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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【強面の友人と】

登場人物がじわじわ増えていきます。

ホラー要素はまだないです。



 遠足で例えるならば今は“遠足のお知らせ”というプリントをもらった所かもしれない。



食後のお茶を飲みながら、昼食を受け取るための長い列を眺める。

ザワザワと蠢く集団は、見渡す限り見事にむさくるしい青少年ばかりだ。

テーブルについて食事をしている者の前には大量の皿や食べ物。

大食い会場か何かですか、と聞きたくなる量を食べる猛者も数十名見受けられる。


(いやいや、普通数人でしょ。数十人てなんぞ…フードファイター養成所とかじゃないよね?てか、エンゲル係数…大丈夫なのかな)


思わずそんな心配をしてしまうほどには豪快な昼食風景。



「そういえば、服装って結構自由なんだ?」


「ん?あー…まぁ、自由って言っても規則ではシャツとか色指定されてたりするんだけどさ、朝会とか全校行事とかそういうのじゃない限り風紀の先生とかもあんまりうるさく言わないし、好きな格好してるかな。一応、ズボンは制服だし」


「なるほど。上半身裸はどうかとおもうけど、夏だし暑いから仕方ないか」



半数が半袖の白いYシャツだけれど、色つきのTシャツや暑さに耐え兼ねたのかタンクトップや上半身裸というバラエティ豊かな生徒たち。

 よく見ると先生もゆるい感じの服装をしている人が多い。

きっちりした服装の教員もいるけれど、まぁ、少数だ。

数人、パンツ一丁でカレーやらラーメンやらを食べているのもいるけれど、周りの人間は特に気にした風もない。

靖十郎が言うにはよくあることなんだって。

暑いもんね、と相槌を打ちながらできるだけ自然に目をそらした。

共学だったからなー、私の高校は。



「(男子校ってホント、カオスだわ。混沌として…なんか色々と斜め上を行ってるような)」



靖十郎の日本昔話並の大盛りご飯があっけなく消えてしまったのを思い出しながら小さく息を吐く。

この時、靖十郎は同級生から貰った大きめコッペパンをデザート代わりに食べていたんだけど、ため息が聞こえてしまったらしい。

心配そうな視線を向けられる。



「大丈夫か?やっぱ、飯の量足らなかったんだろ。ほら、俺のパン半分やるから元気出せよ」


「……心配ありがとう。気持ちだけ、ありがたく受け取っとく。授業中寝たら大変だしさ、ほんとに。にしても、靖十郎結構食べるんだね、驚いた。てか、さっきのご飯は一体どこに入ったのさ」


「は?いや、ふつーの量じゃん」


「異常だって、あの量は。いや、あー…成長期なら普通なのかな」



 何せ私の成長期はとうの昔に過ぎ去ってしまっているからね。うん。

実感がわかないまま腕を組む私に靖十郎は訝しげな顔をしている。



「いや、成長期ならって優も十分成長期じゃん。身長だってこれから伸びるだろ?俺、今年の身体検査で2センチ伸びてたんだぜ!一応父親も母親も平均身長はあるし絶対これから伸びるんだけどさ、一応、念の為牛乳毎日飲んでるし」



身長を伸ばすための努力を微笑ましさと私的な情報収集を兼ねて耳を傾けていると人の気配が背後に感じた。

 靖十郎もそれに気づいて朗らかな笑顔を浮かべたので友達かなにかだろうかと振り返って…体が動かなくなった。

で、口から悲鳴も漏れそうになった。



「……ッ!」



 まず、物騒な英語がスタイリッシュに配置された赤のTシャツが目に入った。

鋭い眼光と眉間に刻まれた皺、地毛らしい赤黒い短髪は重力に逆らってツンツンと立てられている。

 耳には綺麗な赤い石のピアス、首には銀のチェーンが眩しい同じような赤い石がついたネックレス。



(こ、こわぁああぁあ!!どっかの若頭?!そういうオチなの!?そうだよね、これ完全に法律を空気のように扱うタイプにしか見えないよ?!)


