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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【 行きは良い良い 帰りは 】

 あれ?こんなはずじゃなかったのニナー。

みたいな展開。あれ、新キャラがいつの間にか…増えてる気が。なんでだ。


今回はちょっと息抜きの回。

次回は靖十郎と封魔が出る予定です。



 焦げた匂いだ、と脳が認識した瞬間だったと思う。



 ぬぅっと暗い空間で白いものが見えた気がした。


丸いそれは二つ並んでいて、それが“目”だと気づくのに時間はあまりかからなかった。

ぎょろりとした眼球に自分の顔が映っている。


 チュンの鳴き声が頭上から聞こえているけれど何処か遠い。

白い眼玉の次に見えたのは口――というか、歯だった。



『  ス    テ    いノ  ?』



 掠れたガラガラの声が白い歯とどす黒い口らしきものから発せられる。


知ってはいたけど、死ぬほど驚くと声なんて出ないんだよね。

毎回のことだから慣れたいんだけど…怖いものは怖い。


 ひゅうッと空気が体内に入ってきて、それから呼吸するのを忘れる。

じっとそれを見つめていると体がぐんっと後ろへ引っ張られた。



「っ……!?」



遠ざかる顔と焼却炉をぼうっと眺めているとお尻に衝撃とダメージを負う。

あ、でも霊刀を反射的に構えた私って結構偉い筈。


 若干思考がまとまらないまま、荒れ狂う心臓の鼓動をBGMに呆けていると頬にふわふわしたものが触れた。


驚いて振り返るとシロが私の顔に顔を近づけ、褒めて欲しいとすりすり。

どうやら後ろから引っ張ってくれたのはシロだったらしい。



「ッ…!!うあぁぁ、びっくりした…… ありがとうシロ。ってか何今の。怖すぎでしょ…!!」



今更になって震えてきた手足に反応鈍いな、なんて思いつつ立ち上がる。

 正し屋の実務見習いになった時だったら完全に腰抜けてたなーなんてボヤキながら、恐る恐る焼却炉に近づいてみる。



「チュン、もう中にいないかな…?」



焼却炉の上を跳んでいたチュンに聞いてみると、チュンは再び蓋の上に乗り、ひょいッと中を覗き込んだチュンは首を傾げるような動作をして一声鳴き、その中に飛び降りた。

 で、中から聞こえてきたチュンの鳴き声はどこか嬉しそうでコツコツと何かを突く音も聞こえてくる。



「―――…シロ、何かあったらまた引っ張ってね。流石に焼け死ぬのは嫌だし」



わふ、という力強い鳴き声に後押しされるように焼却炉を覗き込む。

 先ほどと変わらない暗闇ではあったけれど不気味な感じはなくって、本当にただ真っ暗なだけ。



「あれ。焦げ臭くない?気のせいだったのかなぁ」



念のためにと持っていたペンライトを取り出して焼却炉の中を照らせばチュンがこちらを見て首を傾げていた。


 目が合うと、小さく羽ばたいて焼却炉の排煙管っていうのかな?それと焼却炉のつなぎ目辺りで音がする。

見えにくかったので体の半分を焼却炉内にねじ込み、その場所を照らせば光がきらりと反射した。

目を細めると真新しいコインがテープで貼り付けられているのが確認できて、おもわず焼却炉の中で歓喜の声を上げる。



「あったぁああ!チュン、ありがとう。ほんと良かったもう今日は怖いのお腹いっぱいだから帰る誰が何と言っても帰る帰ってやる」



よしよしと頭を指で撫でてからその場からコインを回収し焼却炉から出る。


 やっと三枚目か…なんて思いつつコインを無くさないようにしっかり仕舞ってから時間を確認する。

時間的にも体力的にもこれ以上は難しいと判断して寮に戻ることにした。




(手順は間違ってないとは思うけど……念の為にプール確認しておこうかな。怪異の類って変化が激しいっていうか、一瞬で良くも悪くも変化すること多いみたいだし)




