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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
72/112

【体調不良】

久々の更新。

なかなか進みませんが、割と重要?な話かつ見せ場への足掛かりみたいな。

できるだけサクサク行きたいなぁ…中盤位に入ってるわけだし。



 また、変な夢を見た。



真っ暗で上も下も自分の体すらも認識できない空間。


ヒトもモノも景色すらも何もないその場所で、私はただ色々な“感情”を私ではない存在と共有していた。


 感情は色々な種類があって、単純ではなく複雑なのに言葉を伴わない熱や温度をもって私の感情と共鳴していく。

少なくとも私が日常生活で感じたことのない様々な想いや感情だった。


それらを沢山かつ大量に押し付けられて無理に理解させられていく感じ。


違和感と疲労感が仲良く私を押さえつけ、最後には何もない“無”に支配された。



◇◇◆



 どうしたものか、と考え込んでいた私の視界に影が射す。


驚いて顔を上げると心配そうな顔の靖十郎と何も言わずにじっと鋭い目つきで私を見据える封魔がいた。


チラッと見えた時計はもうお昼で、朝に一緒に食堂で食べようって話をしていたことを思いだして、うわ、と思わず声が出た。



「ご、ごめん!ちょっと考え事してて…」


「ふーん…?まあいいや、飯食いに行こうぜ!今日から5日間、肉祭りってのを食堂でやっててさ、なんか普段は出ないような奴が食えるらしい」


「牛・豚・鳥・羊どの肉が好きなのか食べ比べできる定食もあるらしい。限定じゃねぇから急がなくても食えるにゃ食えるが…急いだ方が時間は作れんぞ。その考え事とやらはあんま知られたくないようなことなんだろーが。んなん、時間に余裕がある時じゃなきゃ碌な考えも浮かんできやしねぇ」



だから、とそこで言葉を切った封魔がにやりと凶悪を極めたような笑顔を浮かべる。


 なんだ?と首を傾げつつ机の上を片づけて立ち上がって直ぐに浮遊感。

ついでに視点がグルンと変わった。



「はぁ…?!」


「おい、靖十郎走んぞ!」


「おうとも!……つかお前、マジで馬鹿力だよな。ふつーは同級を俵担ぎとか無理だぞ」



容赦ない上下の振動と耳元で聞こえる凶悪な風を切る生々しい音。


ついでにお腹の辺りに食い込む屈強でごつごつした肩もしくは筋肉に私は逃げようとか恥ずかしいとか思う前に必死になって落ちないよう、封魔の学ランを掴んでいた。


走り始めて数秒で舌を噛んだので口は開けない、動かない諦めるのコンボが最強だとこの数秒間で私は学んだ。

 荷物扱いで運ばれて辿り着いた食堂で心身ともに疲れ果てたものの、何とか昼食を胃に収めて購買へ。

そこで封魔にお茶を驕ってもらったから多少機嫌は良くなったけどきちんと釘は射して置いた。



「次からは絶対人を俵担ぎしない様に。どんだけ注目浴びてたと思ってんのさ。そりゃあ足は遅いけど走れるし、最悪先に言って待っててくれればいいのに。その方が席だって確保できるんだから」


「悪ぃ悪ぃ。なんつーか、ついな。まァ今度からは先に行って席確保する方向で考えるからよ」


「わかってくれたならいいけど。あ、それと俵担ぎは食後絶対やめた方がいいよ。あれ、丁度胃の辺りにかかる負荷が半端ないから」



頭から胃の内容物シャワー浴びるとか嫌だろーし、と小さな発見と共に警告すると隣を歩いていた靖十郎が



「そーなったら悲惨だよなー」

「だね」

「だなァ」



思わず足を止めた私たちは教室に続く廊下にいた。


 人通りの少ない道を選んでくれたらしく、人の気配はない。

背後の結構遠い所から微かにざわめきが聞こえる程度で、周囲は空き教室がずらっと並んでいる。



(昼と夜じゃやっぱ大違いだなぁ…静かなのに、怖くはないし)



