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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【協力者の集い】

ほんっとうに、本当に長らくお待たせして申し訳ありませんーー!

うう、難産でした…表現って難しいですね…ふふ(遠い目


今回もホラー要素はありません。次回もない、かな?




 机の引き出しに毒々しいマゼンタ色の封筒を見つけた。



ひゅっと息を吸う音がやけに大きく聞こえ、心臓が高鳴る音と同時に体中の血液が音を立てて引いていく。

体の中から“何か”が抜けていく感覚と口の渇きを自覚する。



「……っ」



咄嗟に振り向いてベッドや備え付けの学習机、収納型のクローゼット、カーテンが引かれたままの窓へ視線を走らせた。それは反射的衝動といってもよかった。

見慣れた室内に自分以外の存在も気配もない。

それを確認した上で、そっと毒々しい存在感を放つ封筒に指先が触れる。



「手紙……?なんで今この手紙が」



ぽつりと出た声は掠れている。


 緊張と恐怖で震える指先を動かし、封を切った。


中身は手紙が一枚と古びたキーホルダー。

塗装が剥げ、所々錆びついた古いどこにでも売っている安っぽいそのキーホルダーを見た瞬間体の中心に氷の塊を落とされたような感覚に襲われる。



 はっ   はっ  はっ



早く短く浅くなる呼吸を必死に整えながら、備え付けの椅子に腰を下ろして無地の白い紙きれを開いた。

 そこにはパソコンで打たれた無機質な文字が並んでいる。



『 追加報告として設置した例のモノが江戸川 優、真行寺院 禪、清水 靖十郎、赤洞 封魔によって壊された旨をお知らせ致します。術式が暴走する可能性もありますので充分ご注意いただきますよう。

尚、術式の設置が完了した時点で依頼は完了していることはご存知かと思われますが念のため、わが社は今後一切この件にかかわりません。どうぞご自愛ください

追伸.同封させていただいたキーホルダーですがお返しいたします 』



書かれた文字を何度も何度も狂ったように、祈る様に読み返すけれど文面は変わらなかった。


 覚悟は、していた筈だった。

 理解だって、している筈だった。



「う、ぐ……ッ!!」



胃から喉へ逆流してくる嫌悪を伴う酸っぱい液体。


 脂汗とも冷や汗ともつかないものが寒気を伴って毛穴からあるれて行くのが手に取るようにわかる。

滲んでいく視界の中で、記憶に深く根づいている安っぽいキーホルダーだけが妙に鮮明に見えていた。



 良心を、恐怖が食いつぶしていく。




◇◆◇




 休憩と食事の為に寮に戻った私たちは玄関先で葵先生と出会った。



彼の手には結構な量の保存食や酒なんかが入っているビニール袋と手芸用品に生地が入った恐らく趣味用の袋があった。

 その中に中身が見えない袋があるのには気づかない振りをしておく。

コンビニのお弁当なんかもあって、少しだけ独身男性の現実を見たような気持になって何とも言えない気持ちになった。



(女の人でも自炊しない人はしないし当たり前なんだろうけど、体に悪そうだなぁ)



葵先生位の容姿なら幾らでも料理上手の彼女とかできそうなのに、なんて考えていると隣にいた靖十郎や封魔が当たり前のように葵先生の荷物を手に持った。



「これ、センセーんとこに持ってけばいいんだよな!俺、焼きそば」


「お。コレ結構高い酒じゃね?やっぱ教師って給料いいんスか?俺はこっちの特盛カップ麺とんこつ味で」



意気揚々と食料品が入った袋だけを持ち、葵先生が寝泊まりしている救護室へ向かう二人の背中を私は苦笑しつつ見送った。


 抵抗しない所を見ると割とよくあるやりとりなんだろう。

チラッと耳にする葵先生の評価はどれも親しみやすい年の離れた“兄”だったしね。


 いつまでも玄関にいる訳にはいかないので玄関で靴を脱いでいると慌てたような足音。

部屋に戻る前に振り返ると気まずそうな、バツが悪そうな表情で口を開閉している葵先生と目が合った。



「どうかしましたか?」


「ご、誤解しないでくれると嬉しいんだけど、あれ全部俺のって訳じゃないから。生徒に分けてやったりもするし、時間がある時は自炊したりもするんだ。ぱ、パスタとかは割と得意だし!」