「あ、優固まってら。やっぱ封魔の顔怖ぇんだなー。俺の弟と妹もファーストコンタクトでスッゲー泣いたし!いよっ、強面ナンバーワン!」


「…るっせぇな。席空いてんだろ、座らせろや」



腹減ってるんだよ、と高校生らしからぬ将来有望な重低音には若干のイラつき。

多分空腹からくるものなのだろうとは思うけれど四角いテーブルの側面に座った彼は二つのトレーをドンとテーブルに置いた。

 牛丼大盛り、カツ丼大盛り、ラーメン、野菜炒め定食、デザートなのか大きなプリンが1つというラインナップ。

お腹いっぱいだった私が思わず椅子ごと後ろに下がってしまう程の大迫力だった。

不良代表のような彼は意外にも律儀に「いただきます」と手を合わせてから、きちんとした箸の持ち方で猛然と食事を開始。

 某有名掃除機会社のCMを見ているように最初から最後まで吸引力が変わらない食べっぷりに呆れを通り越して感心していると正面に座っていた靖十郎が二個目の牛乳パックを開けて笑っている。



「こいつが封魔な。不良っぽく見えるし顔も超こえぇけど、すっげーいい奴だし俺のダチなんだ。困ったことがあったら相談しろよな。結構面倒見いいんだ」


「そ、そうなんだ…?ええと、宜しく…?」



戸惑いながら声をかけると最後の一口らしいプリンを口に入れて咀嚼しつつ私の頭から体をじぃっと眺め、おもむろに大きな手で私の頭を掴んだ。


(握りつぶされる?!)


ひぃっ!と漏れそうになる悲鳴をどうにか押し留め、戦々恐々と動向を見守っていると彼はニヤリと口の端を持ち上げ、鋭い瞳を細めた。



「――…優っつったか?赤洞せきどう 封魔ふうま、お前の前の席。まぁ、好きに呼べ」



掴まれた頭に力を加えられることはなく、グリングリンと犬猫を撫で回すかのように頭を撫でられる。

一瞬、首をもぎ取る気か?!と思ったのは内緒だ。

 プリンを食べ終えた彼はなにか考えるような仕草を見せ、改めて私を観察するように眺める。

 ヤクザの下っ端なら視線だけで殺せそうなほどの眼力に震え上がりそうになる体を気合で押さえつける。

もう、あれだよ。

サングラスとかでナイフ以上に鋭い眼光を隠し……いやいや、サングラス着用したら冗談抜きで頭かマフィアのドンになりかねん。



「おい、よかったじゃねーか、靖十郎。お前よりちっこいのが入ってよ」


「うっせーな。いいんだよ、俺も優もこれからぐんぐん伸びるんだから」


「あ、あはは…は、は…」


「?優なんで視線そら……あ。いや、その、ほら大丈夫だって先月伸びてなくてもいずれ絶対伸びるし!ってか、やっぱ飯たくさん食わないから伸びねえんだって。俺の牛乳分けてやるから飲め。茶じゃなくて牛乳にしろ、な?」


「世話焼きのオバハンかお前は」



呆れたように靖十郎にツッコミを入れるヤクザな彼は、年相応に見えたので方の力を抜いた。

警戒心が溶けたのを察したのか彼と目があった。



「えーと、封魔、でいいのかな?」


「おう。にしてもこの時期に転入なんてお前も災難だったな。さっきも言ったが前の席だからわかんねーことがあれば聞けよ。あと、居眠りしてたら一応起こしてくれや」



わかった、と返事をしながら自分の記憶力の悪さを恨んだ。

 こんだけ派手なクラスメイトをどうして覚えていないんだ、私の脳みそ。

元々、人の名前と顔を一致させるのが苦手だっていうのもあるのかもしれないけどさ。

すっごい特徴がある人とか覚えやすい雰囲気の人なら覚えられるんだけどね…須川さんバリの美形とか。滅多にいないけど。


(そういえば須川さんも初めは“なんで覚えられないんでしょうね”なんてチクチク言ってきたっけなぁ。最近はもう諦めたみたいだけど)


