門番Aという名のバグキャラ。
○○(!?)生活いちにちめっ、そのいちっ!
驚愕。その一言だ。それだけで、今の状況を説明出来る。だってこの俺が…。
―――――勇者になっているのだからっ!!
どうだ、驚いたか? 驚いただろうそうだろう。驚かないとおかしいよな、うん。だってよ、昨日まで門番Aだった俺が、勇者として自宅のベッドで目を覚ましたんだぞ? そら驚きもするってもんさ。当然だ。
ベッドの横には“ゆうしゃのけん”と柄に掘り込んである、なんともセンスの悪い剣が立て掛けてあるが、これこそが俺が勇者となった証拠っ! 文句は言えない。
せっかく勇者として目覚めることが出来たのだ。思う存分、朝寝坊してやろうではないか。俺はそう決めこみ、満面の笑顔でベッドに潜る。モブキャラ以外のキャラクターにのみ許された、表情の変化を楽しむのも忘れない。
あぁ、KA☆I☆KA☆N!
……と、そう思っていた時期が俺にもありました。
俺は忘れていたが、勇者には超めんどい宿命があるのだ。その物語の始まりは、勇者として目覚める初日、勇者の実家で母親に叩き起こされるところから始まる。
「ほら、門番A、起きなさいっ! 今日は王様に勇者として旅に出る許可を頂きに行く日でしょう?」
掛け布団をとんでもない力技で剥ぎ取られ、あれよあれよと言う間に立ち上がらされてしまう。恐るべし、勇者の母っ! 伊達に勇者を生んでないな。
「私の愛すべき息子よ、今日からあなたは勇者なのですね。頑張るのですよ、門番A!」
どうやら俺は、勇者として魔王討伐の旅に出なければならないようだ。めんどくさいことこの上ない。つか、俺じゃ死ぬだろ。俺ぁしがない門番Aだぜ?
俺の名前は門番A。勇者になっても正式な名前がなく、むしろ『門番A』が自分の本当の名前ではないかと邪推してしまう、しがないNPC……と言えるのかよく分からないバグキャラである。