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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【心残りは未練となって】

未練の解釈とかまぁ、幽霊に関することは完全な妄想になっております。


ホラー描写、ええと、あと残酷?描写、アリです。

苦手な方は気を付けて下さい。

おっかしいなー、進まないなー……(遠い目






 それは、心から相手を案じている時の声色だった。



浮上する意識に身を任せて瞼を持ち上げると視界一杯に、最近見慣れた顔が飛び込んでくる。


 私を見下ろしている目に濁りはない。

心配そうに顰められた眉は視線が合ったことで緩やかに解れて、安堵の表情に変わる。



「ゆーくん……?どうして、ここに」


『どうしてって日課の浮遊散歩してたら犬とスズメの鳴き声が聞こえてさ。なんとなく様子見に来たら、優が寝転がってて慌てて声かけたんだよ。もしかしてコイン探しの最中に襲われたか何かヘマでもした?』



上下左右がグルグルと入れ替わるような酷い眩暈を目を閉じてやり過ごす。

 数秒で収まったのでホッとしつつ目を開けると彼は私の横に座って心配そうに此方を見ている。



(足、は透けてるんだよね…手も、時々透ける)



じぃっと足を見ているのに気付いた彼はどこか愉しそうに笑った。



「俺も生きてる頃は“なんで幽霊って足がないんだ”って思ったことあるんだ。死んでからわかったんだけど、足を見せようと思えば見せられるんだぜ」



ふんっと妙な掛け声の後に、じんわりと少しずつ輪郭を持っていく足。

流石に驚いて、仰け反れば悪戯が成功した子供みたいに笑い声をあげた。



「ほら、映画とかだとさ足とか透けてないじゃん?あれ、実は正解なんだよ。液晶画面から出てくるヤツとか家に憑いてて独特の声を発しながら現れるヤツとか、色々いるだろ」


「幽霊からホラー映画の解説聞くとは思わなかったよ」


「俺も死んでからこうやって話せるとは思わなかったから、新鮮っちゃー新鮮だわ。で、だ。映画の幽霊は大体恨み辛みの力が強いから全身視えても問題ないんだよな。幽霊の強さって生きてる時の行いとか、性格とかだけじゃなくって未練や思いの強さにも影響されるみたいなんだ」



 ゆーくん曰く、幽霊にも大きく分けて二種類いるらしい。


 話が通じるやつと、通じないやつ。


前者が善の幽霊とするなら、後者は悪の幽霊だという。



「穢れとかっていうあの黒い人型だったり獣型の化け物や靄は別だぞ?死んでから色んな人に聞いて“あの黒いのがある場所に近寄ると死ぬ”とか“消されるから気をつけろ”って言われてさ」


「ああ、そういえばこの仕事初めて直ぐに『幽霊や妖の類であれば対話を第一に、穢れであれば即刻排除が基本です』って言われたっけ」


「俺ら幽霊としてもあの黒いのは即消してくれると助かるから、幽霊代表として頼むよ。で、話を戻すんだけど、恨み辛みって立派な、というかかなり強い未練だろ?だから怨霊とか悪霊は普通に死んだ奴より強いんだ。厄介なのは俺らみたいな普通の奴でもちょっと間違えば、悪霊化するところだよな。俺らも気を付けて入るんだけど、死ぬと一定期間感情剥き出しになるから制御難しくいんだ――…あ、俺は大丈夫だから安心してくれよ。なんでか割と死ぬ前の記憶もあるんだよ、珍しいみたいなんだけどさ」



