【解呪の儀 肆】
あとは、仕上げです!
ああああ、長かったぁぁぁあ!!!
金網が意外と柔らかいことを知ったのは、二十数年生きてきたけど初めてだ。
じわりと脇腹に熱と鈍い痛みとぬるりとした不快感を感じる。
咄嗟にその部分を抑えて転がるように体を移動させた。
直後、ガシャンともゴチュンとも表現し難い衝撃音が聞こえてきて、避けるという選択をした自分を褒める。
串刺しは勿論、圧死は嫌だ。
転がる様にして私は足を動かし、その場から退避する。
(耐性も姿勢も恥も外聞もないよね、命がかかってるんだし!)
恐怖と隣り合わせすぎるこの状況に視界が滲み、口元が歪に歪む。
長い間恐怖に晒されると人は無意識に笑みを浮かべるらしい。
「うわわわっ!? ちょ、待った! 脂肪吸引とかそういうのは遠慮してるんっで……ひぇっ!? ごめんってばぁああ!!」
自分でも、もう何を喚いてるのか分からない。
でも何かを叫んでないと“注意”を惹きつけられないし、なにより私の精神が持たなさそう。
人間って大声出すと少しはストレス解消になるっていうのを聞いた事がある。
お陰で一人カラオケとか一時期通ったもん。正し屋の事務員してる時だけど。
「シロっ、私またもうちょっとしたら前に出るから色々おねがいっ」
私の命は任せたよ!と雑な指示を出す不甲斐ない主人にも大きな白い獣は嬉しそうに咆哮を上げて、活き活きと爪や尻尾や噛みつき攻撃を仕掛けていく。
ポケットには収まらないモンスターを使役している感じです。
(疲労で手が震える…ッ!)
カタカタ震える手に苛つきながらも、試験管の蓋を歯で開けて御神水を刀にかける。
色々なモノを斬った所為でまとわりついていた赤黒い靄が消えたのを目視してから、私は少しだけ距離を置いた呪樹へ向かって足を動かす。
シロの足元に立って、刀を大きく振り抜き霊力を込めた『何か白い光のようなもの』を前方へ飛ばす。
で、飛ばした後は即後退。
シロと一緒に戦い続けないのは、禪が作ってくれた防御用の護符がもうないからだ。
(自分で作ったのは一応つけてるけど、これ全部使っても禪が作った護符の足元にも及ばないんだから、壊滅的に才能無いんだなぁ。今更だけど)
才能と言うか技能? とにかく自分には向いていないのは重々承知しているから凹まないけどね。
シロの足元からちらっと顔をのぞかせると呪樹がめちゃくちゃに暴れていた。
私が放った斬撃は顔のど真ん中に当たったらしい。
鼻のような部分が大きく抉り取られ、木の幹に詰まっていた真っ黒い生肉のようなものが丸見えになっているのが遠めでもはっきり確認できた。
シロは伸ばされる枝や蔦、根などを的確かつ冷静に処理。
同時に襲ってきてもどこ吹く風といった様子。
堂々としたその態度に少しだけ力が抜けて今のうちに体力を回復させようとその場で簡単に休憩の姿勢をとる。
(座り込みたいところだけど、座っちゃうと避けるのに時間かかるし)
仕方ないか、と御神水を自分を囲むように周囲に撒いた。
息を吐いた所で血に染まった自分の腹部が見える。
着ていたワイシャツはどう見ても赤くなっていて、恐る恐るボタンを外して患部を見てみた。
「……見なかったことにしよう」
ボタンを留めてから、刀身に着いた汚れを御神水で洗い流す。
痛み止めが効いているのか脳内アドレナリンのお陰なのかは分からない。
けれどこの現状は大変だなと改めて思う。
息を吐きながらウエストポーチや内ポケットの中を探り、今手元にある呪符や道具の確認をする。
「心もとないって言うか頑張って三十分持つか持たないかってトコだなぁ」
準備自体は万全にしていた。
いつもより多く十分な量の護符やら呪符を持っていたし、御神水だけでなく御神酒も字何時もの三倍量準備していたのに殆ど残っていない。
溜息を吐いてから結界の中へ視線を向ける。