 来た道を戻ってプールの中を確認したけど、変化は特になかったから安心して「さぁ、帰ろう!」と勢いよく戸を閉めて振り返った瞬間に顔面を何かに強打した。

不意打ちだったのと想像以上の衝撃に再びお尻を強打した私は痛みに悶えながら何事かと顔を上げる。

そこには、驚愕の表情を顔に張り付けた学ラン姿の人物がいた。



「って……あれ?君ってプールで食べられそうになってた君」


『ちょ、何その名前…ッ!?すっげー不本意!トラウマ思い出させるような呼び名やめて!』


「ご、ごめん。あー、じゃあ名無しの浮遊霊君はどうしてここに?あんまりうろうろしてたら、穢れに見つかって捕まって食べられちゃうコースしかないよ?」


『う…ッ!そ、それは確かに…って、俺はこの学校から出られないから逃げたくても逃げられないんだよ!だから、チビの癖に強いお前の傍にいた方が安全かな~って考えた』


「チビは余計だよね?!そもそも、たった15㎝や20㎝でかいからって自慢すんな!う、羨ましいとか思ってなーーー……ん?この学校から出られないって、それ最近の事?」


『最近っていうか気づいたらずっとここにいた。死んだことはわかったけど、なんで死んだのかは思い出せないんだよ』



どこか飄々としている彼は透けてさえいなければ至って普通の生徒に見える。

着ている学ランの襟元には一年生を表す学年章があったから、顔だけ覚えて後で調べてみようと手帳にメモしておく。



「ダメもとで聞いてみるけど名前覚えてる?自分の」


『覚えてるけど…なんで』


「名前覚えてるなら比較的新しい霊ってことになるんだよね。例外はあるけど、基本的に浮遊霊の類なら時間の経過と共に忘れてくんだって。君は若いから寿命って訳でもなさそうだし…うーん?よくわかんないけど、とりあえず歩きながらでもいい?そろそろ眠いしシャワーも浴びたい」



 欠伸を噛み殺しながら歩き始めると彼も歩いて付いてくる。

時々確認するように肩や頭に触ってくるけど、まぁよくある反応だからスルーした。

幽霊って基本生きている人には触れないっぽいんだよねー。

 霊力が高い人とか相性がいいと触れられるみたいなんだけど。


 暗い校舎内を歩きながら幽霊だけど比較的まともな話し相手がいることで余裕が生まれる。

欠伸出てくる位だもんね、自分でも驚くくらい暢気だなーって思うけど。

 私の観察を終えたらしい彼は隣を歩くシロや定位置である頭の上に乗るチュンを珍しそうに眺めている。



「そういえば寮には近づけるの?」


『まぁ、近づけるけどあんまり惹かれないから入らない。野郎どもの部屋見て回ったって面白くないじゃん。エロ本にも漫画にも触れないし、いたずらも出来ない時点で入る意味ないじゃん』


「なんだって幽霊は悪戯したがるかなー……本気で心臓に悪いんだからやめなさい。見え始めた人とか心臓止まるかってくらいの衝撃だし。普通じゃないところから急に顔だすのとかホラー映画の見過ぎだって。幽霊になったら脅かさなきゃいけないって決まりはない筈だけど。ひっくり返して食べられなくなった料理の数々返せ」


『なんかごめん』



項垂れる幽霊と説教する私。

 見た目がグロくないこともあって靖十郎や封魔と話しているような感覚だった。


 非常灯の明かりって不気味だよねーなんて幽霊と話しながら校舎を出る。

雑木林に入った所で幽霊君が口を開いた。



『そういえばさ、なんでそんなもの持ってんの?』



それそれと霊刀を指さす。

 ああ、と刀を軽く持ち上げて首を傾げる。



「なんでって仕事だから。というか、ほんとに今更だね…ゆーくん」


『いやぁ、聞くに聞けなくって…―――ゆーくん?』



俺のこと?と自分を指さす彼に頷く。

ついでに幽霊だからゆーくんね、といえば彼は納得したようにうなずいて、直ぐに変な顔をした。



友志ゆうし。生きてた時の名前は岸辺きしべ 友志ゆうしだよ。だから驚いてさ…あ、別にゆーくんでいいよ。なんかしっくりくるから』



雑木林を歩く私の斜め前を“歩く”幽霊を視界に入れながら、木をすり抜けられるんだぞ!なんて自慢げに笑うちょっと能天気な幽霊と会話をする。



(どうみても普通の生徒なんだよな。死んでるから透けてるけど)



 短く切られた黒髪は跳ねていて、猫のような茶色の目から悪意は感じない。

口調も話す内容もクラスメイト達と大して変わらない。



(死因は病気、とかかな。でも不健康そうには見えない……っていっても死んだ後の姿だし参考にはならないか。血みどろのグチャグチャで出てこなかっただけ運がよかったかも)



