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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【男子高校の怪談 2】

引き続き怪談さんはいりまーす。ついでに残酷?表現さんも入りまーす。

匿名で友情要素?もはいりまーす。

 おっと、尻切れトンボさんがギリギリすべりこんだぁあぁあ!え、ああ、いつもいましたね。


という感じで注意です。



 一通り靖十郎をからかって満足したらしい寮長はファーストコンタクトの時となんら変わらない笑顔を浮かべていた。




 でも、メモ帳に書いた情報を読み直していた私に気づいて彼は不思議そうに首をかしげる。

どこか探るような、それでいて訝しげな視線にヒヤッとしたものが背筋を伝う。

咄嗟に取り繕うように笑顔を浮かべて、事前に用意していた言い訳を口にしてみる。



「迷った時とかうっかり間違ってはいりたくないし、忘れっぽいのでメモをしてたんですけど…まずい、ですか?」



半分本当のことなので信憑性はあったんじゃないかと思う。

嘘をつく時は真実もちょこっと混ぜるといいって何かのテレビで見たし。



「なんだ、そうだったのか。別にまずくはないから気にせずメモれよー。んじゃ、サクサクいくぞ。次は『首吊り桜』だな。場所はわかるか?」



そう言われて持ち歩いていた簡易地図を取り出せば用意がいいな、と感心された。

 調査の一環です!なんて言えないので「迷子になりやすいんです」と口にすると半ば本気で心配されてしまった。



「うちの学校も広いからなぁ。慣れるまではできるだけ靖十郎達と行動しとけよ、それなら迷わないだろうし…―――首吊り桜の場所はココ、屋上はわかりやすいからいいとして、花壇はこっちだ」



簡易の地図を指差して教えてくれたので慌ててメモを書き入れる。

 まだ案内してもらっていない場所なので把握できてなかったから凄くありがたい。

何よりこの情報は早速今夜活かされるわけなので…私にとっては願ったり叶ったり。



(っていうか、改めてだけど…この学校って怖いんだよね)



何が、って聞かれると答えに窮するのがまた困る。

 敢えて言うなら、何が怖いのかわからないことが怖い。

怖い何かがいることも、普通とは明らかに違うのは分かっているのに、はっきりとその正体がわからないからさらに恐怖感が増していく。



「さてと…『首吊り桜』は両手両足を縛られて首を『吊らされた』生徒が発端だと伝わってる」


「首を吊った、じゃなくて『吊らされた』ってどういう…?」


「度胸試しだった、とその場に居合わせていた生徒はみんな口を揃えて証言したそうだ。ひとりひとり、両手両足を縛って逃げられない状態で不安定な椅子の上に立ち……桜からぶら下げたロープに首を入れて目を閉じたまま1分耐える―――そういうゲームだったと」


「それって…」


「で、死んだ生徒は足場にしていた椅子が倒れて…不幸にも死んでしまった」



 ほの暗い声と表情で察する。

隠された言葉を汲み取るのは簡単で、なくなった生徒はきっと…――――

思わず目を伏せた私に変わって靖十郎が納得がいかないような顔をして腕を組んでいる。



「でもさ、変な話だよな。目の前でダチが首つった状態になったら慌てて助けに入るだろ?」



最もすぎる言葉に封魔はため息を履いて寮長は苦笑していた。

私は、靖十郎の真っ直ぐさに少しだけ胸が締め付けられるような思いを抱きながら、口を開く。

 薄汚れた大人でごめんよ、靖十郎。



「俺も助けに入るのが普通だと思うし、普通であってほしいと思うよ。でもさ、世の中いろんな人間がいるんだってこと、かな」



曖昧な言い方ではわからなかったらしく訝しげな表情を浮かべている彼を見ていた封魔がガシガシと髪の毛を掻きながら吐き捨てるように言う。



「大体、目の前で首吊った奴がダチだとは限らねぇだろぉが。つか、その状況を考えて“見せしめ”だったっつー考え方だって出来んだろ。集団心理って奴は厄介なんだよ、あれだ、ほら…誰だって『独り』にゃなりたかねぇー筈だしな」


