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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【夢と現実の狭間で】

短い上に、今まで登場しなかった人物の独白があります。

 割りと…確信的な回。

新しい団体名(笑)が出てきました。



――――…深い闇の中、私は誰かの声を聞いた。



声というより音に近いかもしれないけれど、苦しそうであり悲しそうでもあった。

 思わず耳を澄ませて、どの方向から聞こえてくるのか探ってみたけれど真っ暗で何も見えない。



(夢の中なのはわかるけど、真っ暗って)



どうせ夢を見るならもっと楽しい夢が見たいな、なんて考えていると再び何かの声が響く。



 それは、確かに“声”だった。


一度目に聞こえたものとは違って、今度はどうやら人の声らしいことがわかった。




… 助 け て …




 まるで蝋燭の炎みたいな、声。

ゆらゆら揺れて、今にも消えそうなのに確かに温度を持ってそこに在る。

明かり自体は小さいのに目を引く存在感。



(若い、男の子の声だ。声変わりが終わって少ししか経っていない、高校生くらいの)



 すがるようなその声は少しずつ存在感を増していく。

降り始めの雨のように、少しずつ輪郭を持ち初めて、より大きく、より明確に、より感情を増して…――――




◆◆◇




 目を開けると、白い天井が広がっていた。



目を開けたまま起き上がれずに呆然としていると妙に体が重くて、左腕の指先が冷えていることに気づく。

おっかしいな、と思いながらもゆっくり体を起こす。

 ぼんやりしながらも暗闇に目を凝らし、自分の部屋…というよりも与えられた寮の部屋であることを確認した。



(そう、だ。禪は家に帰ってるんだ)



葵先生とは結局7時くらいに戻ってきて、一緒に食事を食堂で食べて別れた。

もう、寮に着く頃にはいつも通り…というか私の知っている葵先生に戻っていて、少しの間私で暖をとっていたと思えば、すぐに何事もなかったかのように笑顔を浮かべて謝罪をした。



(ちょっとした冗談、って言ってた割には様子がおかしかったんだよね。まぁ、報告するようなことでもないから言わないけど)



食堂でも寮の部屋まで送ってくれた時も、普段通りの対応で夢でも見たんじゃないだろうかって思ったもん。



(葵先生ってドラマとか漫画だとミステリアス系で敵か?!味方か?!って感じの立ち位置にいそう。まぁ、須川さんはあまり良く思ってないみたいだけど)



暗く静かな部屋の中でぼんやり天井を視界に入れたまま取り留めもないことを考える。


 ちらっと禪のベッドを見るけれどそこに禪はいないし、折角だからシロとチュンを呼ぶことも考えたけれど、彼らは彼らで何か言いつけられているみたいだし呼び出すのは諦めた。

 あーあ、と小さく呟いた声は思ったよりも退屈そうで少し笑う。



「にしても、この仕事はどのくらいで終わるんだろ。今日で…ええと、四日目になるけど学校に行けたのは二日だけだし、調査もまだ一回しかしてないし」



調査が好きなわけじゃないけれど靖十郎や封魔、同室者で協力してくれている禪やちょっと怪しいけれど色々配慮してくれる葵先生、他にも親しげに話しかけてくれる生徒たち。


彼らのことを考えて、自覚しないようにしていた申し訳無さや性別だけじゃなくて年齢や他の色々なことを偽っているこの状態がどうしようもなく居た堪れなくて、何というか鳩尾のあたりがズンと重くなる。



「いい子ばっかだから思うんだろうけどさ。もっとこう、殺伐としてたりとかだったら罪悪感なかったのに」



それはそれで苦労というか大変だろうけれど俗に言う罪悪感のようなものはなかった筈だ。

 まぁ、これで知っている人から犠牲者や霊障を受ける人間がでなければ一番いい。



(私も人の子っていうか聖人とかじゃないから、知り合いでもなんでもない人が苦しんでるのと知ってる人が苦しんでるのとじゃ受けるダメージが違うもんね)



色んな意味でシビアな世界にいる所為なのか、元々の性格なのかは分からないけれど自分と自分の知っている、大切だと思える人たち以外への興味が結構薄いんだよ。

冷たいと思うんだけどこればっかりはどうしようもない。



(今日の夜には皆戻ってくるんだよね。夜の調査も、明日の夜には始まるし)



