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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【生徒会長と異変の始まり】

 次回、ホラー?残酷描写入る予定です。

今回はまだ触り部分。



“視える”ようになってから、どんなものにも二つの顔があることを私は知っている。



 サラサラの黒髪をゆるく8:2で分けた彼も私を見て”判った”らしい。

独特の存在感がある人は”こちら側”の人間が多いんだけれど、彼もソレがわかる人間だったようだ。

切れ長の瞳が僅かに見開かれて私を凝視している。


 目があった瞬間に、頭の中にポンっと“水”のイメージが浮かぶ。

言葉で表すなら清流の滝といったところだろうか。

初夏の青々とした若葉やそこから射す木漏れ日を受けて、清らで厳かな雰囲気をまとった彼に肩の力が抜ける。

 私はイメージが映像で浮かぶけれど、須川さんは花と文字、黒山 雅さんは香りでそれぞれ相手の性質がわかるんだとか。


受け取り手の能力や個性によって捉え方が違うのだと山神様はおっしゃっていた。

山神様っていうのは、シロの元上司で私が不法投棄された森の神様のことね。

山神様には随分良くしてもらっていて、この間は持参した供物をつまみながら「なんでお菓子や料理でイメージが浮かばないんだろうねー」なんて話をしたのは記憶に新しい。

…須川さんにそれを報告したら手で顔半分を覆って“貴女をあの森に放り込んだのは間違いだったかもしれません”なんて深いため息をついていたけれど。

うん、これもピチピチの新鮮な思い出だね。


 廊下と教室の中でじぃっとお互いを観察していると隣にいた靖十郎が居心地悪そうに体を捩る。

いつの間にか私と封魔の真ん中で机に隠れるよう身を潜めている。



「俺、苦手なんだよなァ。生徒会チョー。なんか、冷たい感じがさぁ」



落ち着かねぇんだよ、と私や封魔にしか聞こえない小さな声に思わず小さく笑ってしまった。


(靖十郎の感覚ってあながち間違いでもないんだよね。性質的に水だし)


なんだよ、という少し気まずそうな視線に私は出来るだけ普段と変わらない声色で口を開く。



「そう?真面目そうだし、何か面白そうだけどな。ほら、ああいうタイプって実は面倒見がいいか、極端に悪いかのどっちかでどっちにしても面白いじゃん」


「……優、やっぱさ、変だってよく言われるだろ」


「え。いや、靖十郎に言われたのが初めてだけど。やっぱ、ってことはどっかのタイミングで俺を変だって思ってたってことだよな」



じとーっとワザと半目で靖十郎を見つめると何故か彼は狼狽したように視線を泳がせた。

 封魔はニヤつきながら黙って私たちのやり取りを眺めている。

こっちもこっちでイイ性格をしているようだ。



「いや~、あはは。で、でもさ!ほら、変わってるって言われるだろ?」



妙に確信を持った靖十郎の言葉に一瞬言葉に詰まった。

実は仲良くなる人大体が私のこと“少し変わってるよね”って言うんだよね。

どうなの、それって。



「言われ……ないこともない、けどさ」


 封魔からも呆れたような視線を頂戴したけれど、華麗にスルーして廊下に視線を戻す。

でも、そこにはもう、眼鏡の生徒会長さんはいなかった。


 出来れば話をしたいところだったけれど、今回の件の協力者でもあるらしいので靖十郎や封魔がいない所で話をした方がいいのかもしれない。

言い訳めいたことを考えながら、私は潜入生活に馴染むべくクラスメイトとなった彼らとの会話に身を投じた。




◆◆◇





 何気ない会話をしながら私は周囲の様子に少しだけ辟易としていた。



食事後の授業はあと一つだけ。

 今は小休憩中なんだけど、朝に比べて視線は明らかに増えている。

多分だけど色々と顔が広い靖十郎に加えて色んな意味で人の目を引く封魔がいるからだろう。

靖十郎と封魔のやりとりを聞くのは面白いし、今日半日で注目されることにも少しずつ慣れつつあるので放置してあるけれど。



(にしても潜入調査一日目で名前呼びできる程に仲良くなれたのは助かるな。まぁ、問題はまだ山積みなわけだけども)