「それにしたって、そんなの…おかしいだろ…見せしめだとか、そういうのっ」



苦虫を噛み潰したような表情の封魔に食ってかかる靖十郎も苦しそうな表情だった。



「―――…靖十郎、おかしいって思えるだけで今はいいんじゃないかな?同じことをしなければいいだけだよ」



口にしたのは所謂キレイごと。


 でも、靖十郎はそれを聞いて不服そうな顔はしていたものの納得はしたらしい。

それを見ながらちらっと封魔の様子を伺うとまぶしそうに目を細めて薄く笑っていた。

靖十郎の言っていることは正論だけど、繰り返さないことや関わらないことはとても難しい。封魔も人間の恐ろしさを知っているからこそ不快そうな顔で話を聞いていたんだと思う。

 まだ、二日しか一緒にいないけれど、封魔が靖十郎を見る表情は時々、自分にはないものを羨ましがるような、眩しいものを見ているようなソレに見えるんだよね。

羨望だとか、憧れだとか、ちょっとの嫉妬だとか…複雑で、でもとても優しい温かな温度が確かにあった。

 それは家族や兄弟、親友といった親しい人たちにだけ向けられる尊いもの。

だからこそ、タイプが違っているように見えても二人は友人として笑い合っているのだろう。



「…わかった。じゃあ、お前ら二人共困ったことがあったら絶対隠さないで言えよな。絶対助けてやる」


「ハッ。そりゃこっちのセリフだ。お前ら二人共チビなんだから逞しい俺様を敬ってありがたーく守られてろ。護衛料は晩飯のメインを三日に一度貢げ、捧げろ」


「のわぁ!?ちょ、苦しい重いっ!ちょ、つ、つぶれ……のしかかるなー!!靖十郎もっ、た、助けてくれるのは嬉しいけど首ッ!首がしまってるからっ」



 突然立ち上がった靖十郎が立ち上がって拳を握り締めたかと思えば、それに悪ノリする形で封魔が私と靖十郎に絡んでくる。


 それも物理的に。


図体がでかい封魔にのしかかられて潰されると訴えれば、靖十郎が首に腕を回して引っ張る。

もがけば二人共解放してくれたんだけど、今度は頭を押さえつけられ、撫で回され、ぎゅぅっと鳩尾のあたりを締められた。

 ねぇ、私のことなんか抱き枕かサンドバックだと思ってない?

扱いがどう考えても手荒すぎるんだけど。



「お前ら、んっとに仲いいなぁ。優なんか昨日編入してきたばっかなのに何年も一緒にいるみたいに見えるぞ」



微笑ましいものを見るような目を向けられて真っ先に反応したのは封魔だった。

 ニヤニヤ笑いながら私の頭を撫で回している。



「コイツ、なんか面白いんで。観察して楽しむもよし、弄って反応を見るもよし、だべっておちょくるのもよし!っつー優良物件」


「おいちょっと待て。今なんかものすごく聞き捨てならない言葉たちが聞こえてきたんだけど」


「封魔は普通に失礼なやつだから気にすんなよ、優。俺は一緒にいて落ち着くっていうかホッとするし、何より俺より背が低いのがいいよな!」


「身長?!まさかの身長…?!え、それだけ?ちょ、靖十郎だけは味方だと思ってたのに!」



撤回を要求する!と妙なテンションでバシバシ床を叩くと何故か寮長までも笑い出して、私の肩やら背中を叩き始めた。

 うわ、ちょっと青少年!君ら力有り余ってんだから加減して!

手形ついたとかネタにしかなんないから!嬉しくないよっ、そんなネタ!



