、あのポロッと!じゃなくって、ええっと」
「何故僕がここまで君に対する行動に苛つかなければならないんだろうな。それが一番不愉快だ。万一にも死ぬときは僕の感知できない所でしてくれ」
突き放すような声に慌ててベッドから降り、禪の所へ行こうとしたんだけど……見事にベッドから落ちて床に体を強打した。
鈍く大きな音が響いて反射的に振り向いたらしい禪はぴたりと動きを止めた。
無表情から珍しくかけ離れた表情は、悲しいことに呆れが前面に押し出された怪訝そうなもの。
「………何をしてるんだ、お前は」
「あ、足がしびれちゃって……立てなかっただけ」
「―――………須川先生の苦労が分かった」
「いやいや、私の方が大変な思いしてるって! 須川さんの修行その他ホントにきっついんだよ!?」
「お前は殺しても死なないだろ。うっかり死の淵から戻ってきて腹が減っただのと騒ぎそうだ」
「え。なんで知ってるの」
「もういい、それ以上口を開くな。頭が痛くなる」
「頭痛なら薬あるよ。ええとどこに………スイマセン、話しません!」
床に、呪符が刺さりました。
動けなくなったところでタイミングよく靖十郎たちが部屋に戻ってきて、怯える私と無表情なまま物々しい雰囲気を纏った物騒な禪を見て何かを悟ったらしい。
「とりあえず、俺先はいるわ」
封魔が脱衣所に消えたんだけど解放されることはなく、靖十郎とシャワーを浴びた封魔にも禪と同じ内容で怒られた。
最近の若者って思ったよりしっかりしてるようです。
◇◆◇
点呼に寮長は現れなかった。
熱中症で倒れて病院に運ばれたという説明がなされ、副寮長と舎監である須川さん、そして珍しく葵先生も点呼に同行していた。
葵先生は点呼を終えた生徒一人ひとりに「室内でも水分補給忘れるなよ」とか「運動後にはスポーツドリンク飲むように」なんて熱中症対策の注意喚起をして回っているものだから寮長が熱中症になったという言葉を誰も疑っていないようだった。
その様子を複雑な思いで見つつ、禪と共に部屋に戻る。
室内で私たちは宿題をするわけでもなく呪符や霊刀の手入れをして学習時間を終えた。
消灯時間になり時計が十時を少し回った頃の事。
控えめなノックの音が聞こえて、私は弾かれるように立ち上がりドアを開けると普段通りの靖十郎と封魔が飲み物をもって立っていた。
「センセー達はまだみたいだな。一応お茶とか持ってきたんだけど要らなかったか?」
「お茶作っておいたには置いたけど、ジュースはなかったから良かった。ごめん、気を遣わせちゃって」
「べ、別にいいって! こんな時間に堂々と出歩けるのも珍しいっていうか、なんていうか滅多にないことだからちょっと浮かれててさ」
照れ臭そうに視線を逸らした靖十郎と通常通りの封魔を部屋に招き入れ、コップを準備している所に再びノック音。
手が空いていた禪がドアを開けるとそこには須川さんと葵先生が立っていた。
須川さんの手にはバインダーがあり、葵先生の表情はどこか硬い。
「早速ですが明日も授業があるので早速話をさせていただきます。仮とはいえ教員の立場で生徒を夜更かしさせるわけにもいきませんしね」
そう微笑んだ須川さんに私の椅子を進めて葵先生には禪の椅子に座ってもらった。
冷えたお茶を二人に渡せば、笑顔で須川さんが一口飲んで小さく息を吐く。
葵先生は浮かない表情で受け取ってそのまま目を伏せた。
様子がおかしい先生に首を傾げつつ、私の別途に座る靖十郎の横に腰かけた
対面にはベッドの持ち主である禪と封魔がそれぞれ腰かけている。
静かな室内を見回した須川さんが静かに口を開いた。
「学校内に古井戸があるというのは全国的に見てもかなり稀であることはわかりますか?」
「え、あ、はい。俺も初め驚いたので」
靖十郎がしどろもどろになりつつ頷けば須川さんは小さく頷き返し、古井戸にまつわる過去の事件について話し始める。