ははは、と笑う幽霊である彼から幽霊っぽさは微塵も感じられない。


 いつの間にか月が出て月明りに照らされている幽霊と私、そして妖怪の類であるチュンとシロ。

 奇妙だけれど、不思議と居心地がいい空間だった。

感じていた恐怖や不快感は微塵もなくて、景色を楽しむ余裕すら漂い始めていた。


 隣にいたゆーくんも腰を下ろして星空を眺めては楽しそうに目を細めている。

それをしっかりと目に焼き付けてから私は、覚悟を決めた。

年相応の笑顔を浮かべる岸辺 友志という少年に聞くと決めていたことを言葉にする。


 少しだけ、声が震えていたかもしれない。


視線は彼に合わせてられなくて、逃げるように空へ向いてしまったけれど声は届いただろう。

そっとチュンやシロが私に体を寄せてくれて、温かさがじわりと伝わってくる。




「――…岸辺 友志、君の未練ってやっぱり“復讐”だったりするのかな」



空を見たまま私は答えを待った。


 地上から見上げた時より距離が近いことや遮るもの少ないから、やけに夜空が広く見えた。

 青空を見上げて深呼吸した時とは違うけれど、夜独特の冷たい空気が肺いっぱいに広がって思考がクリアになっていく。



『未練が復讐だと思ったのは俺が死んだ理由?』



視線を広がる星空や月から外して隣を見ると表情を作るのに失敗したような顔をして、私を見ていた。

自我がある幽霊って生きている人とあまり変わらない事が多い。


 だから、こういうことを聞くときも少し躊躇する。




「――…死んだ時の記憶はあるんだね」


『うまく隠せてたと思うんだけど、やっぱりバレてたか』


「はじめは気づかなかった――…けど、近寄らなかったから変だなって。前にコイン探しをした時は『七不思議』の場所でも平気で探してたのを見てたから、岸辺くんが『桜』の周りに近寄らないことも、『桜』の周りを靖十郎が調べていても一緒に探してなかったことも妙に目に付いた」



目を逸らすのは少し違う気がして、しっかりと彼の目を見ればバツが悪そうに私から視線を逸らした。

 図星を言い当てられた時って気まずくなるというか気まずさを感じるのは幽霊も人間も変わらないらしい。



『死んだ時の記憶は、割と曖昧なんだよ。首が締まる感覚と息苦しさ、あとは周りの連中の囃し立てるような癇に障る声、ああ、意識が遠くなっていく感覚も覚えてる』



首を吊った時の疑似体験をした後だからか妙に現実味が強い。

思わず巻かれた包帯へ手を伸ばした。

 薄くガーゼのような生地と柔軟性を持ち合わせた包帯に触れている私を見ながら彼は言葉をつづける。



『ソレ、また何かあったんだよな?俺さ、あの後直ぐあの場から逃げただろ?コインを回収した直後に嫌な“臭い”がしたから逃げたんだ。ごめん』


「いなくなった理由はわかったんだけど、臭いって何?初めて聞いたんだけど」



前のめり気味に問いかけると、彼は少し仰け反ったけれど戸惑ったような表情を浮かべる。

すっと腕を持ち上げてある一角を指さし、話し始めた。



『他の場所ではどうなのか知らないけど、この学校で黒い靄や人型のヤバい奴らが出る前に必ず変な匂いがするんだ。なんていうか…ただの水と木が濁って澱んでったみたいな、臭いなんだよ。悪臭っていうほど悪臭じゃないけど妙に鼻につく匂いだから直ぐにわかるんだ。で、あの辺りはいつもそんな匂いがするから俺らみたいなのは近寄らないようにしてる』



透ける指先が指し示した場所には覚えがあった。


 痛みも傷跡すらもない筈の指先がチクンと小さく傷んだ気がして指をきつく握り込む。




「――…枯れ井戸」


『あ、あそこ井戸がある場所だっけ。だからそんな匂いすんのかな』



ふわりとその場から立ち上がって身を乗り出すように指さす方向へ視線を向けた彼とは反対に私は屋根の縁から内側へ移動する。

 少なくとも、ここで投身自殺めいたことをする気は早々ないからね。



「話を戻してもいいかな。君の“未練”は何?」



屋上の縁で浮く彼と扉の前に移動した私の視線が絡む。

 彼は、星空と広がる黒い森を背負って朗らかに笑った。



『大事な幼馴染がいるんだ、こっち側に呼びたくなくて俺は此処にいる』



幼馴染が誰なのかなんて聞かなくてもわかった。


 脳裏をよぎったのは“呪い”のこと。


 事実として、寮長である葉山 誠一は、何らかの方法で呪いをかけたことがあるのだろう。

『正し屋』が仕事を終わらせた時に彼がどうなっているのか、どうなるのか私にはわからない。

分かるのは、一つだけ。



(呪いは必ず“返る”もの。因果応報の悪い方である悪因悪果。自業自得って言ってしまえば冷たく聞こえるけど、この世の中って良くも悪くも上手くできてるって……最近、少しだけわかってきた)



 例え、どんな理由があろうとも“呪う(のろ)”行為は悪の要因になる。


もし寮長である彼が呪いではなく“呪い(まじない)”をかけていて、幼馴染である岸辺くんを想い、安息や浄化、成仏などを望んで願っていたなら善因善果として彼や当人であるゆーくんに還元されたかもしれない。



