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【冒険者ギルド刊行誌】コーナー:魔法と生きる人 第二十四回【Unknown and Future】

作者: 杉浦則博

 ―――淫紋。


 主に女性の下腹部に刻まれ、性機能を促進させる効果のある魔術紋の一種である。

 効果故に忌避される事も多いが、れっきとした魔導技術として脈々と受け継がれてきた技術でもある。

 今回は手作業で淫紋を彫り続けて二十年以上、バウディ・クレスト氏にお話を伺った。

 今回の記事を通じ、読者の皆様には真剣に淫紋に向かい合う人がいると言う事を知ってもらえれば幸いである。



 ―――本日はよろしくお願いします。


「よろしくお願いします」


 ―――ではまず、自己紹介からお願いします。


「解りました。バウディ・クレスト、今年で四十四歳になります。職業は魔術紋彫り、特に淫紋を専門にしています」


 ―――ありがとうございます。早速ですが、まず淫紋とはどういったものを指すのかという所から始めても良いでしょうか。


「構いませんよ。まず淫紋と呼ばれますが、これは正式名称ではありません。魔術紋の種類の一つとしての俗称になります。

 肉体に少量の魔力を籠めて刺青等で紋様を描き、そこから魔術的・生理的な効果を発揮させる為の魔力の流れる道……魔力経路を形成する。それが魔術紋です。

 有名な所だと勇者と魔王に現れる勇者紋・魔王紋ですが……魔術紋の中でも性機能に関する生理的効果を重視したものを淫紋と呼びます」


 ―――生理的な効果、というのは具体的にはどういったものになるのでしょうか?


「紋の効果によって異なりますが、淫紋に限定すれば体内のホルモン分泌バランスの調整、交感神経系を正常に動作させる、生理周期の安定化等ですね。

 その結果として体温の変化や発汗、体液の分泌等が発生します。不妊治療に使われる事も多いですね」


 ―――体調を整える、という事でしょうか? てっきり直接的に発情させる効果があるのだと思っていましたが……。


「やってやれなくはないですよ(笑) でも、基本的には女性として・母体として理想的なコンディションを保つのが主目的です。

 相手の自由意志を奪ったり精神に多大な影響を及ぼす紋様は法で規制されていますからね。公に使えるのは国の認可を得た人だけです。

 よく刻まれて発情して……なんて見ますけど、大体はプラシーボ効果ですよ」


 ―――女騎士の方なんかはよくかかりそうですよね……。


「そんな事言ったらまた抗議デモ起こされますよ(笑)」


 ―――失礼しました。では、話は変わりますが淫紋を専門に選ばれた理由をお伺いしてよろしいでしょうか?


「ええ。まあ……最初はエロい事への興味が一番でしたね。山の中の村の出身だったんですが、親父に連れられて町の娼館で淫紋を見たのが初めてで」


 ―――ああ、よく付けてる方もいらっしゃいますね。


「避妊や性病予防に付ける事が多いですね。それで……そうそう、丁度帰る時に娼館に淫紋彫り師が呼ばれたのにすれ違ったんです。

 それでそういう職業があるんだなって見てたら彫り師さん―――今の師匠なんですけど、『見てくか?』って言われたんです」


 ―――それで淫紋彫りにご興味が?


「ええ。完全に魅了されましたね。緻密且つ大胆な指捌きで……刻み終わる頃には女の人がぐったりしてるんです。その表情にもまたグっと来ましてね。

 一旦村には帰ったんですが、気が付いたら親父と大喧嘩してて師匠に土下座してたんです。弟子にして下さいって」


 ―――喧嘩をされたんですか?


「長男だったんですよ……親父とは生きてる間に和解もできましたし、今は笑い話ですけどね。

 それで弟子入り自体は割とあっさり認められました。兄弟子や姉弟子も居ましたし、魔力もそれなりに持ってましたから。

 ただねぇ……そこからがやっぱり辛くて。なんせ学もロクにないエロガキですからね。難しい事はまともに頭に入らないし、誘惑も多いしで」


 ―――お師匠様も淫紋を専門に?


「はい。勿論、普通の魔術紋彫りとしてもそれなりに有名でしたけどね。ただ、魔術的な効果の強い紋は刻むのにもある程度以上の魔力が必要ですから……そこは魔力量の多い私や兄弟子が手伝ってました」


 ―――魔術的な、と言うと魔弾や障壁発生、魔装を発生させるものですか。


「それです。その伝手で調整に来てくれる方は居るんですが、昔の自分が担当した所を見るのがもう恥ずかしくてね……師匠はそんなもんだって笑ってましたけど。

 って、話がそれましたね。師匠はそんなに魔力量が多くないんで、魔術的な効果のある紋はあまりやって来なかったそうです。それで生理的な効果として自然と淫紋彫りをするようになったとか」


 ―――成程。お師匠様の所にはどの程度?


