【悪い夢の中で】
ストックが行方不明です。
至急ストックを量産せねば…!!
この日も変な夢を、みた。
やっぱり始まりは真っ暗で、ぽつーんと暗闇の中に私が立っている。
昨日もこんな感じの夢だったな、なんて考えてやはり自分が眠っていることを認識する。
この工程って結構大事なのだ。
だって“何が起こっても”ここは夢だっていう安心感が得られるから。
「(目覚めてすぐにあの犬の像が目に入れば少しは安心できるけど…昨日みたいに真っ暗で……う。やめやめ!)」
きっと昨日は寝ぼけていたんだ。
だってお腹も空いてたし、唸り声だってお腹の虫がなった音を誤変換したのかもしれないし。
女としてそれはどうなんだろうとは思うけど、怖いよりマシだ。
そもそも、この場所には私と雀以外いないはずだし。
「に、しても…こんな服着た記憶も持ってた記憶もないんだけどな。着てる服はズボンだし」
下を向けば着た覚えのない白いスカートがヒラヒラしている。
スカートなんて滅多に履かないから持っているスカートの柄位は覚えてるんだよね。
その中でも白は間違いなく持ってない。
「メルヘンで少女ちっくな服を着る夢を成人してから見るとは思わなかったな」
じーっと白いスカートを見ていると無性にふわふわスポンジのショートケーキが食べたい衝動が湧いてきた。クリームは甘めの気分だ。苺は必須。
スポンジの間にも生苺でしょ。んで、上には大粒の苺を1つないし2つ。
「何かもう、自殺の名所でもいいからケーキとアールグレイのミルクティでお茶会して欲しい。もう怖さとかお化けとかどうでもいい程度にはなってきたし…リアル死体よりマシだ。お化けってきっと匂いしないだろうし、怖いだけで甘いものを損なうような致命的欠陥があるわけじゃないもんねぇ」
夢の中で位息抜きさせておくれ、と八つ当たり的に食欲で脳内を満たしていた私だけれど、唐突に違和感を覚えた。
慌てて周囲を窺うけれど特に変化は見当たらない。
自分の体(といっても目に見える範囲だけ)を確認してみても変化はない。
そもそも違和感っていっても、ただなんとなく“あれ?”って思っただけで私自身に何かがあったって訳じゃないんだよね。
「なんだったんだろ、さっきの感じ。特に変な感じはしないんだけどなぁ」
変なの、とボヤきながら髪をごしゃごしゃーっとかき回してみる。
髪がボサボサになったけれど元よりボサボサになってたし、夢の中だから気にしない。
それから暫く違和感について考えてみたものの、結局というか当然、答えはでなかったので考えるのをやめた。
ふっと息を吐いて少し落ち着いたところで、遠くから、でも頭の中に響く不思議な声が聞こえてくる。
例えるならノイズの入っていない、調整不良のラジオを聞いているような感じ。
声の質からして男の人だってことはわかるんだけど、それ以外はわからない。
でも、そう…暗くて重たい。
念願の人の声だっていうのに、墨化したホワイトソースのような、ドロドロとしていて元の、本来のモノには戻らないような状態。
反射的に聞きたくない、聞いてはいけないと体が判断したようで耳を自分の手で塞いでいた。
この時初めて夢の中なのに指先が異常に冷たく、震えていることに気づく。
<……て、………ば、…んだ…>
聞くな、聴くな、と念じても“声”は頭の中に響いてくる。
耳を塞いでも駄目なのだと分かってしまって、私は震える手を耳から外した。
だって、どうやっても聞こえてくるのなら諦めて聞くしかない。
開き直ってしまった人間は強いと昔どこかできいたこともあるし、怖いものなんて何もないぞ!と強く想う。
「よし。さーあ、どっからでもかかってこい!!」
暗闇に声を張り上げた瞬間だった。
< ど して、 おれ ば り 、こ な め あ ん だ ?!>
聞こえてきたのは怒鳴っているようにも聞こえるほどの声量と強さを持っていた。
「すいませんごめんなさい撤回しますかかってこないでください後生ですから!」
前言撤回!至急撤回します!
言わなきゃよかった、言わなきゃよかったぁぁ!!
