【背負う責任と差し出される真心】
ようやく更新です。
新年初めての更新が混沌回。なぜだ。
ホラーもどきと残酷表現とシリアスと間抜けな感じがごった煮になっているので気を付けてください。
ロッカーに閉じ込められるという体験を通して知ったことがある。
薄い金属一枚隔てているだけなのに、自分が世界に独りぼっちになったような気がしてくること。
想像以上に音や気配に敏感になること。
(あと、長期間同じ姿勢でいるとすっごい体バッキバキで攣りそうになること)
死後硬直を生きてるうちに体験するならこんな感じなんだろうな、なんて考える私は絶賛というか現在進行形でロッカーの中だ。
救いの手であった筈の顔も知らない誰かがいなくなって数時間。
曇ってひび割れたガラス窓から差し込むオレンジ色の光はやがて光量を失って、室内を暗く染めていくみたいだった。
(にしても、できる限りの自衛はしてたはずなんだけどな。背後から不意打ちされたらどうしよーもないよね!最悪のこと考えて夜明けまでに帰らなかったら探してほしいってお願いしたけど)
葵先生なら間違いなく探してくれるだろうという安心感と確かな望みがあるから私は暗くて狭くて身の危険を感じるこの状況でも暢気でいられる。
首に、四肢に、胴に食い込む悪意と恨み辛みが連なっているであろう紐。
抵抗している時にゆるゆると締まっていく首に巻かれた紐は、いっそ一思いに絞め殺してください!って言いたくなるくらいに動きがない。
(って、あれ……?今、何か音がした…?)
視線はロッカーの隙間に吸い寄せられて、必死に目を凝らすけれど音の発生源は見えない。
一瞬気のせいかとも思ったけど音は確かに聞こえていた。
がり ガリ
がりがり
ガリッ
途切れることなく聞こえてくるのは“書く”音だった。
今の私からは見えないけれど、身を乗り出して隙間に張り付けばギリギリ見えるかもしれないと無理やり体を前方へ倒す。
ぐぐぐっと喉や手足に巻き付いた紐が締まって、ヒューッと隙間風のような音が喉から漏れていく。
そぉっと微かなロッカーの隙間に顔を近づけて周囲を窺えば、薄ぼんやりとした景色が見える。
暗闇に慣れているおかげで何となくわかるという程度だけれど、古い跳び箱や陸上競技用の道具、古びたボールに段ボール。
閉じ込められる前と変わらない配置のそれらを確認していると“彼”は部屋の隅っこにいた。
壁を隠す様に段ボールが置かれていた場所で一心不乱に何かを壁に書きなぐっているように見える。
残念ながら私から見えるのはその背中だけなので、何が書かれているのかわからないけど抑揚のない声で“なんで”とか“どうして”とか“許さない”とかまぁ、そういった類の音が漏れているのだけは何とか聞き取れた。
(何を書いてるんだろう…?確かあの壁に書いてあったのって………う、わ)
落書きの内容を思い浮かべようとした所で何かを書きなぐるような音がぴたりと止んだ。
思わず息を止めて様子を窺うと、妙に生々しい音が聞こえてきた。
グチュ
ゴリガリ ゴリュ
ピチャ ピチャ
肉を引きちぎる音と硬いものと硬いものが擦れ合ったり噛み砕く音は生理的嫌悪感をこれでもかと押し付けてくる。
「ッ……!」
漏れそうになった悲鳴を寸前の所で押しとどめる。
喉が奇妙な音を立てたけれど、視線は“彼”に釘づけだし、聴覚は無意味に研ぎ澄まされて小さな音も聞き洩らさないように音を拾い上げていく。
(須川さん須川さん須川さぁぁぁあん!これ無理無理駄目ヤバい無理だって駄目ですって勘弁してェえぇええ!!齧ってる!ごりっごり自分の指齧って壁に文字書きなぐるとかもうホラーだよ!ホラー通り越してなんかダメな奴!無理な奴!頭っていうか精神が崩壊しちゃうかもみたいなやつだから!須川さん私もう無理ですほんと無理です早く戻ってきてくださいぃいぃお祓い!給料一か月分いらないから全力のお祓いしてください絶対なんか憑いてるって私に憑いてる!須川さんがお祓いしてくれないなら雅さんか禪の実家とかに押しかけて修行僧にでもなってやるんですからねっパソコン使えるの私だけなんだからもっと重宝してください全力で頑張るんで!ッお昼寝も転寝も寝坊も居眠りも買い食いもしないように努力するんで今この場から私を攫い……あっ、れぇ)
