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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【新たなる犠牲者】

 残酷表現?及びホラー要素……があるような気がします。

イマイチ、どこからが残酷なのかわからないんです。苦手な方は、薄目を開けて流し読みをしてください。


最後の***の下にはどうでもいい、くだらない小話があります。息抜きです。


 

 何らかの、夢を見ていた。


ゆらゆらと程よい温度のお湯に浸かっているような感覚に口元が緩む。

四肢の力が抜けて弛緩し、まるで水の揺り篭で優しくあやされている様などこまでも優しく穏やかな時間だった。



(ああ、気持ちいいなぁ。いつまでも、ここにいたい)



自然とそんなことを思ってしまうのは私だけじゃないだろう。


 日常では感じ得ない心地よさに身を任せていると、どこからともなく声がした。

儚げでどこか弱々しい、声は男性なのか女性なのか、若いのか老いているのかもわからない。

なんだろう、と思ったのを最後に全ての感覚が鋭敏になり、体が覚醒する。



「ッ……!?」



カッ!と目を見開けば、広がるのは真っ白な天井と蛍光灯。

 困惑しつつキョロキョロと視線を動かせば白いカーテンと白い、布団のような感覚があって思わずガバっと上半身を持ち上げる。



「あ、あれ…?保健室…?なんで――――…って、そうか!多分廊下で爆睡したんだ。それで、多分そのまま二人が保健室に」


「お。目が覚めた?いやー、びっくりしたよ。乱暴にノックされたなーなんて思ったら封魔がぐっすり眠った優ちゃんを背負っていたんだから」


「!葵先生…す、すいません。なんかちょっと眠すぎて意識が飛んじゃったみたいで…おかしいなぁ。いつもはこんなことないんですけど」



いくら寝に汚いとは言っても流石に眠すぎて急に意識を失うなんて経験はない。

 首をかしげながらもベッドから降り用途する私を押しとどめて葵先生が血圧計や体温計を差し出した。



「念の為測っておこうか。もしかしたら低血圧だったり熱があるのかもしれないしね。一応聞くけど体調はどう?」



真剣な表情でじっと見下ろされて少しだけドギマギしてしまった。

 男の人に割と近距離で目を合わせられるなんてこと日常生活ではまずないもんね。

あっても須川さんのお仕置きの時くらいだもん。



「眠気は…あれ?倦怠感も眠気も消えてる…おっかしいな、あんなに眠たかったのに」



変なの、と思わず自分の体を見下ろすけれど変なところはどこにもない。

 念の為と測ってもらった血圧や熱も問題なくて、私たち二人は仲良く首をかしげることになった。



「まぁ、健康で何もないならいいんだけど無理はあまりしないで欲しい。依頼している側だからあまり偉そうなことは言えないけどさ」



そう言って苦笑する葵先生は時計を見て今ならまだ4時限目の半ばくらいだけどどうする?と聞いてくる。

 少し考えたけれど私は教室に戻ることを決め、靴を履いて保健室を出ようとドアに指先が触れた瞬間、それは意図せず他者によって開け放たれた。

目の前には、見慣れた優しい薄抹茶色。



「え、須川さん?」


「………何故、ここに貴女がいるのですか」



麗しい美貌の我が上司様はひどく訝しげに私を見ていらっしゃいます。

 思わず後退る私の全身を観察したらしい彼は深くため息をついて髪の毛を指差し、ため息混じりに一言。



「夜の調査といっても普段の仕事より眠れているはずですが?…教室に戻るのなら寝癖を直してからに――――…いや、これはこれで都合がいいですね」



何やら呟いた彼はおもむろに私の頭に手を乗せた。


 大きく骨ばった、けれど男性らしい美しさがあるその手に触れられる度に体がびくっと震えるんだけど、彼は気にした風もない。

 じわり、と暖かな温度と馴染みのある霊力が微量に流れてきているのを感じながらも動向を見守っていると須川さんは形のいい眉を歪めた。



「―――…強烈な眠気と倦怠感で意識を失った、というところでしょうか」


「えええ?!なんでわかるんですか!もう何ともないのに…」



思わず声を上げた私を残念そうに眺めながら須川さんは後ろ手で入口をきちんと施錠した。

 葵先生は私たちのやりとりに口を挟むでもなくじっと観察しているようだ。

時々好奇心に満ちた視線を背中に感じるからね…なんで楽しそうなんだろう?