猛烈に後悔をしつつ思わず後ずさった。
けれど、真っ暗だから退がった感覚があっても、退いているのか進んでいるのかさっぱりわからない。
本気で勘弁して欲しいんですけども!と心の中で盛大に絶叫した私は悪くないと思う。
そんなことをしていると、声は途切れとぎれなものから普通の声に変化してくる。
< どうして、俺ばかり、こんな目にあうんだ?! >
「へ……?」
< 俺は悪くない!俺は、俺は何も悪くないのに、なんで、どうして…ッ!! >
思わず、知らんがな。と言いそうになったけれど、まぁ、理解できなくもない。
辛い時や苦しい時にそう思ってしまうのは最早人間の性のようなもの。
私だって今までの長くも短くもない人生で似たようなことを思ったことは何度もある。
どうして、なんで、私だけ?そんな風に考えるのは周りが見えていないか、ちょっと弱っていて余裕がないか、だ。
けど、そういうのってそう感じている時にはわからないのだ。
自分の気持ちの整理が追いつかなくて、現実だとか問題だとか嫌なことばかり積み重なっているような気がして、うまく息を抜くこともできない。
だからこそ、周りを見る余裕なんてあるはずがないし、うまれる事もないのだろう。
そもそも余裕があったらそういった自体には陥らないもんね。
「あーと、どうにもならなくても、どうにもならないなりの対応ってものがあると思うんだけど」
< 俺は悪くない、俺は間違ってなんかいない!なのに、どうして、なんで俺だけ…ッ >
「ダメだこりゃ。聞いちゃいねーですわ」
聞く耳すら、持っていないのだろう。
そもそも夢の中なのでアレなんだけどさ。耳もないんだけどさ。
< 私の、なにが悪かったの >
「って、増えてる?!うそ、なんで増えたの?!」
私ってそんなに被害妄想強かったっけ?!
思わずそんなことを考えた私を追い詰めるように声は増えていく。
< アイツのせいで、アイツさえ、アイツさえいなければ…っ! >
< 私は悪くない、悪くないのに!全部ゼンブあの子が、あいつがいなければ >
< 俺は正しい!他の奴らが悪いんだ、俺になんでも押し付けてッ >
徐々に悪くなっていく、空気。
重さも息苦しさも増していくし暗闇が深くなったような錯覚さえ覚える。
「なん、か大分まずい雰囲気の夢、だなぁ」
ごくり、と生唾を飲む。
夢の癖に凄く嫌な危機感を覚えるんですけども。
反射的に引きつった口元と完全なるへっぴり腰というこの状態を見てもらえれば心境は察してもらえるんじゃないかと思う。
いや、まぁ無意識なんだけどさ。リアクション芸とかでもヤラセでもなくて。
いつの間にか、暗闇の中には掌大の光が浮かんでいた。
数で言えば丁度、声の種類と同じ三つだな、と考えていると光が徐々に増えていく。
三つだったのが、四つ、五つ、六つ…と数を増やすそれらは、声と共に増え、そして大きくなっていった。
大音量で色んな声が響いているだけでも十分なのに、薄いオレンジだった光の玉はいつの間にかっ毒々しい赤色に染まっていく。
「(色、が変わるのもまだ、いいけど…でも、この色の変化と比例して声が洒落にならないことになってるんですけども)」
声に侵食されるように新しく生まれたオレンジがかった玉は次々に赤く変化して最初の三つなんかは赤黒く変化して明らかに危なそうだった。
初めに聞こえていた声は既に支離滅裂で何を言っているのかわからない。
ただの音として認識する他なく、女性の声は強い恨み辛みをこちらへ遠慮なくぶつけてくる。
姿は見えないけれど、よくホラー映画とかに出てくる髪をだらーっと垂らしている幽霊っぽい声が増えていくのだから堪らない。
既に私の耳に入ってくるのは恨み辛み、うめき声、声にならない絶叫、唸り声、慟哭…それらの向けられる音は少しずつ、私が持っていたなけなしの余裕を削っていく。
(もう無理だ。はやく…目を覚まさないと…ッ!!これ、だって昨日の比じゃないよ?!)
冷や汗はもはや滝のようになってるだろう。
夢の中でも冷や汗をかく羽目になるとは思わなかった!と焦りながら、必死に起きろ、起きろ!とまだ眠っているらしい自分に呼びかけて念じても見るけれど…目を覚ます気配は微塵もない。
「(どんだけ眠ってるんだ私!暢気にぐーすか寝てる場合じゃないでしょ!夢の中だけど自分が危ないんだから起きろっての!)」
かき消されそうなほどに大きな声に対抗して自分も声を上げてみるけれど効果は、ない。
心が折れかけて、しゃがみこんだ私は真っ黒な地面をベシベシ本気で叩きながら半泣きのまま出せる限りの大声で泣き叫んだ。
もう恥も外聞もあるかーー!!とりあえず起きて自分―――ッ!!
ストック切れが深刻です。
とりあえず、予約予約。誤字脱字の他に変換ミスがあれば教えてください。