『俺さ、生きてる時、最初こそ虐められてた奴を護りたいとか助けたいとか思って行動してたんだ。でも、それが必ずしも“正義”じゃないってことに死んでから気づいた。ああいうのって、やっぱ加害者を何とかしなきゃならないんだな』



何かを悟ったような、真理に気づいたような口調に引き込まれる。

生ぬるい風が私の髪や衣服の裾、シロやチュンの体毛を揺らす。


 変わらないのは彼だけだ。



『加害者が虐めをする心理の根底にある“何か”を取り除かなきゃ終わらない。現に、俺が死んだ後も、あいつらは虐めをやめなかった。派手な行動は減ったみたいだけど、言葉で、態度で、八つ当たりするみたいに続けてたよ。もう、病気みたいなもんだって思う……他人からしたらいい迷惑だし、正直、どうなっても自業自得だって思うけど、そうそう治らないんだ。だから、虐めをしにくい環境を作るのが一番手っ取り早い』



俺が死んでから気づいたことの一つ。


 そういって寂しそうに笑った。

表情に浮かぶのは悔しさと生きている私たちに対する羨望。



『俺、自分の葬式を見たから知ってるんだ――…父さんや母さんには本当に申し訳なかったと思うし、今でも元気でやってるかな、とか思うけどまだ兄弟がいるから立ち直れてると思う。けど、恵里が俺の後を追う様に自殺してからアイツは……誠一はおかしくなってった』



恵里っていうのは俺の彼女だったんだけどさ、と照れ臭そうに笑って、直ぐに表情が沈んだ。


 多分、霊体だった彼は“視た”のだろう。

自殺者に待つ地獄を。



「ゆーくん」


『うん、岸辺くんなんて呼び方じゃなくて“ゆーくん”って呼んでくれよ。俺、その呼び方凄く好きなんだ。恵里が俺を呼ぶとき“ゆーくん”って呼んでくれてたからさ。結局、俺が死んだことで責任感じて、それで友達ともうまくいかなくて―――…“何かに”引っ張られるように飛び降り自殺した。学校の、屋上から』



死んでから飛び降りの真似事したことあったけど、怖いもんだよな、地面が近づいてくる感じとかさ。

 なんて明るく笑っているから声をかけるに掛けられなくて、ただ彼を眺めることしかできなかった。




『恵里が死んで、誠一までって思ったから心配になって学校ここへ――…結局そのまま出られなくなった。アイツ、降霊術っぽいことしててさ。変な壁みたいなものが出来て出るのは制限されんのに、いろんな霊が入ってくるようになった。良い悪い関係なく、見境なく。良いものは出来るだけ俺が誘導して集めて、危ない場所とか教えて一緒に逃げ回ってたんだけど、悪いのは一直線に“目標”に向っていった。此処で死ななかった“目標”になってる連中は、大人になれてても“幸せ”にはなれない筈だ』




色んなのをくっつけて卒業していったからな、と表情のない顔で語る。



(だから、か。変だなって思ったんだよね)



 当事者である数人の行方をインターネットで調べたり同級生たちに聞いて回ったけれど、事故を起こしたり巻き込まれたり、病気になったりして“まとも”な生活は送れていないようだった。

 影響がなさそうに見えても、体力や気力が衰え始める時期にまとめてかかってくることもあるから楽観視は……生涯できない。



(正し屋はそういう依頼は受けないし、斡旋もしない。無駄だから)



魂の在り方が歪んでしまった人は本気で変わらなければ“似たようなの”にまた憑かれる。


 須川さんなんかその辺シビアだからね。

会社はお金に困ってる訳でもないし、そういった相手とは大概“対等”に話し合えないからって理由で笑顔でうまく丸め込んで追い返してしまう。



(そもそも憑いてるものが須川さんに近づかないようにするから妨害がはいって、相手側が勝手に諦めるって感じになるらしいんだけどね。雅さんに言わせると)



そういう状態の人が運よく霊能者なんかに出会える確率はかなり低い。



「調査の一環で当事者の数人について調べたけど、事故やら病気やらでまともな生活は送れてないことはわかってる。それらが全部、呪いの所為だとは言えないけど“成るべくして成った”んだよ」


