【同級生との戯れ】
小話的なお話。
ちょっと下ネタ入っております。
一応あとで見直すつもりです…大丈夫だろうか。
靖十郎と封魔の部屋は思っていたよりも、というか予想以上に面白かった。
男子高校生らしい、というか生活感があってほっとしたのもあって自分でも随分くつろいでいるなーと靖十郎のベッドに腰掛けながら思う。
私の手には靖十郎のお気に入りだという触り心地のいいビーズクッション。
可愛らしい柴犬の形をしていた。
「にしても、いいよなー。クーラーあるんだろ?それにシャワーもあるならスッゲー快適じゃん」
「うん、寝やすそうで安心したよ。流石に寝苦しいのは嫌だし」
「普通の部屋はクーラーついてないからもっぱら扇風機の持ち込みだな。俺も封魔も一台ずつあるし。暖房はしっかり付いてるから冬はまだいいんだけどさ」
「そのウチ、優んとこにも遊びに行くから禪に言っとけ。ま、あいつは飯時まで帰ってこねぇだろうけどなー。遊びに行くならその時間帯か…?俺もまだ入ったことねぇし、あの部屋」
意外にも封魔が一番あの部屋に興味を持っているようだった。
なんでも気にはなっていたけど入るまではいかなかった、らしい。
生徒会の資料なんかもあるからあまり人を部屋に入れないのだろうと話はまとまったけれど、封魔は不満そうだ。
「チッ。クーラー付きの部屋だってんなら徹夜で遊び倒せるってーのによォ」
「…そういえば封魔って生徒会長の真行寺院くん?と幼馴染なんだっけ。ちらっとは見たけどどんな感じ?」
「どんなって言われてもなァ…見たまんま。無愛想で無表情の鉄仮面。性格もド真面目で優等生っつー教師受けと大人受けするタイプな。融通は効かねぇしニコリともしねぇから昔から人が寄り付かなかったな」
「…封魔も一緒にいたなら尚の事近寄りがたいよなー」
ポツっと口にした靖十郎の言葉に思わず頷いたのは言うまでもない。
綺麗だけど完全に冷たい空気を纏う生徒会長の彼と凶悪かつ獰猛な不良全開な容貌の封魔という組み合わせはさぞ近寄りがたいだろう。
思わず同意していると封魔にまとめて頭をグリグリされてしまった。
「うっせーな!でもまぁ、子供の頃から表情はあんまり出ないやつだったのは確かだ。色々やってみたんんだが」
「じゃあ、特技とかそういうのは知らない?流石になんの情報もないと会話のとっかかりがさ」
「優ってあれだよな、結構ハート強いよな。俺ぜってー無理だ。話しかけても確実に単語で切り捨てられる気がする」
嫌いなものを食べた子供みたいに顔をしかめた靖十郎に私も封魔も思わず苦笑する。
唇を尖らせて自分の髪をかき混ぜている靖十郎を眺めながら、ふと脳裏によぎったのは一瞬見た生徒会長だという男子生徒。
(実家がお寺ってこともあるのかな。やっぱり修行っぽいことしてそうな霊力の持ち主なんだよね、どう考えても。まぁ、霊力がない神主さんとかの方が多いから珍しいっちゃ珍しい部類か)
そう、確かすらっとしていて、何処か硬く冷たい空気を纏っていた。
私が同じ年代だったら多少躊躇してたり構えてしまったりしていたかもしれない。
(ま、生憎私は成人してるからね)
正直言えば、身内にこれ以上ないってくらい怖い人がいるから図太くならざる負えなかったと言うべきか。
日々弄られ、宥め透かされ、いいように手のひらで転がされて生きてりゃ当然だろうけどさ。
若干やさぐれつつ日頃の自分の扱いを思い出していると、私の頭を掴んだままの封魔が何かを思い出したらしい
「って、優、お前に確認したかったことがあったんだよ」
私の顔を覗き込む封魔に心臓が跳ねた。
とりあえず、真顔の封魔は怖い。
至近距離だと結構な迫力があった。
拳はいつの間にか解かれて、私が逃げられないよう頭をがっしり大きな手で掴まれてしまっている。
傍から見ればどーやったって恐喝される被害者と加害者だ。
靖十郎が私に完全に可哀想なモノを見る視線を向けているのがわかった。
「―――…お前、甘いもん好きなのか?」
「何を聞くのかと思えば食べ物の話?!表情と内容が全く噛み合ってないってば!甘い物はまぁ…好きだけど……って、ダメだからな!いっくら封魔が怖い顔で脅してきても絶対にあげない!俺は死んだ両親の墓前でヤクザに絡まれても大福と苺タルトは死守するって誓ってるんだから!」
「墓前…優、お前ってほんと…」
「大福がいけるとなると和菓子系も平気っつーことか。よし、嫌いなもんと食えないもんはなんだ」
「ははーん?嗜好調査をした上で気をひこうったってそうはいかないよ。まぁ、辛いのと酸っぱいのは苦手だけど。柑橘系は酸っぱいのには含まないから覚えておくように」