「そういえばどこまで憑いてくる気?」


『もちろん部屋まで。あ、便所とか風呂は覗かないから安心して。俺、どノーマル』


「幽霊の性癖に興味ないから。憑いてくるのは大目に見ても同室者に話しておかなきゃいけないからできるだけ大人しくしててよ。あと、友達に視えるタイプもいるから驚かせないように」



 小さな諸注意をしながら、そっと割り当てられた自室のドアを開く。

禪が寝てる筈なので細心の注意を払って室内に体を滑り込ませたときの事。



『ッ……!!っ………!』


「なに?ちょっと静かにしてよ。ルームメイトが寝てたら起こしちゃうじゃん」


『ままま、まえっ!前…ッ!!』


「まえ?前っていったって部屋には机と椅子とベッドくらいしか………ひっ!?」



 ドアと向き合っていた体を正面へ向けた瞬間、全身からぶわっと脂汗がにじみ出るのを感じる。


 正面には凄い顔した禪が仁王立ちしていらっしゃいました。

高い身長と無駄に整った冷たい印象を与える顔立ちのせいで迫力というか威圧感が凄い。

 思わず、その場で飛び跳ねて正座で着地していた。体は正直だ。

隣にいたゆーくんも幽霊の癖にビビッて飛び跳ねて、私の隣で正座。幽霊も正直だ。




「どういうことか説明してもらうぞ」



一番温かみがある筈の室内灯が逆効果になって禪に凄みをプラスしていた。



「っひゃい!」

『ふぁい!』

わふん

ちゅん



裏返った私と幽霊のゆーくん、シロとチュンの声が同時に響いて傍から見るとどんな風に見えるんだろう、なんて現実逃避気味に考えた。


……すぐに現実逃避がばれて睨まれたけど。解せん。なぜバレた。




◇◆◆




 仁王像状態の禪に謝り倒してシャワーだけ浴びさせてもらった私は髪を拭きながら自分のベッドに腰かけた。



 タオルを頭にかけてゴシゴシと無造作に髪を乾かしつつ、横目で禪の様子をうかがう。

溜飲を下げてくれたらしい生徒会長様は私が見つけた三枚のコインをじっと観察している。

ベッドサイドテーブルに置いた時計は深夜零時を少し回った所だ。



「禪、少しだけ時間貰ってもいいかな」



声をかけると切れ長の目が私を見据え、無言で言葉の続きを促してくる。

禪らしい反応に小さく深呼吸してからタオルを取ってベッドから床に座った。

 床に座るとベッドに座ったままの禪がなんだかとても大きく、大人びて見える。

数秒、眼鏡の奥の瞳を見つめてから私は静かに誠意を込めて頭を下げた。


 唐突な謝罪をすることを申し訳なく思いつつ、その姿勢のまま口を開く。

正面からは驚いて息をのむ禪の気配と同じくぎょっとしているらしいゆーくんの動揺した声が聞こえた。



「―――…今回は本当に申し訳ありませんでした。協力者とはいえ未成年で本来守らなければならない立場の君を危険に晒してしまって……私の謝罪一つでは収まらないことも理解しています。診察費と必要でしたら慰謝料もお支払いさせていただきます。お金で解決できるとは思っていませんので、今回の件で後遺症のようなものがあれば『正し屋本舗』の江戸川 優が全責任を負います」



最後に額を床に擦り付けるように頭を深く下げて“誠に申し訳ございません”と謝罪の言葉を口にすれば数秒の沈黙ののち、盛大な溜息が返された。



「もういい。頭を上げろ、優。僕に同級生を土下座させて悦ぶ趣味嗜好はない」


「え。ないの?」


「………」


「ひッ!?ごごごごごめっちょっと本音がついぽろっと漏れただけで他意はないからっ!」


『すっげー、俺こんなガッツリ墓穴掘るやつ始めてみた』



パチパチと暢気に拍手するゆーくんと無言で呪符を構える禪の温度差に体を震わせながら土下座をしていると疲れたようにベッドに座り込んだ禪が私の肩を足を使って押し上げる。


 行儀悪いよ!って言いたい所だけど、禪らしくないその行動に驚いてされるがままコロンと尻もちをついたような姿勢に。

きょとんと禪を見上げると普段通りの無表情で私を見下ろしつつコインを返してくれた。



「ざっと封魔と清水、あと白石先生から事情は聴いた。また無茶をしたようだな…せっかく僕が治療したのに」


「ぐっ!か、返す言葉もありません」



項垂れる私に感情の読めない切れ長の瞳が向けられる。

 時々というか結構な頻度で思うんだけど最近の高校生って妙に大人びてない?

