【 『パン屋「小麦の縁(よすが)」に住みつくもの』 1 】
正し屋での日常や短編~中編の小説を暫く書いていけたらなぁと思っています。
これまでは幽霊メインでしたが、妖怪系が多くなるかも。
気分次第です、はい。
須川さんのデスマーチ(お仕事)が終わって三日目経ったお昼のこと。
須川さんはお昼前に仕事で出て行ったのでお弁当を持たせたけど、私は適当に食べるつもりだったので悩んでいた。
「外に食べに行こうかなぁ。けど、今日の夜は七輪で焼き鳥の予定だし……うーん、悩む」
朝は焼き立ての食パンをこんがり焼いて、バターを乗せた。
後は温サラダに温泉卵乗せたヤツとお茶でしょ……あ、頂いた苺にヨーグルトかけて食べたっけ。
朝食のメニューを思い出しながら台所へ向かっていた私の耳に、チャイムの音が飛び込んできた。
驚きつつ、玄関口へ。
くもり硝子越しにうっすらと人のシルエットが見えた。
体格から恐らく女性だろうな、と思いつつ引き戸に手を掛ける。
カラカラと戸を開くと一人の女性が俯いて立っていた。
「すいません……ここが『正し屋』さんでしょうか」
女性は、清潔感のある人だった。
薄水色のブラウスと七分丈のズボンに、キッチリと後頭部の高いところで結われた短めのポニーテール。
髪の色は少し染めているみたいだったけれど手入れもきちんとされているようだった。
年齢は30代後半から40代前半といった所だろう。
緊張しているのか視線は足元ばかりを見ていて、目が合わない。
(気持ちはわかるけどね、正し屋ってパッと見凄く高そうな小料理屋っぽいし)
苦笑しながら、声を掛けようと口を開きかけて……微かに鼻を擽る香ばしい小麦の匂いに気付く。
「―――……もしかして『小麦の縁』の店長さんですか?」
パッと脳裏に浮かんだのは今朝もパンを買いに行ったパン屋さんの女店長さんの事。
縁町には一軒もなかったパン屋さんを開いたこの女性は、開店するまでに一年半時間を費やして周囲の店の人に相談やお伺いを立てていたらしい。
新しいものも多く取り入れられているとはいっても、元々昔気質の職人さんが多い街だ。
世話焼き気質の人が多く、頑張っている人を好む一方で筋の通らないことは頑として受け入れないって人が多いのも確かなんだよね。
「ええ……って、貴女は確か、抹茶色の髪をした凄いイケメンとパンを買いに来てくれてる―――…『優ちゃん』だったかしら。お隣の豆腐屋のアキさん達がそう言っていたような」
私のことを覚えていてくれたらしい彼女は、少し緊張がほぐれたみたい。
ほうっと小さく息を吐いて直ぐに建物の中へ視線を向けた。
「お昼時に来てしまったけどお昼休憩中ならまた―――」
「あ、どうぞどうぞ。今須川さん……えーと『抹茶色の髪をした凄いイケメン』はいないんですけど、それでも良ければ」
あはは、と笑えば照れくさそうに彼女は笑ってカラッとした笑顔で正し屋の玄関に足を踏み入れた。
小麦のいい香りにうっとりしつつ、応接室兼事務所に彼女を通す。
まだ緊張しているみたいだったので緊張がほぐれそうなもの、給湯室に向かいかけて足が止まる。
(どうしよう、お腹空いた。凄く空いた。話聞いてる時にお腹なったらいやだなぁ)
少し考えてから一応ご近所ということもあるし、彼女自身が社交的なのは何となくわかっていたので一つの提案を持ち掛けてみた。
須川さんがいたら絶対にしないけど、鬼のいぬ間になんとやら~ってやつだ。
「今日のお昼ごはんって食べました?」
「それはまだよ。午前中のパンが全部売り切れて直ぐにここに来たから」
「丁度良かった! じゃあ、私とご飯一緒に食べて下さい! 何食べましょう?! 出前かなぁ、でも出前だとお話ししてる時に来られても困るし……パパッと作れるものって言ったら親子丼とか。あ、良いかも食べたくなってきた。煮物もあるし。卵アレルギーとか人が作ったものに抵抗あるなら、出前か外に食べに行くのもいいですね」