ちらっと少し後ろを見ると楽しそうに何やら言葉のじゃれあいをしている同級生たち2人の姿。

 この二人がいるだけで随分と空気が違う、と思いながら苦笑した。


「―――…んで、優の考え事ってなんだよ?」


つい先ほどまで楽しそうに封魔と話していた靖十郎が何でもない風を装って私を見ていた。

口調や表情は普段通りなのに目だけは妙に真剣で、なんだか私の知っている靖十郎らしくも高校生らしくもなく見えた。


 隣でやる気がなさそうに欠伸をかみ殺している封魔も私の答えに耳を、意識を済ませているのは空気で、肌でわかった。

ほんの少し真剣みを帯びて引き締まった空気に私は迷ってしまって…その所為で、誤魔化すことができなくなったことに気づいて内心、唇を噛んだ。



「…あー、っと…その、左手がちょっと調子悪くて」



言うつもりなんてなかった。


 でも、自分の失態の所為で口にするしかなくなって、やけっぱち気味に苦笑して“考え事”について話した。



「調子悪いって、怪我でもしてんのか?」



不思議そうに首を傾げた靖十郎に私は曖昧な笑顔を浮かべるしかできない。


 何せ、なんでこんなことになってるのかイマイチわからないのだ。

学ランの上着を脱いでYシャツの長袖を捲り上げる。

夏用の薄いYシャツとはいっても念の為に学ランを着てるからかなり暑いんだけど、色々身バレするよりはまだマシな筈。



「パッと見何かあるって感じはしねーけどなァ…どれ、ちょっと触るぞ」



興味なさそうだった封魔が私の腕を掴んで、まるでやけどでもしたかのようにパッと手を放した。


少し驚いたものの、痛みはなくて掴まれているという感覚は鈍く、目にしてなかったら掴まれてる事すら気づかなかったかもしれない。



「優。お前、重度の冷え症とか言わねぇよな」


「え?冷え症ではないけど…そんなに冷たい?」



突然何を言い出すんだろうと思いながら封魔をみるとふざけている訳ではないらしく真剣な顔で私の左手を睨みつけるように眺めていた。


 靖十郎も封魔の反応を見て恐る恐る、私の手に触れたけれど結局触ることなく動きが止まる。



「靖十郎、すっごい鳥肌立ってるけど…大丈夫?」



さっと青褪めた靖十郎に慌てて顔を覗き込もうとしたまでは良かったけれど、そんな私の意識を引き戻すように低い封魔の声が響く。



「―――…葵ちゃんのトコ行くぞ。優、お前、ソレやべぇだろ」


「保健室は授業が終わってから行くよ。利き手じゃないしノートとらないと」


「馬鹿かお前。んなもん、誰かの写せばいいだろォが!なんかあったらどーすんだ!」



チッと乱暴に舌打ちをして私の右腕を掴み、迷うことなく廊下を進んでいく大きな背中と重力に逆らってツンツンと上を向いている濃赤の髪。


 痛くはないけど抜けられないような絶妙な力加減で腕を引かれている以上、足を進めることしかできなくて絶対的なコンパスの差に絶望しつつ足を動かした。



(あー…これは不味ったなぁ。軽く流されると思ったんだけど)



最近の高校生は友達思いなんだな、もっとこう、着かず離れず?みたいな感じだと思ってたんだよね。


 小さく息を吐いた私の後ろから慌てて走るような靴音が聞こえてきたので首を捻って視線を向けると、険しい表情の靖十郎がいた。

私と目が合うと一瞬気まずそうに眼を逸らしたんだけど…すぐに追いついて私の横に並んだ。



「優、お前さ…俺を助けた時とかに何かされた…とかじゃない、よな」



あの黒いヤツに、とと封魔に聞こえないよう調整された声に驚いて目を見開けば靖十郎が悔しそうに目を伏せるところだった。



「嫌な感じがするんだ。ソレ、絶対ヤバい。たぶん、葵ちゃんじゃなくてお祓いとかそういうのしなきゃ駄目なやつだ。優も何でこんなになるまで気づかなかったんだ…?こんなん絶対気づかない方がおかしいだろ…っ」


「ちょっと前から指が動かしにくいかなってくらいだったし、放って置けば治るかなーって考えてたんだ。流石にここまでなると拙いかも、って思い始めたけど」


「死にかけた俺が言うのもなんだけど優はもっと自分を大事にしろよ。俺、除霊とかわかんねぇけど、寺とか神社で祓うのが一般的なんだろ?」



教会ってのも似たような機関なんだろうけど、日本にいる幽霊って多分日本式で祓う方が効果高そうだし。


 なんて真剣な顔で悩んでくれている靖十郎に感謝と癒しを感じつつ、近くにある神社を思い出してみるけれどイマイチ相性はよくなさそうだ。



(そういえば霊視してなかったけど、一応しておいた方がいいのかな?ただの筋肉痛とか腱鞘炎とかの酷いのだとばっかり…霊刀使ってるし、事務仕事も結構多い…って待てよ)



「腱鞘炎とかってさ、やっぱ利き腕だよね」


「たぶんそうなんじゃねぇ?腕の使い過ぎってやつだろ、腱鞘炎。でも、そーゆーのってすっげー勉強してるヤツとか腕に負荷がかかる仕事してる人がなあるものなんじゃないのか?優ってなんの部活もしてないじゃん。それに勉強もしてる感じがあんまりしない気が…大体授業中寝てんじゃんか」



痛い所を突かれて口ごもった私に靖十郎は呆れたように私を見下ろした。


半目になってるあたり心の底から呆れてるんだろうな、ということだけはしっかりばっちり伝わったよ。

嬉しくないけどね!


