プロローグ~異能少年漂着~
暗澹たる世界を漂ってきたユウは、ふいに差し込んだ光の方へ手を伸ばした。あと少しで届く…と思った瞬間、視界が白く染まった。
徐々に世界に色がつき始め、目視した風景にユウは愕然とした。視界には一面の青が拡がり後ろを振り向くと巨大な島が見えた。
1人ユウは呟いた。
「生きてる……」
喉がかすれてうまく声が出ない。針金のように固まった身体を懸命に動かすと、周囲の状況を確認する。
「どこだ…ここは…」
見渡し、少なくとも付近には人の気配がないことを確認したユウは、生きるための方法を模索し始めた。
人は3日水分を取らないと死ぬ、ということを思い出し水の確保をしようとした。幸い、ユウと同じように漂流してきた船の残骸が少し残っていた。ふと気づく。
「あぁ…船旅の途中だったんだっけ」
明らかに嵐よりも大きい何かが、突然小型客船を襲い、客はあわてふためいて救命ボートに走って行った。ユウもついていったがボートに乗ろうとした瞬間、船を襲いかかった何かからの攻撃、攻撃だと思ったのは明らかに雷とは違う色の光線のようなものが当たり、そこからの意識がぷっつりと途絶えていた。
何があったのかは分からないが、ユウよりも二回りほど大きな木の板が海岸に漂着しているのを見て、あれに乗っかって来たのか?と自分の運を疑った。
「ともかく今は水を確保しなくちゃな」
と自分の体に活を入れ漂着物を漁った。幸い残り僅かとなったペットボトルがあった。中身を捨て、それを使って近くにあった黒い布切れに太陽の光を集めた。すぐに煙が立ち燃え始めた。それから乾燥した流木を近付け、即席の焚き火が完成した。ペットボトルで海水を掬って金属のタンクなようなものに入れて、石を組んで作った竈のようなものの上に置きその上に布を貼り、これまた即席の蒸留装置を作った。
ここまで来てふと違和感を感じる。
「俺はこんなことできたか……?」
少なくとも船に乗る前にはそんな知識はないことに気づいたユウは、自分の思考する世界が広くなっている気がしていた。
ただそんな違和感も空腹の前には些事に過ぎなかった。近くにあった木を石で削ると海に潜った。そこには一面のサンゴ礁が広がっていた。色とりどりの魚が踊っていた。
手近にいた大きなナポレオンフィッシュをもっていた銛でつこうとするが、刺さらない。魚は逃げようとして身を翻えそうとした時、頭のどこかにスイッチが入った。
時間の流れが遅くなるのを感じた。足で水をけって手を伸ばし、抱え込むように魚をとった。
どっと疲れと息苦しさを感じて海から出ると、浜辺にへたり込みその魚を焼き始めた。程よく焼けた後、我慢できずにかぶりついた。ホロホロしていて、これまで食べたどんな魚よりも美味しいと感じる。
のどが渇いたので布についた蒸発した水を絞って飲んだ。身体にしみわたっていく。
唐突に、遠目にはゴミにしか見えなかった黒い円盤のようなものが上に動いた。目を凝らすと人が出てきた。
「へ……?」
呆然と見ていると、こちらに気付いた人がやってきた。
「新しい人ですか!よろしくお願いします」
色素の薄い髪の上に猫のような形の耳がついた、一見すると普通の少女に見える生物はニコニコしながらユウを出てきた円盤の中に誘った。そこには梯子がのびた穴があった。
よくわからないままにはしごを下っていくと、足がつく踊り場のようなものがあり扉を開けるとそこには衝撃の風景が広がっていた。
巨大な街があったのだ。