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正し屋本舗へおいでなさい 【改稿版】  作者: ちゅるぎ
第三章 男子校潜入!男装するのも仕事のうち
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【解呪の儀 序】

更新が遅くなりました、盛大に!

 なのに、なかなか進まない……ほんとに戦闘っぽいの苦手なんです……orz


でもがんばるんだ…頑張れまじで。うん。今やらなきゃいつやるの。





 山を切り拓いて建てられたこの学校は、息を潜める様にして闇に埋没していた。



闇に溶け込むように息をしている夜の校舎には穢れはおろか、浮遊霊の一体も見当たらない。


 夜闇を照らす筈の月は分厚い雲に覆われているのか薄明かりすら地上には届かなくて。

ゆらゆらと歩く振動に合わせて丸い懐中電灯の光が揺れる。

土と草の匂いをたっぷりと含んだ生温い風は、不気味な音を伴って木々の間を通り抜けていく。


そんな『日常』からは程遠い場所に私たちは今、存在していた。



「凄く今更ですけど、今の私たちって他の人から見たら統一感ないですよね」



枯れ葉を踏む足音は六人分。


 先頭は私で、最後尾は須川さん。

間を歩くのは靖十郎に封魔、協力者の禪と葵先生だ。



「確かに。生徒が四人と教師二人がボイラー室に何の用事があるんだって絶対聞かれる」



すぐ後ろから靖十郎の声。


 寮から出発する時は落ち着きなく辺りを見回したり、冷や汗をかいていたのに今ではもう慣れたらしい。

人がいっぱいいるっていう安心感もあるんじゃないかな。



「しかも、優は刀持ってるし靖十郎は土嚢袋三つ、だもんなァ。服装は……まァ、制服だからセーフか」



揶揄からかうような封魔の言葉に反論できるはずもなく、同意の言葉を口にすればぴしゃりと会話を叩ききるような禪の平坦な声。



「人に見られる可能性があるなら、儀式の後だ。今この時間に起きている生徒はいないだろう」


「そういえば、お昼から急遽マラソン大会の練習で散々走らされたもんね。死ぬかと思ったよ、フラフラしてるから保健室に行けって先生に言われなかったら絶対倒れてた」


「ウチの学校、マラソンコースってガチのやつだからな。駅伝に出る学校の生徒がわざわざ使用許可求めてくる位だし」


「距離もえぐいよね。遠回しに死ねって言われてるんだって思ったもん」


「お陰で体力自慢の運動部の連中も爆睡してるだろーな。来週、寮対抗のドッチボール大会と騎馬戦やるからそっちの練習も飯の前までやってるし、体力馬鹿の運動部でも流石に寝落ちしてんだろーな。俺と靖十郎はお前の付き添いってことで昼に抜けたし、その後も用事があるから不参加でって通したから余裕はあるけど……禪ィ、ヘマすんなよ?」