ひくっと表情筋と喉の奥が引きつる。
彼は――…動きを止めていた。
光のない闇の中なのにはっきりと見える彼の姿に私は思わず顔を隙間から離していく。
万が一にも音を立てないよう全力で気を付けたからお約束的な物音はならない。
身じろぎ一つせずに黙っていると再び カリ という音が聞こえてきた。
ガリガリという音に変わるまであまり時間はかからなかったけれど、その事実に私は心底ほっとした。
(見つからなくてよかった…!文字通り手も足も出ない状態だもんね、私)
手足に食い込む紐は血流をそこそこ滞らせていてこれ以上動くと本格的にヤバそうだ。
今の私にできることといえばこのまま助けを待つことだけだろう。
ガリガリという音や時々聞こえる生々しい音に気が遠くなりつつ、天を仰ぐ。
「………」
で、私はここでようやく“探し物”を発見する。
(こ……コインあったぁぁぁああぁああ!!ロッカーの天上に張り付けておくとか趣味悪いってば!いや、趣味っていうか意地悪すぎでしょ!絶対気づかないって)
がっくりと全身の力が抜けた私は脱力感と達成感を同時に味わいつつ、不気味なBGMを子守歌代わりに目を閉じた。
いや、まさかそのまま眠っちゃうとは思わなかったけどね…自分でもびっくりしたもん。
正し屋に努めてから神経図太くなったなぁ。
……ロッカーで縛られて全身ミノムシ状態で寝るとか貴重だけど二度と経験したくない旨は報告書に書いておこう。
そう心に誓って現実逃避気味に睡魔へ意識と体を委ねた。
◇◇◆
グラグラと揺れる感覚で目を開ける。
寝起き独特の気怠さに眉をしかめた。
寝なおそうとしたところで私は聞き覚えのある声と見覚えのある色彩が目の前にある事に気づく。
「せぇじゅーろー…?」
「―――…ってマジで寝てたのかよ!嘘だろ…この状態で寝るとかありえねぇ」
しっかりしろよ、と言いながら怪訝そうな顔で何してるんだよ、と耳元でささやかれる。
近くで見て初めて靖十郎の耳と頬が赤くなってるのがわかった。
ロッカーの中にいる私の両肩に乗せられた手が体を揺すって起こしてくれたらしい。
覗き込むように私を見下ろす靖十郎を見上げてぽかん、と口を開けているとふっと顔をそらされた。
いつのまにか座り込んでいることにまず、驚く。
だって手足だけじゃなくて全身を縛られていて身動きもできなかったのに。
驚く私を見て靖十郎は不思議そうに首を傾げて…私の腕を掴んだんだけど、その手は直ぐにバッと手を離される。
「ッ…あ、ご、ごめ……って、優、お前その首と手首!あと、開けた時お前紐でグルグル巻きにされてなかったか?」
驚きつつ必死に首を縦に振ると“見間違いじゃなかったんだ”と呟いて真剣な顔で私を見下ろす。
「何を見たとか何があったのか聞いてもいい、よな」
一瞬言葉に詰まった私をみて一瞬靖十郎の瞳が揺れたけれど、逸らされることはなかった。
話せる所までなら、と俯いてボソッと口に出せば靖十郎はホッとしたように笑って私の腕を引く。
長時間同じ姿勢だったからか立ち眩みとも眩暈とも言えない感覚についていけなくて、倒れこみそうになった。
「っと!?優、お前マジで大丈夫か?あ、どこか具合悪いとか…?それならそのまま保健室に…――」
「っ……平気だよ!ずっと同じ姿勢だったから体が上手く動かな…………あのさ、こっから一番近いトイレってどこ」
「は?トイレ?」
何言ってんだ急に、というような怪訝な顔をされたけれど“助かった”実感と共に若干切羽詰まった状況にいることを認識する。
プレハブをから出た私がきょろきょろと周囲を見回して、グラウンドの端っこにトイレらしきものを見つけた。
(遠いけど、仕方ない、あっちまで可能な限り全力で…!!)