 そんな会話をして廊下の端、階段を降りたところで今まで黙って前方を進んでいた封魔がかなり怖い顔で振り返る。

眉は思いっきり顰められ、鋭い紅色の瞳がじろじろと遠慮なく私と封魔の全身を眺め、暴力上等みたいな迫力を醸し出しながら一言。



「腱鞘炎はともかくとしてお祓いって…お前ら一体何の話してんだァ?」



迫力はあるけれど、その口調は茶化している訳でも馬鹿にしている訳でもなくて、思わず私と靖十郎は顔を見合わせる。

 封魔の視線は私の左腕で固定されていて動かない。



「優の腕、たぶんだけど“お祓い”とかじゃなきゃよくならねぇと思うって話。周りには言ってなかったけどさ、俺…ガキの頃から“視える”んだよ。時々だけどな」



開き直った様な、でもどこかつっけんどんな言い方に封魔は驚いたように目を見開いて、何故か何度か軽く頷いて納得したようだった。


 これに驚いたのは私と靖十郎だ。

封魔がこういうことを信じてくれるようなタイプには到底見えなかったから。

私達の表情をみて封魔は小さく息を吐いて目を細める。



「―――…靖十郎も優も、時々何もない所を見て固まったり、青褪めたり、急に視線を逸らしたりすんだろ?なんかの漫画で読んだんだよ。自分から言いふらして目立とうとしてる訳でも、それ系の知識話して回ってるとかでもねぇから、たぶんマジで見てるんだろーけどなァ…とりあえず、なんかの病気で手遅れにでもなったらヤベェし見てもらうだけ見て貰え」


「てか、優も見えてたのか?!」


「…う、うん。ごめん、なんかその、言うタイミング逃して」



正直な所、靖十郎や封魔に気づかれるとは微塵も考えてなかった。


取り繕う様に笑顔を貼りつけたものの、ジワリと得体のしれない焦燥感が体の奥でくすぶり始める。

 私にも霊の類が視えると知った靖十郎はどこか嬉しそうだったけれど、封魔は不可解そうに首を傾げていた。



「どしたの、封魔」


「いや、お前そーゆーの視えるんなら自分でわからねぇのか?」



保健室へ向かう足を止めることなくずんずんと進む封魔の背中を眺めながら、どうしようかな、と一瞬考える。

 行っても差し障りない事と言えば自分に関する、ほんのちょっとのことくらいだから。



「―――…ごめん、自分の状態って把握できなくて。流石に死にそうになればわかると思うんだけど、まだ死んだことないからそれもなんとも言えないんだよ。色々教えてくれた人に相談だけはしてみるけど、忙しい人だからどうかなぁ」



 正確に言えば、私の霊的な認知能力がかなり限定的で鈍いからわからないだけなんだけれど、それを丁寧に説明するのはどう考えてもおかしいので曖昧に、それでいてそれっぽく聞こえるように言い換えた。