「やっぱ、怖い話聞けなかったのがなー」



それが一番手痛い失敗だろう。

 もし、あの時通りがかった生徒会長さんに話を聞けていれば放課後、早速場所を覚えて夜の点検もとい、見回り調査に活かすことも出来たはずなのだ。


(そういえば、夜に調査をするかどうかは須川さんと話して決めるってことになってたっけ)


自殺者が出ている案件だから慎重にって事らしい。

 夜の調査がなければ睡眠時間は確保できるけど、その分調査期間が長引くので良いとも悪いとも一概には言えないんだよね。

ふぅっと小さく吐いた溜め息が耳に入ったらしい靖十郎が私の顔をヒョイっと覗き込んだ。

ちょっと近いです、青少年。



「生徒会チョーに怪談聞けなかったから落ち込んでんのか?どうせ同じ部屋なんだし、機会があればいつでも聞けるだろ。でもまぁ…ため息吐く程聞きたかって事は優も相当な怪談好きというかオカルト好きというか――――…封魔、お前ほんとに何も知らねぇ?俺はイマイチ思い浮かばないんだけどさ」



前の席でもある封魔は椅子の背もたれを窓側の壁につけて、軽く目を閉じていた。

どうやら、満腹だったおかげで眠いらしい。

眠気のせいでかなり凶悪度が増した視線が私と靖十郎に向けられて…やがて、ゆるりと覚醒した。




「そういや『栄辿七つ不思議』ってのがあったな」



意外な、けれど懐かしい響きすら感じる単語に私は思わず目をしばたかせる。



「七つ不思議って俗に言う“七不思議”のことだよ、ね?学校によくある、えーと“トイレの花子さん”とか“十三階段”とかそういった感じの」



他にも音楽室にある肖像画の目が動くだの、人体模型が夜中校内を走るだのというどちらかといえば子供向けの学校にまつわる怪談話が浮かんだ。

 わかりやすい喩えを持ち出したのが良かったのか、封魔は少しだけ口角を持ち上げる。



「そ。まァ、毛色は少しばかし違うけどな」



ひと呼吸置くように封魔が同意したので好奇心と切欠でも掴めたら、という微かな希望をもって急かすように聞いてみる。



「その、封魔が言う七不思議ってどんなの?」



ルーズリーフを一枚出してメモの準備をする。

本格的に聞く姿勢になったのを見た封魔は少し考えるように宙を見て、ぽつっと口を開く。



「俺が知ってんのは『閉ざされた焼却炉』ってヤツだな」


「あ、それか!それなら俺も知ってる。俺が知ってるのは『咲かない花壇』だな」


「『焼却炉』と『花壇』…?もっとベタな“動く人体模型”とか“目が動く音楽家”って感じのだと思ってたんだけど、違うんだ?これってさ、この学校限定の怪談…だよね?」



 私の問いに二人は漸く「そういえばそうだよな」と初めて気づいたような反応を示した。

今まで気付かなかった方が凄いんだけど…と言いそうになったところで、靖十郎が突然動きと、表情が動かなくなった。

 

――――…まるで苦手なものに遭遇して、全力で警戒している犬のソレだ。


視線は窓の外。

丁度、外で体育の授業をしているクラスがあるらしい。

その中の一点を見つめて動かない靖十郎の視線を辿っていくと…



「靖十郎、なにか見え……眼鏡の生徒会長?」


「ッ!この話はやめやめ!そろそろ江口の授業始まるぞ!」


「江口って確か数学の先生?怖い先生なんだ」



 私は咄嗟に、慌てて自分の席に戻る靖十郎の異変に気づかなかったふりをした。

生徒会長を見ている時の彼の表情は普通ではなかった。



(冷や汗と青ざめた顔で言われても、ね。苦手ってだけじゃないのかな)