私と靖十郎のやり取りを見ていたらしい封魔が頭を掻きながら、呆れたような納得したような顔で非常口のドアを指さした。
「便所なら、そっから入って直ぐあるぞ。教員用だけどな」
「ッありがと、恩に着るよ封魔!二人とも先に寮の部屋に戻ってて!」
「え、あ、おう?」
戸惑ったような顔をしている靖十郎には申し訳ないけど構っている余裕は残念ながらない。
猛ダッシュで教えられた非常口を開けて飛び込んだ私の姿を二人が見ていた。
封魔の言った通り無事にトイレを見つけた私は駆け込んで何とか事なき終える。
「っはぁーーー……危なかったぁ。色々ぎりぎりだった。成人してからこんな風に切羽詰まったの初めてだ」
ため息をついて洗面所に備え付けられているペーパータオルで手を拭いてからトイレを出た。
丁度手元にハンカチがなかったから助かったなぁ。
非常口から外に出ると二人が私を待っていてくれた。
とっくに戻ってると思っていたので驚いていると靖十郎が笑いながら手を振って、封魔は軽く手を挙げている。
「待ってなくてもよかったのに……」
「お前から目ぇ離したらまたどっか行くだろ」
「いやいや、行かないってば。今回はたまたま…その、あんな感じになってただけで―――って、今何時?」
「―――…点呼まではまだ1時間あるな。ホレ」
封魔がスマホを見せて時間を確認させてくれたのでほっと息を吐いた。
(決壊してなくてよかった!決壊してたら靖十郎と封魔にはまず間違いなく見られてたってことになるし!……やだな、うん二十代にもなって決壊するとか)
「んじゃあ、戻るか。葵チャンも優の事気にしてたぞ。点呼前には戻れって言われてるしさっさと戻ろうぜ」
「ご、ごめん。じゃあ早く点呼前にもど…――――ああっとぉ!ごめん、ちょっと上着取ってくるから先に行ってて!あの中に忘れてきた」
返事を聞く前に素早く踵を返して古いプレハブに体を滑り込ませ、一目散に閉じ込められていたロッカーの扉を開く。
薄い扉を開けて直ぐに天井をチェックするとそこには張り付けられた例のコイン。
素早くそれを回収して、札が入っていない方のポケットに突っ込んだら置きっぱなしになっていた学ランの上着を回収し、古いプレハブから足を踏み出した。
一瞬ちらっと視線を向けたのは例の落書きがあった一角。
(後で写真を撮りに行かなきゃね)
何とか錆びついた入り口を占めた所で私を待っていてくれる二人のもとに駆け寄った。
靖十郎も封魔も寮へ向かいながら私が全身埃まみれなことに気づいて、先にシャワーを浴びるように注意された。
「で。お前自身はシャワーでどうにかするとして制服どーするんだ、お前」
「うぐっ!そ、掃除機とかで吸えばどうにかならないかな…?」
「なるわけねーだろ、おい、汚れた制服点呼後に俺んとこ持ってこいや。何とかしてやる。明日の夜にゃ乾くだろ」
「へ…?」
「優。安心しろって、封魔ただの掃除マニアだからナニかに使われるわけじゃないし、預けておけば綺麗になるよ」
そういうことなら、と戸惑いつつ頷けば怖い顔の封魔はにやりとどこか楽しそうに笑った。
二人の指示通り風呂に入って汚れた制服を袋に詰め込んだけど、ちゃんとお札やコインは回収して見つからないよう引き出しに。
大き目のTシャツと短パンを履いた私は、そのまま点呼に出た。
周りの同級生や先輩方に容体は聞かれたけど心配かけて申し訳ない、というような受け答えをしていると寮長にもして、点呼後靖十郎と封魔の元へ。
紙袋を差し出せば封魔は満足そうに頷いて楽しそうに部屋のクローゼットを開けた。
一瞬見えたクローゼットには見覚えのあるものからないものまで、色々な掃除用具やら洗剤やらが見えた気がした。