「大丈夫ですよ、わかってますって。普段は食堂で野菜とかも食べてるでしょうし、たまにああいうもの食べたくなりますよね。俺も時々“上司様”が出張とかで留守にしてる時新作のカップ麺とか食べますもん」



住み込みで働いているから三食手作りだけれど、忙しければ手抜きもするし、時々はジャンキーなものを食べたくもなる。


 須川さんはカップ麺とか食べたことなかったらしく、前に一度一口上げたらとても感心して「このような味がするんですね。お湯を注いで待つだけでいいとは便利な世の中になったものです」なんてお年寄り時見た感想を言っていたっけ。


(まぁ、私が一口食べるか聞いて「一口だけ」というくらいだからあまり好きではないのかも)


玄関で立ち話をする気もないし、シャワーを浴びたいのと簡単に禪にも話をしたかったので部屋に戻るべく数歩進んだところで葵先生に呼び止められる。



「何かありましたか?」


「よかったら昼は俺の所で食べないかなって。生徒会長も誘って構わないし、食べるものはいっぱいあるからね。実は、コンビニ弁当も色々買ってきたんだ」


「え、いいんですか?じゃあ、禪がご飯まだだったら一緒に行こうかな。結構汚れてるのでシャワー浴びて着替えてからになりますけど」



休みの日に制服を着たままっていうのも変だろうし、と口にすると軽く肯定される。

午後は動きやすいジーンズと体のラインがわかりにくい大きめのTシャツにしようかな。

 考え込んでいた私の思考を遮ったのは苦笑する声だった。



「もし来ないならメッセージ送ってくれれば嬉しいかな。あいつ等にも伝えたいし」



わかりました、と返事をして部屋へ向かって小走りで廊下を進めば背後から廊下走ると怒られるぞーという声が追いかけてきた。


 部屋に通じるドアを開けると準生徒会室の一角に禪はいた。

資料がたくさん置いてある本棚の前に禪が立って、何かを見ている。



「禪帰ったよー。何見てるの?」


「……あの浮遊霊は」


「ああ、ゆーくんは靖十郎と一緒。なんか波長が合ったのか意気投合したらしくて」


どっちも明るいし人懐っこいからなぁ、なんて思いを馳せつつ部屋につながるドアノブに手をかけた所で禪に名前を呼ばれた。

珍しく思いつつ振り返る。

 温度のない澄んだ切れ長の目が私を映していた。



「いないなら都合がいい。今のうちにわかったことを話すが時間は」


「シャワー浴びて着替えるだけだから平気だよ」



答えながら禪に近づけば古いアルバムのあるページを見せられる。


 写真が貼られたそれは卒業生名簿と呼ばれるものだった。

その中に見つけた“幽霊のゆーくん”こと『岸辺 友志』の文字が書かれたその写真は他のモノとは少し違っていて、数秒間だけど食い入るように見つめてしまう。

顔も、おそらく年齢も昨日であった時の彼のモノなのに、生気がない。


 違いの“理由”に気づいた私は直ぐに他のクラスの名簿も確認する。



「―――…一人だけ」


「ああ。一人だけだ」



何が、なんて言わなくても会話は成立した。


 自分の声が沈んでいるのがわかる。

苦くて重くて澱んだ気持ちがお腹の底にたまってくる、嫌な感覚を覚えて、思わず唇を噛む。