「アレルギーもそういうこだわりもないわ。でも、私は食事をしに来たわけじゃなくって」
「はい。須川さんには黙っていて欲しいんですけど、正直な話……お腹空き過ぎて、集中力持たなそうなので何かお腹に入れたくて。それに、一人で食べるのちょっと寂しいっていうのもあります。だから、一緒に食べて下さると私としても凄く嬉しいって言うか……食べながら話も聞けますよ! もちろん!」
どうでしょうか、とダメ元でお伺いを立てると目を白黒させていた彼女は数秒置いてから、ぷっと噴き出した。
其処からお腹を抱えて笑い始める。
驚く私に彼女は暫く笑っていたけれど、最終的に私の提案を受け入れてくれた。
しかも調理を手伝ってくれるって言うんだからすごくいい人だ。
手を洗って、二人並んで台所へ立つ。
普段はお客さんを入れない場所ではあるけれど、彼女はなんだかここに入れてもいいような気がしたんだよね。
トントン、と親子丼の上に散らす小ねぎを斬ってもらいながら、私は玉ねぎ、干しシイタケ、鶏肉を出汁で煮詰めていた。
「それにしても、優ちゃん―――でいいのかしら、店に来てくれるお客さんと並んで食事の支度するとは思ってもみなかったわ」
そう言いながら、彼女は小ねぎを小皿に移した。
煮物はいい感じに温まったので小鉢に盛り付けてもらう。
一人暮らしも長かった、という彼女は手慣れていて包丁さばきも鮮やかだ。
「私も何食べようかなぁって思ってたので丁度いいタイミングで来てくださって嬉しかったですよ。一人分のご飯って用意するの面倒になるけど、人と食べるって思うと『作ろうかなぁ』って思えるから不思議ですよね」
「不思議なのは貴女の方よ。ふふ、ご近所の奥様方がね『正し屋さんは縁町の名物だ』って言ってたのが分かるわ。あの規格外のイケメンもそうだけど、優ちゃんって面白いわね。ほんと。挨拶もそこそこに『ご飯食べましょう』なんて普通言わないわよ」
ケラケラ笑う店長さんはとても楽しそうだった。
不安が混じった緊張で強張る表情は既にない。
ホッとそれに安心しながら、丼にご飯を盛ってもらった。
面倒なのでご飯は電子レンジでチンだ。
「お腹空くとダメなんですよ、私。……オヤツはお昼まで駄目だし、朝の散歩しなかったから買い食いもできなくて……あ、でも店長さんの所で買ったクロワッサンのラスクをコッソリ食べました! 美味しかったです」
「それはよかった。でも、だからラスクまで売り切れたのね……普段は出ない品だから驚いたけど、今日のラスクは密かに凄く上手くできた自信作だったから驚いたわ。貴女が食パン以外に買って行くものって大概、その日私が一番よくできた!って思ったパンばかりだから。もちろん、他のパンも丹精込めて焼いてるわよ? でも、その日一番っていうのは、決まって貴女が一番最初に買って行って……一番最初に売り切れるの」
「あー。他のお店で買い物しても似たようなこと、言われますね」
「食べ物の神様にでも気に入られてるのかしら」
笑いながら電子レンジへ向かったのを見て、具の味を調え、軽く説いた卵を流す。
30秒ほど煮てから蓋をして火を止め30秒蒸らせば完成だ。
丁度いいタイミングでご飯も温まったのでそこに親子丼の具をかけ、小ねぎを散らす。
食卓テーブルには煮物とミニキャロットの味噌一夜漬け、水出し緑茶のピッチャー、お箸が既にスタンバイ。
トロトロに仕上がった親子丼をそれぞれの前に置いて私たちは、食事の挨拶をした後同じタイミングで一口。
程よい温度のお米に熱々の親子丼の具が丁度良くて夢中で食べ進める。
半分ほど食べた所で、何気なく顔を上げた。
「……え」
ぽかん、と口を開ける私の前で彼女は親子丼を頬張りながら泣いていた。
口に入っていた分を飲み込んで慌てたように目元を拭おうとしたので慌ててティッシュと使い捨てのおしぼりを渡す。
気にはなったけれど、話したくなったら話してくれるだろうと判断してご飯を食べ進める。
彼女も静かに食べてたから聞かなかったって言うのもあるけどね。