結界ギリギリの所に葵先生と幽霊のゆーくん改め友志君が見えた。
友志君の腕の中にはボサボサ長髪の肩から下がない幽霊の女の子。
葵先生は二人を守るように、庇う様に立っていて時折結界の中に視線を向けている。
今の所あの辺りには影響はないようだ。
結界内では相変わらず古井戸に向って須川さんと禪がお経や祝詞を唱えていた。
微かに聞こえるそれらの声は中年や壮年の男性みたいな迫力はないけれど、独特の圧と美しさと底知れない何かがある。
禪の持つ澄み清められた岩清水のような水の気配と須川さんが纏う神様に近い圧倒的な力は相性がいいらしい。
張られた結界は、禪の式である水虎の性質も加わってかなり強固なものになっていた。
(霊能力者って割と能力にムラが合って適正が偏ってることが多いって聞いてはいたけど、なんかちょっと理不尽。私血まみれで泥まみれなんだけどな……時々霊能力者っぽい感じでずばーんっとやってみたい。読経とか祝詞すごく苦手だけど)
得意だと胸を張って言える事柄は、正直ない。
『正し屋本舗』で事務員になって1年の間は、須川さんが『できない』事をできることで充実感や達成感を感じることができていた。
仕事量こそ無茶苦茶で気が遠くなったけれどパソコンのデータとして入力作業や書式を作るだけだったんだよね。
単純でわかりやすい仕事だったこともあって慣れるにつれて意地でも終わらせてやるってモチベーションに変化していったし、大量に積み重なった書類が少しずつでも減っていくのを見るのは気持ちが良かった。
根を詰め過ぎている時には普段は無茶ぶりをしてくる須川さんが休むように声をかけて、さりげなく息抜きをさせてくれていたっけ。
(でも、実務に携わる様になってからは色々散々だもんなぁ。動物系に攻撃される事が無いくらいだもん、長所)
やれやれと息を吐いて少しだけ気力が回復した所で残り少ない御神水を刀身にかけて、私は走り出す。
―――……想定とは違い、炭化した呪樹は灰になりにくいらしい。
◇◆◇
俺たちは恐怖にも似た焦燥を背負って、必死に焼却作業に追われていた。
簡単に燃え尽きてしまう筈の枯れ木は中々燃えない。
まるでマッチだけで炭に火をつけるかのようだ。
何とかガスバーナーという文明の力によって火をつけることは出来たものの、薪のように炎を上げるのは稀だった。
少しでも火の威力を強めようと上着を脱いで風を送る。
でも、効果は薄くあまり効果はなさそうだ。
「チッ。靖十郎、悪ィ予備のガスボンベくれ。あと何本残ってる?」
大きく舌打ちをした封魔の顔には汗と灰のような汚れが付いている。
俺も似たような状態なのはわかっているけれど、それを拭う時間すら惜しい。
少し離れた場所に置いてあるガス缶を渡して、自分も上着を持って再び風を送る。
「やっと半分と少しって所か。優の様子は」
「危ないけど今の所はまだ……って、あー……結構ヤバいっぽい」
つい先ほど優がヤバい状況にいたのは知っていた。
最初こそ狼狽えていたけれど、直ぐに喰われかけていた幽霊を奪還して結界の傍で近寄ってくる赤黒い影や悪霊になりかけたやつを撃退していた葵チャンの元へ走ってきたのだ。
肩に担ぐように半分以下になった悪霊を抱えた状態で。
何やら葵先生と岸辺 友志っていう俺たちと同じ年くらいの幽霊に話して担いでいた幽霊を地面に横たえた。
自分が来ていた学ランをかけて再び向かっていったのを見て、腹の底から冷たい何かが全身にひろがっていく。
(早く。早くしないと……優が)
重怠くなってきていた腕を必死に動かして風を送る。
バーナーで炙っている筈なのに焼ける速度が異様に遅い。
店で売っている炭も最初こそ火が付きにくいけれど、完全に着火して風を送れば火が立ち上る。
