門番Aという名の勇者、門番Cと出会う。
勇者生活いちにちめっ、そのさんっ!
勇者なんて職業をやっていると、一日がとても濃いものになるようだ。その証拠に、未だに『いちにちめっ』なんてやっているのだ。『そのさんっ』までやってもまだ『いちにちめっ』とか、門番の頃とは比べ物にならない濃い一日だ。ちょっとめんどくさいし、盗める道具もしょぼいが、新鮮で楽しかったりする。勇者万歳。
とはいえ、俺が城に進まなければこの物語は進まない。毎日寝て起きて寝て起きて、母親に叩き起こされて『今日は王様に勇者として旅に出る許可を頂きに行く日でしょう?』と言われ続ける生活になってしまうことだろう。NPCとはそういうものだ。同じことしか言えない。俺の『王様に粗相のないようにな!』という門番時代の言葉然り、ゲームキャラクターの悲しい運命なのだ。
俺としても、毎日毎日母親に同じ言葉を吐かれ続ける生活を続ける気にはなれない。物語を進めてやることにした。なんて寛大なんだ、俺ってヤツぁ!
元々『門番A』としての俺が勤めていた城門へと歩く。そーいえば、この俺がここにいるのに、門番Aはどうなるんだろうな? そんな疑問も少しだけ抱え、程なくして門に辿り着いた。
すると聞こえてくる『王様に粗相のないようにな!』という言葉と『どうぞお通りください勇者様!』という言葉の応酬。……えーっと、これはもしやしりとりだったりするのですか? 心なしか、『マップ』『またプかよ?! えと、プ、プ、プ……あ、ぷ○ちょ!』『チョップ』『またプぅぅぅ!!』という言葉に聞こえる気がする。つか、異世界のお菓子の名前出てきてるけど、大丈夫だろうか?
少し不気味なしりとりを続ける二人の門番を見て、内心でこれからしりとりするのは控えよう、と決意しながら、門番Aであった俺の代わりっぽい方に話しかけてみることにした。
門番C「王様に粗相のないようにな!(しりとりの邪魔すんなよ、勇者ぁ~)」
……どうやらこの方は、門番AではなくCだったようだ。タンスを開けた時のように、言葉の前に表示が出たから分かる。俺の名前が門番Aのままだから、配慮されたりしてるわけ? 無駄なとこで気が利いてんのな。
つか、しりとりの邪魔すんな的な言葉が聞こえた気がするんだが、気のせいだろうか?
「いいえ(言っとくが、そのしりとり、不気味だぞ)」
俺は括弧内の言葉だけを言おうとしたが、勇者にそれは許されないらしい。否定的な意見、ということで『いいえ』という言葉だけが口から飛び出し、門番Cに伝わる。なんだか悲しくなってきた。多くを語らないカッコよさってなんだよ。ただ無口なだけじゃん。ってなる。
まぁ、それはともかく。俺の代わりなNPCをいつまでも構ってたってしょうがない。さっさと通り過ぎるとしますかね。そう決め、俺はなんだか何か言いたそうに無言を貫く門番の横を通り過ぎようとした。その、矢先のことだった。
「王様に粗相のないようにな!(お、お前っ! しゃべれるのか?!)」
門番Cから、こんな言葉がかけられたのは。……えーっと、やっぱこれって、門番と話せちゃったりするわけですか? アレですか、俺が元門番だから、同業者と見なされたってわけ? 意味分かんねぇよ。けど、おもしろいから許すっ!
「はい」
ここは、それだけで事足りるだろう。中々便利だぞ、『はい』と『いいえ』!
「王様に粗相のないようにな!(じゃあ、ちょっとしゃべってみてくれよ?!)」
「はい(そう焦んなっての。これでいーんだろ? ほれ、しゃべったぞ)」
「王様に粗相のないようにな!(おぉぉ! すげぇ、ホントに俺、勇者としゃべってやがるっ!!)」
……喜びすぎじゃなかろうか。勇者としゃべれて、そんなに嬉しいか?
「王様に粗相のないようにな!(ほら、門番B! 俺、勇者としゃべってるよ!!)」
「どうぞお通りください勇者様!(はぁ? お前、さっきから何言ってんだ? 勇者様はさっきから『はい』と『いいえ』しか言ってねぇぜ?)」
む、これはどういうことだ? 門番Bには、俺の言葉を聞き取ることが出来てないのか? うーむ、これは……。
「はい(おもしろいっ!)」
どうやら『おもしろい』というのは肯定の言葉として認識されたらしい。出てきた言葉は『はい』だった。
つか、この門番C気に入った! お持ち帰りだな。いや、むしろ俺の代わりに魔王と戦わせてやろう! 戦うのめんどくせぇし! 門番なら、勇者の言うことに逆らえないはずだっ!
「はい(おい、門番C! ちょっと来いっ)」
「王様に粗相のないようにな!(うぇえ?! ちょ、なにぃぃ?!)」
「はい(俺の代わりに戦え、以上。じゃ、王様と謁見するのもヨロ。だから来い)」
「王様に粗相のないようにな!(は、うそ、えぇ?! な、なぜ、ホワーイっ!!)」
文句たらたらの門番Cの身体をずるずる引きずりながら、城門をくぐっていく。隣で動けない門番Bがしきりに『どうぞお通りください勇者様!(門番Cを連れていかないでくれぇぇ!)』と叫んでいるが、そんなに俺が通って欲しかったのだろうか? とか言って笑ってみる。ニヤリ。
俺の名前は門番A。俺の代わりである門番Cをパーティに引き入れた勇者だ。ちなみに、今一番気になるのは、城門から一歩も動けないはずの門番も、俺がその気になれば動かせるという事実についてだ。なぜ? ……さすがバグキャラである。