 呪いや祟りの類に耐性があまりない私の体は割と影響を受けやすい、というのは上司様の見解だ。

頼りになる上司様も今は別件の、恐らく“十二月祭り”の関係で傍にはいないし、自力解決もしくは戻ってくるまで耐えるしか選択肢はない。


 悩んでいる間に、私たちは保健室に到着した。

ノックもなしにガラッと引き戸を開けた封魔に驚きはしたものの、中にいた白衣の人物は机に向かっていて何かを書いているようだ。



「開けるのはいいがノック位しろよー、社会人になったらその辺うるさく言われるんだからな」



やれやれとため息の混じった声とため息。


そして保健室独特の薬と消毒液の匂いに自然と肩の力が抜ける。

 書類を封筒にしまいながらくるりと椅子を回転させて入口に視線を向ける葵先生はどこか疲れているようで、対応が若干おざなりだ。



「なんだ、封魔か。悪いけど昼寝用のベッドは貸してやれないぞー。ついでにあと20分で授業も始まるし教室に戻れよー」


「あー、患者は俺じゃなくてコイツだよ、コイツ。なんか、左の腕が調子悪いんだと」



見てやってくれ、と引いていた腕を強く引かれた私はバランスを崩して思わず封魔より前に出てしまった。

どうやら図体のでかい封魔越しでは気付いていなかったらしく、封魔に並ぶように立った私を見て葵先生はとても驚いているようだった。



「忙しそうなのでまた放課後に来ます。授業もあるし、早く教室に戻ろうよ、二人とも」



葵先生が呆けている隙に方向転換してぐいぐいと封魔の腹辺りを押す。


 …しっかりした腹筋にちょっと嫉妬しつつ、靖十郎と封魔を保健室から追い出して自分もドアに手を掛けた丁度その時だった。

 影が射して、思わず上を仰ぎ見ると真剣な顔で私を見下ろす葵先生と目があって。



(あ、やっぱイケメンだこの人)



「封魔と靖十郎、江戸川は次の授業には出られないと…いや、今日の授業は早退ということで伝えておいてくれ。悪いな、頼んだぞ」


「別にそれはいいけど…優、そんなに悪いのか?見てもいないのに」


「ああ、いや…心配はしなくていい。江戸川にも検査を受けてもらうことになったんだ。ほら、靖十郎を助けるのにプールに飛び込んだり、身体計測とかもまだだからな。ついでだから一気に済ませようってことにしたんだよ。ま、心配すんな。念の為、食事は部屋で食ってもらう。前の学校の絡みで色々あるんだ、気にはなるだろうがこっからは個人情報になるから勘弁してくれ」


「―――…ま、その辺は俺らも深く突っ込む気はねェよ。頼んだぜ、葵チャン」



 いくぞ、靖十郎。

それだけ言うとさっさと靖十郎を引っ張って保健室を後にする封魔に違和感を覚えたものの、私としては下手に詮索されるより助かるので有難く見送った。


 ばいばーい、と呑気に右手を振っていると、ガシッと手を掴まれる。



「……ひぇっ?!」


「とりあえず、優ちゃん。座ろうか?」



逃がすものかと言わんばかりの笑顔に私は思わず引き攣った笑みを浮かべる。


 高身長のイケメンに見下ろされるのは中々に迫力があって、ぶっちゃけ怖い。

腕を引かれたまま連行されたのは、白いベッドの上だった。

しかも壁際の一番人目につかない所。


 真面目な顔でバイタルチェック用の血圧計や体温計などが入った入れ物を持ってきた葵先生に観念して、学ランをベッドに置く。

ガチャリ、とドアの鍵が閉められる音が聞こえてきた気がするけれど、たいした問題ではない筈。


うん…色んなことがばれないようにしてくれただけだと思っておく。




◇◇◆




 ため息と共に使った血圧計や体温計などを戻していく葵先生を眺めていると目があった。



困った様に眉をハの字にしている葵先生を見て、なんとなく悟る。

ベッドに横たわったまま視線を下ろせば指先から肘まで力が上手く入らない上に感覚が殆どない左腕が目に入った。



「病院に行って詳しく調べないとわからないけど、俺の方で調べた限りでは“何の問題もない”よ」


「あー…実は靖十郎にもお祓いに行けって言われてたので、なんとなくわかってたんです。こういうことって“仕事”していれば比較的あることだし、動かなくなったり感覚なくなる程度で苦痛が伴ってない分かなりいい方ですよね」



分かっていた結果にやっぱりなーと苦笑している私を見て、葵先生は苦痛を耐えるように眉を寄せた。

 そんな顔をして欲しいわけじゃないんだけどな、と思いつつ心底左腕でよかったと思う。



「ま、とりあえず須川さんが帰ってくるまでは待ってみますよ。ええと、大体5日くらいで戻ってくるって言ってたので後…4日死ななければ何とかなります」



安心してください、という意味を込めて動く方の手でガッツポーズを作ってみるものの葵先生の表情は晴れない。



「須川先生が戻ってきて、確実に治るという保証は?」


「ないですけど」


「っ…その、原因に心当たりはあるのかい」


「これ、かな?っていうのはあるんですけど…それが正解かどうかは分かんないですね」



原因は枯れ井戸付近でキーホルダーの探し物をした時に出来た怪我だろう。


 その後に指が動かしにくくなったりしているし、妙な夢を見る機会も増えた気がするから。

毎回夢の内容は覚えていないものの今日みた夢だけはなんとなく覚えていた。

須川さん曰く調査中に見た夢は何かしら依頼に関係あるものが多い、って言っていたし一応メモ程度に記録は残している。




「――…ねぇ、どうして優ちゃんはそんなに普通にしてられるんだ?」



死ぬかもしれないのに、と言葉にはなっていなかったけどそのくらい察する能力はある。

 言われてみて、そういえば、と考える。



(美味しいものが食べられなくなるのも、今の生活がなくなるのも嫌だなーとは思うけど、不思議と恐怖がないんだよね。なんだろう、麻痺でもしてるのかなぁ)