(火が上がったのは上の方だけだった。下に行くほど燃えにくくなってるってどういうことだよ。まさか中は生木で水分が残ってるから燃えにくいって訳じゃないよな)
勘弁してくれ、と思いながら風を送り続けている俺の横で封魔が真剣な顔でガスバーナーを使って炭化した木を睨みつけている。
「くっそ、蹴り倒すか折るかして火ィつけた方が早いってのによォ」
「火で炙るのみ、触れちゃいけないって言われてるし仕方ないだろ。風を送るのは大丈夫みたいだけど」
封魔以外が手を貸す事と直接的に触れる事は禁止されていた。
もし触れれば成功しないとまで言われれば俺らはどうにもできずに、言われた通りの行動をとるしかない。
(須川センセーと生徒会チョーも四巡目か)
ちらっと視線を井戸の方へ向けると珍しく眉を顰めて険しい顔をしている生徒会チョーと涼しい顔で汗も掻かずに淡々と読経をする須川先生が見えた。
生徒会チョーと話しをしたり近い場所にいても寒気というか悪寒を感じなくなったのは、本当につい最近。
自分が視えることを優と封魔に伝えてから徐々に冷気のようなものを感じなくなってきたように思う。
代わりに、須川センセーに対して言い知れない怖さを感じるようになった。
大人にも色々いることは俺にもわかってる。
親しみやすいけど接し方に気を付けなきゃいけないタイプとか仕事中以外はいい人だったりとか、そういうの。
葵先生はどっちかっていうと二面性はあるけど生徒である『俺ら』と距離が近い、理解しようとしてくれるタイプの人。
それが分かるから俺らは葵先生に下らないことから俺らにとっては真剣な悩みまで色々話せるんだ。
でも、須川センセーは違う。
得体が知れないっていうか、信用は出来るけどそこには恐怖に似た何かが付きまとっていて、時々とても遠くて、大きくて、不思議な雰囲気を持つ大人だった。
優しそうに見えて不要と判断すれば一切の情けも容赦もなく切り捨てるタイプだと俺は思っている。
(そう考えると優ってすげーわ。須川センセーが上司だって言ってたし)
一対一で堂々と話せること自体がまず、凄い。
あと、芸能人も引くくらい綺麗な顔してる相手に遠慮も躊躇も恥じらいもなく『素』でいられるのも凄い。
男ならまだしも、女ならまず見惚れるとかするんじゃないだろうか。
(恋愛音痴ここに極まるって感じだよな、優って。ま、らしいっちゃらしいけどさ)
そんなことを考えながらバサバサと風を送り、少しでも燃焼スピードを上げる努力をしている時、凄い音がして思わず振り返った。
フェンスに何かが叩きつけられたような音と咆哮。
音の発生源には優がいた。
太い木の枝が優の脇腹に突き刺さっているように見え、慌て上着を放り出し結界ギリギリに近寄って目を凝らす。
「葵先生っ! 優が……ッ」
思わず結界の中で一番葵先生に近い場所へ駆け寄る。
先生は、視たことがない程険しい表情で足を数歩踏み出し、悔しそうに歯噛みしていた。
「ここからではあまり見えない。靖十郎の所からは何が見えた」
「優の脇腹に木の枝みたいなのが脇腹に突き刺さってるみたいに見え……あ、良かった。無事みたいです」
フェンスに押し付けられていた優がぎりぎりで太い枝の追撃をかわしているのが見えて肩の力が抜けた。
脇腹の辺りには血がにじんでいるように見えるけれど走れるという事はまだ大丈夫なんだろう。
ほっとしつつ、早くあの樹をどうにかしないといけないと気合を入れなおし、封魔の元へ戻った。
封魔や振り向くことができない生徒会チョーと須川センセーにも聞こえるような大きさで現状について話し終えた所で上着を持って風を送る。
火に一番近い封魔はいつのまにか学ランもシャツも脱いで上半身裸になっていた。
「なぁ、封魔」
俺の声に視線を一瞬向けた強面の同級生にずっと、というか火をつけ始めてから妙に気になっていることを聞いてみた。