「在校中に死んでいるのは、彼だけだ。死因は事故とされていたが場所は『首吊り桜』のある場所だった。当時の新聞に載っていたが、発見者は男子生徒と他校の生徒」



これだ、と次いで出されたのはそれほど古くない新聞。


 西暦を確認すると三年前。

急く気持ちをどうにか抑えつつ視線を新聞へ走らせていけば、少しずつ状況がわかってくる。

 野球の練習試合の最中に他校の生徒と栄辿高校の一年生が友人を探していた所、発見されたと書いてあった。

勿論未成年ということもあってか発見者の名前はない。



「この発見者が当時一年なら今三年生だよね」


「新聞になっているくらいだから直ぐにわかりそうだな。調べてみるか」


「参考までにどうやって調べるのか聞いてもいいかな」



何時もなら“宜しく”で終わるんだけど、この時は少し気になって聞いてみた。

 禪は特に何のリアクションをするでもなく淡々と出した新聞や卒業アルバムを片付け始めている。



「基本的に教員から話を聞くことが多い。今回『正し屋』へ依頼していることや調査中であることは生徒に明かされていないから、生徒に聞いて回って噂になったら動きにくくなるだろう」


「生徒に聞かないならいい、かな。先生に聞いてわからなかったら調べなくても構わないから」



そう伝えて再びドアノブに手をかけた所で葵先生の言葉を思い出した。



「ねぇ、禪は昼ごはん食べた?食べてないならさ、一緒に葵先生の所にいこうよ。禪も一緒でいいって言ってたし、葵先生は協力者だから新聞の“生徒”のこと何か知ってるかも」



シャワー浴びてくるから葵先生の所に行くなら待ってて、と告げてドアを開けば後ろから短い肯定の返事が聞こえてくる。

 シャワーを浴びる準備をしながら、幽霊のゆーくんについて考える。



(なんだかあんまりいい予感はしないな……コインが順調に集まってるからかもしれないけど)



漠然とした不安を感じながら熱いシャワーを頭からかぶる。

全身洗浄を5分で終えて5分で着替えた私は、ハンドタオルを頭にかぶったまま執務室のドアを開けた。


 禪は厳しい表情のまま一枚の書類を眺めていたけれど、私に気づくとすぐに鍵の着いた引き出しに入れてしまった。




◇◆◇




 禪と共に葵先生のいる医務室へ行けば実に楽しそうなことになっていた。



封魔と靖十郎は楽しそうに二つ目のカップ麺を選んでいて、葵先生は手持無沙汰なのかすごい勢いで編みぐるみを作成している。

既に作成を終えたらしい狐とペンギンが何故か弁当の上に置かれていて、小さな違和感が凄い。



「優、お前は何食べ……か、髪くらい乾かしてこいよ!!」


「お?大体制服なのにジーパンとTシャツとか貴重じゃね?」



それぞれ好みのカップ麺を手に蓋を開け始めた二人に呆れつつ空いている場所へ腰かけると葵先生がコンビニ弁当を私と禪の前にいくつか並べ始めた。



「二人とも好きなの選んで。俺、全部好きな味だから選べなくてさ。真行寺院も遠慮すんなよ。成長期なんだから食えよ」



にかっと親しみやすい笑みを浮かべた葵先生に禪は真顔で小さく頷いて私の隣へ腰を下ろした。


 それから賑やかな昼食を終えて禪は緑茶、靖十郎と封魔はコーヒー、葵先生と私は紅茶を飲んで一息ついていると天井の隅っこから顔だけ出して暇そうにしているゆーくんと目が合う。