親子丼や他の者も食べ終えて、お茶を飲んで一息ついた所で彼女がポツポツと口火を切った。
「―――……驚いたでしょう。私、パン屋を開く前に母を亡くしたの。最後に食べたのが、母が作った美味しくない親子丼だったなぁって……出汁を入れ忘れたって、食べてから気付いたのよ。私たち。ほんと、何でかしら……思い出しちゃってね。ごめんなさい、驚いたでしょう?」
大丈夫ですよ、と笑って頷けば安心したように彼女は笑った。
二口目のお茶を飲んだところで彼女は『正し屋』に来た理由について話し始める。
漸く誰かに話す切欠ができた、と何処か安堵を滲ませるような顔で静かに。
「はじめは……そうね、小さな違和感を覚えたの」
「違和感っていうと?」
「閉店後に残ったパンが一つ減ってたり、出しっぱなしの道具が見当違いな所にあったり、具材が少し減ってたりしたの。もちろん、最初は気のせいだったり無意識に行動してたりして忘れてたのかとも思ったのよ。でも、初めは店だけで感じた違和感が居住スペースでも感じるようになって……気味が悪くって」
家の中では深夜に足音がしたり、取り込んで忘れていた洗濯物が畳まれていたり、開けたはずのない電子レンジのドアが開いていた、など小さい違和感が積み重なっていったという。
そして、といつの間にか俯いていた彼女が小さく息を吐いて息をひそめた。
「私、一昨日の夜にみたのよ」
その言葉に思わず身構えた私。
縋るような目を向けられているので何とか態度と表情には出ていないとおもうけど、空気がピンっと張り詰めたのが分かる。
ついさっきまでほのぼのとしていた昼食時の空気を返して欲しいと思う位には、がらりと雰囲気が変わった。
「お婆さんが、ぼうっと立っていたの。台所に」
「ひぇ……ッ! そ、それは怖いですね」
「そうなのよ! 本当に怖かったのよ!! 知らないお婆さんで、ボロボロの服を着てぎょろっとした目で、ざんばらの、こうぼさっとした髪で!!」
抱えていた恐怖と感情を漸く表に出せた、とでもいう様に彼女は怒涛の勢いで目撃したというお婆さんの容姿を口にする。
骨と皮だけの貧相な体。
ぎょろりと濁った黄色の目にボロボロの歯。
破れたりほつれたりした着物。
真っ白な髪は所々赤黒く染まっていた。
そんなお婆さんが、住居スペースの台所でぼんやりと立っていたのだという。
彼女は物音を立てない様にそっと自分の布団にもぐり、朝まで震えていたそうだ。
朝日が昇るかのぼらないかの明け方に、そうっとドアを開けると既にお婆さんの姿はなかったみたい。
「盗られたり、なくなったものはなかったわ。でも、包丁の柄に土っぽいのがついてて」
怖くて、と涙声交じりになったので私は慌てて昨日や今朝はどうだったのかと尋ねた。
昨日はパンが一つ消えていたらしい。
今日の朝はパン焼く釜の前に枯れ葉が落ちていたそうだ。
「お願い。私……この町が本当に好きなの。昔住んでいた所に似ているし、あれこれ気にかけてくれる買い物に来てくれるお客さんも本当に、優しくて……新参者の私に親切にしてくれて」
だから、出ていきたくないと彼女は言った。
『縁町』に魅せられ、受け入れられたら二度と他の場所には住めない、と須川さんは言っていた。
合わない人は合わないとのことだが、そう言った人間は弾かれるのだという。
彼女はこの町に魅せられた人なんだろう。
そうじゃなきゃ『パン屋を出したいのだけれど、どうやったらこの町に馴染めるか』なんて開店前に調査したり、パンを作るための道具を可能な限り町にある店で揃えようなんて考えもしない筈だ。
この町の商品は大切に使えば100年以上使えるものばかり。
壊れたり不具合が生じれば直してくれるし、品物としては一級品だ。
その分、高価だけれど。
「お願いします。どうにかなりませんか……? 今の所害はないけど、不気味で」
個人的にはこの依頼を受けたいけれど、依頼を受けるかどうか決めるのは須川さんだ。
ただ、今回の一件は間違いなく引き受けるだろう。