「恐らく今朝登校した際にでも軽く憑かれた、というより接触があったようです。どちらかといえば動物霊寄りですから悪夢も覚醒後の気怠さもなかったようだ」


「……って、まさか私、憑依されてたんですか?!」


「そういっているでしょう。まぁ相手が乗っ取る気がなかったのは幸いでしたね。一応聞きますが、清めの塩は持っていますか」


「あー…持ってない、デス」



でしょうね、と短く冷たい返事とは裏腹に彼は上着のポケットから清め塩が小分けにされた袋を取り出して掌にのせた。数は2つ。


 衝撃の事実に動揺する私を尻目に、何故自分のことなのに全く気付かないのかと心底呆れたようなため息をつく美しき上司様。

眼鏡の奥で細められた切れ長の瞳は私を“可哀想な生き物”もしくは“どーしようもない生き物”と認識しているのを如実に物語っている。



(いーんだ…もう、この可哀想な生き物を生暖かくも呆れ果てたような視線には慣れたから)



怒られたりお仕置きされるくらいなら、可哀想な生き物的認識で収まったほうがいいもんね。

プライドでご飯は食べられません。



「明日からは必ず御神水も持ち歩くようにしてください。残りの一個は差し上げます」


「あ、あはは。何から何まですいません…うぅ、しょっぱい」



お礼を言ってからぺろっと紙の中にある塩を舐める。

 したから伝わる塩っからさに顔をしかめると須川さんは珍しく温度のある暖かい微笑みを浮かべて私を見ていた。

よく分からなかったものの愛想笑いを浮かべる私を見て直ぐに彼は、視線をちょうど私の背後にいる葵先生へ向けた。



「――…新たな犠牲者が出てしまいました。申し訳ありませんが白石先生、確認をお願いします」


その声に感情はなかった。

 なんでもない事務連絡のように告げられた一言に私も葵先生も息を呑む。



「犠、性者って…また誰かが…?」


「犠牲になったのは三年の生徒で遺書は見つかっていません。私も一足先に確認しましたが恐らく昨夜のことでしょうね…見つからなかったのは校外授業がなかったことと、場所が登校時は元より普段足を踏み入れない場所だからでしょう。発見したのは用務員の男性でした」



写真はこちらになります、と懐から写真を数枚取り出して私たちに見えるように向ける。

 そこには、どう見ても異様な風景が切り取られて収まっていた。



「ああ…またこの場所ですか。ここなら…下手すると放課後まで見つからなかったかもしれないな」



疲れたような重みのある声の主は須川さんの手から写真を受け取って小さく頭を振った。



 写真に写っていたのは、遺体だった。


大きな木の枝からぶら下がる男子生徒の体はまるで、葡萄のようにも見える。

 葉桜になったとはいえ、立派な桜の枝にそぐわない光景に眉を顰め、そっと視線を外した。


 両手両足を後ろ手に縛られてぶらさがっている姿は異様だ。


日常からかけ離れすぎていて現実味は感じられないけれど、生々しさだけは嫌というほどにあった。

葵先生はどこか淡々と三枚あるうちの二枚目に視線を移して、小さく声を漏らした。



「え…?これ、お花の写真ですよね…なんで」


「須川先生、これがあったのは男子生徒のすぐ傍にある木蓮ですね?」


「そうですよ。流石にご存知のようですね」



二人の会話についていけないまま写真を見ていると妙なことに気づく。

 どうにも咲き方が妙だったのだ。



「季節外れなのも変ですけど…なんでこのはな、逆さまに咲いてるんですか?」



 写真に収められていたのは桜の奥に植えられているらしい、私の背丈ほどしかない小さな木蓮だった。

 普通の木蓮は空に向かってその美しい花を咲かせるものだ。

縁町でも毎年見るけれど、白や薄紅、濃い紅の美しくも凛とした姿はちょっとした楽しみだからちゃんと覚えている。

 なのに、写真の木蓮は空というよりも…地面に向かって咲いていた。



「生徒たちの間では『逆さ木蓮』と呼ばれているね」



葵先生の声にはどこかほの暗い響きがあった。

 少し驚いて視線を向けると顔をしかめて写真に写る木蓮を見ている葵先生がいる。

普段纏う雰囲気とはまるで逆の、どこか物々しいそれに思わず目を瞬かせているとそれに気づいたらしい葵先生は普段通りの柔和な笑みを浮かべた。



「これも七つ不思議の一つなんだ」


「ってことは『逆さ木蓮』って怪談なんですか?」


「いや、怪談自体は確か『首吊り桜』だったかな。これを見て思い出したんだけどね…ええと、確か…逆さ木蓮はこの桜で誰かが首を吊ったことを告げる為に咲くそうだよ―――生徒たちが言うには、だから真偽のほどはわからないけれどね」