どこか意味あり気に声をかけた封魔に驚いて振り返りそうになる私に靖十郎が小声で



「生徒会チョーは全部参加してんだ。部活は須川先生と神社にいってたから不参加だったみたいだけど」


「そ、そうなんだ。……一番体力なさそうなのに」



眼鏡描けてる人ってどうしてもインテリに見えるよね、と呟けば靖十郎が小さな声で同意した。


 そういえば須川さんも眼鏡かけてるけど体力はかなりある。

実は、正し屋って頭と能力使うよりも体力勝負なんだよね。

須川さんなんか色んな場所に呼ばれるから長距離移動当たり前だし、祀りの準備に必要なものを直接生産者や素材がある場所へ取りに行ったりもしてる。


 私もよく同行してるけど、涼しい顔でさらっと鬱蒼とした森や悪路を進んでいくのだから凄い。

一応靴は草履から履き替えてるけど、着物のまま迷うことなく道なき道を突き進んでいくのを初めて見た時は二度見したっけ。



「顔と体力って関係ないんだな」


「だねぇ。人間見た目じゃないってことか……今回のも、そうだけどさ」



ぽつっと口をついて出た言葉が誰を指し示すのか靖十郎も分かったらしい。


 一瞬の沈黙があったことで自分が割と不謹慎なことを言ったと気づき、慌てて謝ったんだけど後ろから聞こえてきた声は真剣な声だった。



「別に謝ることじゃないだろ。それに、優が言ったことってあながち間違いじゃないって思うし」


「それでも配慮に欠ける言葉だったよね。ごめん」


「気にすんなって。俺もさ……口には出さないけど、そう思うことが多かったし」



何処か暗さを伴った声にどういうこと、と少しだけ振り返ると気まずそうに地面を見ながら足を動かしている靖十郎が視界に映る。


 いつの間にか、封魔と禪の声も聞こえなくて人数分の足音だけと木々の騒めきだけが辺りを支配していた。




「――……今まで死んだ先輩とか同級生は殆どの奴が素行悪かったり評判悪かったんだ。でも、中には全くそういう噂を聞かない“普通”のヤツもいたんだよ」



靖十郎曰く成績優秀だったり、教師や同級生から頼りにされていたり、友人の多い生徒も紛れていてほとんどの生徒は不思議に思ったそうだ。


 自殺するにしたって原因が分からず、彼の両親も教師もイジメられていたのではないかと調べたらしい。

結果として出てきたのは、亡くなった生徒がイジメの『加害者』であるという事実だった。




「俺も友達から聞いたから詳しいことは分からないんだ。でも、何度か話してみて“いい奴”だなって思ってたからすげぇびっくりした。証拠は、携帯に残ってたんだってさ。動画とか取ってたらしくて、そいつの親は虐めてた奴らに慰謝料払って引っ越してった」



そこで一度言葉を切った靖十郎が困ったように笑って、私を見た。


 相変わらず、真っすぐな目だと思う。

少しだけ、気まずくなって私は体の向きを戻し、足を進める。

いつの間にか歩みが止まっていたようだ。



「いい意味でも悪い意味でも人は見かけによらないんだなってその時改めて思った。ま、それも封魔が掃除好きで菓子作りが趣味な上にパティシエ目指してるって知った時より衝撃は少なかったけど」


「ねぇ靖十郎。君のちょっといい話が台無しになったんだけど」


「いや、同じくらい衝撃的だったんだって」


「気持ちは分かるけれども」



ボソボソと話しつつ振り返ると口元を引く尽かせた封魔がこっちを見ていたので、全力で見なかったことにした。


 いつも通りの空気になった所で、私たちは校内に足を踏み入れる。

月明りもない夜であるにも関わらず校舎の白い壁はぼんやりと闇に浮かび上がっているように見えた。



(何度見ても夜の校舎って不気味だ)



これで見納めだと分かっていても、可能な限り夜の学校には潜入したくないと自分の想いを再確認してボイラー室がある方へ足を向ける。


 校内に入った瞬間から霊視をしてるんだけど今の所何も見えない。

霊視っていっても、サーモグラフィー映像や魚群探知機みたいに色づいて見えるワケじゃないし、心臓に悪いからできればしたくないんだけどそうも言ってられないのがこの仕事。



(曲がり角曲がったら、頭蓋骨半分無くて脳みそはみ出てたり、目玉ない上に顔じゅうの穴から血液垂れ流してたり、体やら顔の一部が肥大したり小さくなってたり歪んでたりする幽霊その他がいないといいな)



正直な話、穢れの方が視覚的な攻撃力は低い。


 穢れには顔がなくてシルエットだけっていうのが一般的だから、感覚的本能的な恐怖はあっても視覚的な恐怖は薄めだったりする。



「優、その……なにかいそうか?」



背後から聞こえてくる靖十郎の不安そうな声に呼応するように一瞬、視界がブレた。


 立ち眩みって感じじゃなくて、左右に見ている景色が揺れたんだよね。

前方を照らすと、光の道ができて灰色の壁が照らし出される。

左右に光を振ると同じような壁が浮かび上がり、上下に動かせば星すらない漆黒と窓や枯れ葉などが確認できた。



 霊の姿はなく、気配もない。



(気のせいだった? いや、でも冷たい氷を背中に入れられたみたいな不快感は間違いなく幽霊とか悪意の類だと思ったんだけど)



