第三十話アフターストーリー 前編
本編に対して異常なシリアスさ、過剰な残酷表現、世界観の破壊、伏線回収が完全にされない等があります。世界観壊れてもいい、伏線回収無くてもいいという方のみご覧下さい。
リオネッラ side
「いやぁぁぁぁぁぁ!!執事長!執事長!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「離して!離して下さいメイド長!!ジルドさんが…ジルドさんがぁ!!」
「黙りなさい!これは執事長の命令でもあります!」
城の中から外を伺っていた私たちの目にはジルドが全身ズタズタにされて地に崩れ落ちるという絶望的な光景が映されていた。それと同時にジルドが死力を尽して闘ったというのにまるでそれをあざ笑うかのようにオーク達は次々と押し寄せ守りのいなくなった城壁から城内へと進入して来る。
ジルドが目の前で殺された光景を目にし全てのメイドが怒りに任せて飛び出そうとするのを一喝して抑えるが彼女達にとってオークを憎み今すぐにでも殺しに向かいたいのも無理のない話しだ。この屋敷にいるメイドで私以外は全員ジルドに拾われる、若しくは買われた奴隷達だ。元居た地獄、朝早くから叩き起こされ強制重労働を強いられ、食事は生ゴミのような粗末な食事で一日をしのぎ、貴族の子供に殴られ叩かれ泥や汚物を浴びせられ、夜は買主に慰み者にされるという悲惨な日々。そんな地獄から彼女達を救い出し愛情を持って接し、面倒見よく遊び相手となり、あまり豪華ではないけど栄養を十分に考えた食事を与え、屋敷の外でも役に立つ知識を教え、一流の従者として育て上げてくれたジルドはまさしく彼女達にとって父親のようなものだったのだろう。その父親が外で無惨に殺され、自分達は安全な城内で外の様子を伺うしかない。
しかもそれが他ならないジルドの命令なのだから動くことも出来ない。本当はジルドと共に闘いたいからこの屋敷に残ることを選んだのだろう。そして育ててくれた恩を少しでも返したかったのだろう。だが、そのジルドは既に殺されてしまった。だから今すぐにでもあの憎くて憎くて堪らないオークを切り刻み、焼き払い、叩き潰して殺したい。涙と憎しみに顔を歪めるその表情からはそんな感情が溢れていた。そして殺しに飛び出そうとする彼女たちを咎め一喝して押さえつける私にもその表情は向けられる。
私だって…私だって奴らが憎い。私にとってもジルドは優しく、厳しく、自分のことより常に私たちのことを気にかけてくれる良き父だった。それがあんな醜い魔物に圧倒的物量という卑怯なやり方で殺されたのだ。心の赴くままに動けるのなら今すぐ奴らを皆殺しにしてやりたい。
窓の外を見る。すると外の城壁は完全に破壊されいくつもの通り道を作っていた。いったい何があの厚さ5mの石の壁を壊したというのだろう。だがその通り道から続々とオークが内の城壁へと集結し群がっている。やるなら今しかない。
「……頃合よ。今からジルドに言われた通り作戦を実行するわ。この一撃によって奴らにジルドを殺したことへの憎しみと復讐を存分に果たしなさい!」
合図と共に散りそれぞれの持ち場へつくメイドたち。そう、奴らがどんな力を使ってあのオークを手に入れたか知らないけれど私たちにも手に入れた力がある。ソフィア・リーシェライト様によって得た新たな力が。
「メイド長、準備整いました」
「よし、放て!」
――――瞬間、城壁の外から凄まじい轟音と破砕音、オーク達の悲鳴が鳴り響いた。
「ソフィア様が作られた弾丸の材料を大量に集めて油を浸した線によって城外の火薬へ引火させる。まったくあの人は最後まで規格外ね」
城の外へ出るとそこには土に埋もれた無数のオークと荒れた大地がひたすら広がっていた。ジルドが考案した集中爆撃作戦は成功でどうやら内壁に集中していたオークが最後の群れだったようだ。おかげで城壁が破損してしまったが、敵を殲滅することが出来たから軽い代償なのだろうか。むしろジルドを失ったことのほうが自分達にとって大きすぎる代償だと思う。
さて、これから城の修繕やジルドの追悼、メイドたちの新しい職探しなど忙しくなる、そう物思いに耽っていると、遠方から何かが向かってくることに気がついた。
「?あれは……鎧?……でもなんでこんな所に……あ……ああ…まさかあれって…」