ふっと息を吐いて葵先生は写真の三枚目を見ないまま須川さんに写真を返し、書類などを持って準備を始めた。

 それを見てここに居るわけには行かないと挨拶をしてドアに手をかけたんだけど、須川さんに思わず聞いていた。



「あの、潜入二日目でこんな風になったことってありますか?」


「私の関わった依頼ではありません…正直なところ、流石に潜入調査二日目で犠牲者が2人も出るとは予想していませんでした。相当根深いか若しくは…――――まぁ、調査の主軸は優君ですし私の見解を述べるべきではありませんね。今宵の調査についてですが、予定を繰り上げて七つ不思議の元になった場所を視てみましょう」


「はい、わかりました。七つ不思議については今日の放課後に山桜寮の寮長さんが詳しく話してくれる約束なので私の方でもまとめて提出します。多分、知っているとは思うんですけども」


「お願いします。それと、今夜の調査には私も同行します。流石に優君と彼だけでは不安ですし不安もありますからね」


「宜しくお願いします」



勿論、異論なんてない。

 須川さんの得意分野は怨霊・悪霊の“除霊”と占術らしい。

占術を見たことはないけど、何回か彼が力を使っているのを見た。



(須川さんはやっぱり須川さんだったけどね…きっと人の皮をかぶった神様かなんかだ)



裏情報としてだけど、呪詛にも詳しいんだとか。

 本人は使ったことがないとは言っていたし実際使ってないんだろうけど、同業者で知人の黒山 雅さん曰“アイツが呪術に手を染めたら止められる人間なんて居やしねぇ”らしい。

 また、須川さんにも使役している式がいて、数は8体。

神格化したものまでいるそうなのでやっぱり底がしれない人だと思う。

 あ、見たことがある管狐は8体の中には数えてないよ。

ああいう可愛いの沢山いるみたいだし。



(でもまぁ、須川さんが同行してくれるなら安心かな)



正直なところ荷が重いと思っていたので私としてはとっても嬉しい。

だってまず生命の心配をしなくていいんだよ?!思う存分調査できるじゃんか。

例え死にかけても呼び戻してくれるだろうし…ギリギリまで放置はされそうだけどさ。



「優君はこのまま寮へ戻りますよ。白石先生は施錠して職員室で他の方と合流するようにとの校長からの指示です。私は寮の舎監として彼女を連れて一足先に寮へ向かいます」


「わかりました。連絡ありがとうございます―――…じゃあ、優ちゃんまたね」



気さくな笑顔を浮かべた葵先生に見送られて私たちはそのまま寮へ向かう道を進む。


 流石に生徒は誰もいない。


皆教室で説明を受けているんだろう。



「こちらから行きますよ。少し、話しておきたいこともありますし」


「話したいこと、ですか?」



須川さんが選んだのは昨夜の調査で通った裏道。

人目を避けるようにその道を進む須川さんの背中はスマートだけれど広くて、頼りがいがある。


「須川さん、あの…話ってなんでしょうか」


いつまでも始まらない話がなんなのか気になってそう、声をかけると彼は雑木林半ばでようやく歩みを止める。

 コンパスの差があるのでこっちはずっと小走りだ。

同じ人間なのになぜこうも足の長さが違うのか非常に遺憾です、神様。



「白石 葵の動向には充分気をつけてください。彼はどちらかといえば“こちら”寄りの人間です。そして、ある程度の知識と……いえ、ここまでにしておきましょう。取り敢えず、十分に気をつけるように」


「言いかけて途中でやめられると非常に気になるんですけど、聞かないほうがいいんですよね」


「はい、その方がありがたいです。いずれ…といっても近々話すことになりそうではありますが」



随分と含みを持った物言いに彼らしくないなと思いながらも肯けば須川さんはホッとしたように弱々しく微笑んだ。

 なんだか妙に遠い存在のように感じて無意識に彼の袖を掴んでいた。



「優、くん?どうかしましたか…?」


「―――あ、いえ、すいません!つい、なんか須川さんが…その、なんか遠くに、いっちゃうみたいで」



誤魔化すように笑えば彼は驚いたように目を瞬かせて、何故か嬉しそうに微笑んだ。



「なんで笑ってるんですか」


「いえ、少し嬉しくて。そうですか…私が例え遠くへ行ってしまっても必ず戻りますよ。私の居場所は貴女のいる場所ですからね」



行きましょうか、と再び脚を動かした須川さんだったけれど今度はちゃんと、いつものように私に歩幅を合わせてくれた。


 なんだろう、どこかむず痒い気持ちになる笑顔を向けられるんだけど…なんか須川さんの機嫌が向上するようなこと言っただろうか?