「優君の調査結果を元に土地の所有者へ話を伺ったのですが、―――…軽い埋め立てをする際に中から人骨が見つかったことは確かだそうです。ただ、奥方が狂ったのは身ごもっていた若旦那の子供が成人を迎えた三年後のことだったみたいですね。若旦那がなくなった年にその息子が“お告げ”を受けて二人の供養の為に桃ノ木を植えたとか」
絶句する私たちに須川さんは淡々と話しを続ける。
正し屋に戻った際に“調べた”という事実に私たちは言葉を失くす。
まるで良く出来た怪談小説や映画を見ているような気にすらなってくる。
「奥方は、子供が成人した途端に『あの人が、あの女がいるの』と譫言の様に繰り返していたそうです。そして、三度目の花が咲いた新月の夜に―――…奥方は植えられた桃ノ木に火をつけた。見つけたのは“肝試し”に来ていた若者だったそうです。奥方は燃え盛る桃ノ木を見ながら狂ったように夜通し笑い続け、空が白み始め火が小さくなったのを見計らう様に短刀で喉を掻っ切って自害したそうです」
土地の持ち主は名のある地主だったこともあって、新聞にすら載らなかったようですが流石に本家の人間は知っていました。
そこで一度言葉を切って、須川さんは目を細める。
「――…井戸には『古井神』が宿ります。昔からよく言われているのですが『井戸を粗末に扱うと祟られる』とか『井戸は祟りが怖いので潰したり埋めたりしてはならない』という話を耳にしたことはありませんか?」
じっと話に聞き入っている私たちを見回した須川さんに靖十郎と封魔が顔を見合わせ、禪が軽く頷いた。
「俺、田舎のばーちゃんとじーちゃんに聞いたことあるかも」
「俺もだな。ひい爺さんが昔よく話してた」
「親に聞いています」
高校生組の反応に須川さんは満足そうに頷いて話を続ける。
「井戸には大なり小なり神が宿っていますし、枯れることのない綺麗な水は命の源です。今は蛇口を捻ればすぐに水が出ますが、昔はそうではなかった。直接神々の恩恵を受けていたのですよ。そして井戸は、水神様の目であり通用口でもあります……―――さぁ、ここで問題です。神がいる場所に死体を放り込んだらどうなるでしょう」
妖しい笑みを浮かべた須川さんに空気がピンッと張り詰めた。
至極愉しそうに口元が笑っている上に囁くような低い声にぞわっと意味もなく背筋に衝撃が奔って思わず体が震えた。
「どう、って……」
声を出したのは靖十郎だった。
まるで簡単なクイズでも出しているかのような須川さんのノリに高校生組が戸惑っているのが分かって、苦笑する。
「須川さん。それ聞いちゃうんですね」
「おや、いけませんでしたか? ああ、どのように考えるのか興味があって聞いてみただけなので気にしないでください。優君、正解を」
「私に振るんですね、それ。まぁいいですけど……答えは『井戸が穢れる』でいいですか?」
私の答えを聞いた須川さんがにっこり笑って小さく頷いた。
実はこれ、似たようなことが過去の依頼であったんだよね。
そのケースで井戸に投げ入れられていたのは動物の死骸だったんだけど、死は最も強くわかりやすい『穢れ』でもある。
「穢れっていうのは、忌まわしい不浄のこと。穢れを放っておくと、運気や元々のエネルギーの流れが悪い方向へ流れてっちゃうことが多いんだ。最も強くわかりやすい穢れは『死』なんだけど、病気や怪我も穢れの中に入るかな」
「穢れについては何となくわかったけどさ、井戸が穢れるとどうなるんだ?」
「まァ、井戸の中に死体が投げ込まれりゃ水が腐ったりはするだろうけどよ」
飲めなくなるってだけじゃねぇか?と首を傾げた封魔に確かにね、と頷く。
須川さんは口をはさむ気がないのか優雅にお茶を飲んでいた。
「現実的に言えば水質が悪くなるし、死体が放り込まれた井戸から汲んだ水を飲みたいとは思えないだろうから少なくとも生活に支障は出るよね。まぁ、今は水道が多いから水には困らないけど―――…んー、私が説明すると胡散臭い感じになっちゃうんだけどいいかな」
