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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【男子高校の怪談 1】

ホラー要素と残酷表現?があります。

ついでにちょっぴりオカルトな見解と高校生のじゃれあいも。

…主人公がどうしたってヒロインに見えない…なんでだろう。

きゃーきゃー言う鮮度が足りないんだろうか。


 ドア一枚を隔てた日常の音が、遠い。



怪談がはじまる、というのがわかっているからなのか妙に部屋の温度が低いような気がしてきた。

 夏で暑さもある季節なのにな、なんて頭の片隅で考えながら私は話をメモするために握ったボールペンに力が入っているのに気づく。

隣の靖十郎や封魔も雰囲気に飲まれたように静かになっていた。



「―――まず、七つ不思議が起こるとされている場所は『屋上』『花壇』『焼却炉』『更衣室』『外庭』『プール』『校内のどこか』だ。特定できるのは屋上と焼却炉、花壇、外庭、プールだけだな」


「え?でも花壇は沢山あるだろうし、外庭とか更衣室だって条件は同じじゃ…?」


「花壇は外庭とは反対の位置にある花が咲かない花壇だとわかってるから七つ不思議の花壇で指し示されるのはその場所しかないんだよ」


「花のない花壇…って、土しかないんですか?花壇なのに?」



 思わず寮長に聞いていた。

だって、普通の学校にある花壇では花や実習なんかで野菜を育てている筈だからだ。

小学校や中学校、高校にも花壇があるのは防犯対策の一つでもあるって聞いたことがあるんだよね。

なんでも綺麗な所と汚れた所だと犯罪発生率に物凄く差があったり、あと、情操教育のためとか景観を良くする為だとか色んな意味合いや効果があって採用されているみたい。


 だからっていったら変かもしれないけど、花壇に土しか入ってないっていうのが引っかかったんだよね。

葉山寮長の口ぶりからするに、花が植えられてないのはその一箇所だけみたいだし。



「花を植えても無駄になるだけだから初めから植えてないんだ。その花壇は花の代わりに“首”が咲くから…普通の花は半日で枯れる」



「首が…咲く?」



あれー…今、確実に不穏な単語というか言葉を耳にした気がする。

どういうことだ、と突っ込みたくはなかったけれど思わずオウムのように繰り返せばなんでもないことのように苦笑しながら彼は言った。



「そう言う風に見えるだけなんだけどな。実際は首だけ残した状態で正座したまましたいが埋まってるんだ」



先輩の話によるとこの怪談は『咲かない花壇』というらしい。



――― 昔、不良グループに虐められていた生徒が暴行により死亡した。

 死体が見つかることを恐れた不良たちは遺体を隠そうと隠し場所を探す。

 そして目に付いたのが例の花壇で、彼らはそこに遺体を埋めた。

  勿論、死体はすぐに発見され犯人の捜索が始まる。

  その数日後、花壇からは加害者の一人が花壇で死んでいるのが見つかったそうだ。

 首は植物の茎、顔はまるでオダマキの花のように頭を垂れ、赤黒い紫色に変色していたという。


 首には紐のような赤紫色の痣が残っていた…――――


手帳に書き写しながら思わず口元が引きつっていくのがわかる。

 思わずその情景を想像していると寮長が余計な補足を加えた。



「余談だけどな、首の周りには枯れた花が散乱してて、土だとか本来花が必要とする栄養を全部“咲いた”首が吸い取ったようにも見えたらしい」



淡々とまるで普通の世間話のように話す葉山先輩は下手な怪談家のそれよりも怖い。

これで、一つ目だ…そう言って葉山先輩は薄く笑う。

 途端に雰囲気が希薄になったような気がして一瞬目を見張ったんだけど…次の瞬間には普通通りになっていて納得はできないものの話の続きを促す。



(大丈夫だよね、一箇所だけ場所を特定できないところもあるけどこの流れからすると寮は範囲に入ってないし)



一瞬、話し手である葉山寮長に何かあるんじゃないかと思ったけれど、霊力がある感じはない。

変だなーなんて思いつつ、考えるのを一時中断する。

 思考能力の限界ってやつだね。うん。



「次は…そうだな『呼ぶ屋上』と『首吊り桜』でいいか?丁度、っていったら不謹慎だけど事件もあったしな。ただ、知ってるようなら省くけどどうする?」


「えっと、結果は知ってるんですけど詳しくは知らないのでお願いできれば聞きたい、です」


「わかった。んじゃあ話すぞ」



といっても二つともなんとなく聞いてはいるんだよね。

 ただ、生徒にはどんなふうに伝わってるっていうか受け継がれているのかが気になるからちゃんとメモはするけれど。

 葉山寮長には悪いと思いながら話を聞く体制を整えたのを確認してから話し始めてくれる。



「怪談の始まりは、昔虐めを受けていた生徒が雲一つない快晴の14時20分に屋上から身を投げたことが始まりだと言われている」


「虐めを苦に自殺したってことか」



ぽつっと靖十郎が顔をしかめて呟くと寮長はゆっくり首を横に振った。



「いや、結果として自殺だと判断されただけだと個人的には思ってる。理由なんて簡単だよ、警察だって本当はわかってた筈だ…――――何せ、死んだ生徒の両手首が赤紫の紐でしっかり結ばれてたって言うんだからな」



勿論、初めは殺されたんじゃないかと虐めていた生徒を疑ったようだが証拠がなく、自殺という形で処理されたらしい、と寮長は続ける。



「で、問題はその後。この生徒の死以降…男子生徒を虐めていた生徒が手首を縛られたような格好のまま、雲のない快晴の14時20分に屋上から飛び降りたそうだ。今はもうその男子生徒を虐めていた生徒はいないが、屋上へ続く階段を昇る人間は呼ばれるように屋上に向かうらしい」