(なんか見ちゃいけないものを見た気分)
全力で見なかったことにしよう、と無理やり視線を逸らす。
もう少しちゃんとした格好に着替えようと自室につながるドアに手をかけた所で、点呼を終えた葵先生が近づいてくるのが見える。
「優ちゃん。朝食食べたら真っ先に医務室においで」
いいね?と普段通りの声色なのに断れない無言の圧力を感じ、私は必死に首を縦に振った。
私は知っている。
これ、断ったらダメな奴だ……と。
◇◇◆
お気に入りの紅茶なのに味がわからなかったのはこれが初めてだった。
カップを持ったまま冷や汗をかく私の前には真顔の葵先生と靖十郎と封魔。
どうしてこうなった、と視線をさまよわせながら助けを求めるようにお茶請けで出されたクッキーを一枚手に取って口に入れるけど…味はわからない。
「で…?何を一体どうしたら一晩ロッカーで夜を明かすことになるのかな」
我が上司様が私に向けてくるのと同じ属性の笑顔に自然と背筋が伸びる。
こういう時にイケメンオーラを醸し出すのは卑怯だと思います!と抗議できるような雰囲気ではないことくらいわかっているので、渋々口を開いた。
部外者ともいえる靖十郎と封魔に言えないのは“調査”をしていることだけだから。
「探し物を、してたんです。その、一応暗くなる前には戻る予定だったので葵先生にどこに行くかだけ話せば大丈夫かなぁーって思って。古いプレハブの中にあるのはわかってたから、その中を探してたんですけど……夕方になってきて、最後にロッカーの中を探そうとしたら…その、なんていうか」
姿勢を崩して、とそこまで口にした。
間違ってはいないけれど肝心なことは言っていない説明。
葵先生は“仕事”の事を知っているから納得したようだったけれど、封魔と靖十郎は私から視線をそらさなかった。
真っすぐに向けられる二つの視線から逃げるように顔を伏せると聞いたことのない低い靖十郎の声が医務室の白い空間に響いた。
「優、嘘つくなよ」
びくっと反射的に強張る体に青ざめる。
嘘は言ってない、と口にすればいいのにその一言が出てこない。
「っつーか、見くびんじゃねーぞ?優」
真っすぐに私を見つめる靖十郎と封魔の視線に耐えかねて葵先生に助けを求めるように視線を向けるけど、彼は何も言わずにコーヒーを飲んでいる。
雰囲気で何となくだけど三人が怒っていることだけはわかった。
何で怒っているのかはわからないけれど。
「俺も靖十郎もお前が何か隠したがってるのはわかってる。お前みたいな能天気な質の奴が必死になって隠すんだから余程の事なんだろォよ」
「……うん」
言えないんだ。
本当は話してしまいたいけど、二人の事だから禪みたいに手伝うって言いかねないから。
ただ、私は頷いた。
逸らしそうになる視線をどうにか二人に固定して。
「俺らにだって知られたくねェことの一つや二つ、あるし他の奴だって大なり小なりあるだろォよ。ましてこの半端な時期に編入してきた奴が訳ありじゃねぇってことの方が珍しいしレアケースだしなァ」
最もな言葉に私は唇をかむ。
封魔のがっしりとした大きな手が普段とは違ってキチンとセットされていない髪をどこか落ち着かない様子でかき回している。
「んで、だ。お前が前の学校で虐められてたとしても俺らはお前をそういう目にはあわせねぇよ―――…どんな、理由があってもな」
だから白状してしまえ、と封魔の目が私に訴えている。
私は視線をカップの中の赤茶けた液体に移してそこに移る自分の顔を睨む。
どうしよう、と考える私に靖十郎が口を開いた。
「俺と封魔がお前を見つけた時の状態考えたら“姿勢を崩した”だけじゃあ、あんな風になってるわけないだろ」
静かな声に葵先生が一瞬目を細めて私を見た。