今はもう、静かに私の肩や頭に軽く手を乗せてため息を吐く程度だ。

オプションで付けられる可哀想な生き物を見るような生暖かい視線には多少思うことはあるけど、仕方がないといえば仕方ない。



「そういや、お前も寮生だったか?俺らもそうだから遊びに来いや。まぁ、違う寮ならルームメイトと仲良くなるのが先だろうが」


「寮って何種類かあるんだ?俺まだ詳しい説明聞いてなくてさ」


「なんだ、知らねぇのか。靖十郎、ホレ、説明してやれ」


「俺かよ!まぁ、いいや…」



靖十郎の説明によると寮は大きく三つに分けられているそうだ。

棟も違っていて寮対抗の行事も盛んだから同じ寮生同士は割と早く仲良くなる傾向があるらしい。

 同じ寮だといいんだけどね、と口に仕掛けて思い出した。



「そういえば、生徒会長と同室だって聞いてるんだけど、同じ寮になるのかな」



何気なく言った一言で二人の表情が一瞬固まってそれぞれ何故か顔を顰める。

 靖十郎は視線を逸らして、封魔は眉間にガッツリ皺を刻んで。



「あー、俺らの寮だな。そりゃ。生徒会長サマと同室なんてツイてねぇんだなぁ、お前。ま、最悪俺らの部屋に泊めてやるから無理だったら逃げてこいや」



という封魔の言葉に不安が新たに芽生えたのは言うまでもないだろう。

 ま、それは置いておくとしてもこの封魔という青年は意外性の塊だった。

なんていうか…外見とは違ってさり気ない気遣いができる出来た人間だったんだよね。

これで爽やかな容姿ならご近所から評判の好青年って感じ?

靖十郎がお母さんっぽいから、封魔はお父さんっぽく見える不思議。

あれだ、封魔は昔ヤンチャしてましたー的な人情系父ちゃん。


 うっかりそんな感想を二人に話してしまった私は、物凄く怖い顔の二人に肩を掴まれ鬼気迫る勢いで凄まれた。

傍から見たら確実にカツアゲされる気弱な生徒の図だよ。

周りのテーブルの人達がガン見してるし、私を憐れむような言葉も聞こえてきた。

 そんな他愛のない話をしているとあっという間に時間が過ぎていった。

慌てて食器を返却口に持っていき、受け取ってくれた食堂のおばサマ達にお礼を言って食堂を出た。


食堂から教室に戻るまでの道を靖十郎と封魔が説明しながら教えてくれた。

わかったのは食堂を軸に東と西の棟に分かれていて教室や職員室、教材室があるのは東、音楽室や視聴覚室、講堂や調理室などの特別な機材や機器、設備がある教室は西棟といった具合らしい。



「後、外のグランド脇に運動部系のクラブ棟があるな。文化系の部活は東の三階だ」


「聞くだけだと結構わかりやすいけど、規模が規模だし迷うだろうなぁ。完全に覚えるまでは少し時間がいるかも―――…あ、話のお礼に飲み物奢らせてよ。お茶でいい?まだ昼休みはあるしさ」



情報料を兼ねて自動販売機で飲み物を購入した私に二人は顔を見合わせたけれど、素直に受け取ってくれた。

まぁ、気にするなとは言われたけどね。


(でもやってることは調査なわけで、必要な事とは言え騙してるこの状況がジワジワ良心を締め付けられるんだよなぁ…二人が“いい子”だから余計に感じるんだろうけどさ。こればっかりは仕方ない、というか仕事をする時点である程度覚悟はしたけど)