可笑しい、と思いながら息を潜めて刀を構えた態勢で足音と呼吸を殺し、進む。


 鳥肌が酷い。


ごくり、と生唾を飲みつつ少し前へ前へと足を動かす。



 待ち遠しいとか使命感とかじゃない。

ただ“何”があるのか確かめて安心したかった。


 どんなに怖い幽霊でも“視えなくては”対処のしようがないし、視えない事は恐怖を煽る。

聞こえる、感じるだけじゃできないのだ。

余程うまくなければ対処ができないし、やっぱり怖いから。



(視えちゃって“視なきゃよかった”ってなる事は結構あるけど)



キョロキョロと周囲を見回しながら進んでいくと、曲がり角に辿り着いた。

校舎から3m程離れた所には大きなフェンスがあり、その奥には鬱蒼とした雑木林が広がっている。

黒い木の葉がガサガサ、ざわざわと不安を煽る様に音を立てている。



「―――……この先に“なにか”居る」



音も声もしないけれど気配が、確かにあった。


 この先を進んで、もう一度角を曲がると古井戸がある一角にたどり着く。

じっとりと手の平に汗が滲む。

はぁっと息を吐いて私は懐中電灯を後ろにいる封魔に手渡すことにした。


 靖十郎は手が塞がっているし、一番身軽なのは封魔なんだよね。




「封魔、懐中電灯持っててくれるかな。刀使う時に邪魔になるから」


「それは別にいいんだけどよォ……お前、顔真っ青通り越して真っ白だぞ」



眉を顰め険しい顔で私を見る封魔に苦笑しつつ、懐中電灯を渡し私は覚悟を決めて曲がり角の先へ。


 サクッと一人分の足音が響くだけで心臓が嫌な音を立てるのが分かる。

極力音を立てないように一歩一歩進んでいくと次第に“何”がいるのか見えてきた。



(よかった、普通の大きい穢れだ。いや、良くはないんだけどさ)



ふぅっと小さく息を吐いて私に背を向けている穢れに走り寄る。


 シロを出すのは古井戸についてからと指示があったので、井戸に行くためにまずアレを消さなくてはいけない。



「――…大きい穢れにも慣れてきたけど、喜んでいいやら悪いやら」



今目に見えているのは一体だけ。

 背後にはいないから、一体倒した先はどうなっているのか気を付けながら姿を隠す為の呪符を使うことにした。



(こういう呪符を作るのは得意なんだよ、うん。攻撃とか防御系は三流以下なんだけどね)



改めて言葉にすると悲惨すぎる、と思いつつ私は足に力を込めて目標に向かって駆け出す。


 声を潜め、足場となる小さな呪符を階段のように設置しながら、その上を駆け上がった。

身長をカバーするにはこの方法しかないから、仕方がない。

ただ、高所恐怖症じゃなくてよかったなと心から思う。



「ふ……っ!」



無防備な穢れの首を横に薙ぐ。

肉と骨を絶つ独特の感触にも慣れてきているのが少し悲しい。


 まぁ、最初に切った時に「うっわぁ」って思ったっきり特に何も感じなかったのは喜ぶべきなのか哀しむべきなのか未だに判断つかないんだけどさ。



「あともう一体いる上に、例の如く『校内の穢れ全員集合!』みたいに召集かけられてるっぽい」



勘弁してよ、と項垂れつつ手元にあった浄化用の御神水を断ち切った穢れの頭部と体にかける。

仕上げに、簡単に清めの祝詞を口にすれば綺麗さっぱり血痕すらも消えていった。


 暗闇の向こう側へ視線を投げると、少し先の曲がり角の向こうへ夜闇よりも暗い黒が消えていくのが見える。


それは千切れかけた右腕を引きずっていて、グラグラと左右に揺れているのが妙に印象的だった。


 風に乗って肉と血が腐ったような匂いがして盛大に顔を顰める。

人型の穢れはプールや各七不思議のスポットで見た様にただ、目的地に向かって進んでいるらしい。



(チラッと先行して見に行きたいところだけど須川さんの指示仰いだ方が良さそうだね)