壁掛時計をみると時刻は夜の12時を過ぎていて、二時に差し掛かるかどうかというこっちの業界では営業開始な時間だ。


 微睡みの心地よさに浸っているのに頭の奥の方は妙に冴えていて、比較的冷静に今回の依頼について見直すことができた。



(七つ不思議の根本にある事件っていうか根拠みたいなのはわかりやすいけど…条件がなぁ。一応、禪が戻ってきたら聞いてはみるけど、把握してるかどうか謎だし。私の方でも聞いてみた方がいいか…やっぱ無難に靖十郎と封魔かな?)



七不思議を聞いた時に恐怖よりも嫌悪感とか怒りに近い憤りのような感情を覚えたことをふと思い出した。

 私自身や周囲で“そういったこと”は起こっていた記憶はないんだけどな、とそこまで考えて自分の感情じゃないのかもしれない、とそんな突拍子もない考えが浮かぶ。



(超能力でもあるまいし、ね。そもそも私憑依体質って訳じゃないんだけど)



須川さんは影響を受けやすいとは言うけど、憑依体質とか霊媒体質だとは言わなかった。

気のせいか!と前向きにモヤモヤした感情を処理をして布団をかぶり直す。



 腕はもう、動くようになっていた。


布団をかぶるとすぐに眠気が押し寄せてきて私はすぐに睡魔に身を任せる。

だからかな、窓の外から“何か”が私を見ていることに気づかなかったのは。



◇◇◆




 寝息の聞こえる部屋でスマホの明かりがボンヤリと決して広くない範囲を照らし出していた。


トントントンと規則的に動く指は少年の苛立ちや不満、不快感を如実に物語っているが電話越しの相手にとっては取るに足らないことのようで反応はない。



「だから、どーすんのって聞いてんだけど」



このまま続けていいワケ?そう苛立ちを隠そうともしない声で電話の向こうに問いかける少年は帰ってきた返答にクシャリと眉間のシワを深くした。

 声量は同室者に配慮しているからか小さいものの、起きる気配はない。

それが分かっているからか少年は会話を続ける。



「そもそも『正し屋』が出てくるなんて聞いてないんだケド?一番リスク背負ってんの誰だかわかってる?」


わかってんならもういいでしょ、と面倒そうに会話を切り上げようと電話を耳から離した少年は電話越しの相手の言葉に一度動きを止めて、数秒目を閉じたあと深く大きい溜息とともに小さく返事を返した。



「りょーかい。じゃあ、次で最後。俺はもうこの件には関わんないから。ってか『巡り屋』としてこの仕事受けてよかったわけ?学校なんてなんの旨みもないじゃん。フツーに呪術の代行やった方が儲かるし…―――はぁ?何それ。ばっかじゃないの、んなことしたらバレるっつーの」



捨て台詞のような暴言を吐いて乱暴に画面をタップした少年は小さくため息をついてスマホをベッドに放って短い髪をガシガシと掻いた。



「早まったかなー…やっぱ。第一印象でやばかったし、どう考えても。なんだよ全身どピンクって。マゼンタ色だとか何だとかって言ってたけど知らねーっつーの」



いいところっつったら給料くらいしかないしなぁ、と少年らしからぬボヤキを口にしつつごろりとベッドに横になる。


 放り投げたスマホを手にとって、画面をいくつかスライドした少年は目当ての写真でぴたりと動きを止めた。



「―――…江戸川 優、ね。どこまでできんのかな、あんたに。この学校舐めて掛かると食われるよ」



まぁ、わざわざ忠告してやるつもりもないけどさ


 小さく嘲笑を浮かべてほの暗い感情を滲ませる彼を知る者は誰もいない。


彼の手には10円玉ほどの大きさのコインのようなもの。

精巧な細工が施されていて、何かのモチーフと文字らしきものが刻まれている。



しっとりとした暗い室内でそのコインは液晶画面の光をボンヤリと跳ね返していた。




ここまで目を通してくださってありがとうございます。

その、遅くなってすいません…反省中。

もしかしたら加筆するかもしれません、ええ、もしかしたら。

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