結構辛い、と苦笑すれば二人がどうかしたのか?と純粋に心配して声をかけてくれる。



「ううん。なんでもないよ…ただ、やっぱ夏だし暑いなーって思っただけ」



必要とはいえ、後暗い気持ちを平然と笑顔で誤魔化してしまう自分が少しだけ嫌になった。

 廊下を歩きながら教室に戻ると私の机の周りに二人は集まって、私が話しやすい雰囲気を作ってくれる。

靖十郎は封魔の隣の席の椅子を拝借中だ。



「早速で悪いんだけどさ、この学校に怪談とか怖い話みたいなのってある?俺さ、そーゆーの好きであれば教えて欲しいんだ。夏だし」



初めに話を振ったのは、靖十郎。

 封魔よりも社交的で顔が広そうな彼なら怪談や噂の一つや二つ知っているんじゃないかと思ったんだよね。



「怪談?あー、そーいや、自己紹介の時に言ってたっけ。封魔、お前なんか知ってる?」



少し考える素振りを見せて靖十郎は美味しそうに冷たいお茶を飲む封魔に話を振った。

 話を聞く時のコツは、焦らないでじっくり相手に合わせること。

話を降るタイミングは会話が途切れている時。あくまでサラッと何気なく話しのタネを降るのがポイントなんだよね。タイミングも大事だけど話の振り方も結構大事。

突然だろうと無茶な話の逸らし方だろうと、空気を変えたい時や会話に飽き始めているなら大体ノってくる。

 どうやらそれは女だけじゃなく思春期真っ盛りの男子高校生も同じらしい。

 話を振られた封魔は視線を宙に固定して数秒、思い出したように口を開いた。

…なんか、顔が盛大に凶悪じみているのが非常に気になる。



「心霊とか幽霊とかそーいった系統は俺の幼馴染サマに聞くのが一番だろーなァ」


「幼馴染?え、封魔の幼馴染ってそういう話が好きなの?」


「いや、デカくて古い寺の息子なんだよ、アイツ。名前は真行寺院しんぎょうじいん ゆずりっていうスゲェ字画の大層な名前な。ま、実家が寺だってんで、怪談とか幽霊とかそーゆーのに詳しい。かなり頭は硬ぇし、融通きかねぇし、スカした奴ではあるけど悪い奴じゃねぇ」



はーっと仕事終わりの中年男性のような溜め息をついた封魔に対して私はつい、目を輝かせた。

実は、仕事に取り掛かる前に大まかにでも“事件”の詳細を知っておきたいと思って色々探してみたんだけど、結局なにもわからなかったんだよね。

死亡記事なんかも調べては見たけど、死亡した生徒がいたことだけは確認できたけど死亡した原因なんかはさっぱりだった。

最終的に、情報を持っていそうな須川さんに聞いても見たんだけど……結局、何一つ教えてはくれなかった。


(ひどいよねー、ホント)


だって、死なないようにって散々準備させておいてさ、肝心の仕事内容については一切教えてくれないんだもん。自分で調べるのも修行のうちってことらしいけど…少しヒントくらいくれてもいいと思うんだよね。

 勿論、ちゃんと抗議はした。

したんだけど……須川さんは神々しい微笑みを整いすぎた顔に浮かべサラッと“自分の足で情報を集め、原因を突き止めることも修行のうちですよ”とバッサリ切り捨てた。

 だから、こうして地道に現場で情報を集めるしかないのです。



「その真行寺院って人にはどうやったら会える?封魔連絡先とか知ってたら教えてくれないかな」


「あ?あーそうか、お前今日登校したばっかりだもんなァ。生徒会長と同室だって言われたんだろ?禪はこの学校の生徒会長だからお前さんのルームメイトってことになるワケだ。部屋に戻ってきた時にでも聞きゃい……――――っと、噂をすればなんとやらだ」


「げっ。あー…俺苦手なんだよなぁ、生徒会チョー」



ほれ、と封魔が顎で廊下の外を指すのを見て靖十郎が口を尖らせ、ガシガシと髪をかき混ぜている。

靖十郎は気まずくなったりバツが悪くなると髪をくしゃくしゃにする癖があるらしい。

万人受けしそうな彼が苦手だという人物に少しの不安を覚えつつ、視線を廊下へ向けてみて、息を飲む。


 そこには、凛とした佇まいのやや時代錯誤的な雰囲気を持った生徒が一人。

異質とも言える圧倒的な存在感の中に感じる気配とも雰囲気とも言える不思議な感覚。

予想外の出来事に私は思わず彼を頭からつま先までマジマジと観察してしまった。




彼は、どうやら“こちら側”の人間らしい。

それがわかっただけでも結構な収穫なんじゃないかと、この時思った。




ここまで読んでくださってありがとうございました。

ストックがないので出来るだけ頑張って書いていきます。

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