「わちゃわちゃ楽しそうに戯れてるところ悪いんだが、サクサクいくぞー?次は…そうだな…『開かない焼却炉』にするか」



楽しそうに笑っていた寮長が表情を真面目なものに変えるだけで、場が変わり、雰囲気と空気がすっと冷えていく。

 意図してつくっていると思われる声と表情は平坦で無機質。

感情を読み取れない分、想像力が働くんだけど…妙に慣れていてそれが怖い。

機械があらかじめ入力された文章を読み上げるみたいな語り口は、生々しく臨場感たっぷりに話されるよりも怖いと思うんだよね。



「『開かない焼却炉』はこの辺だな。南側のグラウンドと校舎の脇にある一つがそうだ。この学校には焼却炉は全部で三つあるけど今はもう使われてない」



大きいな学校だから焼却炉が三つあってもおかしくはない、かと納得しながら簡易地図に印をつけた。

 それを見届けてから寮長が静かに話を始める。



「この焼却炉で昔、生徒の焼死体が見つかった…―――といっても、黒焦げで最初は解らなかったらしい。人の形をしていたから辛うじて人だと判断したとか。後で調べてみると右の手足は骨折、左手と左足は紐で縛られて自力ででられる状態じゃなかったそうだ」


「ひっでぇ…なんだよ、それ」


「結局犯人は捕まらなかった。ただ、その一週間後に生徒一人が同じ状態で発見される。不思議なことに左の手足が縛られていたそうだ。ああ、骨折はしてなかったらしいぞ、右の手足」



 身動きがとれない状態で、生きながら焼かれる…死の恐怖はきっと想像を絶するものだろう。

焼却炉の中で何があったのかはわからないけれど、恐らくその生徒を殺したのは…―――。



「その後、続くようにしてボヤ騒ぎがあった。焼却炉に閉じ込められて発狂した生徒もいたそうだ」



殺された人間の執念は、深い。

生きたいと、正当な願いを抱きながら死んでいくのだから当然といえば当然。

 目を伏せる私の横で封魔と靖十郎もどこか険しい顔をしていた。



(途中からなんとなく察してはいたけど…残りが全部“そう”だったらホントにやりにくい仕事だなぁ)



「焼却炉の辺りを通って焦げ臭い匂いや異臭がしたら一週間後には焼却炉の中でもがき苦しみながら炎に焼かれる羽目になるかもしれないから―――…近づくなよ?」


「頼まれても絶対近づきたくないです寮長」


「よし、よく言った優。靖十郎と封魔はこいつが迷子になってうっかり近づかないようにちゃんとおりしろよ」


「うーっす」


「任せてください、ってかマジでうっかり迷い込みそうなんだよな、優って」



よしよし、と何故か私の頭を撫でる寮長になんだかなぁと苦笑を浮かべる。

 うぅむ。心配してくれるのはありがたいんだけど、少年たちよ。色々辛いわ、オネーサン的に。

成人してから迷子だ、おりだと本気の調子で言われるとは…何がいけないんだろう。

心意気が足りないのかな。

大人の色気的なのが不足してるのは知ってるけど。


 もやもやした感情を笑顔で隠しつつ、怪談をメモしながら何気なく部屋の中に視線を巡らせる。

相変わらず、というかいつの間にか廊下の音も聞こえなくなっていた。

時計を見るとまだ食事の時間でもなんでもないただの自由時間だし、と首を傾げつつボールペンを動かす。



(これでようやく四つか…なんか、ヘビー級の生々しい怪談だなぁ)



現場で聞くと色んな意味で迫力があって困るんだよね。

……夜、寝られなくなったらどうしよう。

流石に禪を抱き枕にするわけにはいかないし…って、夜は調査だっけ。


自分から怪談をせがんだ手前、怖くなったとは言い出せず私は曖昧な笑顔を顔に貼り付けておいた。


 ここまで読んでくださってありがとうございます。

怪談回は比較的楽チン。

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