何かあったんだろうか、なんて考えながらルーズリーフに『焼却炉』と『花壇』についてメモをしておく。

教科書やノートを取り出しながら、まずは七不思議から調べてみようかなんて考えて、数秒後に鳴り響いたチャイムの音に意識を切り替える。


 江口という名の神経質そうな教員は挨拶の時にもいたが彼は私に関しては知らぬ存ぜぬ、できるだけ関わらないというスタンスで行くらしい。

授業中、目が合うことはおろか質問を振られることもなかったのは私にとって幸いした。

数学苦手なんだよね。


 真面目な顔を装ってノートに黒板の文字を移していく。

前の席の封魔が気を使って黒板の文字が見やすいよう体を傾けてくれているので辛うじてノートを取ることはできるようになっていた。

所々、書き取れないところもあるけど、それはあとで見せてもらうことになっている。


 大勢の生徒と同じようにシャープペンを動かしながら、ふと、先ほどのルーズリーフを取り出してみる。

私の文字で『閉ざされた焼却炉』『咲かない花壇』とだけ箇条書きで書かれているけれど、七話全部が集まることはないだろう。

大概、七つ目の話は“ない”のだ。

 ふっと息を吐いてルーズリーフを裏返し、新たに書き込まれていた数式を書き写すべく、手を動かして――――





「え……?」



 空気が、変わった。


思わずこぼれた声は小さくて封魔も聞こえなかったようだけれど、明らかに変わった空気に私は慌てて周囲を見回す。


 一見、変わった様子は何もない。


教師は黒板に向かって新たな数式を書き、生徒たちはそれを板書している。

午後特有のどこか気怠けで違和感なんて微塵も感じられない。

 念の為に“視て”みたけれど、教室内に異常はなかった。



(気のせい、だったのかな。初日だから神経が高ぶってる、とかそういう類の勘違い…?)



自分を無理やり納得させようと、何気なく開け放たれた窓の外を見る。

 外から聞こえるのは、元気な男子生徒たちの掛け声と笛の音。

そして、聞き覚えのある鳴き声。



(ッ…チュン?!やっぱり何かあったんだ!)



窓の外、丁度グラウンドの向こう側に広がる森の方から、チチチチチッという警告に似た鳴き声を上げて猛スピードで私の方へ向かってくる小さな生き物。

それは、雀と呼ばれる生き物に非常に似た外観をしている。

 チュンは通常であれば普通の人間でも見ることができるけれど、今は“隠れて”いる状態らしく気づいた者は私以外にいないようだった。

ちょこんと窓枠に止まったチュンに指示を出す。



(須川さんに異常を連絡して!お願いっ)



彼とも彼女とも知らないチュンはクリクリした黒くつぶらな瞳を私に向け、数度羽ばたいたあと何処かへ―――…恐らく、指示通りに須川さんのいる方へ飛んでいった。

 元々、送り雀という妖怪であるチュンは、危険が迫れば知らせてくれるという便利な能力を持っている。修行を初めてしばらくすると、簡単な指示も聞いてくれるようになったので伝書鳩ならぬ伝書雀として日々私の役に立ってくれている。



「(須川さんに知らせが言ったら取り敢えずは待)……き?」



 上司様に報告だけしておけば取り敢えず一安心だろうと、胸を撫で下ろした私は視線を黒板へ向けようとしたんだけど、顔は何故か窓の外に固定されたまま。



 今思えば、この瞬間からもう既に始まっていたんだろう。


いや、違うか…私たちがこの学校に足を踏み入れる、ずっと前から。






――――――直後、私の両目は、確かに青空と“黒”を映し出した。



ここまで読んでくださってありがとうございました!

続き、できるだけ早くあげられるよう頑張ります。要努力。

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