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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【幕間 歪な想い 】

眼鏡上司こと須川目線の小話です。


本編のちょっとした息抜き…にはならないか。

結構やばい上司とまともな腐れ縁系同業者。




 最後の授業を終えた須川は前もって説明していた校長と教頭にもう一度説明をした後、校舎を後にした。




 高級スーツに目立つ髪色も手伝って、時折視線を感じはするが呼び止められることもないので待ち合わせ場所の校門へ向かう。

校門の前には一台の見覚えがある車が止められていたので無言で後部座席へ乗り込んだ。

 適度に冷房が効いた車内に小さく息を吐き出すと前方から見慣れた腐れ縁の男がバックミラー越しに自分の様子を窺っている。



「―――…言いたいことがあるのならどうぞ」



口をついて出たのは思ったよりも温度のない声だった。

背もたれに背を預けて目を伏せるとすかさず想定していた問いが投げかけられた。



「あー…その、嬢ちゃんは大丈夫なのか?」



加速する車のエンジン音にかき消されてしまいそうな声量にこの男らしくないとどこかで想いながら偽らざる言葉をそのまま口にした。



「大丈夫、というのは?」


「いや、だから…今回の案件を任せて、って意味合いと単純に何の影響もないのかって意味でだ。まぁ、お前が任せたんだから大丈夫だとは思うが」



ただなぁ、と忌々しそうな声に言いたいことは十分伝わってくる。


 この男が危惧しているのは『巡り屋』がこの件に関わっているからだろう。

他にも心配はいくつかあるようだが、見抜く力は相変わらずあるようだ。




「――――…大丈夫、ではないかもしれませんね」



普段なら曖昧にぼかす言葉を吐く。


 それはまるで自分に言い聞かせているようであった、後になって気づいた。

 私の言葉を受けて、一瞬のうちに車内の温度がぐっと下がる。

私に向けられる敵意にも似た怒りや戸惑いの感情はこの男…黒山 雅らしいと数多の片隅で想う。




「ッ大丈夫じゃねぇなら、お前が抜けんのは不味いだろうが!っくそ、戻るぞ!」


「雅。戻ることはできません―――…わかっているでしょう。十二月祭りは何があろうと実施しなければならないのです。私以外に儀式を行えるものがいないのですから…優先度を考えるとこちらが優勢…幸い、祭りは明後日です。早ければ…そうですね五日後には戻れるでしょう」



淡々とわかりきった予定と事実を告げると苛立たしげに舌打ちする音が聞こえてくる。


 彼の性格からすると今回のこの事態は非常に腹立たしいモノなのだろう。

わからないでもないが、部外者であるこの男がこれほど苛立ちをあらわにするとは思わなかったので少々驚いた。



「おい、須川。お前なんでそんな平然としてやがるんだ…!アイツ等の妨害でどれだけの…!」



嫌悪感を隠しもせずにかみついてくる男は相変わらずだ。


 冷静さを失うことは以前より少なくなってきたものの、すぐカッとする癖はもはや悪癖だと何度注意したらわかるのだろうか。



「落ち着きなさい。今回の妨害は大したことありませんよ…関わっているのは未成年で知識はあるようですがまだまだ未熟。まぁ、人を殺める力はあるようですが“上”からの指示は我々を狙ったものではありませんからね」



解除のヒントは既に与えてある、とそこまで口にすると多少頭が冷えたのかバツが悪そうに黙り込んだ。


 しばしの沈黙の後、口を開いたのはやはり雅だった。

依頼の内容を他者に漏らさないのはわかっているようなので詳しいことは聞いてこないが気にはなるのだろう。



「ん…?それなら何でお前は大丈夫じゃないなんて言ったんだ?」


「―――…既に穢れをその身に取り込んでしまったようなので。恐らく、数日中に何らかの影響が現れるでしょう。対処法を誤れば死へ直結するでしょうし、何もしなければ間違いなく依頼を解決する前に彼女は肉体を失うことになります」



言葉にすれば想像よりも冷たい響きを纏っていたことに少しだけ驚いた。

 妙にそれが可笑しくて目を開けると射すような視線をバックミラー越しに向けられていることに気づく。



「何んで笑ってられるんだ、お前はっ!自分の部下だろう?!お前、部下が死ぬかもしれないって時に…ッ」



憤りを隠しもしない、怒りを隠しもしない腐れ縁の男が少しだけ羨ましく思えた。



(私には…そういったことはできませんからね)



ぼんやりとそんなことを考えていると雅がいよいよ本気で学校へ引き返そうとしているのが分かりため息を吐いた。



「どこへ行くつもりなのです」



静かな声にさらに苛立ったのか声を上げる。



「…学校に戻るんだよっ!おい、嬢ちゃんを引っ張ってこい!」



響くような声は他の人間であれば怯えや恐怖を覚えるものなのだろうな、などと分析をしつつ首を振る。



「できませんね。それでは彼女の為になりません…彼女の傍には“真行寺院”の後継者がいます」



この一言でぴたりと雅が動きを止める。


 これ以上の事は言えない、と口を閉ざせば雅はしばらく黙りこみ黙ってハンドルを握る。

車はまだ動かない。


 けれど“真行寺院”というこちらの筋では有名な家名が出たことで察したらしい。

他力本願極まりない、私の思惑を。



「ッお前な…その賭けはいくらなんでもやりすぎだろうが!嬢ちゃんが死んじまったらどうするつもりだ?」



恫喝ともいえる言葉に私は思わず口元が緩む。

 何を言うのだろう、と私の中でわかりきった答えを口にする。



「ああ、それは大丈夫ですよ。万が一、彼女が死んでしまったら―――私の“式”にするつもりなので」




簡単なことだ。


死んでしまっても“式”にしてしまえば肉体は失ってしまうかもしれないが“彼女”は“彼女”のまま存在できる。


 彼女の姿を見ることができるものは少なくなるが、それでも従業員として、いや、それよりももっと親しい者として傍に置いておけるのだ。


 彼女がどう思うのかまではわからないが、言いくるめてしまえばどうにでもなるだろうと改めて考えていると雅の反応がないことに気づく。


 頭でも湧いたのだろうかと運転席に視線を向けると何故か引き攣った顔をして私を見ていた。




「…何か?」



「いや、お前……それって、どうなんだよ…?」


「どう、とは?別に法律で禁じられている訳でもないでしょう」



理解できない反応に首を傾げると雅は何か言いかけて結局口を噤んだ。

何かぼそぼそと言っているようだが要領を得ない上にあまり関係なさそうだったのでそのまま聞き流す。



「ああ、現場についたら起こしてください。少しばかり休養をとりますので」



念の為緊急用の式を一体後部座席に置いて目を閉じる。


 休養、というよりも監視と言った方が正しいかもしれない、などと一瞬考えたがまぁ、必要な措置であり、自分以外は知りえない事なので口に出すことはしなかった。





「こじらせてる所の話じゃねーだろ…嬢ちゃん、まじで死ぬんじゃねーぞ」


死んじまったら、コイツから逃げられなくなる。

思わず黒山 雅は背筋を伝う冷や汗を自覚しながら届かない祈りをそっとささげた。



誤字脱字変換ミスはこっそり直します。

加筆なんかも気が向けば…。

次は本編に戻ります。

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