葵先生にも話すつもりがなかったのを見透かされた気分だ。
「靖十郎。詳しくその時の状況を聞いてもいいかな」
「優は、ワイシャツと制服のズボンのままでロッカーの中にいました。なんか見たことのない赤黒くて赤紫にも見える変な紐で全身を縛られてて、腕も、足もそれ以外も。首にはその紐が掛かって、首吊りしてるような感じにも見えたので一瞬ロッカーの中で首を吊ったのかと思ったくらいです」
靖十郎の受け答えは“生徒”のモノで少し驚く。
目を見開いて固まる私を他所に封魔が続ける。
「俺からは首を吊る為の紐とぐったりした優しか見えなかった。ただ、うっすら首と手首が赤くなってたから俺が“視えなかった”だけなのかとも思ってる」
二人の話を聞いた葵先生に、笑顔を向けられて私は観念して事実を口にする。
靖十郎の前ではあまり言いたくなかったし、ただ単に思い出したくなかったって言うのもある。
「背を向けて閉じ込められたロッカーから離れようとしてたんです。そしたら、突然何かに引っ張られて、気づけばあのロッカーの中に。自分で出ようとしたけど体が動かなくて、驚いて手足を見ると紐が巻き付いてました。暗かったけど紐の色は靖十郎が見たのと同じ…筈です」
誰かが歯をかみしめる音が聞こえる。
ごめん、と誰に言うとでもなく心の中で謝罪をしつつ口を開いた。
「脱出しなきゃって思って体に力を入れた時―――…体中に、腕や手が巻き付きました。白くて冷たい手でした。血の気もなくて、触られた瞬間すごく嫌な感じがして――――…振りほどくこともできなくて、そのまま固まってたら、男の手が後ろから目隠しをするように顔を覆って耳元で声が。そこで意識が途切れたんです」
謎の生徒の事は言わなかった。
夢なのか現実なのかわからなくなっていたから。
それに、これを話してしまうのはダメだと勘の様なものが働いた。
「探し物についてはいえない、悪いけど。あと、隠していることについても、今は言えない。話せるようになったらちゃんと話すから……聞かないで欲しい」
私の体験を聞いて青ざめている靖十郎と思い切り険しい顔をしている封魔に先手を打つ。
これ以上は“仕事”にかかわるから駄目だ。
探しているものがコインであることを知られるのは不味い。
「靖十郎と封魔。あと、葵先生にも迷惑をかけたことは謝ります。これからはこういう風にならない様に気を付けるし…迷惑がかからないように今まで以上に注意する。だから…聞かないで欲しい、何も。代わりにもし今後、俺に何があっても―――放っておいて欲しい」
危なくなる、じゃなくて危ないのはもう間違いない。
靖十郎がプールで味わった恐怖を、禪が倒れた時のやり場のない喪失感を、閉じ込められた時の絶望を彼らに味わってほしくない。
(私は、この異常を解決するために此処にいる)
須川さんが不在で、協力者である禪が私のミスのせいで倒れてしまった今、私はもう自分以外の誰かをこの件にかかわらせることだけはしないと決めた。
「靖十郎にも封魔にも葵先生にも迷惑はかけたくない」
本当に怪異と関わるのはシャレにならない。
幽霊などと呼ばれるものであるならまだいい。
堕ち神になりかけているモノたちがうろつくこの学校で自衛手段のない彼らを守りながら解決することは、自分にはできそうにないのだ。悔しいけれど。
「一人で、解決してみせる」
恐怖は私の中に根付いて既に芽吹いてもいるけれど。
――――…依頼人を守るのは、私の仕事の一つで譲れない思いだから。
だからどうか、引いて欲しい。
君たちの為に。貴方の為に。私の、為にも。
ここまで目を通してくださってありがとうございました!!
誤字脱字などがあればちまちま修正していく所存であります!




