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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【ヒントは歴史の中に】

ちょっと短めではありますが、少しずつ紐解かれていきます。


……伏線がうまく回収できるのかどうか色々わからないのですが、がんばりますよー!

ええ、頑張りますとも。



 市立栄辿高等高校は歴史がある学校だ。




歴史の始まりは世界規模の大きな戦争が終結した際、この一帯の地主だった男が私財を投げ打って設立したことから始まっている。


 学校が建てられる前は別荘が建っていた、という記述があった。

住居として使われていたようで、一部の設備を残し校舎となる部分のみを新しく建設したらしい。



(だから、井戸があったんだ)



時代が時代だから女性の着ていたものは着物だろうし、戦争が終わった後ならば学生服が学ラン――…この時代なら詰襟なのも納得できる。

まぁ、上着映ってないから制服なのかもわかんないけど。



「白黒写真はこの年代のものだと仮定するとして、誰か亡くなってないか調べてみた方が良いよね。ええと、時代は……当時の新聞とか、図書館行かなきゃないかな?」



メモ帳に調べる年代とキーワードをメモしておく。

 次に井戸について調べてみようと思ったんだけど……井戸について知っている可能性があるのは、恐らく血縁者くらいだろう。



「神様をちゃんと抜いてるかどうか、だね。パッと見た感じ気配はないんだけどなぁ」



葵先生と一緒に行った時に撮ってあった井戸の写真を改めて視てみるけれど、普通の古い井戸の写真にしか見えない。

 神様がいる場所ってたとえ写真だとしても独特の感覚があるんだけど、ここはそういう感じがないんだよね。



「へんなの。まぁ、この学校ははじめっから変だったけど――…って、ん?この『提供資料』ってなんのファイルだろ。最近保存更新したっぽいけど」



どれどれ、と机に広げた校内の写真やメモ用紙、学校の歴史が書かれた学校史からパソコンの画面に視線を移して首を傾げる。

 手元に置いてあったマウスがずれ、ファイル一覧が表示されてた。

で、その中に妙なファイルがあったんだよね。



(日付と時間を見るに弄ったのは禪なんだろうけど…ファイルまでキッチリ用途別に分けてるのにこれだけ何用の資料なのか書いてないって珍しいなぁ)



一体なんだろう、と好奇心からそのファイルを開いてみる。

 あ、勿論生徒会とか仕事に関係ない内容だったらすぐに閉じるけど。


 カチカチとダブルクリックをしてファイルを開くと、ずらりと分かり易いようレイアウトされた文字通り“資料”が表示された。



「この学校歴史と被害者に関する情報……ッ!?え、うわ、最近の事までしっかり書いてある!っていうかこの書式欲しい!なにこれわかりやす…って違う、そうだけどそうじゃなくって!えええ、もう須川さん禪雇ったらいいんじゃないのかな?!私なんかよりずっと役に立…――― うん、自分で言ってて悲しくなってきた。一旦置いとこう、それがいい。凹むもん、スイーツ自棄食いしそうなくらい凹みそうだもん」



っていうか、学生である禪の方が着眼点良いってどういうことなの。

 創設当初から現在に至るまで年表になってまとめられたその資料をコピーしながら項垂れる。


(私、今まで何してたんだろーなぁ)


井戸についての調査はされてないけど、学校の歴史や被害者についての情報を一覧にするくらいは思いついてもいいだろうに。


 霊能力者はそういった調査をしない人が多いらしいけれど、須川さんは見えているにもかかわらず二重チェックという意味合いも兼ねて必ず何が起こったのか調べるのだと初めの頃言っていた。

 事務員として雇われていた時に何度も打ちこんで、時に手書きもしたことを思い出して何で忘れてたんだろうと唇をかむ。

無意識に禪が眠る部屋のドアを見てしまったけれど禪の気配は当然なくて。



「わたし、ホントに馬鹿だわ……」



 不甲斐なくて情けない自分。

腹を立てた所で事態は好転しない事だけは分かってるから、思い切り頬を両手で叩いて無理やり意識を年表に戻す。

 じんじんとした痛みと熱を持つ両頬に無視を決め込んで資料を読み進める。

時系列に並んだそれらを見て、私は眉を顰めた。



「怪我や事故はある、けど原因も交通事故とか自殺、か。頻度でいえば少し多いけど、まぁ……普通って言えば普通だよね」



細かく調べられた事故や事件、自殺などは怪我の重度にかかわらず細かく調べられて記載されていた。

 だからこそ、違和感が顕著になった。



「校長先生たちが依頼しに来たときにも聞いたけど、本当に三年前から…か。ノイローゼって話にしても学校でこう次々に生徒が死ぬってあり得ないから、この時期に何かがあって怪異が具現化し始めたのは間違いない」