あの鎧は、旗は見覚えがある。ジルドが魔王や魔物と手を組み今回の襲撃の大元であるといっていた勢力。
「白の国!?なんでここに!まさか…あのオークは……囮だったとでもいうの…?」
まるでその問いかけに答えるかのように白の国の軍勢は白の北面を覆い尽すように群れを成して進軍してくる。
「くけーけっけ!あの城の中には若い女がたくさんいるんだろ?制圧した後が楽しみだぜ!」
「邪魔だったオーク共も始末できたし一石二鳥だな」
「おいテメーラ、ソフィア・リーシェライトは殺すなよ?あれは陛下に献上しなければいけないのだからな」
目の前に広がるのは白の国兵士、兵士、兵士――――
既に逃げ場所はなく完全に包囲されてしまっている。それでもリオネッラは叫ばずにはいられなかった。
「みんな…皆今すぐ逃げなさい!兵士が…白の国の兵士が!」
だが、屋敷のメイド達もその光景を既に視認してしまい、誰も逃げようとはしなかった。分かってしまっているのだ。周囲を見渡しても完全に包囲されてしまい逃げられるような場所はなく、おそらくこの後どんなに抵抗したとしても自分達は捕らえられる。しかも聞いた話では白の国は捕虜をただ殺すのではなく、捕虜が若い娘の場合兵たちの慰み者として辱めその後は泥沼のような奴隷生活を強いられると聞く。ようやく…ジルドのおかげで手に入れたこの幸せがまた奴らのような下種に奪われる…いや、既に奪われた。
また暗闇の生活を送るのか…いや、成長してしまった分より陰惨な生活を強いられるのかもしれない。その恐怖に頭ではジルドの仇を討てと命じているのに体が恐怖で震えて全く動けなかった。そして彼女達は確信した――――――敗北を。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
メイド達が絶望の空気に呑まれたとき、それは起こった。
とある殺人鬼 side
「おい貴様ぁ、ここはどういう地方なんだ?」
これからリーシェライトの城へ向かう兵たちが進軍する中、その兵士に紛れて一風変わった衣服を纏った少年が兵士に問いかける。
「何だお前は?もしかしてこの日のために雇われた傭兵か?何だか知らんが俺は今忙しいんだ!早く城に行って中にあるであろう宝物や女を捕まえなくちゃいけねぇんだからな」
既に兵士の頭の中では城の金銀財宝を担ぎながら捕らえた若いメイドや目標対象であるソフィアをどう楽しむかしか頭になく少年の問いを鬱陶しげに切り捨てる。
だがその返答に少年の目つきがまるで畜生のそれとなり兵士の胸倉を強引に掴み上げる。
「テメェのくだらねぇ都合なんざどうでもいいんだよ。黙って俺の質問に答えろ!」
少年は心底不機嫌そうな顔で暴言を吐きながら兵士の胸倉を首が強く絞まるほど掴み上げて荒々しく問いかけた。
「が…っ!首が絞まる…言う……言うから…下ろして………」
「ほらぁよ!さっさと吐けこの発情糞野郎。俺は今機嫌が悪いんだ……ぶち殺すぞ」
吐き捨てるような暴言と共に兵士は地面に投げ捨てられ少年のまるで死神のような冷淡な瞳で見下される。その瞳に底知れない恐怖を感じながらも何とか気を取り直し密かに空気を大きく吸い周囲によく響くように叫ぶ。
「う…裏切り者だーーー!!裏切り者がいるぞ!!」
その瞬間行進していた兵達の動きが止まり視線が一斉に少年に集まる。
「このコートの餓鬼だ!こいつきっとリーシェライトの回し者だぞ!!」
兵士が指を刺し裏切り者と連呼し周囲の兵士達も少年をいぶかしげに睨むが少年のほうは特に動じた様子はなくただ冷酷な瞳で裏切り者と叫び続ける兵士を見つめる。
「おい、餓鬼…お前我が軍の者でも……どうやら従軍傭兵でもないようだな。何者だ?」
兵士の中でも少し厳つそうな男が少年に尋問するが少年はそれを無視して先程の兵をただ見据える。
「テメェ…俺は質問に答えろといったのに………んっ?リーシェライトだと?」
「ワシは貴様が何者かについて聞いておるのだ!さっさと答えんか小僧!!」
一方的に話を進める少年に厳つい男も激昂し少年に掴みかかろうと腕を伸ばす。
――――シャッ…
「は……?」