「そのピアス外さないのか?」
「あ? コレか。別に邪魔になるもんでもねぇだろ」
左耳に小さな赤い石のピアスをしている封魔は生活指導の教師に目を付けられている。
まぁ、最初こそかなりきつく言われていたが行事などではしっかり外しているのでいつの間にか言われなくなった。
何時だか封魔に聞いたんだけど、赤い石は亡くなった母親の形見らしい。
ルビーがはまっているらしく無くせないと困ったように笑っていたのを今でも覚えている。
(大事な物なのはわかる。でも、今だけは外した方がいい気がするんだよな)
どう伝えるべきか悩んだけど上手く言葉に出来なくて思いつくまま言葉にしてみた。
「あのさ、一瞬でもいいんだ。ちょっと外してくれないか。勿論何にもならなかったら直ぐつけていいからさ。ピアスつけるのも外すのも一瞬だろ?」
「―――……仕方ねぇな。なんも無けりゃ直ぐにつけんぞ。こんなとこで無くしたらまず見つからねぇし」
一度ガスボンベから吹き出す火を消し、めんどくさそうに耳に着いた片方だけのピアスを外す。
これでいいか、とこちらを見る封魔に小さく頷いたのはいいけれど変化はない。
「違和感はなくなった、けど……悪い。ちょっと俺も効果がわかんねぇや」
「いいけどよ。気が済んだなら」
ため息一つついて、封魔はピアスを付けることなくそのままガスバーナーを手に持って再び炭化した木を炙り始めた。
先ほどと変わらない威力で吹き付ける火が表層を焼いて数秒。
明らかな違いが現れる。
「燃える速度……なんか早くなってね?」
「なってんな。どう見ても」
まじでか、と呆然と呟く封魔に俺は一度上着を置いて手に持ったままのピアスを受け取る。
無くさないように脱ぎ捨てられた制服の内ポケットにしっかり入れて置いた。
五分にも満たない時間にオレンジ色の炎に包まれて激しく燃え上がっていた。
ガスバーナーで近距離から火をつけようと苦戦していた封魔は、顔に滲んだ汗を乱暴に拭って距離をとり、その光景を呆然と見上げている。
「……封魔、俺が視てない間にガソリンかけたりしてねーよな?」
「するわけねェだろ。つーか、んなもん持ち歩くかよ。売店にも売ってねェわ」
だよな、と相槌を打ってフラフラと封魔の横に並ぶ。
あまり大きくはない炭化したその木はあっという間に根元まで火達磨になり、時折パチパチと水分がはじける音を立てながら燃えていく。
どうやら芯の部分は炭化しきっていなかったらしい。
暫くキャンプファイヤーでも見ているような気持でぼーっと立ち上る煙と炎を見ていた俺たちだけど、ハッと我に返って振り返る。
大きな白い獣の足元から飛び出して刀を構えながら攻撃しに行く小さな背中が見えた。
迷うことなく真っすぐに自分よりはるかに大きな樹のバケモノに向っていく。
その奥に聳え立っている樹のバケモノからは、黒煙が立ち上っていた。
空気どころか地面……というか空間自体がビリビリと揺れているのが分かる。
耐えきれずに膝をついた俺たちは揺れる世界の中で必死に視線を周囲へ向けた。
井戸の前にいた生徒会チョーと結界の外にいる葵チャンも少し体制を崩しているが警戒は続けているようだ。
(ってか、須川センセイ微動だにしねーな)
まじかよと引きつりそうになる口元を引き締めて視線を優のいる方へ向けると、一瞬歩みがとまる。
そのまま戻って来い、と名前を呼んだが聞こえなかったようだ。
煙を上げ、末端部分の枝や蔦から炎を上げつつある呪樹に不格好ながらも体勢を整えて駆けていく。
「な、なんで逃げねぇんだよ! 危ないって! 優ッ」
「無駄だッ!! 聞こえてねェッ。くそ、葵チャンっ! あの馬鹿止めに行ってくれ!! まだ完全に灰になるまで時間がかかるんだ」
横で封魔が吼えた。
声は、轟音と激しい揺れの中でも届いたらしく、血濡れの白衣を身に着けた先生が悔しそうにこちらを振り向く。
