【青い箱の底で 1】
ヤマ場?のプール編始まりました。
一応、この学校編では靖十郎・禪・封魔のそれぞれに沿うような準主人公的な扱いとする話を盛り込もうと思っています。
ええ、思っているだけです。
日曜の午後、無事に帰省していた生徒や外泊していた生徒が戻ってきた。
靖十郎も封魔も禪も、そして須川さんも。
一瞬須川さんが眉を顰めたように見えたけれど特に何も言われなかったので少しだけほっとした。
やっぱり気をつけなさいって言われた手前、葵先生とこっそり校内に入ったのは不味いのかもしれないし。
(まあ、結果として報告するようなことはなにもなかったから報告しなくてもいいよね。うん、ちょっと葵先生がご乱心な感じだったくらいで、今回の依頼には関係なさそうだし)
古井戸だって霊視もしたけど何か見えたわけじゃないもんね。
葵先生が一人で来たがらないだけあって、不気味は不気味だったけど…それだけだし。
「優、そういえば虫除けスプレーとか持ったか?今日プール授業あるし、確か見学するんだよな?タオルとか飲み物も用意しとけよ」
「タオルとかはわかるけどなんで虫除けスプレー?」
朝食の鮭とご飯を咀嚼していた私に大盛りのカツ丼を食べている靖十郎が思い出したように口を開く。
彼の横には封魔が、そして珍しく私の横には禪が座っている。
「プールは森のすぐ傍にある。ビニールや壁なんかで覆われていない野外プールのタイプで、フェンスを越えるとすぐに森があるんだ」
「つまり虫さんが大量に押し寄せるってことか!うーん、購買で虫除けって買える?」
「おう。結構種類あったはずだし、プール前に購買寄ってからがいいかもな。なにせ、ここ、山切り拓いて建てた学校だろ?ふつーに窓開けてたら虫入ってくるしさ」
「森っていやァ、この前グラウンド脇のフェンス越しに狸見た奴がいたらしいぞ」
大盛りの牛丼を食べ終わった封魔が口を開くと隣で座っていた禪が静かに箸をおいた。
って…あれ?こっちもご飯食べ終わってる。
確か禪も焼き魚定食大盛りじゃなかったっけ…?
私普通盛りで一生懸命口動かしてるのにまだ半分残ってるんだけど。
「狸か。やっぱり住み着いたという報告は数件受けていたが確認したほうがよさそうだな。市の規定だと害獣認定されていたはずだ」
「え!?狸鍋にしちゃうの?!」
「鍋にはしない。駆除か保護だろう」
咄嗟に鍋の中にぶち込まれた狸の絵が頭に浮かんでとっさに反応した私の言葉を禪は相変わらずバッサリ切り捨てた。
食後のお茶を啜る禪の横で慌ててご飯を口に入れる私に、時々「水か茶を飲め」とか色々世話を焼いてくれるので今のところ喉に朝ごはんで窒息するような事態にはなってない。
なにげに世話焼きだよねー、禪って。
「……俺、ちょっと生徒会チョーの苦労がわかった気がする」
「優、お前…色々それでいーワケ?」
なにか問題があるだろうかと封魔に聞き返すと諦めたように項垂れた。
信じられないものを見るような視線を靖十郎から頂戴しつつ、なんとかご飯を食べ終える。
食器を返してから各自登校準備をする為に部屋に戻ることになったんだけど、登校もなんとなく四人ですることになった。
(いつの間にか、っていうかちょっと距離はおいてるけど靖十郎の禪に対する苦手意識がいつの間にか薄れてるっぽいし…ほんと年頃の男の子って謎だわー)
朝起きて直ぐに、部屋に来てくれた靖十郎と封魔の二人と、今夜のことについて話しながら部屋を出てきたところで鉢合わせしたから。
急に別れるわけにもいかないから四人で食堂に行ったんだけど、丁度四人の席が空いたから座ったってだけのこと。
(まぁ、仲良くするに越したことはないからいいけどね)
個人的に嬉しかったのは、みんな渡したパワーストーンのブレスレットをつけていてくれたこと。
驚いたんだけど禪も身につけてくれていた。
生徒会長なのにいいのかな、と思って聞いてみたんだけど風紀委員に確認済みらしい。
素早いというか、禪らしいというか…ブレないなぁと思ったのは私だけじゃなかったはずだ。
隣にいた封魔は呆れて、靖十郎は堂々と身につけられることが分かって安心していたのが性格出てまた面白かったけどね。
そんな感じで平和に男子校での生活が再開されたんだけど…この時はまだ、依頼の危険度に対する認識が甘かったんだと思う。
もう、過ぎたことと言ったらそれでオシマイなんだけどさ。
◆◆◇
休み明けで騒つく校内を歩きながら教室へ入ると、そこには完全に浮かれ切ったクラスメイトたちがいた。
一体何事だと立ち竦む私に靖十郎が何でもないことのように告げる。
「これいつものことだから気にすんなよ」
「いや、流石に気になるよね?なんだって朝っぱらから半裸なのさ。しかももう水着着てるし」