彼は嬉しそうに笑った後、少し考えるそぶりを見せて部屋から出ていく。

多分、私の部屋に戻ったんだと思う。


 隣でお茶を啜っていた禪はゆーくんが部屋から消えたのを確認してから静かに口を開いた。



「白石先生、伺いたいことがあるのですが」


「俺でよければ聞くけど、答えられるかどうかはわからないぞ」


「構いません。三年前には栄辿高校の養護教諭として働いていましたよね」



三年前というワードで一瞬葵先生が纏っている雰囲気が硬化した。

緩んでいた空気が途端に張り詰める感覚に思わず背筋を伸ばすと、葵先生がマグカップを置いて立ち上がる。

 先生は無言で仕事用の椅子へ腰かけ、数秒目を閉じていた。




「ああ、働いてたよ」



そう口にしながら目を開いた葵先生からは朗らかで親しみやすい雰囲気なんて感じられなかった。


 こちらの出方を用心深く伺うような“同業者”のソレにとても似通っていて、知らず知らずのうちに息を飲む。

焦れるような緊張感で喉が酷く乾いていることに気づいたけれど、葵先生から目を逸らせなくて、ただ、私はその場にいた。


 先ほどまで話をしていた靖十郎と封魔も口を噤んでいて静かだ。

チラチラと二人から“どうなってんの?”みたいな視線を向けられるけどそれに答える余裕はない。



「真行寺院が聞きたいのは新聞に載った事柄について、か。話すかどうか別にして、何故この事件――…いや、事故について知りたいのか聞いても?」



じっと真意を探る様に禪の瞳を見据える葵先生の声は真剣だった。

 禪はチラッと靖十郎と封魔へ視線を向けたけれど、直ぐに葵先生に向き直り、抑揚のない声で言葉を紡いだ。



「これから此処でする話は他言無用だ。親兄弟は勿論、先輩に聞かれても口にすることは禁止する」



守れないなら席を外すように、と平坦で抑揚に乏しい声が響く。

 明らかに封魔と靖十郎に向けられた言葉に二人は顔を見合わせたものの、結果的にその場に留まった。

それを見た禪は懐から二枚の誓約書を取り出し署名迄済ませてから、再び葵先生と向き直る。



「先ほど室内にいた浮遊霊の名前がわかったので調べた結果、三年前にこの栄辿高校に在籍していた生徒であることが確認できました。詳しく調べる為に当時の新聞などを探したところ『首吊り桜』がある辺りで当該生徒が亡くなっていることが判明。発見者が当校生徒と他校の生徒であることまではわかったのですが、それ以上の情報は得られなかったので教員に聞いた方が早いだろうと判断しました」



淀みない禪の説明を受けた葵先生は考えこみ、靖十郎と封魔は驚いた表情を浮かべている。



「尚、三年前より前に生徒の不可解な死亡例はありませんでした。今現在置かれている状況を打開するにはこの時の事件について詳しく調べる必要があると推考した為、こうして質問を」



じっと曇りも迷いもない禪のまっすぐな視線を隣で眺めながら思わず口からついて出たのは、どこか間抜けな響きの心の声



「……禪ってやり手の弁護士みたい」


「優、それ色々と台無しだから多分口挟まない方がいいと思う。葵チャン、脱力してるし」


「はっ!?ご、ごめんつい本音がうっかりポロッと!俺の事は気にせずにさっきの緊張感取り戻して」


「前から思ってたけど優はいっぺんフォローの仕方とか勉強した方がいいんじゃね?色々と台無しだろ。俺らでさえわきまえてんぞ?」


「ほ、本当に申し訳ないデス」



思わず小さくなって謝罪すると葵先生が大きく息を吐いて頭を抱えていた。


 ますます申し訳なくて体を小さく縮めた所で葵先生がゆっくり顔を上げるのが視界の隅に映り、顔を向ける。

そこには普段通りの葵先生がいて困ったように笑っていた。



「俺が知ってることはごく一部だけど、新聞に書かれていない“事実”も知ってる。ただ、あまり気持ちのいい内容ではないし当時も生徒には話さないよう口外禁止の指示も出されていたくらいだ。他言無用だし“直接本人に”訊くのも駄目だ。それが守れるなら話そう」



ふっと口元を柔らかく緩めて笑う葵先生はどこか愉し気で、つい先ほど見た先生は一体“誰”だったんだろう。


 日常の雰囲気の中に隠れている小さな非日常と、普段は見せない別の一面が表層に現れる時に今私が感じているような違和感を覚えるのかもしれない。




 ここまで目を通してくださってありがとうございます。

誤字脱字変換ミスなどの修正や加筆・文書構成の変更など予告も報告もなくひっそりさせてもらいますね…

なんというか、間違いが多すぎてどこ直したのかわからな…(殴

と、とにかく読んでくださってありがとうございました!


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