「……ッ無理なんや! 金縛りの所為で首から上しか動かせへんっ! 声かけようにも、距離がありすぎて掻き消されるのがオチや」
初めて聞いた関西訛りの返事。
表情や口調の強さから余裕がないことが分かって俺も封魔も歯痒く思いながら小さな背中を目で追う。
優は何かを宙に投げる動作をしたかと思うと階段を駆け上がる様に進む。
一歩一歩進むごとに正気を失った大樹が枝や蔦を振り回し優目掛けて振るわれるが、間一髪で避けたり弾いたり、斬ったりしながら空中を駆けていく。
白いシャツと白い肌が赤黒い月明りと夜闇の中で浮かび上がって見える。
不気味なのに目が離せない不思議な光景だった。
かなり高い所に辿り着いた優は、呪樹の少し真上の辺りで停止したかと思えば大きく刀を振り被って、呪樹の眉間の辺りに向って思い切り飛んだ。
命綱もなしに勢いをつけて飛び降りた優は日本刀を突き立て、体重と重力を利用し一気に下まで降りていく。
凄い重力がかかっているのが遠くからでもわかった。
優が刀を握ったまま間抜けな悲鳴を上げて落下しているからだ。
「なぁ、封魔」
「おう」
「優って心臓に悪くないか」
「だな。リアルに紐なしバンジー見る羽目になるとは思わんかったわ、俺」
どうやって着地するんだろうと映画でも見るような感覚でぼうっとその光景を眺める。
助けに行くっていう選択肢はあったけれど、それ以上に衝撃が大きすぎて全く思いつかなかった。
でも、葵チャンは違ったらしい。
小さな舌打ちの後に白衣がぐんぐん自分たちから遠ざかっていく。
辿り着くかどうかで優も漸く葵チャンが自分の元へ来ていることに気付いたらしい。
今の所、優の体は何もない空間で立っていた。
直前に何かを地面に投げるような仕草をしていたので特殊な道具を使ったことはわかった。
(一応落下は止まったみたいだけどあそこから落ちてただで済むとは思えないんだよな)
刀は大木の幹に刺さったままで地面からは2m程度離れている。
そのうえ、呪樹と呼ばれる大木の動きは鈍くなってきているとはいえ、まだ蔦や枝、木の根は健在。
葵先生を見てホッとしている優目掛けて蔦や枝といった部位が明確な敵意を持ったまま向かっていく。
大きな白い狛犬のような獣が大きなものや太いものを踏みつぶしたり、噛んで引きちぎっているけれど全て捌き切れずに、優の背中に傷をつけていることに俺は漸く気が付いた。
「ッ……!」
見ていられなくて目を逸らした俺の視界に、白い灰が映る。
慌てて顔を上げるとお灸のようなこんもりとした灰山が枯れ木が在る場所に存在していた。
灰色の山の真ん中からは、一本の枝が細く長い煙を上げている。
妙な残り方をしていることが気にはなったが、こういうのは『理屈』ではないのを俺は嫌というほど知っている。
封魔の腕を引いてガスバーナーで早く燃やしてくれと頼むと直ぐに作業に取り掛かった。
視線を戻すと、優は自分に向って大きく振るわれた木の根に飛び移って、どうにか上手く難を逃れたらしい。
それを見た葵チャンが遠めでも分かるほど大きく息を吐き出し、蔦や根などを拳で迎え撃ちながら優との距離を詰めていく。
一瞬攻撃が止んだのを確認して無言で優を抱き上げたようだ。
優が何か言っているらしい。
声と体を捩って何とか逃れようとしているのが見えるのだ。
葵チャンは問答無用で傷だらけの優を抱えて守る様に襲い来るものを粉砕していく。
(緊迫していたのは確かだし血生臭い展開だったのも確かなんだけど……なんだかなぁ……イマイチ締まらないっつーか)
今、俺の顔を見ているのは誰もいないことを思い出して心底ほっとした。
自分でもどんな表情をしているのか分からないからだ。
ここまで読んで下さって有難うございます!
誤字脱字など発見し次第訂正しますっ