悩みつつも何とか言葉をまとめて真剣な顔をしている葵先生の目を見る。


…くそぅ、無駄にイケメンなんだから。

ちょっと気恥ずかしいじゃないか。



「正直、実感がわかないのか怖いっていう感情がないんですよね、今のところ。たぶん、だけど仕事柄“死”と近い場所にいるから慣れとかある程度の経過が分かるから、動揺してないのかもしれないです。あと、痛みもないから余計現実味がないっていうか」


「“俺”に対して恨んだり責任とれとかっていうのはないの?俺が一緒にキーホルダーを探してほしいって言わなければ怪我もしなかったし、こんな事態になってなかったのに」


「?葵先生って変なこと言いますよね、時々。探すの手伝うって決めたの私なのに何でそこで葵先生を恨んだりしなきゃいけないんですか?え、もしかしてそういう系統の人間に見えます?」



それだけはちょっと嫌だなーと思いつつ半目で睨めば葵先生は動揺しているのか、いや、だのその、だとイマイチ要領を得ない言葉を発して、視線をさまよわせている。


 で、少しだけ黙り込んだ後、申し訳なさそうに頭を下げた。



「ひ…っ!?ちょ、何してんですか!イケメンに頭下げられるとか新しいタイプのお仕置きとかですか?!」


「え、お仕置き…?いや、そうじゃなくて…その、今まで優ちゃんみたいなこと言ってきた女っていなかったから、そういう風に言われる可能性を微塵も考えてなくて…流石に申し訳なくなったというか、俺みたいなのでも良心が痛んだというか」


「…葵先生って女運なかったんですね、大丈夫、きっとこの先素敵な女性が現れますよ。どんまいです。ほら、葵先生顔良いからいくらでも釣れますって」


「俺何で慰められてんだろ…いや、いいけどさ」



可笑しいな、なんてぼやきながら頭を抱えている姿を眺めながら私はこっそり安堵の息を吐いた。


 葵先生から申し訳なさそうな、痛々しい者も見る様な表情と気まずそうな居た堪れなさそうな雰囲気が消えたから。


 安心しつつ、改めて保健室の中を見回した私はどうしたものかと考える。




「えーと、一応須川さんに連絡が取れるなら現状報告だけお願いしてもいいですか?私の方は私の方で出来ることをやるつもりです。封魔たちの指示を聞く限り、この後寮の部屋で待機…ですよね?」


「そのつもりだよ。期限は須川先生が戻ってきて判断するか、腕がよくなるかの二択。生徒との接触は生徒会長でルームメイトの真行寺院だけって考えておいて欲しい。靖十郎や封魔も大丈夫だと思うけど“関係者”じゃないしな」


「です、ね…うん。申し訳ないけど“生徒”が怪我するかもしれない状況に巻き込むわけにはいかないですから。“仕事”しにきてる私が迷惑かけてる時点でどうなんだろうっておもわないでもないですけど…っていうか確実に駄目なやつですよね、これ」



うわぁ、と頭を抱える私の脳裏によぎるのは過酷というか苛烈な修行と同行業務の経験達。


 時々夢に出てうなされる程度には酷い記憶です。

マジ勘弁。

 いや、流石に同行業務には慣れたけど、修行は全力で拒否するよ。

いくら美味しくて希少で滅多に手に入らない甘味やら御馳走を目の前にぶら下げられても……多分、拒否できるはず。


 うんうん頭を抱えて唸っていた私は抗いがたい眠気を覚えてそのまま眠ってしまったらしく、目が覚めた時には寮の自分のベッドの中だった。



時計は点呼が丁度始まったくらいの時間。



 体を起こそうとして、物凄い倦怠感と悪寒に気づく。

詳しい状況が全く分からないけれど、自分が今あまりいい状態ではない事だけは十分理解しているつもり。

ついでに言えば左の肩から下が動かないし感覚もない。



「ど、どうしよう…夜の調査」



ぽつりと呟いた声は広く静かな部屋の中で溶けていった。

まぁ、返事を返してくれる人もいないわけだしね…返事返ってきたらきたで怖い。




ここまで読んでくださってありがとうございました!

じわじわーっと頑張りますのでお付き合いいただければ。

…いつ書き終わるんだろうか、これ。

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