「四年ですね。基礎は一年ぐらいで出来たんですが、独り立ちを許されるまで結構かかりました。

 無機物に紋を刻んだ道具を初めて店に並べた時にデビューって言われたんで、そこから数えて来年で三十年ですね」


 ―――そうしますと……確かその頃、例の規制があったような?


「ええ……精神に効果を及ぼす魔術紋を規制する法が出来た時のですね。ゴタゴタが収まるまでは暫く普通の魔術紋彫りで食っていくしか無かったです」


 ―――公爵家のお嬢さんが浚われて淫紋を彫られてしまった事件ですね。


「師匠に紹介された娼館もあったんですけど、店の意向で淫紋が禁止になってしまったんです。

 ただ、そうすると今度は性病や望まない妊娠という問題が増えてしまって……その対策として呼ばれたのがようやく淫紋彫りとしての本格的なスタートでしたね」


 ―――やはり有ると無いとではちがうのでしょうか?


「うーん……その辺りは個人差もありますからね。体質的に効きやすい・効きにくいってのはどうしてもありますし。

 それに先程発情の話もしましたが、淫紋によって守られているという安心感があるだけでも違うという話を聞いた事も有ります。

 病は気から、と言いますが避妊具よりも直接的に体調を整えられるのは性交をする上で大きいみたいです」


 ―――その辺りはご自分で試された事は?


「いや、流石にケツでするのはちょっと……誰かに入れて貰わないと駄目ですし(笑)」


 ―――(笑)。


「一応、体調管理用の魔術紋は刻んでますけどね。仕事で使う分の魔力を残さないといけないんで必要最低限ですが」


 ―――見せて頂いても良いでしょうか?


「太腿なんで下脱がないと駄目なんですけど……」


 ―――あー、それは難しいですね。失礼しました。では次の質問ですが、今回は手彫りに拘ってらっしゃる淫紋彫り師と言う事でバウディさんにお話を伺っています。魔法式の淫紋についてお話を伺いたいのですが……。


「大丈夫ですよ。むしろ何でそんな恐る恐るなんですか?」


 ―――手法に拘ってらっしゃる方はそれ以外の方法について聞いただけで怒る方も居るので……。


「あー……成程。まあ、確かに淫紋は手彫りに拘ってますが、私も淫紋以外は大体魔法式ですよ?」


 ―――え、そうだったんですか!?


「ええ。やっぱり手軽ですし、ミスも簡単に直せますからね。この仕事ももう長いですが、全くミスをしないって訳でも無いですから。

 それに最近、兄弟子が手彫りを完全に辞めてしまったらしいんです。日常生活に支障はないみたいなんですが、目を酷使し過ぎたそうです。

 神経を集中させる仕事なので仕方ないとは思うんですが……そういった話を聞くと、少し自分の体を労わってやろうと思いますしね」


 ―――そうでしたか……では、逆に淫紋を手彫りに拘る理由をお伺いしても?


「まあ、やっぱり師匠への憧れですかね。この業界に入った理由でもありますし……あと、初めて人の体に紋を刻む時に言われたんです。

 『人様の肉体に手を加える以上は全力でやれ』って。なので全力で慣れた方法を使って……師匠だったら目が駄目になっても触感だけで刻めるとも思いますが、流石にそれは私には無理ですし」


 ―――お師匠様の教えが元になってるんですね。


「そうですね。ただ、普通の魔術紋を人の体に刻むのに魔法式を使うようになって思ったんです、やっぱり便利だって。

 条件や利用者に合わせて変化するのも利点ですし、淫紋として考えれば燐光を発するのもムードを盛り上げてくれる筈です」


 ―――その上で手彫りに拘っていかれる、と言う事でしょうか?


「はい。ちっぽけなものですが、今までやってきたプライドもありますから。

 調整に訪れるお客さんとの触れ合いも好きですし、より効果が高く情欲をそそるような図柄も考えていきたいですからね。

 ただ、その上で魔法式の淫紋を否定する気はありません。確かに最近は基本的な体調管理や性病予防に関する部分が甘い紋が見られますが、それは彫り師自身の甘さに他なりませんから」


 ―――それでは、最後に読者の皆様へ一言お願いします。


「淫紋は性的な部分を多く含むもので、嫌われる方も多いでしょう。ただ、そんな技術を必要としている人が居るのも事実です。

 私は、そんな人達とこれからも歩んでいきたいと思っています。そして、叶うならばこの記事を読んだ方とも一緒に歩んでいきたい、そう思っています」


 ―――ありがとうございました。



 魔術紋:基本的には本文中にある通り。ただし魔術的な効果を発揮するものは補助的なものであり、ある程度以上の実力者が使う事は殆ど無い。

 これを刻んだ道具を魔道具やマジックアイテムと呼ぶ。呼称は地域や流派等で異なる為安定しないが大体中身は同じである。


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