【悪い夢、続】
まだ続きます、夢の話。
でも、次から現実へ帰還。ストックを、至急製造中。
日間ホラーで28位でした!わー、すごい!不思議だ。ありがとうございます。
……読んでもらえているのか、すごいな。
きっと、生き物はひとりで生きていけないように造られたんだと思う。
私は今、炎の中にいた。
正確には炎のようなものに囲まれている、だけども。
「(夢の中でも焼き殺される夢なんて正直嫌なんだけど…タチの悪さから言って可能性は大いにあり得るんだよね。正直、笑えないレベル)」
そう、私はまだ夢の中から出られていない。
ぐるりと私を取り囲んでいるのは炎。
元々は拳大くらいの光だったのが徐々に変化して最終的に炎のような物体になった。
色は、赤黒くなっているものもある。
一つの光をじっと見つめていると、ゆるり ゆらり と変化して徐々に周囲の闇に溶けてい…――かなかった。
それどころか周囲に明確な変化が起こる。
「な、なに…?」
地震のような振動を伴う、絶叫に似た音。
叫びですらない音に慌てて周りを見るけれど、相変わらずの闇と炎のように揺らめく光しかない。
けれど、それが答えだった。
大きな炎の一部がごっそり、消えたのだ。
上下にまるで何かに飲み込まれたかのように大きく一部が欠け、飛び散った小さな炎のかけらは漆黒に四散して空間から完全に消えてしまう。
「たべ、られた…みたいな」
ポツリとこぼれた言葉でふっと、近所にいた大型犬を思い出した。
ご褒美でもらった大きなお肉をがぶりと食べていたとき、丁度さっきみたいな感じでガバっと肉の一部が―――…あ、ちなみにご褒美っていうのは飼い主が山で遭難したのを救助隊に知らせて発見へ導いたから貰ったらしい。
小さい子にも優しいマイペースな大型犬だったけれど、ご褒美をもらったときはすごく嬉しそうに尻尾フリながらお肉の塊に夢中になってたっけ。
可愛かったなぁ…って、それどころじゃないよねこの状況!
慌てて炎の壁を見るけれど、こちらにも変化があった。
先ほど消えた壁はもう復活していて、弱々しい橙色の炎壁が現れている。
でも、その色もすぐに周りの炎と同調するように外側から赤黒く染まっていく。
ぼんやりと、呆然と、それを眺めていて気づく、更なる変化。
じわじわと、着実に私と炎の壁の距離が縮まっているのだ。
熱くも痒くも痛くもないからすっかり気づかなかったけれど、気づいてしまえば背筋に冷たいものが走った。
「って、ちょっと待った!さっきから食べられる頻度高くなってない?!っつか、色が全体的に黒ずんできて……あ、あれー。なんか、獣っぽい声、も、うっすらどころか明らかに混じってるよね」
勘弁して、ホントに。
自分の夢の中で頭を抱えることになるとは、そんなことを何処か冷静な自分が突っ込んでいるけれど、余裕なんてありはしない。
物凄くリアルな危機感が足元から這い上がってきている。
慌てて一心不乱に目を覚ませと祈った。
もう祈るのを通り越して、念じまくった。
下手すると一種の呪いのようにすごい形相で。
「う、うわぁぁああん!もぉー!なんで目ェ覚まさないの!私の馬鹿!寝に汚いにも限度っちゅーもんがあるでしょーに!本格的に私の意識が起きろって指令出してるんだからちゃんと体!覚醒しなさい!灰色の脳細胞ッ、普段リラックスしてる分ちゃんと反応しろぉぉお!」
お臍の下から力を込めて全力で声を荒げる。
田舎育ちなので声は大きいです。
全力出せば近隣の皆様に怒られるくらいには。
「もう二度と胃の中に大好物の甘いもの入れてやんな………ひ、ひぇぇええぇえぇ!?ちょ、今!?今なのそれ!!ちょっとまって壁!さっきより接近ペース早い!早すぎるから!当社比で確実に1.5倍は早くなって…ああ、もうホントにすいませんごめんなさい私が悪かったですッ!っていうか私の日頃の行いが特別悪いわけじゃないと思うんで今回は見逃してください、あの、甘いもの控えますからッ!一日三回のオヤツも一日一回に減らすからぁぁああぁ!!」
人間って、混乱するとすごいよね。
この時の私はなんの躊躇もなく泣きながら土下座してたもん。
いや、死んだおじいちゃんが『土下座は最上級の謝罪兼懇願スタイルだ!最終兵器だから滅多にしちゃだめなんだ!ばーさんと結婚できたのもこの最終兵器があったからだぞ』って言ってたし!