「胡散臭いって自分で言うのかよ」
呆れたような安心したような靖十郎のツッコミに苦笑して頷いてから、私の“知っていること”を話す。
私には視れないんだけど、視える人には視えるらしいんだよねー。
「水脈にはたくさんの霊力とか気とか目には視えないパワーが含まれてて、人間はその大きな流れの一部から力を少し拝借して生活してるって考えてみてくれる? 地下を流れて地上に出てくる気は、浄化された綺麗なものだから井戸がある家の空気や木の流れを穏やかに、それでいて清潔に保ってくれる作用があるんだ」
禪にとっては割と受け入れやすい内容だとは思うけど、普通に生活している今どきの高校生からするとかなりオカルトというかスピリチュアル的な要素が強すぎて受け入れにくいかもしれない。
実際、視えない時に説明されても「そんな考え方もあるんだねー」って思うくらいだっただろうし。
「―――……なるほどな。だから、そのパワーの入り口である井戸が穢れるっつーか汚染されると、その汚れみたいなのが家全体に広がっちまうっつーことか」
「そうそう! で、今回の場合は家じゃなくて学校になるんだけど……普通ならここまで広がらないんだよね。何十年も昔の話だから強い穢れが残ってるとはどうにも思えなくって」
「ん? その言い方だと薄くなるのか」
「そう。環境にもよるけど時間の経過と共に薄くなるんだよ。悪化することもあるけど、学校って広いから影響が出るくらい濃くなる事って早々ないと思うんだよね」
だから不思議で、と腕を組む。
穢れが活性化または濃度を増した原因として考えられるのは環境の変化。
寮長の件と結びつけるなら、安直だけど呪いを発生させるために井戸を利用した……っていう可能性だけど。
「でも、素人の寮長が古井戸を利用するなんて考え付くのかな」
ポツリとこぼれた言葉は無意識だった。
だから返事があるとは思ってなかったんだけど、愉しそうな声が返ってくる。
声の主はやっぱり上司様で、彼は足を組んで満足そうに目を細めていた。
「非常に良い着眼点ですね。寮長である葉山 誠一を利用して、古井戸に残っていた古井神を式に転じようと画策していた者がいたんですよ。今回の依頼は、土地と人を上手く利用されたと表現すべきでしょうねぇ……白石 葵先生?」
名前を呼ばれた葵先生がゆっくりと顔を上げた。
目を細めて、挑む様なそれでいて鬱陶しそうな表情を浮かべて須川さんを視界に入れている。
人当たりのいい葵先生はそこにはいなくて、まるで別人を見ているみたいに雰囲気が違った。
「――……まさか」
封魔の声だった。
禪は声を出さずに目を丸くし、靖十郎はただ茫然と須川さんと葵先生を眺めている。
葵先生は封魔の声でふっと口元を緩めた。
「ジブンも悪い男やな。そういう言い方をすると疑われるやろ」
「疑われる様なことをするからですよ。優君をあの場所へ誘いだしたのは貴方の判断ですか? それとも『要請』されて協力したのでしょうか」
「ああ、あの件に関してはホンマに悪いことをしたとおもってんねん。悪かったなぁ、優ちゃん」
痛ましいものでも見る様に眉を寄せて私の指先を見つめた葵先生をみて、察しの悪い私はようやく理解した。
言われてみると古井戸に初めて足を踏み入れた切欠は葵先生だったのだ。
でも、怪我をしたのは自分の不注意だ。
葵先生は悪くないですよ、と首を振ればとろりと温かみのある茶色の瞳が緩やかに細められた。
形のいい唇から感嘆の声が漏れるのを人ごとのように眺める。
その様子を見ていた須川さんが淡々と険を含んだ態度を隠すことなく私の知りえなかった事実を紡いでいく。