夢の中で見た映像でも“死んだときの物”と断定できる映像はどれも新しくノイズも少なかった。


 次々にプリンターから吐き出される書類を手に取りながら、こういうことだったんだなぁと納得できてしまう。

小さく息を吐いた所で、全ての印刷が終わったのでファイルをUSBにコピペもしておく。

 依頼が片付いた後に使った資料とかもまとめて保存しておくんだよね…だから、学校史とかも全部デジカメで撮影してあったりする。



「食堂でチラッと先輩方に聞いたけど……三寮の内一寮だけ被害者がいないっていうのは、ここまで来ると偶然じゃない筈なんだけどなぁ。靖十郎の件もあるし何とも言い難いっていうか」



見本用としてコピーした書類をもう一部用意することにする。

 片方が原本として、もう一つは夜の見廻りでわかったことや夢について、気になったことを書き込むことにした。

 自分用の資料には須川さんに提出した報告書とメモ、記憶を頼りに書類に文字を書き足していく。

客観的な事実だけを抜粋書き込んでいるのに、最終的には結構な量になった。



「次は井戸についてか……うーん、こればっかりはどうしようもなさそうだけど…先生に聞くにしても教員って公務員だろうし知ってる人がいるとは思えないんだよね」



独り言を言いながらダメ元で葵先生に相談してみようと決めた所で何気なく壁にかかった時計を見た。



「ご飯食べてから続きだなぁ」



ふぅ、と息を吐いて簡単に食事を済ませるべく部屋に戻る。


 禪はまだ目を覚ます様子がなかったけれど少しだけ表情は穏やかになっていた。

目は覚めないとは思うけれど、すぐに食べられそうなお菓子とお水をベッドサイドテーブルに置いてから執務室へ戻る。


 行儀は悪いとわかっているけど口にご飯代わりのお菓子を放り込みながらあれやこれやと創設者の親族について探ってみた。

家系図なんてものは当然ないので、アルバムに乗っている教師の電話番号に片っ端からかけて見たけど出てくれる人は少なかった。


 ネットにつないで検索してみたり、学校の裏サイトなんかを見ても見たけれど関係がありそうなことはなくて頭から煙が出そうになりながら何とか数をこなしていく。



「あ。そういえば自治会長って色々な連絡先とか事情とか知ってるんじゃ…?」



学校のある地区には自治会がある。

 何気なく学校を含めた地域が記載されている資料を見た時にふと気づいたことだった。


 縁町にも設けられている地区の自治会で会長を務めている人は、『縁町の生き字引』とさえ言われる人だ。

歳は70代前半だが元々書物が好きな上に古書店をしていることもあって、かなり顔も知識も広い御仁だったりする。


 須川さんですら、年末年始の挨拶はその自治会長さんの元へ一番に挨拶に行くのだ。

普通は実家なんじゃ?と入社したばかりの頃に聞いたことがあったんだけど凄い笑顔で

「役に立たない人間に下げる頭も時間もありませんから」

と言われたことは今でも恐怖を凝集した心の引き出しにしまってある。


 まあ、そんな経験もあったのでダメ元で自治会長さんの所に電話をしたんだけど……これがビンゴだった。

思わずガッツポーズをとったのは言うまでもない。


 早速、ということで電話番号を調べてドキドキしながら繋がるのを待つ。

電話に出たのは高齢の男性と思われる人物だったんだけど、自分の所属している学校名と授業の一環で学校の事を調べているという旨で説明をすると丁寧に学校の歴史について知っていることを教えてくれた。



「それじゃあ、代々自治会長をされているんですね」



相槌を打ちながら話に耳を傾けていると、初めは面倒というか渋々といった風だったのが普通の世間話みたいに脱線を繰り返すうちに思いもよらぬ情報を教えてくれた。


 自治会長さんによると創設者がこの場所に学校を作った時、初めは周囲に“塾”だと言っていたそうだ。

塾、と周りに行っていたのにも理由があったらしくてそこの教師を務めていたのが創設者の幼馴染で想いを寄せていた女性だったという。


 女性は教育者に憧れていただけでなくその才能もあったらしい。

けれど時代が時代だった為女性教育者などは殆どいないどころか皆その日を生きるのに精いっぱい……そういった背景もあって、裕福だった創設者が手を差し伸べたんだとか。



『だがのぅ、校舎を建てた若旦那は既に籍を入れておったし、その教師と結ばれることは世間体的にも社会的にもならんかった。おまけに、若旦那と結婚していた女は良い所のお嬢様だったようで大層嫉妬深かくてプライドが高かったと聞いたことがある。校舎を作って、生徒たちを受け入れて他の教員も雇った辺りで、女教師と自分の旦那が幼馴染であることやらお互いに淡い恋慕の情があることに感づいてな』