もう自分でも何をしてるのか完全に分からなくなっていた。
第三者がいたら凄くドン引きされるだろう。
だって、炎の壁に全力で泣きながらペコペコ頭を下げてるんだもんね…土下座スタイルで。
そんな必死な行いも虚しく、壁は急加速しながら私に迫る。
この時初めて気づいたけれど…壁からは、沢山の声がした。
壊れたような笑い声、怒鳴り声、恨み辛みたっぷりの呪詛的声を遠慮なくあげて。
獣の唸り声が聞こえなくなったわけじゃないので、さらに私の周囲は混沌とかしている。
消えては補充される壁に獰猛さを増す獣の咆哮と攻撃のようなもの。
壁はもう、私が手を伸ばせば届く距離にまで迫っていた。
(あ、これ人生終了っぽい)
冗談抜きでそう思った。
近づいてくる声は狂ったような嘲笑。
多分だけど私を生贄認定して喜びまくってるんだろう。悪魔か。
抵抗しても、お願いしてもダメだとわかった私は土下座スタイルをやめて、その場に正座をした。
胡座でも書いてやろうかと思ったけど、正座の方がコンパクトだからね。
これでもまだ現世に未練があるし、最後までできる限りの些細な抵抗はするよ。
ふふん、小市民なめんな!
「に、しても…人生短かったなー…」
はぁ。とため息が溢れるけれど、不思議と恨み言なんかはない。
意外といい人生だったのかも、なんて考えていると―――― 新しい音が耳に飛び込んでくる。
控えめではあったけれど、確かに聞き覚えのあるソレに慌てて膝立ちの姿勢になって目を凝らす。
小さな音に全神経を集中させてみるけれど、目の前に広がるのは炎の壁ばかり。
「だぁあっ!もーっ、壁が邪魔すぎる!」
お行儀悪く舌打ちしつつ、諦めずに音を探していると丁度、掻き消えた壁の間から音の主が見えた。
ハッとして走り出そうとする私の行く手を阻むの壁にイライラしつつ、炎が消えたらダメ元で飛び出そうと走る姿勢をとる。
「ッチカチカゆらゆらいい加減にしろよこの壁!ちゅーん!!チュン、ちゅん~~?!どこー!?」
聞こえたのは小さな囀り。
見えたのは薄く柔らかい色で光る小鳥程の大きさの何か。
いろんな雑音のせいで聞き取りにくいけれど、間違いなくチュンだった。
不思議なんだけど、雀の鳴き声なんてどれも同じっぽいのに『チュン』のそれであることがなんとなく浮かんだんだよね。
そもそも雀の知り合いなんてチュンしかいないし。
諦めずに声を張り上げて、小さな雀の名前を読んでいると、突然手の甲にものすごい痛みが走った。
一点集中型の結構な痛みだ。
そう、思わず飛び上がって驚くくらいには。
「ぜ…絶対血ぃでてる。そんな系統の痛みだもん、紛れもなく」
っていうか、この状況ひどすぎじゃない?
上司に不法投棄されて山登りしてる最中に死体を発見するわ、謎の黒い物体は見るわ、獣っぽいのに狙われてるは、悪夢続きだわ…私厄年かなにかかな。
覚醒する意識に引っ張られて直前に感じたのはそんな愚痴じみた弱音だった。
◇◇◆
ジンジンと痛みを訴えてくる手の甲から、じわりと赤が滲んでいた。
やっぱり、血が出てた。
そんなことを目を開けてすぐに考える。
夢の続きでないことだけは、朧げに見える周囲の景色で分かった。
暗闇だけれど完全なる闇ではなく、うっすらと生き物や自然の匂いがする。
闇の中でぼんやりと見える自分の手は白く、そこの一点から赤い、色が見える。
暗くても血の色って分かるのが不思議だったけれど微睡みタイムはすぐに終わりを迎えた。
「ちゅん!!」
「……あのね、エッヘンって胸張られても凄く痛いです」
「ちちちちちっ、ちゅん!ちゅんちゅんちゅんっ」
「うん、ごめん。何言ってるのか分からないんだ…でも、今度ミーキャンとかで鳥語講座とかあったら必ず受講するから―――――…ありがと、助かった」
ちょっと、というか結構痛いけれど可愛いし助かったことに変わりはないので許すことにする。
ちゃんとお礼も言ったし、感謝の印に可愛らしい頭をナデナデと指の腹で撫でてやる。
少し落ち着いたところで改めて周囲を探ってみるけれど、やはり夢は夢だったようで炎の壁も獣の声もしない。
ほぅっと息を吐いて私は冷や汗と涙と鼻水にまみれた顔を持っていたタオルで綺麗に拭って再度、眠りについた。
だってまだ、起きるのには早いし。
時間で言うと午前二時半になったところだったのだ。
幸いなことに、二度寝の際に夢は全く見なかった。
でも、頭の中で暫くの間、色々な声が反響していたような気がする
ここまで読んでくださってありがとうございました!
もうちょっと、続きます。もうちょっとと言いながら、どのくらいになることやら