 うーん?と腕を組んで考えてみるものの答えは一向に出ない。




気づくと寮はもう目と鼻の先にあった。

予想外の自由時間を貰えたので、このまま寮長に話を聞けないかどうか聞いてみるつもりだ。



 私だって、もう犠牲者は出したくない。





***

以下、小話(長さ的には小話じゃないかもですけど)












 ざっかざっかと腐葉土と枯れ葉を踏みしめ進みながら、ふと須川さんにお願いしたいことがあったのを思い出した。


多分必要経費内だろうし、今なぜか機嫌もいいから聞いてくれると思うんだよね。

私としても名案というか中々にいい発想だなぁって感心するくらいだ、きっと首を縦に振ってくれるはず。


「あの、須川さんちょっと備品のことでお願いがあるんですけど、追加発注ってお願いできたりしますか?」


「ええ、可能ですよ。何が足りないのですか」


お菓子なら多少でしたら許可しましょう、と案の定機嫌よく足を止めて振り返った須川さんの表情は穏やかだ。

 これならいけそう!となかなかの好感触スタートに思わず両手を握りガッツポーズ。


「実は、トランクスかボクサーパンツを追加で買って欲しいんです!サイズは多分小さくていいし高くないので全然いいです。あ、キャラクターもののでもいいですよ!ウケ狙いで」


「…………はい?」


「いや、だからトランクスかボクサーパンツを……ブリーフでもいいですけど、多分最近の高校生ってブリーフ履かないですよね?」


子供下着でもブリーフタイプのパンツって最近テレビで見ないよなぁ、なんて考えていると何故か須川さんの笑顔が固まったままなことに気づいた。

 あれ、私また何かやらかした?


「え、あ、勿論プレゼントじゃないですよ?!やだなー、もう。私が履く用です!流石に上司に下着をねだるのはどうかと思ったんですけど、寮の部屋にシャワーがあるじゃないですか。で、定番っちゃー定番なんですけど、うっかり遭遇!とか鉢合わせっていうシュチュエーションになった時に同室者が女性物の下着つけてたりしたら流石にバレるよなーって」


慌てて説明をするんだけど、何故か須川さんは額に手を当てて天を仰いでしまった。


「え、いい案じゃないですか?!だって、間違って下着見られても平気なんですよ?!ブラは持ち込んでないからいいけど、下着だけ女物のやつだってしれたら完全に変態じゃないですか!いや、私変態じゃないですけどもッ!でも、男物の下着なら鍵かけ忘れて鉢合わせしても全然というかばれる危険度は減るわけですし、最悪何かあった時に貸すことだって…」


「鍵は必ずかけなさい。そもそも下着を貸し出す状況というのはどういった状況なんですか。第一、裸の状態を見られるような状況を作り出さないようにすればいいだけでしょう、なんです、その失敗前提の発想力は」


「いや、だって…私がうっかり禪の裸見てもごめんねーで済むけど、逆だったら完全にバレちゃうじゃないですか。そうなったら依頼失敗になって…」


「その状況も想定しない!というか、少し動揺してください…一応、彼も未成年とは言え男なのですから」


「やだな、須川さんってば。裸のひとつやふたつで動揺してたら生きていけませんって。露天風呂とか混浴のところもあるわけですし!」


「……まさかとは思いますが、混浴風呂に一人で入った経験があるとか言いませんよね?」


「なんでわかったんですか?!」


「―――――…頭が痛くなってきました。取り敢えず、急いで戻りましょう」


少しよろめいて再び足を早めた須川さんを慌てて追いかける。

大丈夫ですか?!と心配すると直ぐ様“誰の所為だと思ってるんです”と返された。

私が悪い、んだろうか。わからん。


「あのー、それでトランクスかボクサーパンツは」


「却下です」


にべもなく即座に切り捨てられて、少しばかり意気消沈した私は未練がましく呟いた。


「名案だと思ったんだけどなぁ」


「名案というより迷案ですよ、本当に」






ここまで読んでくださってありがとうございました。

とりあえず、再び執筆です。ストックはあっという間になくなります。

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