これが、2つ目の怪談『呼ぶ屋上』だな、とここで話を区切った寮長はお茶で喉を潤し、持ってきたお菓子を一つ口に入れる。


 その様子を眺めながらメモした内容を確認していると隣で生唾を飲む音が聞こえてきた。

チラッと視線を向けると靖十郎が引きつった笑みを浮かべて固まっている。



「靖十郎…?大丈夫?」



思わず声をかけたんだけど、ビクッと肩を揺らして私を見た。

 その時に目が合ったものの直ぐに気まずそうな表情で視線を泳がせて、何故かジリジリと私の傍ににじり寄りそっと囁いた。



「け、結構迫力あるよな。それと、その、なんかこの部屋寒くねぇ?だからさ、その、ほら!もっとこっち来てもいいぞ。お菓子も俺のそばにいた方が近いし」


「確かに部屋の中は少しひんやりしてるなーとは思う、けど」



 それより靖十郎。

キミさ、葉山寮長と封魔の存在をすっかり忘れてるでしょ。

間違いなく二人にも聞こえてるよー。絶対聞こえちゃってるよー。

 そっと視線を感じる方へ目を向けると、例の二人がニンマリと新しい遊びを思いついたような顔で私と靖十郎を観察している。



(うっわぁー、このイヤーな感じの笑い方は間違いなく後でおちょくられるパターンだぞ)



正直私は慣れてるからおちょくられたり茶化されたりしても対してなにも感じないけど、靖十郎はお年頃な訳だしからかわれるのは嫌だなろうな、と思いつつ何もできないので大人しくお菓子に手を伸ばした。


 差し入れとして持ってきたお菓子を食べていると早速、靖十郎が二人におちょくられ始める。

うん、元気だ。元気すぎておねーさんにはちょっとついていけないや。

頑張れ、靖十郎!遠くから応援してるよ、お菓子食べながらだけど。


 もくもくと咀嚼しながら、いい具合に空気が変わったなと少しだけ安堵の息を吐く。

 怪談とか怖い話は真剣に聞いてもいいけど“のめり込む”のは避けなきゃいけないんだよね。

これは暗黙の、もしくは無意識下でのルールだと私は考えている。


 怪談もそうだけど、この手の死に近くて、死からはある意味で遠い世界に固執するのは危険なのだ。

そっと触れるくらいならそんなに問題はないんだけどね。

例えば心霊特番とかホラー系の映画や番組を見て友達と「怖いね」とか「本当なのかな」なんてやり取りは比較的みんな経験があるだろうし、そのあたりは問題ない。

だって、大体の人って直ぐに忘れて、現実の世界に戻るから。


 不味いのは……――――魅入られてしまった人だ。


人によって程度はあるけど、侵食される確率が跳ね上がるんだよね。

 こっちの世界にのめり込んだ人は大体同じ行動パターンを取る。

順番は違っても、ネットや本、雑誌などのあらゆるツールから情報を集め、いずれ現場に踏み入れるのだ。


 ほら、たまに度胸試しとか肝試しでそういう場所に行く時は必ず情報だったり噂だったりを集めるでしょう?

で、まぁ…心霊スポットにも色々あるけど10箇所中3つは“当たり”と呼ばれる部類だ。

本物に当たった場合は自己責任ってことで大抵、当人が祟られたり取り憑かれたりするんだけど、最悪なパターンがひとつだけ。


 それは、その心霊スポットが神様がいた神聖であるはずの場所だった場合。


どういう理由で心霊スポットになったのかと思うくらい神気に溢れた場所もあるし、神様が気に入っている場所だったりした場合は肝試しに行くこと自体失礼にあたるから神様も怒るわけ。

神様の怒りって凄まじくてさ、宥めるのはすごく危険だし疲れるんだよね。

大体一族根絶やし系が基本だし。


 もぐもぐと咀嚼しながら修行中にあった神様の話を思い出して思わず、ぶるりと体が震えた。

神様は基本的に優しいけれど、礼儀だけはきちんとしないと怖いんだよね。

当然といえば当然なんだけどさ。



「だぁああ!もーうっせー!お、俺はただ優が怖そうだなって思ったから…ッ」


「ま~たまた~…そんなこと言って完全に顔固まってた癖にィ?」


「こらこら、封魔。あんまり虐めんなよな、そりゃ、俺ってば天才的に怪談上手いわけだけどぉ?」


「はっ!?もしかして靖十郎、おまえまさか優にくっつきたかっただけなんじゃ…!」


「んなっ?!んなわけあるか!俺に勝手に変な性癖認定すんじゃねぇーっ!!」



わちゃわちゃと戯れ合う男子高校生を半目で眺めながら思わず口の中で平和だなーなんて呟いた。

てか、変な性癖って何さ。

私ってさりげなくイロモノ扱いされてない?

呆れながら半目で楽しそうな三人を眺めながら、ふと胸の中に浮かんだ感情があった。

 それは“こんな平和でありきたりな日常がこのあとも続けばいいのに”なんて、ちょっとフラグめいたもの。

立て続けに事件があったから少しだけ参っちゃってるのかもしれないなぁ、なんて苦笑する。





願わくば、もう何も起こりませんように…





 ここまで読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字変換ミスなどがあれば教えてくださいませませ。


…あと、夜中に一人で執筆するのがちょっぴり怖いです、ホラー回は。

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