「あの場所が今回の依頼に大きく関わっていることは既に知っていたでしょうに、白々しいですね。『巡り屋』に勧誘され時折協力している貴方にとっては取るに足らない事だったのかもしれませんが、教諭という立場でありながら今まで良く放置できましたねぇ。楽しかったですか? 高みの見物は」
口元を扇子で隠した須川さんは眼鏡の奥にある美しい緑色の瞳を細めた。
嫌悪と侮蔑を多分に含んだ言葉に一瞬本当に彼は私の上司なんだろうかと疑ってしまった。
だって、今までただの一度もこんな攻撃的な物言いした事が無かったから。
「す、須川さん……?」
「貴方が赴任して私たちが調査に来るまで少なくとも数人が影響を受けていて、危ない状態であることを貴方は理解していた。それが何を意味し、どのような結果になるのか思いつかなかった、想像力が至らなかったなどとは言わせませんよ」
厳しい声に葵先生はふっと口の端を持ち上げて笑った。
楽しそうに笑っているように見えるのに目が笑っていなくて怖い。
「随分と俺の力を買うてくれとるんやね。せやけど、残念ながら俺に事態をどうこうするだけの知恵も能力もあらへんのや。精々、何ぞ起こらへんように生徒たちを観察したり注意する程度や」
やれやれと腕を組んで首を左右に振る葵先生は話し始めた。
―――……葵先生は元々、幽霊に見える聞こえる触れるの霊感体質だったらしい。
何処から聞いたのかわからないが大学2年の時に『巡り屋』という怪しげな会社からバイトをしないかと持ち掛けられたそうだ。
「報酬が旨かったから何度か話に乗っかったっちゅーだけのことや。まぁ、その所為で今でもちょいちょい簡単な仕事を持ちかけられるようになってしもうたんやけどね」
迂闊っちゅうか甘かったわ、お前らも旨い仕事には気ぃつけぇよ
そういって笑う葵先生は教師というよりも親しみやすい近所のお兄さん若しくは親戚のお兄ちゃんって感じ。
「えーっと……結局葵チャンはその、悪い奴に協力したりはしてないってことだよな」
不安そうに葵先生へ視線を向ける靖十郎の言葉に彼は目を見開いて、その後普段通りの笑顔を浮かべ力強く頷いた。
「勿論、初め持ちかけられた段階で“協力できない”ってしっかり蹴ったよ。だからこそ、ある程度事態が進行するまで気づけなかったんだけどな」
俺が気づいたのは一人目の生徒の体に紐の痕があったからだ、と先生は続ける。
葵先生曰く『自殺では絶対につかない』ものだった上に赤黒い靄の様なモノが絡みついていたから“普通ではない”ことに気づけたそうで。
「まぁ、誰がやってるのか何となくわかっていても俺はあくまで見えて聞こえて触れるだけの素人だ。呪いの解き方は知らないし、どうやったら呪いをかけられるのかもわからない。俺がしていたバイトはどれもヤバい幽霊や気配がする場所を“探す”ことだったんだ」
俺が話せるのはこれくらいだな、と顎に手を当てて斜め右上を見上げた葵先生に禪が静かに疑問を口にした。
「白石先生は何故、古井戸に優を連れて行ったのですか」
「井戸があるのに気付いてなかったし、あれが原因というか大元だろうって思ってたから参考になればと思ったんだ。俺が視えることは知らなかったし、知らせるつもりもなかったから。あと、キーホルダーを探してるっていうのはホントの事だったんだよ。何せ、寮長に結構前から相談されててね―――……幼馴染からもらったものだと言っていたから形見なんだろうな」
一人であんな所に行きたくなかったっていうのもあるな!と葵先生は笑って、すっと真剣な顔になった。
「アレは、ヤバい。色々視てきた俺でなくても分かる」
あの場所に手を出した『巡り屋』の奴らの気が知れない、と吐き捨てる様に告げた葵先生の表情も険しかった。
古井戸に宿るは、神かそれとも…――――
ここまで読んでくださってありがとうございました!
誤字脱日変換ミスなどありましたら、奮ってお知らせください!(ぇ
次はわかりやすく(?)全貌というか全容をまとめたいです。