じわじわと掴まれた頭に力が込められるけれど負けずに封魔を睨みつける。
これから学食でもオヤツでも封魔にだけは見つからないようにしないと、なんて対策を考えるのに必死過ぎて、靖十郎が半目で阿呆なやり取りをしている私たちを見ていることには気づかなかった。
「いや、お前ら二人とも会話が噛み合ってるようで噛み合ってねぇから。つか、顔が近ぇんじゃね?」
「ほぉ?そりゃ随分と都合がイイな。舌は肥えてるって考えていいな?」
「肥え……あ、ぁあ、うん舌ね。舌。体じゃなくて―――まぁ、一応は色んなもの食べてるし、味自体はわかる方だと思うけど。流石に評論家とか専門家みたいな詳しい評価はできないけど、いい物かどうかってくらいなら判断できると思う」
ちょっと離れて、とどうにか封魔の馬鹿みたいに大きな手を頭から外してベッドから降りた。
クッションに座って卓上に置いたお菓子をつまむ靖十郎の方へジワジワと体を移動させながら、勧められたチョコレートを口に放り込む。
また頭鷲掴みにされたら堪らないし避難させて、と靖十郎に伝えると呆れたような表情のまま了承をもらえた。
腰を下ろしてお茶を飲んだ所で、何やらブツブツと恐ろしい形相で独り言を呟いている封魔を二人で観察してみる。
(顔のパーツ自体はどれも整ってるんだけど、揃うと凶悪な顔つきになるのは何故なんだろうか)
こういうパターンもあるんだな、なんて感心していると突然、封魔が私に視線を固定し、素早く近づいてくる。
逃げるまもなく、再び頭を鷲掴みにして―――…不敵な笑みを浮かべた。
それを見たのは私だけじゃなくて靖十郎も一緒に目撃したんだけど、何故か靖十郎の方から小さな悲鳴のようなものが聞こえた気がする。
「よし、優、お前は今日から俺のものだ」
「………はい?」
「俺専属ってことで禪の奴にも言っておけ」
「ちょ、はぁ!?いや、おま、何言ってるか理解してる?頭大丈夫?!どうーゆーあんだーすたん?!」
予想だにしない爆弾を落とされたことで一瞬私の思考が停止。
チラッと見えた清十郎は物凄い顔で機能を停止していて、幻聴でないことだけはしっかり認識した。
「色々と味あわせてやるから覚悟しろよ」
にぃっと口の端を器用に持ち上げて、笑う。
目は真剣そのもので真っすぐに私を射抜いていた。
迫力というか気迫を前にして、私は体中から冷や汗とも脂汗ともつかないものが吹き出してくる感覚に見舞われて――――……顔に熱が集まる代わりに理不尽な怒りがこみ上げてくる。
「(くっそぅ!なんだこの年下の癖に滲み出てるエロスは!ホントに高校生!?)何を真顔で危険極まりない発言かましてんだ。可哀想に、靖十郎なんか機能停止してんじゃん!っつか、お前は俺に一体何をさせる気だ」
具体的に言ってみろ!と睨めつける。
あれだよね、本能でこのエロスな雰囲気に飲まれたら終わりだって訴えてるんだよ。
流されると何かは確実に終わる。そう、人生的なものとかが特に。
「何、だって?そんなん決まってるだろ」
訝しげな表情を浮かべた封魔に謎の汗も引いていくのがわかった。
「お前がするのは味見役だ」
「―――――…うん?」
「そーいや、お前は来たばっかなんだったな。俺ァ、将来パティシエになるのが夢でよ、色々試作してんだ。でもここの連中ときたらなんでも“美味い”って言いやがる。だから舌の肥えたやつを探してたんだ。量も結構あるし、結構な食いっぷりだったからお前ならいけるだろ。っつーわけで、早速プリン作ってくるから感想頼むわ」
宜しくな!とニカッと笑った封魔は自分のクローゼットから大きめのバッグを取り出して颯爽とドアノブに手をかけている。
「ッアホ封魔ぁあぁあ!おま、紛らわしい言い方すんなよな!俺はてっきり…ッ!!!」
「あん?んだよ、俺は女相手じゃなきゃ勃た…ぶふっ!いってぇなチビ十郎!」
「チビ十郎言うなアホ封魔!さっさと出てけ」
靖十郎を全力で茶化そうとしている封魔の顔に枕がヒットした。
その様子を見ながら、あー無駄に疲れたななんて考えつつお菓子に手を伸ばした私は結構枯れているんだろう。
下ネタに反応する元気もないわー、お姉さん。
疲れた顔をした靖十郎と一緒に顔を見合わせて深い溜息を一つ付いたのは言うまでもない。
ちなみに封魔が宣言通りプリンを持ってきたのは、丁度夕食が終わった後。
入れ物が丼だったこと以外は素晴らしい出来だったんだよね。
……須川さん、男子寮はどうやら平和なようです。
ここまで読んでくださってありがとうございました!