少年の胸倉を掴もうとしたが何故か掴めない。いや、それと何故か手首からの感覚がなくなっている。気になって男は自らの手首を見てみると、そこには手首から先が消え、その代わりのように鮮血を吹き上げる自分の腕があった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!腕が!ワシの腕がぁぁぁぁぁ!!!」
男の叫び声と共に周囲の兵士や先程の兵士は気付いた。こいつ、斬りやがった…!斬った瞬間は誰にも見えなかったがその腕を切られた男を眺めるのがまるで愉悦のように口を吊り上げニヤついている少年。つまりこの少年は自分達に敵対したのだと気付いたと同時に一斉に剣を抜刀し少年をリンチするように襲い掛かる。
「なんだそのチンケな殺気は?やる気があるのか?」
群れを成して津波のように押し寄せる兵たちに少年は怯える様子もなくまるでそよ風が吹いたような表情をしながら右手に持つ細長い湾刀、ソフィアがこの場にいたら日本刀と呼ぶそれに手をかけ空気が唸るような音が発したと同時にいつの間にか納刀を終えていた。
パチンと白鞘の柄が鯉口を鳴らしたと同時に兵の群れは鮮血の噴水を上げその場に血の海を作り出してゆく。
「ひゃはははははは!!全く殺人は最高だぜ!散々大人数でいい気になっていたのに斬られたと認識したあの瞬間の顔…くひゃはははは!!」
地の雨と咽るような臭いが充満するその空間で一人気が狂ったように笑い続ける少年。その姿に白の国の兵たちは恐怖し悪魔だ死神だと畏怖をする。
「し…白の国の勇敢な兵よ!強者共よ!怯むことは無い!我らにはバサゲラス・ガリスガーン様が開発された最新の兵器がある!これさえあればあの餓鬼が死神であろうとも恐れるに足らん!あの餓鬼を早々に始末し忌まわしいリーシェライトを捕らえるぞ!」
―――ピクッ
「…バサゲラス……ガリスガーン…だと?」
そこで初めて少年が今までと異なる反応を起こした。
「くくくく…くくくひゃははははははは!!見つけたぞ!とうとう見つけた!!まさかこの世界に来ていたとはな、バサゲラスぅ…ようやくテメェをぶっ殺せるぜ!!それにしてもお前ら奴の手下の癖によくも俺の目の前でリーシェライトを捕らえるとか言ってくれたな。まぁおかげで何の躊躇いもなく全員ぶっ殺せるからいいんだけどさ」
少年が一人でブツブツと呟き笑っている内に兵士達は大砲の準備を進め砲弾の中に弾と火薬を詰め込んでゆく。そして少年はというとそれをニヤニヤと馬鹿にしたように薄ら笑いながらそれを見つめて敵の準備が整うのを待つ。
「へへ、あの悪魔こいつの威力を侮ってやがる!今すぐその気持ち悪い薄ら笑いを恐怖に染めてやるぜ!撃てーー!!」
導火線に火を着火し数秒後、地響きするような衝撃と轟音とともに大砲が火を吹く。
「くくくく……よーく知ってるさ。それが3,400年前の時代遅れのガラクタってことくらいはな。さて、お前らバサゲラスの部下なんだろ?だったら遠慮せずにこいつを受け取れよ。――――――停止・時間」
リオネッラ side
突然の悲鳴とその後の騒ぎに乗じて城内のメイドを速やかに招集して敵の注意が逸れている間に脱出することに成功した。だが、私は何か胸に過ぎるものを感じて城壁の破片に隠れながら単独で白の国軍隊内で起こっている騒ぎの現場を偵察していた。
騒ぎの中心はどうやら見かけないコートを羽織ったあの黒髪と紅い瞳が特徴的の少年らしい。驚いたことにその周囲には白の国の兵の死体がいくつも転がっている。まだ背の高さから齢14,5くらいだというのにたった一人で何人も同時に相手にするとは相当の手練なのだろう。
どうやら今は軍の兵と言い合いをしているようだが突然少年が笑い出した。まさか奴らと手を組んだのだろうか?だとしたらこの先ソフィア様の追求にあれほどの強さを持ったものが加わるというのか。そう少年やこれから主が受けるであろう苦難に軽く絶望していた私だったが少年の次の一言でその絶望は砕かれ、さらには少年についてますます訳が分からなくなってきた。
「それにしてもお前ら奴の手下の癖によくも俺の目の前でリーシェライトを捕らえるとか言ってくれたな。まぁおかげで何の躊躇いもなく全員ぶっ殺せるからいいんだけどさ」
この少年は私たちの味方なのか?そしてやけにリーシェライトについて密接な関わりがあるようだが一体何者なのだ!?
そして私の疑問をまるで挑発するかのように最後のワードが紡がれた。
「停止・時間」
近い内に後編も投稿したいです。