『俺が死んだのも“そう”なのかもな……まさか、あれで死ぬとは俺も思わなかったし』



だから悪いことしたな、っていう負い目みたいなのもあるんだ。

呆気なさ過ぎて初めは実感がわかなかった、と笑う幽霊にかける言葉を私は持ち合わせていなかった。

 だから、返事の代わりにドアノブに手をかけて開けながら名前を呼んだ。



「集めたコインには“呪い”を増幅させる効果があった」



戸惑ったような視線を向けられたのが分かって、振り返る。



「呪いが降りかかったとしても、呪いをかけたのが複数なら人数が多いほど分散されて薄まる可能性が高い。まして、増幅している状態じゃないんだから、命にかかわる事態になる可能性は低い―――…特異体質だったり回数を重ねていない限りはね」



 扉を開けば非常灯の緑色に淡く照らされた階段が浮かび上がった。

チュンを先に飛ばし、偵察を頼んで呪符や持ち込んだ道具の在り処を確認する。


 慣れた様子で旋回するチュンを頼もしく思いながら足を踏み出した。



「まだ“全部”わかってないけど、話を整理してみれば少しは見えてくるだろうからもう少しだけ待って欲しい。寮長だって生徒だし、ね?」


ああ、それから…と扉を締め切る前に声を少しだけ大きくする。

言っておきたいことがあったから。



「もしかしたら今夜から“荒れる”かもしれないし、巻き込まれないうちに寮に戻っておいた方がいいよ。余裕なくなると間違ってゆーくん斬っちゃうかもしれないし」



後ろから素っ頓狂な声が聞こえてきて、思わず笑ってしまった。

続いて後方から『先に戻ってる』っていう叫び声が聞こえて、彼の気配が遠ざかっていくのを感じた。



「さてと、七不思議の方は本人に直接確認しようかな。色々分からないことも多いし、憶測であれこれ考えた所で間違ってたら意味ない上に危ないし」



っていうか名探偵じゃないんだから推理なんかできる筈がないのだ。

相手が死んでいるなら退けてしまえばいい。

でも、そうでないなら、話を聞く方が断然早い。



「男子高校生一人で“人を呪う方法”を創りあげるのは難しいよね、どう考えたって」



元々ホラーやオカルトに興味があるっていうなら話は別だ。


 他にも気になることがいくつかある。

助けを求める声は何度か聞いたけど、すべてが全て亡くなった生徒のものではない気がするんだよね。


(“枯れ井戸”があるあの場所を調べ直さなきゃ。気は進まないけど)


この後、夜の調査を終えたら明日にでも寮長に話を聞きに行くことを決めた私の耳に、低い咆哮めいた衝撃が届いた。

場所は、先ほど閉めたばかりのドア。



「ゆーくん遠ざけて正解っぽいね」



閉じたばかりのドアノブに手をかけると同時にチュンの鳴き声が響く。

押し開くと、そこには……ちょっと珍しいパターンの穢れがいた。



「ホントゆーくん居なくて正解だわ。これ夢に出てきてもおかしくないパターン」



出来れば私も見たくなかったなーと顔が引きつらせて、霊刀に御神水をかけて自分の体に御神酒を振りかける。



 私の目の前には、大きな穢れがいた。



一体ではなく複数いるが、ひと際大きな体を持つそれは今まで見てきたものとは違っていた。

まず、ソレには顔があった。



(高校生くらい、というかこれ死んだ生徒の顔だ。悪趣味極まりないな!)



その顔はお祭りで見るお面をつけている様で、不気味さが際立っていた。


のっぺりとした黒い頭部らしきものにかぶされたお面ってだけでも不気味なのに、関節部分にも顔が生えているのだから色々とお手上げだ。


しかも、それらの顔は穢れに“食われた”であろう浮遊霊らしい。

穢れ本体が動く度に、彼らは苦悶の表情を浮かべ絶叫している。



「あー……勘弁してくださいほんとに」



御神水の入った試験管を一本、飲み干して私は周りにいる普通の穢れを片付けることに。


 シロには、牽制をお願いした。


いや、だって周りのも危ないしさ、そもそも、足場が限られてるからできるだけ安全に戦いたいって思うのは当然の心理だと思うんだよね。




 唱え慣れた祝詞を口にしながら私は思い切り固いコンクリートを蹴って、駆け出した。










ここまで読んでくださってありがとうございました!


じわじわ進んでおります、相変わらず。

誤字脱字に気を付けてはいますが、変換ミスや怪文章が割と多いので常時警戒しています。

…み、みつけたら報告してくださると嬉しいです…

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