(入社した時から『縁町の人間が依頼に来たらまず話を聞いてください。基本的に引き受けることにしていますので』って言われてるもんね)
須川さんが断るのはメディアに露出するような依頼だ。
何度もテレビ局とかの人間が『是非テレビに!』って依頼をしにくるけど全部断ってる。
コッソリ録音機器やテレビの機材を持ち込んだところもあったけど全部壊れたっけ。
バタバタ出て行ったもんね。
「正式に引き受けるかどうかは須川さん……―――ええと、私の上司にあたる人に聞いてみないといけないんですけど、おそらく引き受けると思うのでまずは下見にいってもいいでしょうか?」
「下見、ですか」
「はい。命にかかわるような場合は料金が高くなりますし、そうでないなら既定の料金しか頂きません。既定の料金って言っても……命の危険がなくて、縁町の方なら一律三万円からですね」
これ、料金表ですと自分の机の引き出しから縁町に住んでいる人向けの料金表を取り出す。
これに基本の値段が書いてあるんだよね。
近所付き合いは大事だってことで、町外の人は五万円スタートの所を町民は三万円だし。
料金表をじーっと眺めていた店長さんは暫くして戸惑ったように口を開いた。
「ず、随分安いんですね」
「え? 安いですか? てっきり高いって言われるかと」
「ネットで調べたら、最低十万円とかって書いてあったので覚悟してきたんですけど」
「あー、ウチは割と良心的ですよ。お守りとかお札とかは高いんですけどね。須川さんお手製だし」
へぇ、と感心したように頷く彼女に私はメモ用紙を取り出して、須川さん宛てに行先と簡単な経緯を書いておく。
後はメモを彼の机に置いて、戸締りをしたら出発だ。
調査用紙や必要最低限のお札や御神水を装備した所で感心したような視線を向けられていることに気付く。
「意外と普通というか、胡散臭くないんですね……私もっとこう、色々吹っ掛けてくるのかと……っあ! ご、ごめんなさい。失礼でしたよね」
「あはは。わかりますそれ。あと、私に気を使わなくていいですよ。普通に話してください、いつもパン買いに行ってるご近所さんですし」
「そ、そう? じゃあそうするわ。ふふ、なんだか妹がいたらこんな感じなのかしら」
きちんと門も施錠して歩き始める。
町全体を見下ろした時、鬼門に当たる角に正し屋は建っている。
やや不便な場所にあるからか敷地はかなり広い。
小さいけど池があるしね。
その池ではチュンが水浴びをしたり、シロが水飲んだりしてる。
湧き水が溜まってできた池らしく、常にきれいな水が湧いてるので夏は野菜を冷やすのに使ったり大活躍だ。
水質検査もクリアしてるからそのまま飲んでも問題なし。
まぁ、正し屋自体湧き水を山から引いてるんだけどね。
(そういえば、例の学校依頼が終わってから小さい蛇が住み着いてて驚いたっけ)
初めて見た時は驚いた。
幸い、私は蛇とかの爬虫類も平気だからいいんだけどね。
その蛇は池の傍でちょろちょろして、私や須川さんを見ると首をもたげてペコっと頭を下げるのだ。
珍しい金色がかった白蛇だった。
大人しい性格のようだし須川さんが問題なしと判断しているので、いつの間にか小さな住人になっている。
時々チュンと何かを話す様に一緒にいるのを見るし、シロも特に気にしていないようだ。
……蛇って雀食べないよね?って真っ先に考えたのは内緒だけど。
歩きながら、正し屋正面の道を進む。
丁度曲がり角に来たところで、前方から見覚えのある人が歩いてくるのが見えた。
「須川さーん、おかえりなさい」
おーい、と手を振ると上司であり家主でもある彼が美しい顔に苦笑いを浮かべる。
あまり距離がなかったこともあって直ぐに彼の元に辿り着いた。
須川さんは真っ先に私の隣にいたパン屋の店長さんを見つめている。
「こんにちは。こうして店以外で会うのは初めてですね……こちらを。私は『正し屋本舗』の経営をしている須川 怜至と申します。午前中は不在にしていて申し訳ありません。立ち話で申し訳ないのですが、簡単に依頼に至るまでの経緯をお話しいただければ幸いです」