「あー…プール授業があるから?」
首を傾げて当然のように理由を口にする靖十郎だったけれど私にとってそれは半裸になる理由にはならないので頭を抱えたくなった。
教室にいる生徒の半数は半裸で水着、残りの半分はタンクトップや夏の海にでも行くような格好だった。
よくよく見ると制服のズボンを身につけている生徒は三分の一いるかどうかっていう恐ろしい肌色率。
(まぁ、夏だから風邪は引かないだろうけどさ、二時間目までは普通の授業なんだから制服来ておこうよ)
呆れる私に浮かれたクラスメイトたちが色々と話しかけてくる。
なんでも、この学校の水泳部はすごく強いらしいのだ。
全国的にも有名で相当力を入れているらしく、設備というかプール自体にも結構お金がかかっているらしい。
「長さと深さが違うプールが3つって…どんだけさ」
「だよなー。俺も一年の時驚いたし。でも、プールが多い分他の設備に金かけられなかったらしくってさ。ホントはプール施設まるごと作りたかったらしいぜ」
妥協してフェンスにした分、色々と他のことに金かけたみたいだけど…とも靖十郎が続けた。
「ま、オリンピック選手も結構な人数出してるから当然っちゃ当然かもな。そもそも男子校だからか運動部系強いし」
「な、なるほど。確かにグラウンドも体育館も立派だもんね。こう考えるとかなりお金かかってそう…この学校」
「だなー。あ、それと文化系の部活もあるぜ。同好会もけっこうあるけど、芸術部は作った家具やら絵やらをコンクールに毎回出してて入賞したやつも結構いるし、音楽系も色々バンド組んでて人気だし、写真部とか男の料理研究会なんてのもあるんだ」
靖十郎によると掛け持ちが推奨されているらしく、本当に部活動は盛んらしい。
一応帰宅部もあるらしいんだけど入っている人間はかなり少ないとか。
そりゃそうだよねー、生徒の半分が寮生って時点で部活で友達とわちゃわちゃしてた方が楽しいもん。
優はどの部活にはいるんだ?なんて聞かれて答えに困った。
まだ決まってないんだ、みたいなことを告げると靖十郎はどこか嬉しそうに「俺が色々案内してやるよ!」と張り切っている。
申し訳ないけど…部活には入らないつもりなんだよね。
なにせ、依頼で色々偽ってる上にいついなくなるのかもわかんないんだもん。
(でもま、こういう学校の情報って知っておくに越したことはないよね)
この情報がなかったら、プールが3つあること知らないで現場に行って確実に驚いていたはずだ。
パニックって怖いんだよなぁ…普段から冷静さがないって認識されてるのにそれがレベルアップするようなものだし。
で、今一番聞いておきたいのは七つ不思議のあるプールについて。
わからなかったら一番動きやすい所で全体を警戒するしかないけど…そうなりそうな感じがするからチュンにも協力してもらう予定。
会話をしながら事故が起こらないよう対策を!と意気込む私をよそにHRが始まり、一時間目がスタートした。
授業と授業の合間の休憩時間に色々情報を…と思って色んなクラスメイトに話を振ってみたんだけど…
(君らはどこぞの小学生か!どんだけプール授業楽しみにしてんのさ!)
男子高校生たちのプールに対する情熱にツッコミたくなるのを堪えて、笑顔を貼り付ける。
いったい何度私はプールに出ないことを告げて心底驚かれたことか。
結局ろくに情報を得られないまま二時間目の授業が始まったので、大人しくノートを取る。
このくらいはしないとね…やっぱりさ。
教科書も届いたわけだし。
カリカリとシャープペンで黒板の文字を書きながら懐かしさに想いを馳せていると、ふっと記憶が蘇った。
(あれ。プール見学って結構な苦行じゃなかったっけ…?)
私の記憶にあるプールは温室っぽい造りの建物の中にあって、ひどく暑かった。
空気が通らないから熱がこもるし、タイルの上は直射日光が直撃して鉄板みたいになってるから足の裏が熱かった筈。
ついでに頭もジリジリと日光で焼かれて上下から蒸し焼きにされる感じだった。
しかも、あれだ。
ジャージって黒に近い色だったからあっついどころの話じゃなかったっけ。
(そういや、見学するのにジャージ持ってきてない!完っ全に真っ黒で通気性0じゃん!どーしよ…授業が終わる頃には焼き切れてたりしないよね…?)
と、とりあえず日焼け止めは塗っておかないと、と授業の合間にカバンに入れっぱなしの日焼け度目は確認した。
あと、何か忘れてる気がするけど…まぁいいや。
更新が遅くなってすいませんでした。
結構な魔改造が加えられていますので前の作品と似たところや新しい話、削った話など多々あります。
なんだかなー。