勝手に見に行ってそのまま準備もなく一人で対処しなきゃならない、って事態になるならまだしも【解呪の儀】が執り行えないような事態になったら最悪だし。


 小さく息を吐いてくるりと踵を返しながらも、不意打ち喰らったりしないように辺りを警戒する。

懐中電灯がない今、薄ぼんやりと明るく見える校舎の壁と枯れ葉を踏む時の独特の感覚や音が頼りだった。


 幽霊やお化けは見つけて欲しいが為に音や姿を現し、不可思議な現象を起こすことが多い。

けれど、穢れはそれに当てはまらないので大体音も気配もする。

知性というものが宿るのは穢れから別の何かに成った時だけだ。


 気を付けつつ、足を進めると少しずつ人の声が聞こえてくる。

小声だからぼそぼそとした音でしか認識できなかったけれど、曲がり角からそっと顔をのぞかせるとそこには靖十郎や封魔、禪や葵先生がいて須川さんは何かを見極める様に上空をじぃっと観察しているようだ。



「えっと……なにしてるの?」



上に何かあるのだろうかと視線を上げると、月が、何故か赤く染まっていた。


 気のせいかと思って何度か目を擦ってみたけれど見間違いではない上に、封魔まで驚いた顔をしているので“同じもの”が見えている可能性が高い。



「月って突然赤くなるんですねー。ストロベリームーンっていうよりトマトっぽい」



はーっと思わず感心して感想を口にすると、葵先生が小さく噴き出した。

何事かと視線を向けると口元を覆って小さく肩を震わせている。



「……優ちゃんが言うと緊張感が四散するね」



暗闇でぼんやりと浮かび上がっていた白衣がほんのり赤い月明りに照らされて、少し怖い。


 ただ、今まで静観の姿勢を崩さなかった葵先生が言葉を発したことで予想外の効果があった。

生徒である三人が纏っていた緊張と不安が入り混じる張り詰めた空気が緩やかに弛緩して、適度な緊張感だけが残っている。



「確かに。色々台無しだわ」

「ある意味才能だよな」

「何でも食べ物に結び付けるのは止めろ」



高校生組の普段見慣れた表情に理不尽さを感じつつ、ひっそり安堵の息を吐く。

だからこそ、その中で何かを考える様に赤い月を眺めている須川さんが妙に気になった。



「そうだ。この曲がり角を曲がった先に、大型の穢れが井戸の方へ向かっていたので対処しました。でも、その先にもいたんです。対処している間、一度もこちらに目どころか意識も向けずに井戸へ向かっていったので……井戸の周りには複数、もしくは私が視た穢れがいるかと」



私の報告が終わると須川さんに視線が集まった。


 どうするのだろうと指示を待っていると少し何かを考えていた須川さんが小さく息を吐いて懐から見慣れた“厄除け”守りを四つ取り出して一人一人に手渡ししていく。



「―――……これを持って居て下さい。今夜限定ですが、コレを持ってさえ居れば憑りつかれることはないでしょう。白石先生はこちらをどうぞ。渡す気はなかったのですが、まぁ、状況があまり良くないので渡しておきます」



封魔や靖十郎、禪と生徒である三人にそれぞれが持つ特性の“色”の御守りを渡した後、須川さんはにっこりといい笑顔で葵先生にお守りと何かを渡した。



「これは……」


「使用方法は簡単です。コレを両手の薬指に嵌めて殴ります。それでも消えなければコレを対象に吹きかければ消えますので。もし消えなければ優君が対処します」


「え?! 私が対処するんですか」


「手が空いている……失礼。そういう役割を頼んだ筈ですが」



何を言っているんです、と明日の天気を伝える様に微笑を浮かべて私を見下ろす上司様。

 はい、と反射的に返事をしてからようやく我に返った。


 そろ~っと葵先生を見るとこちらも爽やかな笑顔。

ただ、渡されたものを握っている手に青筋がくっきり浮いて小さく震えている。

ごつい指輪と男性用のアトマイザーだった。

その中には恐らく御神水か御神酒が入っているのだろう。



(どうしよう。この二人のやりとりお化けより怖い)



助けて、と高校生三人組に視線を向けたけど、結局さっと逸らされた。

 靖十郎や封魔だけじゃなく禪にも視線を逸らされたことに愕然とする私は、この後に待ち受ける壮絶な仕事現場の現状をまだ知らない。




 ここまで読んでくださってありがとうございます!

誤字脱字、変換ミスなど多数間違い探しのようにあると思われますのでもし発見してしまったら教えてくれると嬉しいです。

……読んでくださってる有難い方々に頼むことじゃないよなー……(遠い目

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