流れるように名刺を渡した後に微笑む。
隠しきれないほどの顔の良さを、物腰の柔らかさや漂う気品と妙な色気で一層際立たせる上司に見つめられた店長さんは固まっていた。
ぼぅっと呆けたような顔をしていた彼女は、須川さんが
「ふむ、疲労が溜まっていらっしゃるようですね。いつも早い時間からお店を開けていらっしゃいますし、あのように素晴らしい品質のパンをお一人で作られているので仕方のないことだとは思いますが……あまりご無理はなさらない様に」
といったことで我に返ったらしい。
ざっと数歩後退って真っ赤な顔を隠すように俯きがちに、今回の『相談』について話し始める。
怒涛の勢いだった。
ぽかーんと口を開けている私を他所に須川さんは、支離滅裂な説明で粗方理解したらしい。
何かを考えるように男性らしい美しい手で口元を抑え、考えるようなそぶりを見せる。
須川さんの癖みたいなものだ。
それすらも絵になるのだから美形というのはホント腹立たしい。
彼の顔の良さを少しでも私が持っていれば、と歯噛みしていると目があった。
宝石みたいな緑の瞳に見下ろされると体が強張るのはもはや不可抗力だ。
「優君。貴女はこのまま依頼人と共に下見に向かって下さい。荷物を置いたら私も向かいます。契約をしている間に対処をしておくように―――……今回は、人命にかかわるような危険な依頼ではないのでササッと対処しちゃって下さいね」
宜しくお願いします、と須川さんは私に言い逃げしてさっさと行ってしまった。
依頼人には「また後ほどお会いいたしましょう」と会釈してからだったけど。
いつも通りのピシーっとした高級な着流しと羽織り姿の上司を見送って、ため息を一つ。
熱に浮かされたようにぼんやりしている依頼人の手を引いて、私は最近通っているパン屋への道を歩き始めた。
「須川さん、路上で人を誑し込むのやめた方がいいと思うな。絶対そのうち刺されるから」
恋人なんかできた日には間違いなく修羅場だ、とぼそっと呟く。
すると何故か隣にいた依頼人がぎょっとした顔で私を見た。
目を丸くして、心底驚いたといった顔で一言。
「恋人って、え? 優ちゃん、貴女が彼の恋人なんじゃ……私、近所のおばあちゃまや奥様が彼は貴女と付き合ってるって聞いてたんだけど」
「はぁあああ!? えええ、何それ怖い!!! 私と須川さんが付き合うなんて縁町でお祀りが廃止しされる位あり得ないですよ?!」
「で、でも、毎朝二人で仲良くパンを買いに来てくれるでしょう? たまに二人であの賢いワンちゃんの散歩しながら夕飯の買い出しにも来ているし」
「まぁ、住み込みっていうか下宿っていうかさせてもらってるので、買い物くらい一緒にしますよ。食事は当番制だし。掃除は各自、忙しい時は須川さんの家からお手伝いさんがきてやってくれますけど」
「し、信じられないわ。あんな下手なアイドルよりカッコいいイケメンと一つ屋根の下で何もないって、優ちゃん! ぼやぼやしてたらどこぞの馬の骨とも知れない女に奪われるわよ!?」
「奪われるも何も私と須川さんじゃ月とミジンコ並みに釣り合わないですからね? もー、それより早くパン屋さん行きましょう! 須川さんが追いかけてくるって考えると怖いんで」
「怖い……?」
「身長差と足の長さ考えて下さい、私の一歩半が彼の一歩ですよ。いくらイケメンでも、後ろから猛スピードで距離詰められるとめっちゃ怖いです」
戸惑ったような反応を返された。
いいんだ、別に理解されないのはこれまでの経験で知ってるから。
ちょっとした孤独感を胸に、私は歩きなれた道を進む。
パン屋さんは徒歩で十分もかからない場所にある。
誤字脱字など発見された方、是非、是非にお知らせください。
誤字報告という素晴らしい機能を使っていただけると、私も素晴らしく感動します。
……いつも、ほんとうにありがとうございます……。