もうちょっとゆっくり大人になってもいいと思うんだけどな、おねーさんは。



「コインは残り三枚―――…『花壇』『桜』『屋上』だな?」


「う、うん。『プール』『ロッカー』『焼却炉』は終わったから。そ、それと分かったこと報告しておく。須川さんにも同じように報告してあるんだけど」



禪に夢の話やコインについて、あと今夜の調査について報告する。


 それを聞いた禪が少し考えるように目を伏せたんだけど、直ぐに立ち上がって隣の部屋から一枚の用紙を持ってきた。

どうやら校内の見取り図らしい。


 七つ不思議がある場所に印、穢れが大量発生した場所にも同じように蛍光ペンでチェックをつけていった禪はそれを見ながら恐らくだが、と前置きをしてある場所を指さした。



「次に穢れが集まるのは『花壇』か『屋上』だろう。集まった穢れは必ず処分して場を清めた方がいい。コインが回収できているから多少は弱まる、とは思うが断言はできない」


「え、あ、うん。今まで全部七つ不思議の場所だったしね。明日の夜は屋上に行けるように鍵は予め貰っておく。先に言っておくけど禪は来ちゃ駄目だよ、きちんと休んで。ただでさえワーカーホリック気味なんだから」


「――…お前に言われずとも理解している。あと、そこの幽霊の事はこっちで調べて置く。制服を見る限りこの学校の生徒で間違いないだろう。名前もわかっているし夜間調査までに情報をまとめてそこの机に置いておこう。それから―――……確認なんだが明日本当に封魔と清水を連れていくのか」


「明るい間だけ、ってことで約束したからね。遊びじゃないことも危ないことも伝えて二人とも“同意書”にサインした。夜は絶対に連れて行かないし、コインを探すことだけってことで須川さんからも了承してくれたから」



口をついて出た言葉は思った以上に突き放すような不愛想な物言いで、少し驚く。

 禪はただいつも通りの表情でじっと私を見ていたけれど立ち上がって部屋の電気を消した。



「あれこれ考えるのは後にしろ。一人で調査をしたなら疲れているはずだ」


「……うん」



突き放すようにも聞こえる淡々とした言葉と声色だったけれど気遣ってくれているのはわかったので大人しくベッドに入る。

ひんやりしたシーツとタオルケットに包まれると足元から疲れがじわじわと広がってきた。


 しぃんと静まり返った部屋の中に時計の秒針が動く一定で規則的な音だけが響く。

目を閉じるとそこには柔らかくて暖かいシロとチュンが寄り添うように私のベッドへ上ってきてそれぞれの定位置で寝る準備を整えた。


 ここで気づいたんだけど、空いギリギリ一人分あるだろうスペースにゆーくんが寝転がる。



「狭い。邪魔。暑苦しい」


『いやいや、ここクーラー入ってるじゃん。それに俺幽霊だし』


「幽霊って寝るの?」


『ううん。気分の問題』



なんだそれ…そんなことを呟きはしたけど、ゆーくんに避ける気はさらさらないようなのであきらめて眠ることにする。


 幽霊に添い寝って嬉しくもなんともないんだね、二十年は生きてるけど初めて知った。




「添い寝なら大福とかの方がよかったな…もちもちだし」


『え、俺食い物以下なの?うっわー。ってか俺だって添い寝するなら美人で巨乳なおねーさんがいい』


「(一応、おねーさんなんだけど)幽霊の癖に注文多くない?」


『幽霊差別はんたーい』


「………今すぐ口を噤んで眠るなら見逃してやる。眠れないなら強制的に眠れるよう手伝うぞ」


「すいませんでした」

『すいませんでした』



 禪から遠慮っていうか気遣いとか尊敬的なものがなくなってるような気がするんだけど気のせいだよね。



 ここまで目を通してくれてありがとうございます!

誤字脱字変換ミスなど発見したら直しますが、心優しいあなた。見つけたらこっそり教えてください。



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