「そ、壮絶な修羅場があったとか、ですか?」


『うむ。修羅場も修羅場……結局揉み消されたらしいんじゃが、女性教師は敷地内の井戸に投身自殺、旦那もその後を追うように自殺したと当時凄い噂になったと伝え聞いておる』



人の良さそうなおじいちゃんのしみじみとした声を聞きながら、脳裏によぎる白黒の映像。



(自殺、かどうかまでは分からないけどもしかして)



「あ、あの!女性教師ってやっぱり着物で授業とかしてたんですかね?それと、その当時の男性の服も着物が一般的だったり」


『当時の女子供は和服を着とるものが多かった筈じゃな。ただ、その若旦那は洋装を好んでいたとか……まぁ、時代の移り変わる時期でもあったからそう珍しくもないが』



妙なことを聞くのぉ、なんて小さく驚かれるけれどこっちはそれどころじゃない。


 十中八九、あの映像はその若旦那と女教師のものだろう。

二人が消えたのもきっと――――…

そこまで考えて、疑問がまた浮かんできた。



「あの、その井戸ってつぶされたりしなかったんですか?奥様が嫉妬深かったなら普通つぶしちゃったりしません?」


『そうそう!それなんじゃが、死んだ女教師と若旦那が息子の夢枕に立って井戸を残すようにと言ったらしい。ほかに、ほれ、その横に木があったろぅ?その木はその息子が二人に言われて植えたそうなんじゃが……結局二年ほど経った時に狂った奥さんが燃やしてしまったとか』



ここまで聞けば、私にだって理解できた。


 井戸は残されたのではなく壊せなかったんだろう。

二人が死んだのか殺されたのかはわからないけれど、発端はあの井戸にもある。

自治会長さんに念の為、井戸はちゃんとお祓いしたのかとか色々聞いてみたけどそういった話は聞いたことがないと言われた。



「そう、ですか。あの、突然長々と色々お伺いして申し訳ありませんでした」


『なぁに、暇な老人の昔話が役に立ってくれるならそれに越したことはない。最近の若者もこういったことを調べるんじゃなぁ……自分の住んでいる土地について調べるのはいいことじゃ。何か聞きたいことができたらいつでも電話しておいで』



優しい自治会長さんの言葉に丁寧にお礼を言って受話器を置いた。

 禪がよく座っている執務室の椅子に腰かけて背もたれに体重をかけた所でうーん、ともどかしそうな自分の声が響く。



「―――…井戸についてはわかった、かな。多分蛇の関係は井戸関連で間違いない。蛇は水の神様の使いだったり象徴だったりするわけだし。でもなぁ」



 思わず椅子の上で腕を組んで唸る。


七つ不思議が出来たのは、世間一般的に知られる『栄辿高等高校』が誕生してからだ。

これは禪のまとめた資料に記載されていた。

 多分、色々と学校に通っていた元生徒をあたってくれたんだろう。



「七つ不思議のベースには今でいう“イジメ”がある。別物、として考えた方が良いのかな?まぁ、別だと考えれば…井戸にコインがある確率はぐっと低くなる訳だけど、七不思議の七つ目の場所が井戸って可能性も無きにしも非ず……って、そもそも七つ目が造られたかどうかも分かんないんだけど」



どうしたもんか、と考えて、考えて…私が行きついた結論は至極簡単なものだ。


 スパッと立ち上がって散らかした資料をあった場所へ戻したり書類をまとめていく。

幸い、私が出した資料はあまり量がなかったからすぐ片付いたんだけどね。



「須川さんにも言われたけどコインを見つけることが一番っぽいし、ちょっと本腰入れて探そう!分かり易い所で……ロッカーとか。範囲がかなり限られる訳だし」



手帳に挟んだメモに印をつけて効率よく巡回調査の道順と滞在時間の目安を決めた。

 目標が決まればやることはおのずと決まってくる。

よし、と気合を入れなおして立ち上がった私は御神水やお神酒、清め塩、お札各種を創り貯めておくべく、必要な道具を取りに部屋に戻った。



…まぁ、流石に眠ってる禪がいる部屋で作業するのはどうなんだろうと思ったから、執務室でやったけどさ。





 ここまで読んでくださってありがとうございます!

誤字脱字変換ミス、あと辻褄合わせなんかで後々加筆するかもしれませんが…うん。そういう事態にならなきゃいいな。

と、とりあえず目を通してくださってありがとうございます!

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